<個人的な思い出> ──「聖戦記エルナサーガ」──

2007・7・17

 このマンガの個人的な思い出は、掲載誌であるGファンタジー(創刊当初はガンガンファンタジー)の存在を抜きにして語ることはできません。1993年の雑誌の創刊から、雑誌の中核として活躍し続けたこのマンガは、まさに初期Gファンタジーの看板であり続けた作品です。このマンガの歴史を語ることは、そのままかつてのGファンタジーの歴史を語ることにもつながります。

 元々、1993年に創刊されたガンガンファンタジーは、少し前に雑誌のプレビューとも言える増刊号(「ファンタスティックコミック」)が一号のみ登場しただけで、その中身は完全に未知数でした。ガンガンとはかなり毛色の異なる雑誌であることは想像できましたが、実際に創刊号を読んでみたところ、思った以上に様々なタイプの作品が混在する、混沌とした誌面でした。しかし、それでもかなりの良作、意欲作に恵まれており、当初からかなりの力を持っていました。わたし自身も、創刊以来瞬く間にこの雑誌にはまりました。

 そんな雑誌の中でも、この「聖戦記エルナサーガ」は、比較的オーソドックスな中世風ファンタジーで、かつ作者の絵もすでに洗練されており、そのためにかなりの存在感があり、雑誌のイメージを象徴するような作品のひとつでした。当初の扱いは、雑誌の中でも4、5番手程度の中堅作品でしたが、実際の内容ものっけから素晴らしいものがあり、あっという間に雑誌の中でも中心的な存在となりました。創刊当時は、これよりもさらに扱いの大きい看板作品が何本かありましたが、それらの多くは期待したほどの作品ではなく、むしろこの「聖戦記エルナサーガ」の方こそが、雑誌の看板となるにふさわしい実力を持っていたことは、誰の目にも一目瞭然でした。そして、これともうひとつ、同じく中堅作品から雑誌の看板へと成長した「ファイアーエムブレム〜暗黒竜と光の剣〜」(箱田真紀)と並んで、創刊初期の雑誌の2大看板となったことは間違いありません。

 わたし自身は、どちらかと言えばこの「ファイアーエムブレム」の方により深くはまっていたため、「エルナサーガ」はその次くらいの存在でしたが、それでもその実力には一目以上に置くところがあり、「実際の実力、完成度ではこちらの方が上だな」と常に思っていました。これは、わたし意外の多くの雑誌読者の間でも共通の認識だったと思われ、この「ファイアーエムブレム」や、あるいはのちにさらに人気を得る作品には、人気や話題性の上では今一歩及ばないものの、雑誌の中でも最大の実力派作品として、実際の人気以上に一目置かれた別格的な存在だったと思います。

 そして、94年以降、Gファンタジーには「レヴァリアース」や「魔神転生」「神さまのつくりかた。」などのさらなる人気作品が加わり、雑誌として安定していくのですが、この「エルナサーガ」の連載ももちろん健在で、数年の間は非常に面白い状態が続きました。ストーリーの緊張感が長い間維持されており、毎月のごとく楽しみに連載を待っていました。また、個人的に、この当時はガンガンよりもこのGファンタジーの方に強くはまっていたため、そのためにさらにこちらの連載作品の方に深く入れ込むことになりました。この創刊初期の頃が、わたしがGファンタジーに最もはまっていた時期だったように思います。


 しかし、これが1996年になって、かなり大きな変化が起こります。この年の3月、ガンガンが月刊から隔週刊(月2回刊)へと新装されます。そして、その新装時の新連載のひとつとして、堤さんが「STAR GAZER」という連載をガンガンで始めることになります。しかも、そのために、Gファンタジーの「エルナサーガ」の方が月刊ペースの連載を維持できなくなり、一時的に連載が中断、再開後も隔月での連載になってしまうのです。「STAR GAZER」の方も、面白い連載ではあったのですが、それ以上に「エルナサーガ」の連載中断と隔月化はかなりの衝撃で、これで作品の勢いは著しく削がれてしまいました。

 しかも、ちょうどこの時期を境にして、「エルナサーガ」の連載自体も勢いがなくなってしまいます。ストーリーの緊張感が若干薄れた感があり、以前ほど続きを読みたいと思わせる力がなくなったことは否定できません。そのため、ますますもってこの連載への興味が薄れていき、かつてほど深くはまることはなくなってしまいました。

 さらに、ちょうどこの時期において、掲載誌のGファンタジーも、一時的にかつてほどの思い入れがなくなってしまいました。「レヴァリアース」や「魔神転生」などの人気連載が終了していき、長期連載の「ファイアーエムブレム」も、中盤以降かなり調子を落としており、その上でこの「エルナサーガ」まで中断で勢いを失ってしまい、雑誌に対する熱がかなり冷めてしまいました。むしろ、この当時は、隔週刊となったガンガンの方が勢いがあり、新連載にも面白いものが多いなど、こちらの方にかなり興味が移ってしまいました。

