<東方儚月抄 〜 Silent Sinner in Blue>(前編)

2008・9・27

*後編はこちらです。

 「東方儚月抄 〜 Silent Sinner in Blue」は、ComicREXで2007年7月号から開始された連載で、同人サークル「上海アリス幻樂団」によって制作された弾幕系シューティングゲーム「東方Project」を原作とする作品です。REX発売元の一迅社では、この「儚月抄」と名の付く作品を、他の2つの雑誌でも同時に掲載しており、これら3作品をもって連動型のメディアミックス企画としているようです。中でも、このREX連載の「Silent Sinner in Blue」は、3作品の中でも中心的な作品として扱われ、一迅社としても相当な力を入れているようで、ここ最近の一迅社のコミックの中でも、ひときわ目立つものとなっています。

 作者は、原作者として「東方Project」(以下「東方」)の原作ゲームを一手に手がけているZUNが、こちらのストーリーもほぼ直接手がけており、一方で作画は、この「東方Project」の同人作品で非常に名を馳せていた「秋★枝」(あきえだ)が担当しています。REXでは、元が同人出身の作家を起用したり、あるいは同人で著名だった作品をそのまま連載に採用したりするケースが多いのですが、これもその最たる例かもしれません。なお、秋★枝さんは、「東方」の同人界では、「レイマリ」(霊夢×魔理沙)のカップリングで非常に有名だったらしいのですが(笑)、今回の連載ではさすがにそのような要素は(あまり)見られません。

 ここ最近の「東方」のマニア人気には著しいものがあり、特に前から目を掛けているこの一迅社を中心に、関連書籍はかなりたくさん出ており、コミック作品も「東方香霖堂」「東方三月精」などの作品がすでに見られました。しかし、これらのコミック作品が、いずれも原作からはやや外れた外伝的な作品にとどまっており、原作の主要なキャラクターがあまり大きな扱いになっていないのに対し、この「東方儚月抄」では、原作で人気のメインキャラクターの多くがそのまま登場しており、その点で東方原作のコミックの中でも本命的な存在となっています。原作ファンの間でも非常に関心は高く、一部の書店では爆発的な売り上げを記録し、それが数カ月に渡って続いたようです。

 一方で、原作ファン以外にとっては、主要な設定の説明があまり見られず、ややとっつきにくい作品になっているとする見方もあります。作画担当者の秋★枝さんは、この原作付きコミックのみならず、オリジナル作品でもかなりの実力を見せている作家なので、「東方」というマニア志向の原作で、最初からファン向けのコアな作品として見られているのは、少々惜しい気がします。


・「東方Project」とは?
 ここ最近、急速なまでにマニア人気の広がりが見られる「東方Project」ですが、これは一連のPCゲームの同人作品で、いわゆるシューティングゲーム、それも多量の弾をよけることを主とする「弾幕シューティング」と呼ばれるゲームにあたります。元々、この手のゲームは一部のマニアゲーマーには定番のジャンルとして人気がありましたが、それらの多くはゲームセンターでのアーケード作品が中心で、PCでしかも同人ゲームでここまでヒットしたのは異例と言えます。

 ゲームの制作者は、先ほども述べたとおりZUNで、ほぼ個人でこのゲームを手がけているようです。シューティングゲームとしての評価の高さはもちろん、このコミック化をはじめ様々なメディア展開が見られる魅力的な世界観やキャラクター、とりわけ音楽(BGM)の評価が非常に高く(元は同人で音楽も作っていたようです)、この「東方儚月抄」のコミックスにも、彼が作曲した新規曲を収録したミニCDが付属されています。

 元々は、90年代後半にPC98シリーズで何作か制作されていたようですが、この当時はさほど有名ではなく、本格的に知れるようになったのは、Windowsにプラットフォームを移して2002年に発表された「東方紅魔郷」になります。これが同人で出たシューティングゲームとして高い評価を呼び、以後そのコンセプトをそのまま引き継ぐ続作「東方妖々夢」(2003年)、「東方永夜抄」(2004年)を発表、これらの一連の3作品でその評価は不動のものとなります。

 その後の続編は、ややこれまでのコンセプトから離れた作品が見られ、対戦型アクションの「東方花映塚」(2005年)や、異色の撮影型ゲーム「東方文花帖」(2005年)、対戦型の格闘アクション「東方萃夢想」(他サークルとの共同制作。2004年)などが発表されますが、ここ近年では再びオーソドックスな弾幕シューティングの続作が出されるようになり、「東方風神録」(2007年)、「東方地霊殿」(2008年)などが発表され、新たなユーザーを獲得しているようです。


・キャラクターと世界観がコアユーザーに大きな人気を呼ぶ。
 このように、まず同人ゲームとして評価を獲得した原作「東方Project」ですが、そのキャラクターや世界観がマニアに大きな人気を獲得し、近年は商業誌において幾多のメディア展開が見られるほか、同人の世界でも非常にメジャーな大人気ジャンルとなっています。

 元々、キャラクター要素を押し出したシューティングゲームはいくつも見られたのですが、この「東方」のキャラクター人気は、それまでのシューティングのそれを大きく凌ぐほどのもので、ここまで人気が広がった例はほとんどないでしょう。最近では、シューティングのゲーマー以外でも、幅広く人気のある定番ジャンルとなってます。

