<作品紹介>──「浪漫倶楽部」──

2012・11・8

 「浪漫倶楽部」は、少年ガンガンで1995年6月号から1998年No.03(当時は月2回刊行時代)まで連載された作品で、のちに「ARIA」で有名になる天野こずえの最初の連載となっています。これ以前に読み切りを数本手がけており(短編集「前夜祭」二収録)、そちらも切ない作風で安定した評価を得ていたことから、この時期晴れて連載を獲得したのだと思います。

 読み切り時代から学園を舞台にした作品が多く見られましたが、この「浪漫倶楽部」も、「夢ヶ丘中学校」という学校を舞台にした学園もので、それも幻想的な要素が入ったファンタジー作品となっています。
 「浪漫倶楽部」とは、その学校で主人公たちが入っている部活の名前であり、その部員たちが、学園にたびたび起こる奇妙な現象の解明を試み、その過程でか弱きものの願いをかなえようとする切ない物語となっています。このあたりにおいて、これまでのガンガンの中心的な連載だった少年マンガ作品とは、異なる雰囲気になっていて、それが非常に強く印象に残りました。そして、これがのちに90年代後半にかけて、ガンガンの方向性が変わっていくきっかけのひとつとなったと思います。

 さらにもうひとつ、「終わらない放課後」というテーマも掲げられているようで、放課後の楽しい学園生活の様子が、本当によく描かれています。この学園独特の行事も多く見られ、明るく気のいい生徒たちとともに過ごす、学校の明るい一面が毎回のように描かれており、これが大きな魅力となっています。

 さらには、作画レベルも最初の連載だったこの当時から突出していました。のちの「ARIA」でも卓越した作画能力(特に背景描写)で絶大な評価を得た天野さんですが、このころから既に「絵がうまい」ことは読者の間で定番の評価となっていました。さらには、その絵で描かれるかわいいキャラクターたちも大変魅力的で、明るくいきいきした個性的なキャラクターを多数生み出しました。

 唯一残念だと思えるのは、連載が2年半と比較的短めで終わってしまったこと。連載中盤以降のガンガンは月2回刊時代でしたが、そのときにも月1回のペースを保っていたため、連載回数はさほど多くはなりませんでした。しかし、安定した連載ペースを保ったために、質が安定したとも考えられるので、一概に言えないかもしれません。コミックスは全6巻、のちにマッグガーデンからも新装版が出ています。


・浪漫倶楽部からクレセントノイズ、AQUAからARIAへ。
 のちの名作「ARIA」の人気と評価があまりにも高いため、それ以前の作品が、相対的にあまり語られなくなった感のある天野さんですが、実際にはこれまで描いてきたどの連載、あるいは読み切りもすべて良作で、非常に高い質を維持してきました。

 最初の連載であるこの「浪漫倶楽部」は、それ以前の読み切りでも見られた「切ない学園物語」をさらに発展させたもので、最初からその質の高さには見るべきものがありました。しかし、当時のガンガンにまだ「ロトの紋章」「魔法陣グルグル」などの看板作品が多数存在していたこともあって、あまり表に出ることはなかったように思います。しかし、その面白さは熱心な読者に認められていて、優良な中堅作品として、しっかりと雑誌に定着していたと思うのです。

 そして、この「浪漫倶楽部」連載中から、姉妹誌のGファンタジーで「クレセントノイズ」という新連載を開始。こちらは、超能力バトルものという側面を持ち合わせているとはいえ、基本的なコンセプトは「浪漫倶楽部」と非常に近いものがあり、楽しい学園生活とそこで綴られる切ないストーリーが、さらに完成度を高めて作られました。
 そして、この「クレセントノイズ」の連載を半ば優先させるような形で、「浪漫倶楽部」の連載が終了することになります。「浪漫」の人気が落ちたような兆しはまったくなかったですし、これは作者の創作の進歩を優先させた、発展的な解消ではなかったかと思います。

 その後も「クレセントノイズ」の連載と平行していくつもの読み切りを残したあと、今度は少女誌のステンシルで、「AQUA」の連載を開始。のちの「ARIA」の前身となる水の惑星を舞台にしたヒーリングコミックは、当初から読者の大好評を得ることになります。

 そんなわけで、「クレセントノイズ」と「AQUA」と、双方の連載がともに好調だった矢先、あの「エニックスお家騒動」が起き、天野さんもこの影響を受けてエニックスを離脱、マッグガーデンの新雑誌コミックブレイドで、「AQUA」のタイトルを「ARIA」として再開。この後の活躍については、もはや言うまでもないでしょう(現在は最新作「あまんちゅ!」を連載中。)
 しかし、「AQUA」こそ再開できたものの、「クレセントノイズ」はいまだに再開されず、またエニックス時代の著作の多くも、マッグガーデンより新装版こそ出ているとはいえ、以前より印象が薄くなった感は否定できません。この「浪漫倶楽部」も、かつてのエニックス時代の連載をリアルタイムで知っている人は、もう少なくなってしまったのではないでしょうか。


