<ベストエピソード10(前編)>

2013・7・7


 後編はこちら

 ここでは、「浪漫倶楽部」の中から特に優れたエピソードを紹介します。「浪漫倶楽部」のストーリーは、どれも素晴らしく甲乙つけ難いものばかりで、その中から選ぶこと自体中々難しいのですが、しかしその中からあえて10ほど厳選してみました。キャラクターの過去を掘り下げた話、他とはちょっと趣向の変わった話、とりわけ感動の深い話など、特に印象的なものをいくつか選んでいます。


<第1話 丘の上の学校>
 すべてはここから始まった・・・ということで、まずは連載第1話から。この時点ですでに石の精霊コロン、火鳥くん、そして部長と、月夜ちゃん以外のメインキャラクターがすべて登場し、しかもその一人ひとりの性格がよく出ています。作品の楽しくも切ない雰囲気もそのままで、第1話からすでに作風はしっかり完成されていたと言えます。

 物語冒頭は、火鳥くんの幼い頃の回想から始まります。かつて、あどけない子供の頃から、彼は不思議なものが見えた・・・。その回想に浸っていた彼を、部長が現実に呼び戻すことで物語が始まります。
 浪漫倶楽部とは、この丘で頻繁に起こる不思議な事件を解明するために、部長が立ち上げたサークル。しかし、物好きなサークルだと言う噂が立ち、部員はいまだ部長と火鳥の2人だけ。しかし、このふたりの活動は、本当に楽しそうに描かれているのがまず第一の見所です。変人とも言われる個性的で積極的な性格の部長に引っ張られる形で、火鳥くんが彼をなだめつつ付き合っていく姿がとてもほほえましい。特に、ふたりが理科室に忍び込むために学校の裏山へと回り込んだ時の、意外にも爽快感溢れる広々した光景は、実にすがすがしいものがあります。

 そんな裏山で出会ったのは、小さな幼児のようにも見える女の子。彼女は丘の上の石に宿る精霊と名乗り、その不思議な力を披露することで、「本当に不思議なものはあった」とふたりは喜ぶことになります。
 しかし、一旦別れて丘の上の石に戻ったとき、彼女はその中に入れなくなっていることに気づきます。自分の使命は、ここでこの土地の霊的な力を封印すること。しかし、ふたりと会って人間の感情を持ってしまったがために、その使命が果たせなくなってしまう。悲しみに耐えつつ元に戻ろうとする彼女に対して、火鳥は必死に説得、「今度は自分たちの仲間として、浪漫倶楽部の一員として不思議な事件を解決しよう」と訴えます。

 そうして、晴れて浪漫倶楽部の仲間となった彼女は、火鳥から「コロン」というかわいい名前ももらって、これまでの孤独な寂しい生活から、仲間たちと楽しく過ごす日々へと入っていくのです。
 この1話は、これからの物語の基本設定を説明する導入部であると同時に、これ自体が感動できる素晴らしい一編となっています。寂しく生きていたコロンが、浪漫倶楽部のメンバーと出会って救われたように、今度はコロンも含めた彼ら浪漫倶楽部が、様々なか弱き存在を救うことになるのです。


<第2話 雨のロンド>
 続いて、もうひとりのメインキャラクターとなる月夜(つくよ)ちゃんが登場する第2話も紹介しなければなりません。
 コロンも含めた新生浪漫倶楽部が最初に遭遇した事件、それは学校中の傘が消えてなくなってしまうと言う「傘紛失事件」でした。迷惑な奴がいるだけと取り合おうとしない火鳥に対して、いや絶対に霊的土地の力がかかわっていると部長が主張。学校中で見張りをすることになります。
 そんな中で、ひょんなことから火鳥とコロンが出会ったのが、同じクラスの月夜(橘月夜)という女の子。おとなしい性格の女の子でしたが、しかしコロンが彼女によくなつき、部室で仲良く遊んだことでみんなと打ち解けることになりました。

 しかし、そんな月夜ちゃんには、意外な暗い一面がありました。それは、クラスの女子数人にいじめられていたこと。他に友達のいなかった彼女は、その数人と「友達」として一緒にいる代わりに、彼女たちから体よくこき使われていたのです。そのことを聞いた火鳥と出くわした月夜は、走っていなくなってしまいます。
 ちょうどそのとき、傘を見張っていたコロンから、異変が起こったとの知らせが。やむなくコロンとともに現場にかけつける火鳥でしたが、そこでは次々と傘が消えていました。そんな中で、唯一火鳥だけが見えるボロボロの傘だけが、閉じたままふらふらと漂っているのを見て、それこそが事件の原因ではないかと推測。コロンに捕まえさせようとしますが、コロンには見えないのでうまくいきません。

