<作品紹介> ──「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章」──

2005・11・6

 「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章」(以下「ロトの紋章」)は、初期〜中期の少年ガンガンを代表する一大長期連載。少年ガンガン創刊号である1991年4月号から連載を開始し、1997年No8(当時は隔週刊)において完結を迎えるまで、常に雑誌の第一線に君臨した。「ドラゴンクエスト列伝」とあるように、エニックスのゲーム面での看板作品「ドラゴンクエスト」を原作とした「ドラクエマンガ」である。
 その「ドラゴンクエスト」の持つ圧倒的なネームバリュー、編集部による看板作品としての積極的なバックアップ、そして何と言っても作品自体の素晴らしい完成度から、名実ともに雑誌の看板と言える作品となった。エニックス系のコミックにおいて最も知名度が高く、一般層にも広く知れ渡った作品のひとつである。実際、連載当時は「ガンガンは買ったことはないが『ロトの紋章』は知っている」あるいは「『ロトの紋章』のためにガンガンを買っていた」という人は多かった。この作品、最後までテレビアニメ化されることはなかったが、アニメ化もされずにこれだけの高い知名度と人気はまさに異例中の異例と言えるだろう。


・正解だった藤原カムイの起用。
 「ロトの紋章」は、連載の立ち上げに際して多くのスタッフが設立に関わっていたが、その中でも中心となったのが作画担当の藤原カムイ氏である。そして、作品の最初のうちこそ他のスタッフによるバックアップが存在したものの、それ以降はほぼカムイ氏が単独で執筆していることから、実質的にはカムイ氏個人の作品と考えても構わないであろう。

 藤原カムイは、元々は非常にマニアックな作家である。80年代前半から、青年向けのマニア誌を中心に積極的に執筆を重ね、マンガマニアの間では「大御所」と呼ばれる実力派の作家であった。しかし、そのマニアックな作風は一般層に受けるには至らず、しかも掲載誌の休刊によって作品が打ち切りになるケースも多く、「不遇の作家」というイメージでもあった。そんな彼に、なぜ新雑誌であるガンガンの看板作の担当として白羽の矢が立ったのか? その起用は非常に思い切ったものだったと思われるが、しかしこれが大成功であった。彼の持つ素晴らしい画力は、ゲーム「ドラゴンクエスト」の壮大な世界を再現して余りあるもので、雑誌の表看板に立つ連載としても十分に映えるものだったのである。

 そして藤原カムイ自身もまた、この「ロトの紋章」と、当時のもうひとつの長期連載である「雷火」によって、一気にメジャーな大作家として開花することになる。


・明快かつ爽快なエンターテインメント。
   しかし、カムイ氏の長所はその画力だけではない。エンターテインメントを意識したストーリー創りも巧みで、非常に爽快な作品となった。
   内容的には明快なヒロイックファンタジー。勇者ロトの血を引く王子アルスが、数々の試練の旅を重ね、諸悪の根源である「異魔神」を倒すまでの冒険の物語であり、前向きで勇敢な少年少女の明るさ・力強さが前面に出た物語である。その点で「少年マンガ的」とも言えるし、「王道ファンタジー」「RPG的ストーリー」とも言えるかもしれない。しかし、ここでもカムイ氏の力量が光っており、王道で明快ながらも効果的に伏線が張り巡らされた構成と、そして力強い心理描写で素直に感動できる人間ドラマが存分に楽しめる。エンターテインメントとして実に完成度の高い作品であると言えるだろう。

 個人的に特に印象に残っているのが、まずは連載第1回で、国を魔族に侵略され、多くの勇敢な部下の手によって主人公の王子アルスが生き延びるシーン。これだけでひとつの物語として完成しているほどのエピソードであり、新連載でいきなり今後の飛翔を予感させるに十分なものだった。
 そして連載の中期、主人公のアルスが10万のモンスター軍団とたったひとりで闘うシーン。このエピソードの盛り上がりは凄まじいもので、この後物語は一気に壮大なものとなっていく。
 そして、最後の敵である異魔神との最終決戦。この最終回近辺の盛り上がりも素晴らしいものであった。人間ドラマとしてもこの終盤のドラマが秀逸であったように思う。


・藤原カムイの実験精神。
 面白いのは、この終盤の連載において、カムイ氏のマンガに対する実験的な試みがいくつか見られること。例えば、CGの採用。今ではマンガをPCで描くのは当たり前になっているが、カムイ氏はマンガに積極的にCGを取り入れた先駆者の一人である。「ロトの紋章」でも、終盤の最終決戦の辺りで積極的なCGの採用が見られる。そして、読者参加企画。同じく最終決戦において、「勇者募集」と銘打って読者からオリジナルキャラクターを募集したことを覚えておられる方も多いことだろう。押し寄せる膨大なキャラクターを描き切ったカムイ氏の熱意には感心させられた。この終盤の連載では、当時のガンガンが月2回刊行時代であって、非常にタイトなスケジュールであったはずだが、その中でこのような実験精神を発揮するあたり、氏のマンガに対する深い思い入れを感じることができるだろう。

 思えば「ロトの紋章」(あるいは「雷火」)末期はこの藤原カムイのマンガに対する実験チャレンジが始まった時期であり、それが作品に影響を与えている点が面白い。余談ではあるが、このカムイ氏の実験精神は、この「ロトの紋章」と、当時のもうひとつの長期連載「雷火」の完結後に一気に爆発し、「COLOR MAIL」「福神町綺譚」などの数々の実験作につながっていく。


・初期を代表する看板作品だが、意外な一面も。
 このように、今改めて俯瞰すれば非常に完成度の高い作品であることは間違いないが、連載当時は意外にもそこまで盛り上がっていなかった印象もあった。特に連載の中期において目立った人気がなく、当時のガンガンでも「魔法陣グルグル」や「南国少年パプワくん」「ハーメルンのバイオリン弾き」など、他の大人気作品の影に隠れていることもしばしあったように思う。作品の人気の象徴とも言える「ドラマCD」の発売も、第一弾が他のどの作品よりも先駆けて出たにも関わらず、それ以降の続編が途絶えたままだった。
 個人的に見ても、確かにこのマンガは完成度は非常に高いが、反面今ひとつ押しが弱いというか、爆発的にハマるという人は少なかったように感じられる。「爆発的な人気」というよりは、「堅実な面白さ」が前面に出た手堅い作品だったと言えるのではないだろうか?


・「ロトの紋章」の終了でガンガンの一時代も終わった。
 しかし、それでもこの作品がガンガンの看板にして堅実な人気作であることは疑いようがなく、特に連載の終盤の盛り上がりは凄まじいもので、このためにガンガンの部数が一時的に大幅に増加したことも印象的であった。そして「ロトの紋章」終了とともにこの雑誌の盛り上がりも一気に終息していった。当時のガンガンは、初期の頃からはかなりイメージの異なる多彩な作品が増え、言わば独自路線へと移行していった時期だったが、その中でこの「ロトの紋章」の終了は、名実ともにガンガンの一時代の終了を象徴する出来事だった。以後、この当時ほどの部数をガンガンが獲得した時期はいまだ訪れていない。


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