・毎回のように感動を呼び起こす切ないストーリー。
 しかし、この「浪漫倶楽部」、作者最大の名作である「ARIA」に勝るとも劣らない傑作だったのです。ガンガン、あるいはエニックス(スクエニ)の、これまでの数々の連載の中でも、いまだにトップクラスの作品ではないかと思います。それほどの面白さがこの作品にはありました。

 その最大の理由は、なんといっても本気で感動する切ないエピソードの数々。この物語の舞台である「夢ヶ丘中学校」は、丘の上に立つ学校で、そこでは以前からたびたび不思議な事件が起こっていました。それは、この丘に存在する「丘神石」と呼ばれる石のせいで、か弱きものが意志をもって周囲に願いを訴えかけていたのです。丘神石の精霊・コロンと出会った浪漫倶楽部のメンバーは、彼女を部員に引き入れ、みなでか弱きものの願いをかなえるために奔走することになります。

 この「か弱きものの願い」というテーマこそが、この作品を真に感動できるものにしている最大の理由と言っていいでしょう。なんとか願いをかなえられても、力弱きものは最後には儚く消えていく。そんな悲しい終わりを告げるエピソードが本当に多いのです。
 とりわけ印象的な話は、連載初期の第4話「消えゆく想い」でしょうか。浪漫倶楽部の部長の元を訪れた「雛子」ちゃんというゲストキャラクターが登場する回なのですが、彼女の最後のシーンがあまりにも物悲しく、屈指の感動を呼ぶ一編となりました。連載の早い時期にこの傑作とも言えるエピソードが登場したことで、その面白さが完全に読者に認められ、これで人気が定着した感もありました。

 もちろん、この回だけでなく、他のエピソードのいずれもが切ない感動を呼び起こす傑作ばかりでした。前述のように、連載自体はあまり長くありませんでしたが、それでもひとつひとつのエピソードが粒揃いの名作だったと思います。


・「終わらない放課後」気の合う仲間たちとの楽しい学園生活を描く。
 しかし、そんな風に悲しく切ないばかりの作品でもありません。「終わらない放課後」というテーマで、授業が終わった後の放課後や、あるいは文化祭や体育祭のようなイベントでの、解放的な楽しい学校での一幕を描いていて、それがとても心地よいのです。

 まず「浪漫倶楽部」の部室に集まってのんびりと過ごす時間の描写。部室の中に食べ物を持ち込み、さらにテレビゲームまで持ち込んで楽しくゲームをプレイするシーンまで見ることが出来ます。そこまで持ち込んで大丈夫なのか、連載時には柱の煽り文で心配するコメントまで見られました(笑)。事件が起こらないときには、こうして楽しい日常を思う存分楽しんでいるわけです。今思えば、このようなシーンは、のちの部活ものの日常ものにも通じるところがあるような気がします。部活動といえば運動部の厳しい練習も思い浮かびますが、こうした同好会のような楽しい部活動も、それはそれで若いこの時しか味わえない、気の合う仲間と共有する楽しい時間を描くという点で、大いに意義があると思います。

 さらに、舞台となるこの夢ヶ丘中学校、とにかく年中行事が多い。文化祭や運動会のような定番のイベントはもちろん、この連載当時ではえらくマイナーだったハロウィンのイベントまであるようで、当時リアルタイムで読んでいたころには、「さすがにこんな行事は学校はおろかどこでもやってないだろう」と感じてしまったのですが、最近ではこのハロウィンが日本でもえらく広まっているのだから世の中分かりません。もっとも、今でも学校行事でやっているところは少ないと思いますが、作者の天野さんとしては、多少誇張があっても、こうした学校でのイベントの楽しさを伝えようとしたのではないでしょうか。学校という日常の中で、こうしたイベントは数少ない非日常とも言える時間で、そのわくわくした気持ちを読者に伝えたかったのだと思います。


・なんといってもキャラクターが素晴らしい。
 そしてもうひとつ、なんといっても浪漫倶楽部をメンバーを中心とするキャラクターが素晴らしいですね。天野さんならではの、明るくて元気な男の子と女の子は、このころからまったく変わっていません。のちの「ARIA」時代と比べると、絵に関してはまだ若干くせが残っていたようですが、それでもキャラクターのかわいさ、明るさはまったく揺るぎません。

 物語の中心となる石の精霊・コロンちゃん。ちんまりとしたかわいらしい外見の女の子で、精霊ながら幼さの残る言動がとてもほほえましく、このマンガの明るさ・楽しさを象徴した存在だったと思います。のちの連載では、こうした幼いキャラクターが中心に来ることは少ないですし、これは「浪漫倶楽部」ならではの特長かもしれません。

