<キャラクター名鑑(前編)>

2013・7・27

 後編はこちら


 浪漫倶楽部のキャラクターは、主役である浪漫倶楽部の部員たちから、彼らを取り巻く学校の生徒、先生方、そして1回限りのゲストキャラクターまで、魅力的なキャラクターばかりで、天野さんの絵のうまさも手伝って、大きな読者人気を獲得しました。これが、作品自体の人気にも大きく貢献したことは間違いありません。ここでは、そんなキャラクターをひとりひとり紹介してみたいと思います。


<火鳥泉行>
 この物語の主人公の火鳥くん。「セカンドサイト」という特殊な力(普通の人には見えないものを見る力)を持つ中学生。この「セカンドサイト」の力は、浪漫倶楽部の事件を解き明かすのに無くてはならないもので、彼がいなければ浪漫倶楽部は成り立ちません。その力は非常に強いものらしく、精霊であるコロンにすら見えないものを見る力を持っています(第2話)。

 しかし、それを除けば、明るく元気でごく普通の中学生であることに変わりありません。しかし、彼がこのような素直な中学生になれたのは、過去に起こった様々なしがらみを、家族や友人の力を借りて乗り越えたからに他なりません。その、今の火鳥くんを作り出した過去のエピソードが、要所要所で語られ、作品全体を通して非常に深い掘り下げがなされています。

 物語の冒頭第1話で、能力に目覚めた小さい頃の姿が垣間見られ、すでにその片鱗がみられますが、さらに小学校3年の時に姉の真兎に助けられる出来事(第9話)、中学校入学時、部長に出会って浪漫倶楽部を設立するエピソード(第31話)が見られ、ここで人とは違う自分の能力を姉や部長に肯定され、今の明るい火鳥くんになったのです。

 トレードマークは逆さにかぶった帽子。コロンにとってはよき保護者のような存在、月夜ちゃんとはほのかな恋愛関係が進んでいきます。部長とはまさに無二の親友。火鳥と部長の設立者2名が、紛れもなくこの部の中心となっています。

 加えて、彼の家族が数多く登場しているのも特徴です。前述の姉の真兎(まと)が最も多く登場するほか、父の力人(りきと)、最後の頃の話では母も登場。いずれの話も大切な家族の絆を感じられるいい話になっています。なお、気づいた人も多いと思いますが、この家族の名前は、火鳥泉行(蚊取り線香)、真兎(マット)、力人(リキッド)といずれも蚊取り器の名前になっていて、ユーモラスで笑えるネーミングになっています。


<コロン>
 この浪漫倶楽部のマスコット的存在のコロンちゃん。学校の裏の丘にそびえる丘神石(きゅうしんせき)に宿る精霊らしく、この土地に宿る霊的な力を封じ、恐ろしい事件が起きないように見張る役目を果たしていました。
 それは、たったひとりで丘の上で長い時間を過ごす寂しい役目でしたが、火鳥と部長に出会うことでその運命は変わり、彼らと楽しく一緒に過ごしながら、事件を解決する「浪漫倶楽部」の一員となるのです。

 浪漫倶楽部に入ってからコロンちゃんは、本来の無邪気さを取り戻したのか、本当に小さなかわいい女の子といった姿で、他のメンバーに可愛がられるまさに部のマスコットのような存在となりました。学校のほかの生徒の間では、火鳥の妹ということで通るようになり、学校でもその元気な姿を見ることが出来ます。精霊らしく空中を飛行することもでき、時にその力が事件の解決の役に立つこともあります。一度学校の生徒の前で思わず飛ぼうとしたことがあり、火鳥にたしなめられて以後は人前で飛ぶことは控えているようです。

 丘神石の精霊という重要な役目のキャラクターではありますが、部ではマスコット的存在に終始しているためか、作中で彼女が主役となる話は、他の部員に比べるとやや少なくなっています。親をはぐれた野良猫を助けようとする話(第6話)、鬼の子供と仲良くなろうと奮闘する話(第23話)が目立つ程度で、あとは雨の精霊出会うする話(第14話)で率先的に彼と仲良くなろうという話あたりが、その代表でしょうか。自身が人外の精霊だけあって、やはり人ではない存在と仲良くなるのが得意なのかもしれません。特に子供や動物とは相性がいいようです。

 このように、中盤での活躍はやや少なめですが、連載最初の浪漫倶楽部に誘われる話は大変な名作ですし、連載の最後では、彼女の過去にまつわる大きな話が設けられていて、これもとても感動するエピソードになっています。


<橘月夜>
 「浪漫倶楽部」のヒロインといえばこの月夜(つくよ)ちゃん。黒髪ポニーテールの明るい少女で、いかにも天野さんらしいかわいい女の子になっています。天野さんの描く女の子は、これ以前の読み切りから、のちの名作「ARIA」に至るまで、とにかく読者人気が高いのですが、この月夜ちゃんも例外ではありません。

 しかし、初登場時(第2話)では、浪漫倶楽部でコロンに懐かれる優しい少女としての一面はのぞかせるものの、それ以上にクラスでいじめに遭っていたことが大きく、決して明るいとは言えない性格でした。それが、このエピソードの最後でいじめを乗り越えたことをきっかけに、浪漫倶楽部に入って以降は本来の明るさを取り戻し、彼女もまた浪漫倶楽部に欠かせない魅力的なキャラクターとなります。

