<個人的な思い出> ──「CHOKO・ビースト!!」──

2008・3・11

 この「CHOKO・ビースト!!」というマンガは、わたしのマンガ履歴の中で、最も重要だと言える作品です。もし、このマンガに出会っていなければ、その後のマンガ人生は大きく変わっていたかもしれません。

 このマンガが連載を開始したのは、少年ガンガン1995年7月号です。これまでも散々述べてきましたが、この年のガンガンは、大きく変革期を迎えつつあり、そんな変化の中でも最もわたしとって僥倖だったのがこの作品です。
 わたしは、ガンガンは91年の創刊時からずっと読んでいます。読み始めた頃から面白い連載が多く、最初のうちは楽しみで仕方ないくらい熱中して読んでいたのですが、これが数年たったあたりから、どうも以前ほど熱中できなくなってしまいます。ちょうど94年頃がそのピークで、当時は創刊当時ほどの熱が冷めており、最初のうちは熱心に買っていたコミックスも、いつの間にか続刊を買わなくなっていました。ロト紋・ハーメルン・パッパラ隊と、どれも4〜5巻程度で一旦購入をやめていたくらいです(ずっと後になって改めて揃えました)。

 そこまで熱が冷めてしまった理由は、雑誌の停滞感にありました。新連載にいい作品が現れず、やがて新連載自体も一時期ひどく少なくなりました。また、創刊時からはまっていた人気連載のいくつかが、連載を続けるにつれて次第に初期の頃の勢いが落ちてきたように感じたのも大きかった。特に「南国少年パプワくん」がシリアス路線に入り、「ハーメルンのバイオリン弾き」が序盤のクライマックスを終えたあたりからいまいち奮わなくなったのが大きい。それ以外にも「ZMAN」「輝竜戦鬼ナーガス」の二大少年マンガも、初期の頃の勢いがかなり薄れ(「ナーガス」は打ち切り的に終了してしまう)、あの「ロトの紋章」でさえ、中期の頃はやや中だるみしていた感がありました。そのため、どうにもこの当時のガンガンは、以前ほどの面白さを感じられなかったのです。

 もちろん、これはあくまで私個人の考え方であり、初期ガンガンの読者は、この時期も特に意識せず楽しんでいた人も大勢いたようです。ただ、個人的には、雑誌には常に新鮮な新連載が必要だと考えているため、この時期の定番人気連載に頼っていた時代には、どうしても魅力を感じることができませんでした。半ばガンガンを惰性で読んでおり、いつか購読をやめようかとまで考えていました。むしろ、この当時は、エニックスで新しく創刊されたGファンタジーやギャグ王の方を愛読しており、そちらの方に大きく興味が移っていた時期でもありました。

 で、そんなわけで、毎月毎月「今月はガンガンを買うかやめるか」などと考えつつ買っていたのですが、そんな時に始まったのがまさにこの「CHOKO・ビースト!!」なのです。このマンガ、以前にフレッシュガンガンで読み切りを読んだ時からえらく気に入ってしまい、「このマンガは是非とも連載化してほしいなあ」と思い続けていたので、連載開始告知を見た瞬間に喜びで溢れました。そして、実際に始まった連載も、予想以上に面白いもので、これで一気にガンガンに対する熱が復活します。とりあえず、この「CHOKO・ビースト!!」を読むために、ガンガンを買い続けることになったのです。


 そして、このマンガと併せてもうひとつ、これまた非常に楽しみな新連載として、「浪漫倶楽部」(天野こずえ)がありました。これは、「CHOKO・ビースト!!」の一月前、95年6月号から始まった連載で、こちらも個人的にひどくつぼにはまってしまい、こちらでも一気にガンガンに対する熱が復活します。当時は、このふたつのマンガのために、ガンガンを買っていたと言っても過言ではありません。どちらも、連載の最序盤から面白いエピソードに溢れており、瞬く間にはまっていきました。他の読者も同じように感じたようで、あっという間に双方とも人気連載となります。

