<キャラクター名鑑(1)> ──「夢幻街」──

2009・7・22

*キャラクター名鑑(2)はこちらです。

 「夢幻街」のキャラクターは、どれも作品中の役割がはっきりしていて、それぞれに存在感があります。作品の主人公は豹介なのですが、それ以外にも主役格のキャラクターがふたりいて、彼らを取り囲むサブキャラクターたちも、それぞれみなストーリーの上で大きな役割を果たしています。あるいは、数回程度の登場にとどまるさらに外回りのキャラクターや、あるいは一回限りのゲストキャラクターや果ては敵役たちも魅力的な者が多く、一回限りで登場が終わるのが惜しいくらいでした。

 ここでは、そんな彼らの中でも、まずメインキャラクターを中心に、サブキャラクターやゲストキャラクターについても幾人か採り上げて見ていきたいと思います。約2年半の連載期間で7巻に及ぶ連載では、当初は豹介とその周囲の人物のみだったのが、ストーリーが進むにつれて次第に魅力的なキャラクターが追加されていきました。ここでは、その連載の過程も含めて見ていきたいと思います。


<牧豹介>
「人形店『夢幻』の店主で、十七代目人形師”夢幻”。祖父から習った”狗法”を使い、拝み屋の副業をしているが、豹介自身、狗法の中でまともにあつかえるのは、飛翔・剛力・風刃の3つだけである。」(作中の紹介より)

 この物語の主人公。普段は穏やかで人当たりのよい青年で、近所の子供やアルバイトの女の子(レーコちゃん)にも慕われる、若くして人形師としても優れた腕を持つ好青年でとして描かれています。裏稼業である拝み屋の仕事の時でさえ、無用な争いは好まない優しい心の持ち主なのですが、いざ悪人たちのあまりにもひどい悪行を目にしたときには、初めてその怒りをあらわにして、恐ろしいまでの形相で敵を葬り去ってしまいます。このときの「地獄に堕ちろ」という怒りの言葉が、この豹介の決めゼリフともなっていて、このときばかりは普段の優しい好青年のもうひとつの顔を見ることが出来ます。このマンガの場合、悪人たちが本当に悪辣な所業を成すように描かれているので、豹介のこの姿には、大いに共感することが出来るでしょう。

 「狗法の中でまともにあつかえるのは、飛翔・剛力・風刃の3つだけである」とあるとおり、狗法使いの中では劣る存在のようにも描かれていますが、実際の能力はこの3つだけでも十分すぎるほどで、「お前を怒らせたらかなうものなどいない」と祖父の源三も冷ややかに語っています。特に風刃の術を使って敵を切り刻むシーンが最大の見せ所で、凶悪な妖怪をもなますのごとく切り刻む頼もしい技となっています。

 そして、この豹介は、整った美形的な顔立ちで、とにかく女性読者のファンが多かったのが印象的でした。このような女性のファンがこのマンガについたのは、作者の水沢さんにとっても意外だったようで、「僕のところにお手紙をくれる子の8割が女の子で、しかもそのほとんどが豹介のファン」とコミックスの前書きで感慨深げに語っています。


<白神仁>
「呪符を操る符術師。金しだいでなんでも請け負う”なんでも屋”を生業としている。豹介とは数年前に知り合い、それ以来のくされ縁。」

 豹介の並ぶもう一人の主人公。このマンガには、この白神が単独で主役となるエピソードが多数含まれており、あるいは豹介と白神の双方が物語に絡んでくるものもよく見られます。つまり、このマンガには主人公が二人いるわけです。

 豹介の裏稼業と同じような仕事をしているのですが、穏やかで優しい性格をしている豹介と違い、あまり人に慣れない性格で依頼人に対しても態度は悪く、なにより金にうるさく金を持っていない者の依頼は受け付けない、人との必要以上の関わりあいも嫌うという、いわゆる「一匹狼」的な存在として描かれています。ただ、豹介は彼にとって数少ない信頼できる同業者らしく、仕事に際して情報の提供を求めたり、あまりに厳しい状況の時には助けを求めることもあるようです。
 しかし、彼がこのような性格となったのは、まだ若かった頃に大切な人を金がないばかりに救えなかった、あるいはかつては自分自身も弱く符術の師匠に鍛えられて強くなった、といった経緯があるからで、本当は優しい面も少なからず持っており、口は悪いながらも依頼人を救うための仕事はきっちりこなす、実に人間味に溢れる男だと言えます。そのためか、彼が主役となるエピソードは、豹介のエピソード以上に読者の心に残るものも珍しくなく、孤高の一匹狼として厳しい仕事を終えた後のラストシーンは、なんとも言えない余韻を残すものが多いのです。

 また、彼の使う「符術」が、実に多彩なのも魅力的です。豹介が戦闘ではほとんど風刃頼みなのに対して、白神の使う符術は、符によって様々な効力を持っており、単に敵を直接攻撃で倒すものだけでなく、対象を金縛りにしたり、人を操ったり心をのぞき見たり、妖怪を引きずり出したりと多種多様で(設定では708の符があるとも)、それを見るだけでも楽しむことができるでしょう。符を相手に投げつける流麗なアクションも魅力です。


<斎木美夜>
「豹介の幼馴染で、子供の頃、共に山で仙道修行に励んだ仲。ほとんどの狗法仙術を使える達人で『斎木探偵事務所』の所長をしている。表介にとっては姉のような存在。」