 その人気の最大の理由は、萌えキャラクターの人気以外の何者でもないんですが(笑)、「東方」の場合、これまでのシューティングゲームとは一線を画するほど魅力的なキャラクターを多数生み出し、それをシューティングの世界観に落とし込むことに成功したことが大きい。続編ごとに毎回人気のあるキャラクターを出し続けた結果、それぞれのキャラクターに固定ファンがつくほどの高い人気を獲得し、その人気の広がりには相当なものがあります。
 そして、一連のシリーズに共通する「幻想郷」という世界観を打ち出し、その和風で幻想的な世界観でも多数のファンを引き込みました。商業誌で数々のメディア展開が成され、それが新規のキャラクターやストーリーのシリーズで構成されていたり、ファンブックや設定資料集が出されたり、同人誌においても幾多の幅広い作品が見られるようになっているのも、この世界観の魅力が大きいでしょう。

 ここ近年では、この「東方」のマニア人気は突出しており、同人からの成功作でもトップクラスに迫るものがあります。同じ同人作品からの人気作としては、TYPE-MOON作品(「月姫」「Fate」など)、07th Expansion作品(「ひぐらしのなく頃に」「うみねこのなく頃に」)がありますが、ここ最近の人気だけならば、この「東方」の盛り上がりは、それらをもさらに上回るところがあるように思えます。同人の世界でも壮大な規模のオンリーイベントが開かれるなど、今のこの業界(マンガ・アニメ・ゲーム)で最大の目玉となる作品のひとつと言っても過言ではありません。


・ややファン寄りで説明が不足しているのが難点か。
 さて、ようやく本作「東方儚月抄 〜 Silent Sinner in Blue」の解説に移りますが、これは、これまでの東方の原作ゲームのストーリーを、そのままコミック化したものではなく、新たにコミックのために書き下ろしたオリジナルの作品となっています。具体的には、どうもシリーズの第3作「東方永夜抄」の続編的な内容となっているようで(?)、それに関連するキャラクターがストーリーの中心となっているようです。

 加えて、この「永夜抄」以前の「紅魔郷」や「妖々夢」からの登場キャラクターも数多く登場し、原作の人気キャラクターの数多くが登場する形となっています。この初期の頃の作品のキャラクターには、人気や知名度の高いキャラクターがとりわけ多く、そのほとんどをこの「儚月抄」がまとめてすくい上げた形となりました。原作ファンの注目を集めたのも分かるというものです。
 具体的には、最初の作品から共通する主人公(自機)にして最大のメインキャラクター・博麗霊夢と霧雨魔理沙、「紅魔郷」のメインキャラクターであるレミリア・パリュリー・十六夜咲夜、「妖々夢」からは魂魄妖夢・西行寺幽々子・八雲紫、中心作となる「永夜抄」からが最も多く、鈴仙優曇華院イナバ・因幡てゐ・八意永琳・蓬莱山輝夜他数名と、「永夜抄」以前の主要キャラクター、それも人気の高いキャラクターが勢ぞろいといった感があります。ここにいない人気キャラクターは、アリス・マーガトロイドくらいでしょうか・・・。

 肝心のストーリーですが、かつて「永夜抄」で輝夜たちが月から来訪して数年。月世界で新たに不穏な動きが発生し、それに呼応するかのように、ここ幻想郷でも妖怪たちが幾多の動きを見せ、やがては主人公たちも月へと赴くことになり、そこで月の住人たちと接触、戦いをも繰り広げるようになるというもの。原作ゲームのストーリーは、個々のゲームごとに「異変」と呼ばれる騒乱のエピソードで構成されていますが、このコミック版もそれに準じ、新たな「異変」を物語るエピソードになっています。

 これら、原作のエピソードから派生し、原作から人気キャラクターが新たな一面を見せるストーリーには、確かに魅力的なものがあるのですが、一方で原作を知らない読者には、かなり説明不足なところもあるように感じます。
 そもそも、上記(↑)のようなキャラクターの名前を聞いても、原作を知らない人にはさっぱり分からないでしょう。これらのキャラクターが、ほんの一行程度の簡単な説明だけで最初から次々に登場し、かつこのマンガオリジナルの新規キャラクターが「月からの使者」として最初から登場、いきなり原作シリーズのひとつである「永夜抄」のエピソードを前提とした話を始めるという展開では、原作を知らない読者が戸惑うのも無理はありません。
 わたしは、このマンガのストーリー自体は決して悪くないと思っています。むしろ、個々のキャラクターが思い思いに、月からのやってきた異変に対応して行動するさまは、その独特の行動形式もあいまって、非常に興味深いものがあります。しかし、いかんせん初期の頃から、膨大なキャラクターを中心に設定の説明が足りないのも事実で、そのためやや散漫な印象になっている点も否定できません。

 これには、原作の設定を説明するような欄外のコラムや解説ページを作るのもひとつの手だったでしょうし、さらに言えば、普通に読むだけで、ある程度原作の知識が自然に得られるようなストーリーを目指したほうが良かったかもしれません。そもそも、この作品、最初からある程度連載期間が決まっているようで、初期の頃からいきなりこのマンガオリジナルのエピソードに入っているようですが、そうした性急な作品作りではなく、最初はじっくりと原作のキャラクターやエピソードを少しずつ紹介しつつ進む展開の方が良かったのではないでしょうか。原作の人気からしても、ある程度じっくりと進む長期連載にしても、なんら問題はなかったと思いますが・・・。


*続きは後編記事でどうぞ。こちらです。


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