 そして、このふたつの連載の作者、浅野りんさんと天野こずえさんは、どちらも新たにエニックスに参入した新人作家であり、ガンガンの新人育成がついにここで花開いた形となったことも、随分と感慨深いものがありました。どちらも、ガンガンやフレッシュガンガンで何度も読み切りを重ね、それらがどれも良質であったため、いつかは連載を持たせてほしいと願っていたのですが、それがついに適う形となったのです。このふたりの連載前の読み切り作品は、どちらも短編集としてコミックス化されていますが、いずれ劣らぬ珠玉の作品群となっています。

 そして、このふたつの連載が始まってほどなくして、ガンガンは隔週刊時代に入り、月2回刊行ペースとなります。これはこれで非常に嬉しい出来事で、創刊当時から読み続けていたガンガンが、ここに来てさらに発展したことがとても嬉しく、ここに来て完全にガンガンへの熱意を取り戻すことになりました。それには、この「CHOKO・ビースト!!」と「浪漫倶楽部」の存在が、非常に大きなものだったことは言うまでもありません。このふたつが無ければ、隔週刊時代に達することなく、ガンガンを読むのをやめてしまっていたかもしれません。

 そして、隔週刊時代に入ってからは、「浪漫倶楽部」の方は月1回のペースとなってしまったものの、「CHOKO・ビースト!!」は月2回の毎号掲載にペースアップしていき、それでいてまったく質は落ちることなく、毎回毎回楽しませてくれました。隔週刊に入ってから、他にも楽しみな新連載が増えたため、この当時は本当に毎号楽しみに待ちわびていました。この、楽しい連載が2週間に1回は読める時代が、個人的には一番楽しかったかもしれません。雑誌そのものにも活気があり、様々な企画が目白押しで非常に楽しかったことを覚えています。「CHOKO・ビースト!!」自体は、雑誌の表に出るような企画とは無縁でしたが、それでも良質な中堅作品としてコンスタントに連載を重ね、根強い人気を獲得することになります。

 しかし、そんな楽しかった時代の「CHOKO・ビースト!!」は、なんと意外にも早い時期に終了してしまうのです。隔週刊時代に入って1年以上は連載しましたが、それでも月刊連載時代と合わせて2年程度の連載期間で終わってしまい、これは本当に落胆してしまいました。なぜここまで早く終わってしまったのか、いまだに分かりません。浅野さんについては、次の連載である「PON!とキマイラ」が、「CHOKO・ビースト!!」の終了後まもなく始まったので、心配することはありませんでしたが、しかしこの「CHOKO・ビースト!!」が終わったむなしさは、しばらくの間後を引きずることになってしまいました。ガンガンの隔週刊行ペースも、しばらくして終わりを迎え、月刊に戻ってしまうことになったため、この「CHOKO・ビースト!!」の連載は、その楽しき時代を象徴する作品となってしまいました。なお、「浪漫倶楽部」の方も、隔週刊の終了とタイミングを合わせるように終わってしまっており、双方共に決して長くはない連載期間を駆け抜けた珠玉の連載として、長く心に残ることになりました。


 そして、連載が終わったしまった後の「CHOKO・ビースト!!」ですが、しばらくの間は終わってしまったむなしさに浸ってはいたものの、じきにそれほど顧みることはなくなってしまい、一旦は忘れてしまいます。それには、やはり作者の次回作「PON!とキマイラ」がすぐに始まったことが大きく、その嬉しさが「CHOKO・ビースト!!」終了の悲しさを半ば忘れさせてしまいました。こちらの方も非常に面白い連載だったため、そのまますんなりとはまってしまい、以後前作をそれほど振り返ることはなくなってしまいます。また、このマンガ以外にも、さらに面白い新連載がいくつも始まったため、そちらの方にも気が移ってしまいました。
 加えて、ほどなくしてガンガンは隔週刊ペースを維持できなくなり、月刊ペースに戻るという出来事が起きたため、これに対するショックが大きく、隔週刊時代の存在が一時的に小さくなってしまいました。再月刊化以後のガンガンは安定した運営を維持するようになり、こちらの連載陣はさらに充実し、そんな中で「PON!とキマイラ」の存在も大きく、「CHOKO・ビースト!!」も一旦は遠い彼方に消えてしまいました。この当時にガンガンを読み始めた読者も多く、「PON!とキマイラ」は知っていても「CHOKO・ビースト!!」は知らない、という読者も多かったように思います。