 さらに、主人公となる火鳥くん(火鳥泉行)も、最も印象に残るキャラクターでした。明るく元気でかつ人を思いやれる優しい性格で、トレードマークの逆さにかぶった帽子がその性格をよく表しています。部員の中では最もバランスの取れた性格でもあり、つい思い込みのあまり暴走しがちな部長を止める役どころだったりします。
 ヒロインの月夜ちゃん(橘月夜)も、また非常に人気のあったキャラクターです。最初はいじめに遭う暗い生徒として登場しますが、そのいじめを解決して浪漫倶楽部に入ってから、本来の明るさを取り戻し、明るくも優しい性格が魅力のキャラクターとなります。ポニーテールの髪型もかわいらしく、天野さんの描く女の子の中で最初に人気の出たキャラクターだったと思います。火鳥くんとのほのかな恋愛の描写も見逃せません。

 そして、なんといっても突出して個性的だったのが、浪漫倶楽部の部長こと、綾小路宇土です。この浪漫倶楽部の創設者にして、積極的に事件の解決に励むのですが、思い込みの激しい性格から暴走しがちで、そのひょうきんな顔立ちから来る外見も手伝って、周囲の多くの人には変人として見られているようです。以前は、火鳥に出会うまでは友達らしい友達もいなかったという逸話もあります。しかし、そんな彼こそが、実は最も裏表のない善き人として描かれていると思うのです。その性格と外見から誤解されがちだけど、でもその内面は誰よりも純粋で優しい。作者の天野さんは、あえてこういったキャラクターこそ描きたかったのではないでしょうか。実は、この部長こそが、この「浪漫倶楽部」という作品を、誰よりも体現する存在ではなかったかと思います。連載後半にはそんな彼に恋する先輩・高橋由紀も登場。ふたりの掛け合いがまた最高に楽しいコメディとなっています。

 さらには、毎回のエピソードで登場するゲストキャラクターが、またひとりひとり個性的で印象に残るものが多い。前述の雛子ちゃんなどは、ゲストキャラクターながら絶大な人気を得るほどでしたし、他にも名脇役と言えるキャラクターはたくさんいて、一回で出番が終わるのが惜しいくらいでした。


・今でも記憶に残る珠玉の名作。短期の連載で終わってしまったのが本当に惜しい。
 以上のように、この「浪漫倶楽部」、心から感動できる切ないストーリー、学園生活の楽しさを描いたテーマ、そして魅力的なキャラクターと、どこをとっても素晴らしく、まさに名作と言える珠玉の作品となっています。あの天野こずえの最初の連載にして、すでに今と変わらない面白さを持っていて、そのレベルの高さに驚かされます。

 今改めて考えても、このマンガが2年半という比較的短い期間で終わってしまったのは、ひどく残念に思います。最後まで人気は衰えていなかったと思いますし、決して打ち切りで終わったわけではありません。ただ、最後の頃はコメディオンリーの回がやや多くなり、連載序盤の頃の毎回の感動ストーリーが続いていた頃に比べると、ほんの少し勢いが落ち着いたようには感じました。さらには、前述のとおり、この頃からGファンタジーで連載を始めていた「クレセントノイズ」が好調だったこともあり、こちらの方の連載を優先させたのではないかと思われる節も強く感じました。

 ただ、その気になれば、「浪漫倶楽部」と両方平行で連載を続けることも出来たかもしれません。しかし、作者の天野さんの以前からの方針で、「浪漫倶楽部」の連載時もあえて月1回のペースを保ったように、「決して無理なスケジュールは組まない」スタイルを貫いたのだと思います。この月2回刊行時代のガンガン、他に幾人もの連載作家が、月2回のペースについていけなかったのか大きく調子を崩す中で、この「浪漫倶楽部」だけは、最後までまったく質が揺らぐことはありませんでした。そんな天野さんですから、このままふたつの連載を同時に続けることにも、ちょっとした無理を感じていたのかもしれません。「クレセントノイズ」も大変な名作となっただけに、こちらの連載を優先したのもよく理解できます。

 しかし、この「浪漫倶楽部」、当時は本当に大人気で、藤崎あゆなによる小説や、当時放送されていたラジオ・ガンガンでのラジオドラマを収録したドラマCDなどの関連商品も出ていました。時期が時期ならばさらなるメディアミックスでアニメ化まで行ってもおかしくはなかったでしょう。この「浪漫倶楽部」と同時期の連載で(一時期は月1回の連載をこれと交互に行っていた)、同じく藤崎あゆなによる小説も出た「まもって守護月天!」の方が、のちにアニメ化を達成しガンガンの看板クラスの作品となったのとは、対照的な結果となってしまったような気がします。

 しかし、この「浪漫倶楽部」も、決してそれらの連載に劣ることはない傑作中の傑作でした。90年代中期のガンガン、創刊当時からの看板作品と新しい作品が同時に誌面をにぎわせていた時代、その爽やかな作風で読者の心に残る一作となりました。


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