<異国迷路のクロワーゼ>

2008・11・24

 「異国迷路のクロワーゼ」は、「ドラゴンエイジPure」でvol.2(2006年6月発売)から開始された連載で、同誌でも屈指の実力派作品として、当初から看板作品として非常に大きな注目と評価を得ている作品です。同誌が、当初は不定期発刊で、現在でも隔月刊という遅いペースでの発刊なので、連載ペースが非常に遅いのが難点ですが、一方でそのクオリティの高さは突出しており、連載開始から約1年半後に発売されたコミックス1巻も、まさに待望のコミックス化といったところで、読者から極めて高い評価が寄せられました。

 作者は武田日向(たけだひなた)。かねてより主に富士見書房の雑誌で連載や読み切りを重ねており、コミックス3巻を数える「やえかのカルテ」が現在の代表作となっています。しかし、それ以上に有名なのは、富士見ミステリー文庫から出ている小説「GOSICK」の挿絵イラストの仕事でしょう。その極めて繊細で整ったイラストの数々は、多くの読者に大評判で、この小説がヒットする大きな要因となりました。今のところ、この「GOSICK」関連のイラストが最も知られている作家かもしれません。一方で、マンガについては、作画面を中心にかなりの実力は認められているものの、まだいずれの作品も大きなヒットまでには至っていないようです。

 しかし、このその「異国迷路のクロワーゼ」は、過去の作品よりも一段と高いクオリティの作品となっており、精緻で美しい作画と情感豊かなストーリー、異国文化のギャップとそれを乗り越える交流を丹念に描いた意欲作として、驚くほど高いレベルの作品に到達しているようです。「ドラゴンエイジPure」は、主にマニア読者向けの雑誌であり、当初はコアな一部の読者のみに知られていましたが、コミックス発売に際して多くの場所で高い評価のレビューが見られ、それを契機により幅広い読者に読まれるようになりました。これから、さらに広い発展の可能性もあるかもしれません。

 なお、この「ドラゴンエイジPure」は、富士見から出ているライトノベル文庫の挿絵作家による連載をひとつの核としており、このマンガはその中でも最大のヒット作となりました。この作家の新たな活躍の機会が与えられたことが、この雑誌を創刊した最大の成果でしょう。


・この精緻で美しい作画は半端ではない。
 このマンガを読んで、誰もがまず惹かれるのは、間違いなくその最高レベルのビジュアルの数々でしょう。キャラクターから背景、小物に至るまで徹底的に描き込まれた精緻な作画の数々は、ひとつひとつが素晴らしい絵画作品と言えるほどのレベルに達しています。細かく美しい作画で画面が埋まっている印象があり、カラーイラストがまたえもいわれぬほど美しい。

 まず、やはり背景と小物の細かい作画に目を惹かれます。舞台となるのは19世紀フランスのパリですが、そのレトロで異国情緒溢れる街並みが、凝った装飾に彩られ洗練されたデザインで描かれた建物の数々と、そこを行きかう華美な人々との往来で、雰囲気たっぷりに描かれています。そして、そんな精細な描写が、1話のうちに一度ならず何度となく頻繁に見られるのです。
 そして、それ以上に目を見張るのは、室内に置かれた小物や家具、装飾の精緻極まる描写です。アングル、見せ方なども工夫され、フランス家屋の室内、その華美で繊細な雰囲気が伝わってくるようです。しかも、このようなシーンも1話の中で幾度となく頻繁に見られます。一体、1話の作画にどれだけの時間と技術を費やしているのか、まったく想像ができません。

 その繊細な描写は、キャラクターの造形にも遺憾なく発揮されています。極めて精細な髪型や服装の描き込みは、整った造形の人物作画と合わさって、実に存在感溢れるビジュアルのキャラクターたちを作り上げています。とりわけ、表情の繊細な描写がこれまた素晴らしく、キャラクターの感情が外に溢れる様を見事に描き切っています。

 正直、これほど素晴らしい作画レベルを持つ作品は、比較的整った綺麗な作画の多いマニア誌でも決して多くはなく、むしろその中でも突出しています。特に、この画面すべてを覆うかのような精細で緻密な作画は、他ではほとんど見ることができないでしょう。


