<アンティック>

2011・8・3

 「アンティック」は、まんが4コマKINGSぱれっとで2010年2月号より開始された4コママンガの連載で、翌2011年5月号を持って終了しました。約1年あまりの連載で、コミックスは1巻で完結しています。

 作者は和錆(わさび)。以前より同人での活動を盛んに行っていて、そちらでは主にイラスト+(4コマ)マンガという構成の本をよく出していました。しかし、商業での連載の話は長い間なく、ようやく2010年になって一迅社のぱれっとで連載することになりました。商業には縁がないと思っていただけに、この連載決定は個人的にもうれしい知らせでした。同人でのマンガの面白さにもかなりの切れがあり、それが目に留まって認められたのではないかと思っています。

 内容は、「アンティック(骨董)」のタイトルどおり、骨董がテーマになっており、主人公の杏音(アンネ)は骨董大好きな少女で、彼女の元にオロという懐中時計の精霊が登場し、他にも幾人かの骨董品の精霊たちが登場します。懐中時計やペアティーカップ、さらには古い望遠鏡や刀のような一風変わった精霊も登場、作者の古い物に対する愛着が感じられるマンガになっています。愛着を持てる骨董がテーマなだけあって、ストーリーもハートフルでほほえましいエピソードが多く見られ、全体的にかわいらしいイメージの作品にもなっているようです。

 しかし、単にほほえましいばかりでもなく、4コマのネタ、コメディの面白さにも同人時代から見られる切れがあり、こちらも読んでいて楽しい出来ばえです。同人時代の作品はちょっと毒を感じるところがあって、それとかわいらしい絵柄やキャラクターとのギャップが面白かったのですが、その作風はこの「アンティック」でも顕著に感じられます。
 そしてもうひとつ、登場する骨董の精霊たちのデザインセンスも見逃せません。元の骨董のデザインをうまく活かした擬人化となっていて、実はこれも同人誌のイラストではよく見られていました。こちらでも、かつての和錆さんの特徴が、商業誌でもそのまま見られるいい作品になっていました。また、このデザインも含めて全体的に絵が達者で、4コマながらトーンもうまく使って映える画面を作り出しています。

 1年あまりの連載とコミックス1巻という、比較的短い期間で終了してしまいましたが、絵も内容も卒なくこなれた高いレベルの4コマだったと感じましたし、もっと長く続いてもよかったと思っています。


・擬人化キャラクターのイラスト+マンガが秀逸だった同人誌。
 わたしが、この和錆さんに同人で出会ったのは本当に偶然で、カタログでサークルカットを見ただけで、事前情報など一切なしにサークルを訪問して本を買ったのがきっかけでした。ネット上のサイトにも行かなかったので、まさにカタログだけを見て本を買ったことになります。そして、その本のクオリティが予想をはるかに超える素晴らしいものだったのです。

 最初に買った本は、「Animalia」と「Fleur」という本で、それぞれ動物の擬人化、果物の擬人化本でした。動物・果物を擬人化した女の子たちのカラーイラスト本だったのですが、その擬人化のデザインが秀逸でした。元の動物や果物の特徴をデザインにうまく反映していて、そのセンスに感動したものでした。キャラクターの服装が元の動物や果物の造型を巧みに再現しているだけでなく、キャラクターの性格にまで元の特徴をうまく反映させています。のちにもう一冊、「Fiorato」という花の擬人化本も出すのですが、この本でもやはり変わらないセンスの良さを見ることが出来ました。さらには、鮮やかな原色を多用したカラーイラスト自体も、非常に美しかったのもポイントです。

 そして、これらの本には、もうひとつの面白さがありました。それは、イラストと共に掲載された4コママンガです。こちらは、かわいいながらも妙に毒のあるネタが多く、キャラクターたちが絶妙にいじられるネタがとても面白かったのです。かわいい絵柄とキャラクターのイラストで、一方ではピリッと効いた刺激的なネタのマンガも楽しめるという、非常にレベルの高い同人誌でした。これを事前情報なしで買ったときには、これは本当に掘り出し物だったなと喜んだものです。

 そして、このような同人誌での作風は、そのまま初の商業作品である「アンティック」でも見られることになりました。擬人化された骨董の精霊たちにみられるデザインセンス、個性的なキャラクターたちによるピリッと効いたコメディネタの数々と、「Animalia」や「Fleur」「Fiorato」で見せた実力を存分に発揮しています。


・個性的なキャラクターたちによるコメディが秀逸。
 まず、同人ではえらく毒のある作風を見せてくれた和錆さんですが(笑)、この「アンティック」でもその作風は健在です。ただ、今回は毒と言えるほどのネタは少なめで、ちょっとだけキャラクターが怖そうに見えるネタ、キャラクターがちょっといじられる(というか遊ばれる)ネタといった感じで、よりバランスの取れた雰囲気になっていると思います。これならば誰でも楽しめるでしょう。

 登場するキャラクターたちはみんな個性的です。懐中時計の精霊オロは、見た目はちんまりした子供で、古風なしゃべり方の反面性格も子供っぽいかわいらしいキャラクターですが、意外に現代の文化に順応しているところも見せる面白いキャラクターになっています。
 主人公の杏音は、骨董大好きな女の子。骨董が好きすぎて、身近にある骨董(っぽいもの)にすぐに惹かれてしまうちょっとした変人(笑)として描かれています。その姐さんの柚音(ゆずね)は、かわいいものが大好きな服飾デザイナーで、こちらもかわいいものが好きすぎてオロや杏音にかわいい服をすぐ着せようとする、ちょっと行き過ぎた性格の女性。この姉にしてこの妹ありといったところでしょうか。

