<原作ゲーム設定とオリジナル設定> ──「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章」──

2005・11・9

 「ロトの紋章」は、ドラクエシリーズでも最大のヒット作である「ドラゴンクエストIII」(以下「3」と表記)を原作としたストーリーである。「ドラクエ3」の100年後の世界が舞台ということで、基本的にはオリジナルストーリーながら、原作から直接採用した設定がふんだんにみられる。
 しかしその一方で、藤原カムイを始めとするマンガ版のスタッフによるオリジナルの設定も多数取り入れられているのも魅力である。このページでは、原作ゲームから採用された設定と、このコミックオリジナルの設定と、そのふたつを比較しながらこの作品の魅力を語ってみたい。


・忠実に再現された「ドラクエ」のイメージ。
 まず、原作ゲームからは、世界地理・モンスター・魔法(呪文)などの設定がそのまま採用されている。魔法の呪文については、さすがに原作の戦闘シーンそのままの威力・効果というわけにはいかないものの、ゲーム版の持つイメージ自体はかなりよく再現されていると思う。ちなみに、モンスターも魔法も、「3」以外のドラクエシリーズからの採用も見られる。連載当時は新作のドラクエ4、そして5も発売されており、それからのモンスターや呪文が積極的に採用されている。ラストバトルで登場した「マダンテ」に至っては、当時の最新作・ドラクエ6の呪文(*厳密には「特技」扱い)が早速採り入れられている。このあたり、コミック版スタッフの積極的な遊び心が窺えるものとなっている。

 世界地理に関しては、原作ゲームをプレイしたほうが理解しやすいかもしれない。ドラクエ3は(今考えると不思議ではあるが)、現実の世界地図と地理がそのままモチーフとなっており、マンガ版でも現実世界を踏襲した描写が一部に見られる。アッサラームの街などはイスラム圏の描写そのものだし、ジパング編のくだりもまた「古事記」に見られるような日本古代の描写そのままである。このあたりはゲームをプレイされていない方は不思議に思われるかもしれない。

 そしてもうひとつ、忘れてはならないのが、パーティーの編成(職業)である。主人公の勇者の3人の仲間は、それぞれ「剣王」「拳王」「賢王」の称号で呼ばれているが、これは原作ゲームのドラクエ3で選べる職業である「戦士」「武闘家」「賢者」がモチーフとなっており、ゲーム経験者にとって実に馴染みやすいものとなっている。


・多彩なオリジナル設定。
 次に、「ロトの紋章」のみで見られるオリジナルの設定。これが非常に魅力的で、ドラクエのイメージを保ちつつも、それから一歩踏み込んだ多彩な追加要素を提供している。

 まず、何と言ってもキャラクターたちが使う各種の必殺技であろう。勇者の仲間である「剣王」「拳王」の使う多彩な必殺技は、ネーミングも非常に格好よく、白熱するバトルをさらに盛り上げてくれた。敵対するモンスター側のボスたちとの必殺技合戦も大きな見所のひとつであった。
 もうひとりの仲間である「賢王」の使う合体魔法はさらにインパクトが強い。原作ゲームの魔法をふたつ組み合わせて新魔法を作り出すという驚きの新設定で、その種類や効果も多岐にわたっていた。単純な攻撃魔法の組み合わせである「メラゾーマ×2」「イオナズン×2」「メゾラゴン(メラゾーマ×ベギラゴン)」「マヒアロス(マヒャド×バギクロス)」等々の絶大な威力も爽快だったが、それ以外にも面白い組み合わせが多数見られた。「ドラゴラム×2」で双竜変化、ルーラ×2で「オクルーラ」(仲間を目的地まで飛ばす)、あるいはスクルト+ピオリム+バイキルトで「スピオキルト」なんてのもあった。ある意味、コミック版スタッフの遊び心が最も色濃く出た部分だったと言えるだろう。この合体魔法、原作ゲームでも採用すればさぞ楽しいシステムになるだろうが、実際にはどれも威力が強すぎて明らかにゲームバランスが崩れるとも思えるので、実現は難しいかもしれない。


・「藤原カムイ的『賢者』観」
 ひとつ面白いのが、主人公の4人パーティーの中で、唯一「賢王」(賢者)だけが、かなり特殊な扱いになっていること。
 ほかの3人(勇者、剣王、拳王)が、いずれも100年前の英雄の子孫ということで一致しているのだが、唯一賢王だけが子孫という形では現れず、直接知識を受け継いだ存在として登場する。100年前の賢王(カダル)も、時の砂を用いて若返りを繰り返して知識を蓄積し、智を深めた存在として登場し、主人公たちに修行を受けさせ導く存在ともなる。そして自らが素質を見出した若者(ポロン)に知識と力を受け継ぎ、消滅する。しかし、肉体こそ消滅したものの魂は新しい賢王に宿っているというあたり、「魂と知識の継承」という、いかにも智を極めた賢者にふさわしい設定にひどく感心した記憶がある。ちなみに、前代の賢王カダルは、賢者としての威厳を持ち合わせながらも、普段は冗談好きでくだけた部分も多く、そのギャップも魅力であった。

 それともうひとつ、賢者のみが住むことができるという「蜃気楼の塔」という設定も印象深い。物語の序盤、この中でアルスとキラが修行することになるわけだが、その修行の内容もひとつひとつ凝っていて面白かった。賢者が世俗を離れて象牙の塔に隠遁して智の追求に励むという、賢者の持つ古き良きイメージを体現する幻想的で優れたモチーフだったと思う。
 余談ではあるが、この「蜃気楼の塔」という設定は、藤原カムイののちのドラクエコミックである「エデンの戦士たち」でも、まったく同じものが登場し、その中で主人公たちが修行するというくだりもまったく同じである。藤原カムイはこの設定に特別な思い入れがあるのかもしれない。そして、こちらの作品で登場する賢者ベゼルも、「ロトの紋章」の賢王カダルと同様に、智を極めながらも普段は飄々としてくだけた性格で、この点でも似ている。このあたり、藤原カムイ独自の賢者観が感じられてとても面白いと思う。



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