 そんな中でコロンの声を聞いて駆けつけたのが月夜ちゃんでした。彼女は、使ってもらえないボロ傘が、自分を使ってもらえるように他の傘を消したのではないかと訴えます。ひとりぼっちで誰か使ってくれる友達が欲しかったのではないか、自分もそうだったからと・・・。
 それを聞いた火鳥は、一念発起して校舎によじのぼり、思い切ってジャンプしてついにボロ傘を捕まえます。捕まえた瞬間ぱっとその傘は開き、そのままゆっくりと月夜の前に着地する。ここは暖かい空気に満ちた名シーンになっています。

 この事件をきっかけに立ち直った月夜は、今までいじめたいたグループから勇気を出して抜け出し、浪漫倶楽部へと入部することになります。これで主要メンバー4人が揃うことになり、いよいよ本格的な物語が始まります。また、今まで消極的で暗い性格だった月夜が、これからのち明るく魅力的な性格へと変わっていくのも実に印象的で、これがこの話の最大のキーポイントになっています。

 ところで、この話は、いじめといういわば現実にある社会的な問題を扱ったことが、もうひとつ特徴的な回とも言えます。この「浪漫倶楽部」、決して社会派のマンガというわけではなく、あくまで学園もののファンタジーであると思いますが、時にこのように学校で過ごす生徒や先生の現実的な関係も描かれ、読者の心に一石を投じるものとなっているような気がします。


<第31話 出逢いの季節>
 こんな風にメンバー4人が揃って、浪漫倶楽部が今の形となったわけですが、そのずっと以前、最初の2人である火鳥と部長が出会い、浪漫倶楽部が出来た時のエピソードもあります。浪漫倶楽部のルーツを辿る非常に重要なエピソードなのですが、しかしこれが語られるのは連載も終盤の31話(コミックス最終巻に掲載)になります。大事なエピソードということで最後に取っておいたのでしょうか。あるいは、連載が終了することが決まってから、浪漫倶楽部のルーツを辿るエピソードを描くことに決めたのかもしれません。

 それは、夢ヶ丘中学の入学式の時。火鳥は、昔から不思議なものを見る力があり、この学校にも不思議な力を感じていました。そんな彼は、登校中に部活の勧誘チラシを配っている部長に出くわします。このころから火鳥が「パワフルな人だなあ」と表現するように、思い切った行動を取る人でしたが、あとで教室で聞いたところによると、「この学校でちょっと名の知れた変人」で通っているとのこと。「変人にかかわるのはごめん」とするその生徒(のちにサッカー部の部員として登場する矢野くん)に対して、火鳥は「噂だけで変人呼ばわりするのは間違っている」と言い、逆に浪漫倶楽部に興味を持って行ってみることになります。

 そんな時に、火鳥は学内で思わぬ存在に出会います。それは、小さな小人のような生き物。火鳥が、石に挟まれていたその小人を助けると、すみかである木のうろにまで送り届けると、彼は自分を「コロボックルのコロたん」と名乗り、家族を紹介してきます。何時引っ越すか分からないが、それまでは食事を持ってくると火鳥が提案すると、コロたんたちは大喜びします。

 その後、いよいよ浪漫倶楽部の部室を訪れた火鳥は、部長の浪漫倶楽部にかける意気込み、この丘の不思議事件に対する思いの強さを知るのです。同じことを感じていた火鳥も大いに共感し、「彼なら信じてくれる」と思い、コロボックルの存在を話してみることにします。
 やはり思ったとおり大喜びした部長を連れて、コロボックルの棲家へと案内する火鳥。しかし、そこで見た光景は、カラスに襲われてもぬけの殻になっている有様でした。これに大いにショックを受けた火鳥は、「自分がこんなことをしなければ、こんな力があるからコロたんたちを死なせてしまった」と思い込み、もう何も見ないようにしたいと暗く部長に告げます。
 それに対して部長は、火鳥に喝を入れ、「それは失敗から逃げているだけ。火鳥くんのすべきことは、君にしか出来ないことを精一杯やることではないか」と優しい目線で説得します。変人だと思われ、実際に思い切った奇行も多い部長でしたが、本当はこれほど優しくかつ人のことを思いやれる性格でした。

 火鳥が死んだと思っていたコロボックルたちも、実は難を逃れていて生きていたことが判明。またカラスに連れ去られそうになるコロたんを火鳥が身体を張って助けることで、部長にもう一度説得され、これからもその瞳でまっすぐ歩いていくのだと告げられるのです。

