<DANCE DANCE DANCE!>

2008・8・12

 「DANCE DANCE DANCE!」は、コミックブレイドで2004年9月号から掲載された作品で、同誌の中では比較的後発の作品に当たります。ブレイドの中では、比較的よく見かけるイメージのファンタジー作品ですが、当初からその面白さにはかなりのものがあり、最初から編集部にもかなり推されていたように思います。

 作者は森田柚花(もりたゆずか)。元々は、女性向けの同人作家としてかなり著名だった作家だったようですが、この「DANCE DANCE DANCE!」が商業誌での初連載作品となったようです。また、これと同じ時期に、ブレイドの姉妹誌でも読み切り作品を盛んに掲載しており、ブレイドで期待の新人として精力的に仕事を当てられていたようです。そちらの読み切りも、確かな完成度と面白さが感じられる良作が多く、この「DANCE DANCE DANCE!」の良作ぶりも合わせて、当時のブレイドでは久々に期待の持てる新人作家だったように思いました。

 この当時のブレイドは、2002年の創刊当時の勢いはすでになく、ずさんとも言える雑誌運営で誌面はかなり落ち込んでおり、わずかに「ARIA」のみが雑誌の看板作品として人気を得ている状態で、ほぼそれに頼りきりの誌面になっていきました(これは、基本的に今でも変わっていません)。そんな中で登場したこの「DANCE DANCE DANCE!」は、完全な新人の作品でありながら、連載開始直後から確かな面白さが感じられ、「これは久々にブレイドでいい新人が登場したかもしれない」と、個人的にも大いに期待を込めて注目しました。編集部の方でも、やはり同じ気持ちだったのか、当初からかなり推しており、作品の紹介ページに力を入れたり、同時期に何度も掲載された姉妹誌での読み切りの方も紹介したりと、ひどく力を入れていたように感じました。

 ところが、連載が始まってしばらくして、いきなり掲載が途絶えてしまい、そのまま完全に消えてしまったのです。これはあまりにも唐突な終了で、なんの前触れもなく、編集部からもなんの告知もありませんでした。当時のブレイドは、作家がいきなり休載して帰ってこなくなることは日常茶飯事だったのですが、さすがに期待の新人作家がこのような扱いを受けるとは想像しておらず、大いに落胆してしまいました。なぜ消えたのか理由はいまだ判然としませんが、しばらくして他者(角川書店)の方で、森田さんがとあるゲーム(後述)のコミック化(厳密には連動作品)を担当することになったため、そちらの方に引き抜かれたのではないかとも思ってしまいました。


・森田柚花とは?
 この森田柚花という作家は、元々は女性向けの同人作家としてかなり人気のあった作家で、雑誌「ファンロード」での活躍も顕著だったようです。そのため、商業誌連載以降も同人時代からのファンがかなり見られます。

 そして、このブレイドの「DANCE DANCE DANCE!」において、商業誌での初連載を獲得。同時に姉妹誌で読み切り作品も精力的に手がけるようになりますが、これらの作品は、ひどく女性向けという感じはせず、比較的バランスの取れた作風になっていたように思います。ブレイドは、一部姉妹誌以外は特に女性向けばかりの作品が載っているわけでもなく、男性読者も多い雑誌ですが、そんな雑誌に掲載されても遜色ない作品になっています。

 そして、この連載とほぼ同時期に、これは一時アニメイトで専売雑誌として売られていた「macbeth(マクベス)」に、「NAKED BLACK」という作品を連載します。この雑誌は、かなり女性寄り、同人寄りの要素の強い特殊なコミック誌で、そのためこの作品も多少女性寄りとも言える要素が散見されましたが、それでもかなりよく出来た連載となっており、やはり作者の実力を感じさせる作品になっていたように思います。

 しかし、これらの作品は、ある時期を境にすべて打ち切りか立ち消えとなってしまい、これには大いに落胆させられることになりました。そして、それからしばらくして、今度は角川書店の方でゲーム「.hack//G.U.」の連動作品である「.hack//G.U.+」の作画を担当することになります。この作者の作品で、最も有名なのはこれでしょう。さすがに、人気ゲームの連動作品ということで、かつ角川書店からのコミックということで、その知名度は他の作品よりも明らかに高く、森田さんも「『.hack//G.U.』のマンガを描いている人」という知られ方が最も多いと思います。

 しかし、このコミックの前に連載され、あまり知られないうちに立ち消えとなった一連の作品群、中でもこの「DANCE DANCE DANCE!」の面白さも確かなものがあり、これも紹介するに値する作品であることは間違いありません。