・この情感溢れるストーリーは感極まるものがある。
 素晴らしいのは作画だけではありません。ストーリーも非常に洗練されたもので、キャラクターたちの繊細な感情がじかに伝わるかのような、情感溢れるエピソードの数々は、読者の心に強い印象を残します。

 舞台は19世紀フランスのパリ。ひなびたアーケードの商店街の一画に所在する鉄工芸品店。そこをひとりで切り盛りする若き青年・クロードの元に、日本に行ってきたという彼の祖父オスカーに連れられて、一人の東洋人の少女がやってきます。彼女の名前はユネ(湯音)。長崎の商店で看板娘をやっていたという彼女は、はるばる西洋のパリのこの店まで奉公にやってきたと言います。
 おおらかな性格のオスカーと異なり、若くして気難しく職人肌の気質もあるこのクロードという青年は、三代続く自分の店を守りたいという思いも強く、突然やってきた異国の少女を素直に受け入れようとしません。しかも、ユネが時折見せる日本人ならではの行動と、自分が知るフランスの文化とのギャップには、戸惑いと反発を隠せず、何度もユネと衝突することになります。

 しかし、心優しいユネは、ギャップに戸惑いつつも、それを乗り越えてクロードたちの家族になりたいと接し続け、クロードの方も彼女の純粋で誠意溢れるアプローチに次第に心を開き、徐々に打ち解け合い、次第に親密な関係へと変わっていくのです。このふたりの心の交流は、実に繊細で情感溢れるもので、そんなエピソードをひとつひとつ丹念に描いていくストーリーは、読者の心に素直な感嘆を呼び起こすことでしょう。細かく情に満ちたやりとりを見せる日常の一コマや、大ゴマで入るふたりの抱擁のシーンなど、時に微笑ましく、時に大きな感動を呼び起こす名シーンの数々は、読者の心に必ず何かを残すと思います。

 しばらくストーリーが進むと、クロードの知り合いのわがままな令嬢アリスや、町を放浪し盗みも働く貧しい少年も登場し、ここでもユネの純粋なアプローチに胸を打たれることになります。この黒髪の少女の純真で心優しい行動には、文化のギャップすら乗り越えるような並々ならぬ思いやりの心が感じられます。


・日本とフランスの文化の相違点を丹念に描いた点が大きな見所。
 そして、そのユネがもたらした日本の文化と、クロードたちが見せるフランスの文化と、その大きな相違点、ギャップを丹念に描き出している点が、非常に興味深いものとなっています。これは、作中の登場人物だけでなく、読者の視点からも意外に思えるような興味深い事実が多く、このマンガの大きな見所のひとつともなっています。

 服装の大きな違いから食事・風呂・住居などの日常の生活様式の違いはもちろん、人との接し方や考え方の違いまで、実に様々な相違点がひとつひとつ丹念に挙げられています。わたしたちから見れば当たり前だと思えるようなことでも、異国の人から見れば想像も出来ないようなギャップの連続であり、それに戸惑う日本人のユネ、フランス人のクロードの感覚の違いが鋭く描かれています。一方で、日本を訪れたフランス人のオスカーは、双方の文化を肌で知っている上に、おおらかな性格で異文化をも抵抗なく受け入れる懐の広さを持ち、両者の橋渡しをする役目を果たしています。
 個人的にひどく興味深かったのは、あちらでは風邪を引いた時に、わきの下を冷やしたり水風呂に浸かったりして、身体を冷やして処置をするというエピソードで、これには驚くほどのギャップを感じました。日本では風邪を引いたら身体を温めて静養するのが普通なのに、これには作中のユネもびっくりしてさすがに受け入れなかったようですが、読んでいるわたしもびっくりでした。そんなことしたら風邪をこじらせて死んでしまう!(笑)

 作品の主な舞台はフランスですが、たまにオスカーが訪れた際の日本の情景が描かれるのも魅力的です。フランス・パリの情景描写も美しい本作ですが、日本の街並みや屋内の描写も同様に美しいもので、こちらも細やかで精緻な作画で情緒たっぷりに描かれています。

 できれば、このマンガを是非フランスの人にも読んでほしいと思います。日仏の文化の違い、考え方の違いを細やかに描き出したこのマンガの面白さは、必ずやあちらのフランスの方にも伝わるはずです。いや、むしろフランス人の方がより興味深く読めるかもしれません。