 彼女も、火鳥くんや部長に比べると、主役にした話はやや少なめですが、しかしそのエピソードはとりわけ切なく女の子らしい話が多い。睦月という美少女と対峙することになる第10話、図書室で図書委員の女の子と会う第20話が特に印象的ですが、どちらも女の子がゲストキャラクターなのが特徴的で、女の子同士で通じる心を描いたとても美しい物語になっていると思います。

 もうひとつ、月夜ちゃんといえば、火鳥くんとのほのかな恋愛模様も見逃せません。天野さんの連載では初の公認カップルで、激しい恋愛描写はまったくないのですが、ときにほんのりと仲のいい描写が見られるのがほんとにいい。連載終盤の第29話では、そんなふたりの過去の出会いのエピソードが描かれ、これもほほえましい名エピソードとなっています。

 また、外見がポニーテールのキャラクターには、明るく活発な女の子が多いような気がしますが、この月夜ちゃんの場合、ややおとなしめの性格であるところにも引かれました。同系のキャラクターの中では、ちょっと珍しいタイプかもしれません。ちなみに、連載初期と後期を比較すると、後の方がポニーテールがかなり伸びているという描写もありますが、個人的には初期の短めの方が好きだったりします。


<綾小路宇土(部長)>
 浪漫倶楽部の部長にして、紛れもなくこの作品で火鳥くんとならぶ中心キャラクター、それがこの綾小路宇土です。この作品のキャラクターの中でも、とりわけ個性的な存在で、平たく言えば変人かもしれません。とにかく率先して思い切った(とんでもない)行動に走りたがるので、火鳥たち他の浪漫倶楽部のメンバーが振り回されることもしばしばです。外見もあまりかっこいいとは言えず、「変な顔」とも思われていて、学校でもほとんどの生徒に変人として見られているようです。先生すらその行動にあきれてしまうことが多いようで、「浪漫倶楽部」自体が妙な部活として目をつけられる最大の要因にもなっています。

 しかし、そんな部長ですが、実は本当はどこまでも優しくていい人なのです。彼の思い切った行動が、事件を解決するきっかけになることも多い。また、火鳥くんを浪漫倶楽部に引き入れて部を創設したのは部長ですし、そのときにも飛び切りの優しさを見せて火鳥くんを救いました(第30話)。彼がいなければ、そもそも浪漫倶楽部は存在していないのです。また、3人いる弟と妹に対しても優しく、弟3人が懐いている姿もよく見られます。

 そんな部長を主役とするエピソードも多く、しかも特に感動する名作も数多い。おそらくは最大の感動物語となった、蛍の雛子ちゃんとの短くも楽しい夏の日と悲しい別れを描いた第4話、幼い頃の友達だったこいのぼりに乗って空を翔る第13話、そして前述の火鳥との出会いを描いた第30話、この3つは、全エピソード中でそのままベスト3に選んでもいいくらいです。

 また、こうした外見は決してかっこいいとは言えない、行動も突飛過ぎて変人と言ってもいいキャラクターが、物語の中心で主役となっているというのは、本当に貴重だと思います。こうした誤解を受けやすい人物が、実は本当に素晴らしい内面を持っているのだと、そういった話を一度ならず何度も見せてくれました。このようなキャラクターを、奇をてらうことなく正面から描いたことで、「浪漫倶楽部」は、どこまでも人を感動させる素晴らしい物語となったのだと思うのです。

 また、この綾小路宇土、のちに「ARIA」でその子孫となるキャラクターが登場し、そちらでもその個性的な姿をそのまま見せています。火鳥くんや月夜ちゃんなど他のキャラクターも、後の作品にゲストとしてたびたび登場しているのですが、その中でもこの部長の扱いがとりわけ大きかったような気がします。やはり、作者の天野さんにとって、ひときわ特別なキャラクターだったのではないでしょうか。


<高橋由紀>
 ここまで紹介した浪漫倶楽部のメンバー4人が、この作品のメインキャラクターといえますが、あと1名、後半になって登場する高橋由紀先輩も、5人目のメインキャラクターといってもいいでしょう。
 浪漫倶楽部ではない、”風紀倶楽部”の部長として、普段から(主に部長のせいで)妙な活動ばかりやっている浪漫倶楽部に目をつけ、その活動をやめさせようとするライバルとして登場します。男子人気投票で2年連続1位で学園でも屈指の人気女子生徒らしく、長身の美人として描かれています。

 しかし、そのすらっとした綺麗な外見からとは正反対に、作中の役回りはコメディに徹することが多く、毎回部長とバカバカしい闘いを繰り広げる話がメインとなっています。この由紀先輩が登場する回は、そのほとんどが完全なギャグ回となっていて、基本的に切ない感動物語となっている本作の中では、珍しく例外的な存在となっています。美人な先輩が実際にはコメディキャラで、毎回笑える話を展開してくれるというギャップが面白い。

 初登場は連載も後半に差し掛かった第18話で、その後第21話、第24話、第27話と、これらはすべて由紀先輩と部長を中心にしたコミカルストーリーとなっています。中でも浪漫倶楽部と風紀倶楽部がお掃除対決&寒中水泳対決を繰り広げる第21話が、最高に笑える話となっていて、これが個人的には一番のおすすめです。

 さらに、その後の第30話では、かつての名キャラクター・雛子ちゃんが登場し、彼女に部長を託されるという、これまでとは異なるシリアスな結末となっています。これが作中で最後の登場回となっていて、最後を締めくくるにふさわしい感動の物語で終わっています。


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