<キャラクター名鑑(2)> ──「夢幻街」──

2009・7・25

*キャラクター名鑑(1)はこちらです。

<雲海士源>
「美夜の祖父。自ら造った人形を自在に操る能力を持つ傀儡師(くぐつし)。現在は、山で隠居生活をしている。」

 美夜の祖父にして飄々とした隠居のじいさん。昔は優秀な傀儡師だったらしく、豹介の祖父である牧源三とも親しい仲。かつて豹介と美夜は、彼ら二人の下で修行を重ねて狗法を身につけたという経緯もあり、家族ぐるみの付き合いと言えます。

 今では完全に隠居して山に引きこもって山荘でのんきに暮らしているのですが、おてんばの美夜がえらく荒っぽい日々を送っているため、心配になって幼馴染の豹介に相談に来たり、あるいはそれ以外にもいろいろと面倒な厄介事の依頼を持ち込んでくることがあります。豹介にとっては少々迷惑なところもありながら、そのおおらかな人となりと外見で、なんでも許せてしまうような気のいいお爺さんとなっています。

 そんな雲海が出てくるエピソードの中で、最もらしいと言えるのが、悪さをしていた猫又を退治して、豹介の元へと飼ってくれと持ち込んでくる話でしょう。猫又とはいえでっぷりと太った愛嬌のあるデブ猫で、豹介の家に遊びに来る子供に慣れて一緒に暮らすようになるという、実にほほえましいエピソードでした。厳しい世界に生きる豹介にとって、たまに登場して雰囲気を和ませる愛すべき好々爺であると言えます。


<七瀬裕子>
「符術師に憧れ、白神に弟子入り志願している女の子。密かに白神に想いを寄せている。」

 豹介には祖父の源三やアルバイトの礼子ちゃん、家に遊びに来る子供たちと、両親がいないとはいえにぎやかな生活を送っており、美夜にも祖父の雲海がまだ健在で、豹介一家とも昔からのつながりがあります。しかし、一匹狼の白神には、そのような親しい人が長い間おらず、わずかに豹介が信頼できる同業者としている程度でした。
 そんな彼の元にも、ある日依頼に来た女の子とのつながりが生まれます。それが七瀬裕子で、当初はあまりにもぶっきらぼうで金にもうるさい白神に怒りを感じてもいたのですが、次第に彼の優しさや過去の経緯にも触れ、依頼が解決した後も白神を慕ってついて回るようになります。白神は迷惑がってはいるものの、完全には突き放すことができず、ここに奇妙なコンビが誕生することになりました。

 加えて、物語の終盤においては、白神の師匠である岩倉天心なる男も登場し、飄々とした性格で七瀬裕子とも簡単に打ち解け、白神にもそろそろ彼女と付き合ってもいいのではないかとも勧めます。かつて白神が恋した百合と言う娘の祖父でもあり、かつて病気で死んだ百合をいまだ忘れられない白神を案じる心優しい保護者のような存在です。そしてこの天心、いまだ能力者としても健在で、かつてまだ子供だった頃の白神を救ったエピソードも面白く、いいキャラクターだと思ったのですが、最終盤のその1回のエピソードだけで登場が終わってしまったのが実に残念でした。一匹狼の白神にとって、数少ない人とのつながりを感じさせるいい話だったと思います。


<蓮杖・高村仙舟・天道熊生>
 ここまではメインキャラクターを紹介してきましたが、この「夢幻街」には、彼らに比べれば出番こそ少ないものの、魅力的な脇役やゲストキャラクターもたくさん登場します。ここでは、まず主人公たちと同じく裏の世界に生きるものたちを採り上げます。

 蓮杖(れんじょう)は、街角に店を立てている占い師で、その一方で豹介たちに裏の人物や呪術についての情報を提供する、いわゆる情報屋です。豹介たちは、自分たちの間でもかなりの情報を持っているようですが、それでも分からない時には彼の元に敵となる相手の情報を求めに行くことがあるようです。細面で整った顔立ちの中年の占い師といった感じの男で、外見の印象も悪くなく、裏の情報屋にしては優しく情に溢れるところもあるようで、豹介たちには信頼できる相談相手となっています。

 高村仙舟は、3巻のあるエピソードでゲストとして登場した”呪禁師(じゅごんし)”で、呪的医療や、逆に呪いで相手を苦しめる秘術を極めた達人で、豹介の祖父である牧源三とも親しい仲のようです。ちょうど雲海と似たイメージのある老翁で、雲海ほどくだけてはおらずもう少し真面目な風の男でしょうか。彼は性格的にも良く出来た好人物で、雲海のような好サブキャラクターになるかとも思ったのですが、そのエピソードで残念ながら悲痛な事件に巻き込まれ、無残な最期を遂げてしまいます。一回のエピソードで出番を終わらせるには惜しい人物でした。