・このユネの萌えレベルの高さは異常(笑)。
 そしてもうひとつ、このマンガの最大の見所として、ヒロイン・ユネの可愛さがあります。元々、武田さんの描く女の子は、中性的で優しい絵柄の女の子が素晴らしくかわいいのですが、今回の「クロワーゼ」でそれが極まった感があります。もう、このユネのかわいさはもう尋常ではありません。

 とにかくそのちんまりとした背丈と、つややかな黒髪の繊細な表現と、どこまでもかわいらしい表情を見せるあどけない顔立ちがなんとも言えません。これはもう・・・最高に萌えました(笑)。このユネのかわいさは反則ものですね。ユネかわいいよユネ。日本の少女ならではの可愛らしい小さな姿と、その黒髪の美しさが何とも言えません。まさに至高の黒髪萌えを誘発する屈指の萌えキャラクターとなっています。いやあ、日本に生まれてよかった(なに)。

 さらには、そのユネが見せる多彩な表情がさらに魅力的です。ユネは、感情表現が本当に豊かな女の子で、悲しい時には切ない表情を浮かべ、嬉しいときにはぱあっと晴れやかな表情を見せ、びっくりした時には体全体も動かして驚きの表情を見せ、感極まると幸せが溢れるような美しい笑顔を浮かべます。この多彩な感情表現を見ているだけで本当に楽しい。たまに見せるデフォルメされたシーンでのオーバーなリアクションも、かわいらしく魅力を倍増させています。

 個人的には、クロードとの買い物の途中に、焼きたてのフランスパンを一口食べた時の、そのおいしさに思わず感激の表情を浮かべたシーンが、すごく気に入っています。一瞬感極まったかのような目を輝かせる至悦の表情を浮かべ、その次のコマでぱあっと晴れやかな笑顔を浮かべて歩き出す。同行するクロードの「まずい顔は隠せてもうまい顔は如実に出るなあ お前」というセリフも、全くその通りだと思わせるもので(笑)、ユネの思わず顔に出さずにはいられない純真な性格を、これ以上ないほどよく表現いると思います。


・まさに最高レベルの完成度を持つ名作。ここ最近の作品では秀逸。
 以上のように、この「異国迷路のクロワーゼ」、どこまでも緻密で精細な最高レベルの作画、登場人物たちの情感に溢れる素晴らしいストーリー、丹念に描かれた異国文化の興味深い相違点の数々、至高の黒髪萌え・表情萌えを有するヒロイン・ユネの萌えレベルの高さ(笑)など、どこをどう切り取っても素晴らしい完成度を誇り、ここ最近のマンガ作品の中でも屈指の一作となっています。もう「名作」と呼んでいいほどの極めて優秀な作品となったと見てよいでしょう。

 元々、武田日向さんという作家は、過去作からして並々ならぬ実力を持っていることは確かでしたが、ここに来てついにその本領をすべて発揮したと見てよさそうです。掲載誌の「ドラゴンエイジPure」で文句なく看板作品となっているだけでなく、より幅広い読者に人気と評価の波が広がっており、採り上げるべき屈指の作品として、その知名度は並々ならぬものとなりつつあります。これまではさほど知られていなかった、この作家の高い実力が、幅広く一般にまで認められつつあるのは、非常に喜ばしいことだと言えるでしょう。

 そして、先ほども少し書きましたが、このマンガは是非ともフランスの方々にも読んでほしい。フランス・パリの美しい光景やその中に住まう人々を繊細に描いたこの作画は、フランスの人々にも大きな好印象を持って受け入れられると思いますし、それ以上に、フランスと日本の文化のギャップを描いた点が、あちらの読者にもさらに興味深いものになっていると思います。このマンガで描かれた独特の日本文化の数々は、必ずやフランス人の好奇心を強く刺激すると思いますし、そんな日本文化ととフランス文化との交流が情感豊かに描かれた珠玉のストーリーは、あちらでも素晴らしい好感を得ることができると思うのです。

 そもそも、フランスでは日本のマンガやアニメは大人気で、ひとつの文化と認めて日本以上に高い評価を与えているところまであります。マンガ・アニメ関係のイベントも盛んですし、熱心な読者も大勢いるようです。そんな中で、このマンガの存在は、日本発のマンガのさらなる良作として、両国のファンの橋渡しともなるのではないでしょうか。わたしとしては、そこまでの希望を持ってこのマンガに期待して止まないのです。


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