 このエピソードは、火鳥と部長、そのふたりの人となりがこれ以上ないほどよく表れていて、実に暖かい読後感を残す名エピソードとなっています。また、火鳥については、これ以前のずっと幼い頃、姉の真兎(まと)に説得されて自分の能力を肯定する話もあり、こうした「キャラクターの過去の出自」を語るエピソードが、連載の要所要所で印象深く折り込まれる構成となっています。


<第21話 Winter's Tale>
 「浪漫倶楽部」のエピソードは、基本的に切なく感動する話がほとんどですが、中には純粋な明るいギャグコメディのみの笑える話もいくつかあります。特に、連載後半で部長の思い人として登場する高橋由紀先輩が登場する話は、そんなドタバタの賑やかな話が多くを占め、ひとつの定番となっていました。中でもこの第21話は、とりわけ爆笑度の高い話として一番のお勧めです。

 高橋由紀先輩は、部長の幼なじみで彼に恋しているのですが、中々気づいてもらえません。しかも、浪漫倶楽部の奇怪な(笑)活動を取り締まる風紀倶楽部の部長をやっていることもあって、部長にも周囲の人にもライバルだと思われている状態です。

 そんな中、冬の終業式の終わったあと、学校が催した部活単位の競技イベントで、浪漫倶楽部と風紀倶楽部、ふたつの部活が張り合うことになります。このイベント、第1位をとったものに大きな賞品が用意されていて、それが「冬の部活動を暖かく快適に過ごせる」ものと聞いて、それはこたつに違いない、こたつだ、こたつほしい!と生徒たちが俄然張り切ることになります。

 まず対決した第一の種目は、校内大掃除。これには普段から手馴れている風紀倶楽部の圧倒的有利でしたが、最後に浪漫倶楽部はコロンちゃんと使って一気に廊下のワックスがけをして一発逆転を試み、しかし大失敗して風紀倶楽部の勝利を迎えます。
 そして本番とも言える第二の種目、それは寒中水泳大会。ほとんどの生徒が、こたつのために命まで懸ける気は起きんとあきれて去っていく中、サッカー部と風紀倶楽部、浪漫倶楽部のみが残って対決することに。部長と由紀先輩との直接対決は、思わぬアクシデントから部長の圧勝(?)に終わります。

 そしていよいよ賞品の授与式となったわけですが・・・。2位と3位の賞品がしょうもないものだったので、1位の賞品も大丈夫かと不安な予感に駆られる一同。大きな箱の中から出てきたのは、いつの間にか入っていた校長先生。彼の「部活動で大切なものは友情の絆。友情の熱き炎さえあれば寒さなど恐るるに足りません」というしょうもない演説を聞いて、完全に脱力した一同は、友情の証の写真1枚を賞品としてもらって、まさに悪夢のようなイベントは幕を閉じます。
 この最後の写真に写った一同の真っ青な表情が爆笑もので、参加した部長はもちろん、火鳥くんや月夜ちゃんまでがショックで愕然とした表情を見せてくれます。部員たちのこんな表情が見られる話は他になく、ある意味貴重な一編となっています。


<第30話 星に願いを>
 これは、「第4話 消え行く想い」のゲストキャラクターで、絶大な人気を誇った雛子(源氏雛子)ちゃんが再登場する貴重なお話です。この「浪漫倶楽部」、毎回のゲストキャラクターの登場は基本的にその1話限りで、後になって再登場することは滅多にないのです。それが、こうしてもう一度再び主役級の扱いで登場するのは異例で、いかにあの話が名作で、雛子ちゃんの人気が高かったのかよく分かります。

 かつて登場した時の雛子ちゃんは、部長の”彼女”として登場し、かいがいしく部長に尽くし、浪漫倶楽部のメンバーにも愛される明るい少女でした。今回も基本的な性格は変わってはいないようですが、なぜかさらに底抜けに明るい性格となっていて、あっけらかんとした言動でメンバーたちを驚かせることになります。特に、以前に面識の無かった由紀先輩にもなつき、彼女を振り回すまでになります。

 しかし、彼女の登場は、火鳥と月夜、このふたりにとっては衝撃でした。確かに、前作の最後で、彼女は消えてしまっていたのです。もう会えないと思っていた彼女との再会はうれしいのですが、しかしなぜ再び来れたのか、その質問に彼女は答えませんし、何よりこの場にいない部長に会おうとしません。

 彼女が最愛の部長に会おうとしない理由、それは、もう一度逢いたいという願いで一日だけこの場に来れたからでした。一日だけの出会いで、もう一度別れの悲しみを部長に負わせたくない。その一心で、最後まで部長に会わず、さらには部長の想い人の由紀先輩に部長を託して、再び消えていきます。かつての第4話も大感動のエピソードでしたが、この再度の登場エピソードも、もう一度その深い感動に包み込んでくれました。連載終盤の屈指のエピソードだと思います。



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