 天道熊生(くまお)も同じように裏の世界に生きる者で、いわゆる修験者(山伏)のような男です。普段は街中に道場を構える祈祷師だったらしいのですが、豹介が依頼を受けた時には高尾山に修行に出ていました。豹介は彼の元へと向かおうとしますが、彼の結界に阻まれて立ち往生し、なんとか結界となる呪符を壊して入り込んだものの、折からの風邪で倒れ、この熊生に助けられることになります。彼は、脅しを受けて死んだ男に”反魂”の法をかけたものの、それを悔やんでおり、責任を感じて化け物と化した死者に立ち向かいます。修験者らしく呪文や魔法陣を駆使して闘う姿は、直接戦闘が主体の豹介とは対照的で、大いに惹かれるものがありました。彼も一回限りの登場で終わったのが実に惜しい魅力的なキャラクターでした。


<竜堂玄一郎・金平勝次>
 味方となるゲストキャラクターだけでなく、敵として出てくるキャラクターにも、時に魅力的な個性を持つものが登場します。

 竜堂玄一郎は、斎木美夜を始末するように悪人から依頼される始末屋で、「金次第では善悪を問わずなんでもやるとんでもない野郎」(白神)として裏稼業の世界では有名な男として登場します。全身黒ずくめの異様な風体をした長身の男ですが、その腕前は確かで、巧みな体術による直接戦闘はもちろん、暗器(隠し武器)も使い、さらには切り札として「飯綱(いづな)」と呼ばれる霊獣を飼っており、これを取り憑かせることで相手を完全に行動不能にするという恐るべき能力まで有しています。その能力で美夜には打ち勝ち、豹介とも互角以上の闘いを演じますが、最後には怒りに触れた豹介の本気の前に敗れ去ります。

 彼は、金次第では何でもやるという点では悪人かもしれませんが、しかし自分の仕事に対しては矜持を抱いており、「依頼を受けた自分の仕事だからやる」というスタンスで、悪事を心から楽しむといった典型的な悪人とは異なるようです。豹介に敗れ去った後も、自分の敗北と相手の強さを素直に認め、おとなしく立ち去っていきます。その後姿には、この裏世界に住むもの独特の哀愁を感じることができました。敵とは言え味のある名キャラクターだったと言えます。

 逆に、典型的な悪人と言えるのが、白神の仇敵として登場する金平勝次というナイフ使いの殺し屋です。かつて白神と共同で護衛の任務に当たっていた時から相性が悪く、金をつかまされて卑劣にも依頼者を裏切ったことで白神を怒らせ、彼の手で半殺しの目に遭ったようです。そのことを大いに恨み、再び白神と顔を合わせた時に再戦、この時には「犬神」という小さな使い魔のような霊獣を大量に使役し、白神を一斉攻撃して一度は窮地に追い詰めます。再度まみえた時には、今度は犬神の攻撃は白神の符術で敗れ去ったものの、今度は自身の体に犬神を取り憑かせて攻撃するという荒業に出ます。典型的な悪人とは言え、白神を最後まで苦しめた好敵手として、存在感のある名敵役だったと思います。


<子供と飼い猫たち>
 そして最後に、「夢幻街」と言えば、なんといっても豹介の家を訪れる(暮らす)子供たちと飼い猫たちを忘れてはなりません。人知れず闇の世界で裏稼業を続ける豹介ですが、普段は自分の家で人形師として生計を立てており、穏やかで実直な青年として周囲の人に慕われ、アルバイトとして働く礼子ちゃんや、彼の元に遊びに来る無邪気な子供たちや、いつの間にか数が増えたかわいい飼い猫たちと共に暮らす、穏やかで幸福な生活を送っているのです。

 彼の元に遊びに来る子供たちは、豹介の家で猫たちと戯れ、物置を秘密基地にするまでに溶け込んでおり、豹介もある程度迷惑をかけられつつも、かわいらしい子供たちを心の底から愛情を持って見守っています。彼ら子供たちは、普段は日常の1シーンで登場するのみですが、ときたま子供たちが主役となるエピソードが見られ、そんな物語は、ほかの殺伐としたエピソードとは異なるほんわかした一面を持つことが多く、たまにそのような話が混ざることで読者の心をほっと和ませます。中でも、子供たちの一人が雪ん子というかわいい雪の精に助けられる話や、でっぷりと太った妖怪とは思えないかわいい猫又に懐かれ、悪人の襲撃にも体を張って救われる話などは、キャラクターのかわいさもあって実に深く印象に残っています。

 そして、その飼い猫たちもやたらかわいい。礼子ちゃんや子供たちに頼みを断りきれずに、いつの間にか増えてしまった飼い猫たちですが、「昔から動物に慕われる」(源三)の言葉どおり、みな豹介に懐いており、豹介の方もいっぱいの愛情をもって接しています。猫と豹介がのんびりと戯れる1枚絵のイラストも頻繁に見られ、それが普段の豹介の優しい性格と幸福な生活を、これ以上ないほど強く深く表した1シーンとなっています。


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