<僕が女装して弾いてみたらバレそうな件>

2012・9・28

 「僕が女装して弾いてみたらバレそうな件」は、一迅社のComicREXで2012年4月号より開始された連載で、タイトルからも分かるとおり、いわゆる「女装少年」もしくは「男の娘」ものの作品となっています。元々は、同社から出ている「女装少年アンソロジー」に掲載されていた読み切りで、それがREXで連載化されました。一迅社は、この女装少年アンソロジーに加えて、「わぁい!」という男の娘専門の雑誌も出しており、この手の作品に最も精力的に取り組んでいる出版社となっているようです。

 作者は、真西まり。元々、かれこれ10年以上前からインターネット上でイラストやマンガでの活動を見てきましたが、近年ようやく商業誌でデビューされたようです。当初はアンソロジーでの活動が中心だったようで、女装少年アンソロジーもそのひとつでしたが、今回晴れてこの作品で商業誌初の連載となったようです。以前からの活動で実力はあると思っていただけに、こうして連載を獲得されたことは、個人的にもとてもうれしいものがありました。

 作品の内容ですが、ネットの動画配信で女装して音楽活動をしていた高校生の少年が、ひょんなことからリアルでも男の娘として学校の軽音部で音楽活動をすることになるというもの。当初はリアルでの女装に戸惑い逃げようとまでしていた少年が、しかし意を決して思い切って曲を弾いたことで、女装での活動に快感を見出してしまうという、その展開にとても面白いものを感じました。男の娘の主人公に軽音部、さらにはネット配信という、いまどきの流行をふんだんに取り入れた内容になっていますが、しかし素直に明るく楽しいマンガに仕上がっていて好感が持てます。これは数ある男の娘・女装少年ものマンガの中でも、かなりいい線行くのではと期待しています。


・あの真西まりさんが商業誌連載とは!
 かつて、まだエニックスお家騒動(2001年)が起きる前から、当時のインターネットで「ゆめのかけはし」というお絵描き掲示板が存在していました。それは、あの「藤野もやむ」さんのファンが集まるお絵描き掲示板で、「まいんどりーむ」や「ナイトメア☆チルドレン」などの当時の藤野さんの人気マンガのイラストが数多く見られました。

 まだエニックスの熱心なファンが多かった、古き良き時代ならではの場所でしたが、そこで盛んに活動していた常連の一人が、この真西さん。当時から確か自身のサイトも持っていて、そちらでもよくイラストを見ていました。数ある投稿者の中でも、とにかくかわいい絵柄で印象に残っています。なお、このときの常連で今最も活躍しているのが、あの「ゆるゆり」のなもりさんで、こちらも同様に当時からとてもかわいい絵を見せてくれました。今ではそのなもりさんも一迅社の看板作家ですが、ここに来て真西さんもここで商業誌デビュー。かつてのエニックスファンサイトで活動していた方が、エニックスからのれん分けしたこの一迅社で、10年後に活動していると考えると、なんとも感慨深いものがあります。

 なお、その「ゆめのかけはし」ですが、随分前に閉鎖して久しく、今ではもうまったく残っていません。しかし、そこの常連だった方は、今でも多くがネットや同人で活動を続け、作家同士の交流も続けているようです。いずれ、ここからなもりさん・真西さんに次ぐ商業誌作家が誕生するかもしれません。


・ネットの動画配信での男の娘とは面白い。
 このマンガの主人公・雨宮秋人くんは、現実の高校では引っ込み思案で友達も少ない地味な男の子。しかし、趣味のギターを誰かに聞いてもらいたくて、ネットの動画配信で女装して演奏したところ、それが大いに反響を呼び、そちらでの名前「アリス」が一躍人気キャラクターとなっています。この、「ネットの配信での男の娘」というのが、中々面白い設定だと思います。

 秋人は、あくまで自分の意志で女装してネットで活動しています。誰かに強制されたり、やむをえない理由で女装させられているのではなく、ネットで音楽活動がしたくて目立つためにあえて女装して、しかもその女装を結構楽しんでいる。その点で、主人公の心は明るく前向きで、変にひねた感情や思惑が入らない、明るく楽しいマンガになっています。