 豹介・白神に加わる三人目の主人公とも言えるキャラクターです。登場は3巻と遅く、主役となるエピソードも他の二人に比べるとやや少なめですが、その存在感はやはり侮れません。
 彼女は豹介の幼馴染で、まだ小さな頃に子供の冗談で許婚の約束もしているという逸話もあり、美夜の方はいまだまんざらでもないようで、時に豹介にからかい半分で迫ってきます。しかも、狗法の能力においても豹介をはるかに凌ぐ実力者で、豹介にとってはどうにも頭の上がらない存在となっています。がさつで大雑把な性格でもあり、厄介者ではあるが頼りになる実力も持つやり手のお姉さん、といった役どころでしょうか。

 彼女もまた豹介・白神と同じような闇の世界での依頼をこなす仕事をしていますが、大雑把な性格からか敵を作りやすく、そのため悪漢相手に数多くの大立ち回りを演じてきて、「武勇伝には事欠かない」と言われてもいます。作中で主役を演じるエピソードでも、より直接的で過激な荒事に遭遇することが多いようで、そのアクションシーンでの活躍ぶりには目覚しいものがあります。「夢幻街」のアクションシーンはどれも非常によく出来ていますが、それが最もよく見られるのがこの美夜のエピソードでしょう。5巻のあるエピソードで見られる、指で弾丸を放って街頭を壊して窮地を脱するシーンなどは、まさに圧巻です。まさかこのマンガで「指弾」が見られるとは思いませんでした。(同じ技は別のエピソードで敵キャラクターの一人も使っており、作者の独特のアクションシーンへのこだわりが窺えます。)

 また、豹介と関わってふたりで事件を解決に導くエピソードは多いのですが、白神とは疎遠で、3人が共に会する話はほとんどありません。ただ、3人が一度に登場する話が終盤のエピソードに一回だけあり、これが3人の主人公が肩を並べて歩くシーンが見られる唯一の話となっています。


<牧源三>
「豹介の祖父。若い頃は、”合図の魔天狗”と呼ばれた狗法使いの達人だった。数年前に死にかけ、外魂の法(人の魂を別のものに移す法)で生きながらえるが、干し首の姿となる。豹介の人形師・狗法、両方の師匠である。狗法のうち、透視・読心・幻視を使うが、ほかにも少し仙道の秘術が使える。」

 豹介のおじいちゃんで、もう体は死んでしまったのですが、いまだ干し首の姿となって豹介を見守っている存在です。(「ゲゲゲの鬼太郎」の目玉おやじのようなキャラクターですね。) 普段、ほかの人がいる時には部屋の中で黙って置き物のふりをしていますが、豹介とふたりの時には盛んに会話をして、裏稼業の仕事の時には豹介に連れられて(持ち運ばれて)サポート役として同行します。
 身体能力はまったくありませんが、若い頃にならした狗法使いとしての力の一部はいまだ健在で、様々な妖怪や妖術の知識を伝えて豹介をバックアップするほか、透視・読心・幻視などの一部の能力はまだ使うことが出来、特に「幻視」(眼力だけで瞬間的に相手の五感を奪い催眠状態にしてしまう術)は使われるシーンが多く、相手から情報を聞き出す時に大いに役に立っているようです。

 幼い頃に両親を共になくした豹介をひとりで育てていますが、妹の方は当時の家の収入では育てきれず、養子に出してしまうという辛い過去も経験しています。普段は豹介の話し相手として飄々とした好々爺といった感じで、豹介に「おじいちゃん」と呼ばれて、「こりゃ 誰が”じーちゃん”じゃ!”師匠”と呼ばんか”師匠”と!」と返すのが定番の駆け合いとなっています。仕事中に「苦蛇」と呼ばれる霊獣を平気で食べてしまい、豹介をあきれさせるシーンも。毎回の厳しい仕事の合間にも飄々とした姿と言動で、ちょっと緊張を和ませる味のあるキャラクターとなっているようです。


<千葉礼子>
「豹介の人形店『夢幻』で、店番のアルバイトをしている酒屋の娘。豹介に恋心を抱いている。」
 豹介の表の世界の稼業である人形店で働くアルバイトの女の子。これまでは豹介と同様に裏の稼業で生きるキャラクターを紹介してきましたが、彼女はそのようなことは知らず、純粋に人形師としての豹介に接しています。性格も明るく快活で、豹介に恋心を抱いており、豹介が依頼人や知人などで女の人を連れてくると、分かりやすい嫉妬の態度を示し、むすっとしたコミカルな顔で「店長・・・あの女の人誰ですかあ?」などと聞くのが定番のコメディシーンとなっています。

 豹介も彼女は大切に思っているようですが、自分が裏の世界の住人であることを思って、「自分のような人間と付き合うのは彼女の幸せにはならない」と思ってあえて一線以上には接しないようにしているようです。しかし、厳しい稼業をこなす豹介にとっては、表の世界で屈託なく接してくる彼女の存在は、安らげる日常の拠り所のひとつであることは間違いなく、豹介の家に遊びに来るかわいい子供たちや、数匹買っているかわいい猫たちと共に、普段の穏やかで幸せな日常を象徴する存在となっているようです。

 最後の最後の話では、妖怪に襲われ、豹介に救われるも助からないようなひどい傷を負い、豹介の捨て身の霊波による治療でなんとか生きながらえるというエピソードが待っています。そんな豹介の捨て身の献身で、何事もなかったかのように普段の穏やかな日常に戻って終わるという、物語の最後を飾るにはふさわしいエピソードになっていたと思います。


続きは後編でどうぞ。こちらです。


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