 杏音の学校のクラスメイトでは、祈里(いのり)と葵(まもる)というふたりの女の子が登場。祈里は明るい性格のお調子者、葵は黒髪ロングヘアのおしとやかなお嬢様といった感じの見た目ですが、実は葵の方はは正義感が強く腕っ節がめっぽう強いというギャップが魅力の女の子になっています。しかもその自分の姿に戸惑いを抱えつつも、やがては周囲のみんなに認められて再び自分の道を進むというエピソードも用意されています。

 連載の中盤から登場する骨董屋・プレーチェの店主・アルテアは、金髪碧眼がめっぽう映える美人で、骨董屋の仕事も日々こなしながら、実はオタク趣味を持っていて秋葉原に出かけてフィギュアを大量購入し、メイドや巫女服を杏音に着せようとするなど、見た目とのギャップがやはり面白い。その店員のリベラは、猫耳のメイド服を着た女の子・・・というか本当の猫?で、オロを気に入って時々猫のように襲おうとするなど、オロにとって恐ろしい存在となっています(笑)。

 どのキャラクターも、ひとくせもふたくせもある個性的なキャラクターばかりで、時に暴走して周りのキャラクターたちに恐れられたりつっこまれたり、そうしたコミカルな描写が本当に楽しい。4コマ1本1本のネタのレベルが高く、純粋に面白いマンガになっていると思います。


・骨董精霊たちの擬人化デザインが素晴らしい。ただ、精霊の人数と出番が少なかったのは残念。
 そしてもうひとつ、これも同人からの最大の特長である、骨董品を擬人化した精霊たちのデザインが秀逸です。同人では動物、果物、花といったモチーフの特徴をうまく取り入れていましたが、今回の骨董の擬人化も非常によく出来ています。一口に骨董といっても様々な形をしていて、それを人型のデザインに取り入れるのは中々難しいかなとはた目には思ってしまうのですが、そこは卒なくこなしていてさすがだと思いました。

 まず、メインキャラクターのオロですが、懐中時計の精霊ということで、頭のリボンの上に竜頭(ネジの頭)が載っていて、そこから鎖が伸びているデザインが特徴的です。服装のデザインもどこかレトロな雰囲気で、カラフルでかわいらしい外見でありながら、古いアンティックのイメージをもよく捉えていると思います。

 オロ以外では、望遠鏡・刀・ペアのティーカップ、そして蓄音機の精霊が作中に登場します。望遠鏡の精霊は、長い髪を束ねた筒に望遠鏡のデザインが取り入れられ、刀の精霊はポニーテールの髪留めが刀の柄のデザインとなっていて、さらに着物の帯が刀の鞘になっています。最も特徴的なのが、ペアのティーカップの精霊たちで、丸くカーブを描いて綺麗な装飾模様があしらわれた帽子やスカートが、まさにティーカップそのものとなっています。最後に蓄音機の精霊ですが、彼女はあのラッパ型の特徴的なスピーカーのフォルムが、髪留めや服の袖に使われていました。どれも元となる骨董のフォルムをうまく擬人化デザインに取り入れていて、見た目のかわいさにつながっています。このセンス溢れる精霊たちのデザインこそが、このマンガ最大の魅力であると言っても過言ではありません。

 ただ、唯一残念だったのが、オロ以外の骨董精霊の出番が少なかったこと。いずれも単発での登場で、ひとつのエピソードで姿を見せてそのまま消えてしまいます。出来れば、もっと長くレギュラーとして登場する精霊がいてもよかったのではないでしょうか。また、コミックスのカバー裏には、本編には登場しないカギ・ランプ・柱時計・カトラリーの精霊のデザイン画も載っています。もしかすると、もっと連載が長く続けば、これらの精霊たちも登場したのかもしれません。本編での登場人数がちょっと少なめに感じていたので、これらの精霊たちも出てくればもっと賑やかになったのにな、と残念に思いました。


・もっと長く連載してもよかったと思える良作。
 この「アンティック」、骨董精霊のデザインに代表される高いレベルのビジュアルと、卒なく描かれたコメディ4コマのネタの面白さと、そのどちらも優れた本当の良作になっていたと思います。「ぱれっと」の連載マンガということで、これもまた萌え4コマのひとつとして扱われているのかもしれませんが、同系のマンガの中でもひときわ光るものがありました。和錆さんを抜擢して連載させたぱれっと、一迅社は本当によくやったと思います。

 ただ、欲を言えば、やっぱりもっと連載を続けてほしかったと思います。1年と少しの連載で、コミックスも1巻で終了というのは、これだけの良作の連載期間としてはいかにも短い。まだまだ登場していない骨董精霊もたくさんいたみたいですし、作者の方はもっと連載する準備も出来ていたのではないでしょうか。コミックスもせめて2巻、出来れば3巻、4巻と出していくことも可能だったはずです。

 ただ、連載が早めに終わった理由として、ちょっと考えられることがあります。それは、読者の反応がいまいち乏しかったこと。同じ萌え4コマ誌でも、芳文社のきららに比べればややマイナーなぱれっとだったからか、あるいは作者の以前の活動が同人のみにとどまり、知名度が低く話題性が低かったからか、あるいは他にも理由があるのかもしれませんが、意外にこのマンガの話題を聞くことは少なかったように思います。ネットのAmazonの商品ページでもユーザーレビューがまだ見られませんし、これはほんとに意外で寂しくも感じました。

 連載の最後では、オロの出自を巡るちょっと切ない話が描かれ、さらには杏音とオロの未来の描く後日譚で締めくくられ、これにはちょっと感動してしまいました。このような美しいエンディングを、出来れば長期連載の最後で見たかったところです。


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