 ところが、一旦は自分の中で存在が薄くなった「CHOKO・ビースト!!」ですが、あることを通じて再びその面白さを思い出すことになります。それは、インターネットに他なりません。
 わたしがネットを始めたのは99年の4月ですが、その時には既にネット上にエニックスマンガのファンサイトが溢れており、当然浅野りんさんの熱心なファンサイトもいくつも存在していました。当然ながらそんなサイトに足繁く通うようになりますが、そこで「CHOKO・ビースト!!」関連のイラストや感想記事も目にすることになり、そこで「CHOKO・ビースト!!」がいまだに多くのファンに愛されていることを知ることになったのです。しかも、「PON!とキマイラ」よりも「CHOKO・ビースト!!」の方が好きと言う人も多く、自分でもこの作品を再評価するきっかけとなりました。

 この「PON!とキマイラ」と「CHOKO・ビースト!!」を比較した場合、どちらも優秀なコメディ作品ではあるものの、やはり作者の後発作品である「PON!とキマイラ」の方が一回り完成度は高く、コメディの面白さ・爆笑度ではこちらの方が上だったように思います。しかし、この「PON!とキマイラ」、いまいちアクの強すぎるキャラクターが多く、扱うネタもかなり過激なものが多くなり、人によってはかなり抵抗を覚えるところもあったようです。実は、わたし自身もその1人でした。その一方で、「CHOKO・ビースト!!」の方は、そんな抵抗を覚えるような要素は少なく、誰もが親しみを持てる優しさに満ちたコメディ作品になっていました。そんな「CHOKO・ビースト!!」の優れた長所が、このインターネットを通じて再評価されてくるのです。このような見方を知って、あるいは自分でもそのような評価に賛同を覚えることで、もう一度「CHOKO・ビースト!!」に対する思いが再燃することになりました。そうして、インターネットで毎日浅野さん関連のファンサイトを巡り、「CHOKO・ビースト!!」そのイラストや感想を見て、再びこの作品を存分に楽しむこととなったのです。


 そして、こんなネット上での体験も踏まえて、今改めてこの作品について思うことは、やはりこのマンガは非常に優秀な連載だったということです。それも、雑誌の中で看板として表に出てくることはない、いわゆる中堅作品としての価値に、計り知れないものがありました。

 わたしは、雑誌の中で最も重要なのは、実はこの中堅作品ではないかと考えています。雑誌の中心たる、人気の高い看板作品にまず注目が集まってしまいますが、そういった人目に触れるだけの面白いマンガは、どんな雑誌でもひとつやふたつはあるものです。それよりも、むしろ、雑誌を影で支える中堅作品のクオリティ、それこそが雑誌の真の面白さを決めるのではないでしょうか。その点において、この「CHOKO・ビースト!!」を始めとする浅野作品は、非常に優秀でした。他の雑誌ならば、もっと雑誌の表に出る中心作品になっていてもおかしくはないような作品、それがあえて中堅どころで雑誌を支えていたのです。なぜなら、この「CHOKO・ビースト!!」の連載当時は、初期ガンガンからの人気看板作品「ロトの紋章」「ハーメルンのバイオリン弾き」「魔法陣グルグル」などが、雑誌の表を常に飾っており、それ以外でもアニメ化した作品や、外部からの大物作家による作品の方が大きく扱われることも多く、このマンガが表に出ることはほとんど無かったためです。おそらく、連載中は1回も表紙になっていないのではないでしょうか。

 しかし、それでもこのマンガが人気で劣ることは一切なく、実は潜在的な読者人気は非常に高いものがありました。それは、のちのインターネットでの、熱心な読者によるファンサイトの数々を見てもよく分かりました。そして、浅野さんの次回作「PON!とキマイラ」も、やはり同じように中堅作品としてガンガンを強力に支えることになります。そして、当時のガンガンでは、このような良質の中堅作品が本当に多かった。そして、こういう良質な中堅作品の存在こそが、かつてのガンガン、その全盛期における最大の特長であり、その功績は看板作品に勝るとも劣らないものがあったと思うのです。


「The Best Comic」にもどります
トップにもどります