 また、この点において、このマンガは、「女装少年」というより「男の娘」的な要素の強いマンガになっていると言えます。いや、そもそも「女装少年」と「男の娘」の違いとはなんなのかという話になってくるのですが(笑)、ひとつの説として、何らかの理由で女装しているのが「女装少年」、自分の意志で女の子に成りきっているのが「男の娘」だと聞きました。これは中々有力な説だと思いますし、となるとこの「僕が女装して弾いてみたらバレそうな件」は、タイトルに「女装」と入ってはいるものの、むしろ「男の娘」が主役のマンガになっていると言えますね。そして、こういった自分の意志で女の子になる男の娘ものの方が、変に強制されて女装することでのエロ展開に行くことが少なく、ずっと明るく楽しい作品になることが多い。このマンガはまさにそんな作品で、エロや淫靡な展開のない、明るく楽しくそしてかわいいマンガになっています。

 さらに、そんな風にネット配信で楽しく活動していた主人公が、クラスで音楽活動を続ける積極的な女の子・滝山奈月に強く誘われる形で、リアルでの軽音部活動にはまっていく展開も心地よい。主人公のギターの腕は確かで、ネットでも好評を得たその演奏を頑張ってこなしたことで、リアルで女装しての活動にも快感を見出してしまいます・・・。最後には、女子更衣室のシャワーを平然と利用し、早着替えも完璧にこなすその完璧な男の娘ぶりで、奈月すら行き過ぎだと言わせる。いやあ・・・男の娘って本当に楽しいものですね(笑)。


・なんといっても真西さんの絵、キャラクターはかわいすぎる。
 そして、この主人公の男の娘だけでなく、全体的にキャラクターがとてもかわいいのが、このマンガの最大の魅力です。非常にくせの少ない絵柄で、かつて藤野もやむさんのイラストを描いていたころからあまり変わっていません。かつてのエニックスの、藤野もやむさんに代表される中性的な絵柄が、まだこの時代に残っていたような気がします。

 また、この絵柄、先ほどあげたなもりさんの絵柄と似たところがあるような気がします。まったく同じではないものの、絵のタッチ、雰囲気はかなり近い。このあたり、かつて同じ藤野もやむさんのファンだった作家同士、何か通じるところがあるのかもしれませんね。

 また、単に絵がかわいいだけでなく、キャラクターの性格も含めてとてもかわいいのも好感が持てます。何より、ヒロインの滝山奈月さんがよい。活発で明るい性格で、自分の好きな音楽活動にはどこまでも積極的で、類まれなギターテクニックを持つ秋人の力を見込んで、本当に楽しそうに笑顔で軽音部に勧誘して引っ張っていく。いじめを行っていた生徒を張り倒したり、バンドのメンバー候補に四六時中付きまとって口説き落としたり、周囲を強引に巻き込むその行動から「滝つぼ奈月」などと呼ばれてもいるようですが、しかし実際には本当に気持ちのいい性格の女の子になっている。これは本当にいいキャラクターだと思いました。


・これは明るく気持ちのいい男の娘マンガ。音楽活動にも注目。
 以上のようにこのマンガ、数ある男の娘が主役のマンガの中でも、どこまでも明るく楽しい、気持ちのいい作風になっています。女装を扱っているとはいえ、エロを感じさせる展開はほとんどない、とてもかわいいマンガになっているところに好感が持てますね。タイトルがあまりにもライトノベル的すぎて一瞬どうかと思ってしまったのですが(笑)、中身はそこまで奇を衒っているようなところはなく、素直に主人公を中心とした音楽活動を楽しめるマンガになっています。

 また、「ネット配信で男の娘として活動する」という設定自体も、ちょっとありそうで面白いと思いました。リアルでの女装に比べると、ネット配信でのディスプレイを通しての女装は、そのままでも結構バレないのではないか? 男の娘(女装少年)、軽音部での音楽活動、そしてネット配信と、いかにも今の作品の売れ線や流行そのままの設定の作品ではありますが、しかしこの組み合わせは存外に面白いものがあると思いました。これから秋人のネットでの音楽活動とリアルでの音楽活動、その双方がどう発展していくのか、それが楽しみです。

 また、このところ、男の娘(女装少年)ものの作品は増えてはいるものの、いまだアニメ化まで行くような作品は中々出てこない。わたしが個人的に期待し続けているスクエニJOKERの「プラナス・ガール」もいまだそのような動きはありませんし。そんな中で、この「僕バレ」がどんどん人気を得てそこまで行くようだと本当にうれしい。作者の真西さんが、あのなもりさんに次ぐ大人気作家になることを本気で期待しておきます。


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