 その後、ガンガンでの「STAR GAZER」の連載は終了し、「エルナサーガ」の連載も無事に月刊ペースに戻ります。これは素直に歓迎できましたが、連載の勢いまでは回復できませんでした。しかも、1997年に入って、Gファンタジーでは新たに実力のある新連載がかなり登場するなど、雑誌の勢いは回復しますが、その分「エルナサーガ」の存在はさらに薄れてしまいました。特に、97年の新連載では、あの「最遊記」の存在が非常に大きく、それ以外にも「E'S」「クレセントノイズ」などの人気連載が次々と登場し、「エルナサーガ」は雑誌の中に埋没してしまった感がありました。

 この当時は、わたし自身も、もはやかつてほどの作品への深い執着はなく、面白い作品だとは思いつつも、さほど大きくはまった記憶はなかったように思います。それでも、最後の最後で素晴らしいエンディングを迎えた時には、さすがに感慨深いものがありましたし、ついに創刊号からの連載が終わってしまったと気づいた時には、随分と寂しくも思いました。ちなみに、これと時期をほぼ同じくして、同じく創刊からの2大看板だった「ファイアーエムブレム」の連載も終了してしまいます。ちょうどこの時期(99年)こそが、Gファンタジーの創刊からの一時代が終わった時期だったのでしょう。

 というわけで、連載末期の頃の状況は、少々寂しいところもあるこの作品だったのですが、連載終了後になって、これが意外にも新たに話題を呼ぶことが多くなるのです。連載中は、実力のある作品とは言え、大きな人気を得ることは難しいような地味な作風であり、マニアの間でその実力こそ認められていたものの、さほど大きな話題になることはありませんでした。しかし、これが、連載終了後になって、「実はこんな面白いマンガがある」という評判が口コミで広がることが多くなり、マンガ読みの間で再評価されてくるのです。この評判の広がりは、この当時から、インターネットが本格的に普及してくることも影響しているのでしょう。現在でも、この「聖戦記エルナサーガ」は、ガンガン系の中でも別格的な評価を受けており、普段ガンガン系を読まないマンガ読者の間でも、特に高く評価されているようです。個人的にも、自分がリアルタイムで読んでいたマンガが、後になって再評価されるのは、やはり嬉しいものがありました。

 反面、マンガのコミックスは、連載末期の人気がさほどなく、エニックスが連載終了後のコミックス増刷に積極的でない姿勢も手伝って、いきなり廃刊になってしまい、とりわけ最終刊である13巻などは、幻とも言える単行本となってしまいました。わたし自身は、発売直後に普通に購入したのですが、それがのちにあんな希少価値になるとは、まさか思ってもみませんでした。以後、熱心な読者の間で復刊運動が持ち上がり、のちに新装版が出版されることになります。左の画像がその新装版ですが、元の旧版のコミックスに比べると装丁デザインで大きく見劣りがするもので、コミックスのサイズも小さくなってしまったのが残念なところです。


 さて、わたしにとっても、このマンガはやはり別格です。エニックスのマンガでは、他にもっとはまったマンガ、もっと好きなマンガはいくらでもあるのですが、このマンガだけはやはり特別なのです。これだけの名作は、まずそうそうは出てきません。この作品と、最近のスクエニのマンガと比較して、「今のスクエニのマンガは、このような優秀なマンガがあった頃に比べれば、明らかに劣っている」と言う人をたまに見かけますが、これは少々安易な考え方です。はっきり言えば、この「エルナサーガ」の作者の堤抄子さんは、ほとんど荒川弘クラスの逸材だと思っています。この人の作品だけは、ちょっと他の作品とははるかに次元の違うものを感じます。そんな作品と比べてはいけません。

 さらに、わたしは、このマンガにかなり影響を受けています。あるいは、このマンガを含めて作者の堤さんのマンガには、どれからもかなり影響を受けています。
 まず影響が顕著なのは、あくまでも現代的なテーマですね。基本的にはファンタジー・SF作品でありながら、ここまで現代的なテーマを毎回のごとく内包しているのは素晴らしいの一言に尽きます。わたしが、まがりなりにも政治や時事問題に関心を持つようになったのは、「聖戦記エルナサーガ」を始めとする堤作品のおかげによるところが大きいです。

 哲学的な思想や、深い学問的な知識にも、心を動かされるところが多々ありました。人間の生き方を徹底的に描く深い思想と、政治や軍事、科学(特に天文学)に対する深い造詣には、ひどく見るべきものがあります。SF的な設定にも、地に足の着いた科学的な裏づけが成されています。それを、単なる押し付けがましい教養ものとして見せるのではなく、きっちりと作品に落とし込んで、ひとつの娯楽作品として見せる手腕にも、抜きん出たものを感じます。

 それとはまったく異なるところで、戦闘シーンの面白さにも強く影響を受けました。剣と魔法を組み合わせた戦略性溢れる戦闘描写、これは、実際にこのようなゲームをやってみたいとまで強く思いました。接近戦で剣をふるって敵を牽制しながら、同時に呪文を詠唱して魔法で攻撃を行い、さらに剣で追撃する。魔法の詠唱時間が実際の時間に反映され、そのタイミングが勝敗を分ける。こんな戦闘が出来るゲームがあればいいなあと思っているのですが、そこまでのゲームにはまだ出会ったことがありません。

 もし、わたしが、今後何らかの作品の制作を行うようなことがあれば(現時点ではまずないでしょうが)、この「エルナサーガ」と堤作品の影響を強く受けるものになるでしょうね。今でも、この作品は、わたしの中では現役で生き続けています。


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