・美しく優しい雰囲気の世界と、タイムスリップを絡めたストーリーに魅力を感じる。
 このマンガの舞台は、「クリスタベル」と呼ばれる街で、近代ヨーロッパの街をモチーフにした美しい街並みが最大の特長となっています。近代の、蒸気機関が全盛だった時代がモチーフで、その美しく広々とした街並みは、非常に雰囲気がよく、例えればかつての「世界名作劇場」のそれを思わせるところがあります。スクエニ系の作品で他に例を挙げるならば、「ナイトメア・チルドレン」(藤野もやむ)が、比較的近いものがあるかもしれません。

 主人公は、ロッタという元気一杯の少女で、そのオーバーに感情を表現する独特の話し方は、あの「赤毛のアン」の主人公を思わせるところもあり、実に個性的で魅力的なキャラクターになっています。このあたりも「世界名作劇場」を思わせる要素のひとつですね。

 彼女は、近いうちに来るパーティーを楽しみに毎日元気に学校に通っていましたが、ある日の下校中、突然霧に巻かれ、その中で黒い服を着た不思議な青年と出会います。彼は、ロッタに謎めいた言葉を投げかけて消えてしまいます。霧が晴れた時、彼女は見知らぬ場所に立っていました。そこは、クリスタベルに見えてどこか何か違う・・・。美しい街並みはなく、黒い煙を吐く工場と崩れかけた家々ばかりが広がっています。彼女は焦って街を駆け回り、ついには見知った街角を見つけ、その先に自分の家があると思って駆けつけますが、そこは何もない荒れ果てた空き地が茫漠と広がっているばかり。じつは、その街は100年も前のクリスタベルだったのです。

 彼女は、完全に途方に暮れてしまいますが、そんな彼女を助ける男の子たちに出会い、彼らと共にこの街で過ごすことになります。特に、家族で配達業を営む少年のラズは、ぶっきらぼうな性格ながら、見ず知らずの彼女を助ける優しさを持ち、同じく優しい父親と共に、彼女を自分の家で介抱して共に暮らすことになります。彼は、今の汚い街並みのクリスタベルに疑問を持っており、いつかはもっといい街へと変えたいと理想を抱き、その理想とする街並みを地図にして持っています。そして、その地図こそが、100年後にロッタが暮らしているクリスタベルそのものだったのです。彼女は、その地図に自分との結びつきを感じ、ラズの理想を実現すべく協力することを誓い、街を変えていこうと奮闘することになるのです。

 このような、タイムスリップを絡めたストーリーはひとつの定番ではありますが、このマンガの場合、過去と未来の結びつきを描く手法がうまく、「100年後の美しい未来を達成する」ために奮闘する主人公たちの姿がよく描けています。荒れた現在の街が、少しずつあるべき未来へと変わっていく期待感。それを実によく感じることができるのです。


・このキャラクターたちは実に魅力的。
 そして、このロッタやラズを始めとするキャラクターたちが、実に個性的によく描かれているのです。

 まず、元気一杯の少女・ロッタが素晴らしいですね。この快活で積極的な性格は、周りのものすべてに元気を与えてくれます。金髪ショートに大きなリボンという見た目もかわいらしく、くるくると動き回る姿もとてもかわいい。このマンガには、メインキャラクターに女の子が他におらず、主人公のロッタのみとなってしまっているのがちょっと残念なのですが、その分このマンガの萌えを一手に引き受ける存在となっています(笑)。

 ラズはいい少年です。日々配達家業に精を出し、ぶっきらぼうながら見ず知らずのロッタをほうっておけず助ける優しい性格。そしてなんといっても、今のクリスタベルの街並みに満足せず、理想となる街並みを夢に見て、それを実現すべく大志を抱くその精神がすがすがしい。
 ラズの友達のコナは、飄々とした変わり者の少年です。まだ小さな外見の子供ながら、既に独特の精神性を持っていて、日々きままに自由に生きる屈託のない姿に惹かれます。おなかをすかせたロッタを気づかい、一緒に居ることを選ぶ優しさをも持ち合わせています。
 もうひとりの友達のケードは、ややひねたところもあるクールな天才肌の少年で、その美形的な顔立ちで女性読者の間では最も人気がありました。その性格にはややとっつきにくいところはあるものの、自らの目指す発明へ日々地道に努力する姿は、決してクールでひねただけの少年ではないことを示しています。

 そして、彼らメインキャラクターだけでなく、ロッタを過去へと送り込んだ謎の青年たちや、ロッタの母親やラズの父親などの大人たちも、実によく描けています。このマンガ、主人公たち少年少女だけでなく、より年齢層の高い年配の人々の姿もよく描けているのが魅力です。主人公たちとは異なる、落ち着いた外見と物腰がよく描かれている彼らの姿は、このマンガが決して売れ線のキャラクターばかりで成り立っているわけではないことを、よく示しています。


・毎回のエピソードには考えさせるものも多く、読ませる。
 しかし、単にキャラクターが個性的で魅力的というだけではありません。彼らを巡るストーリーは、時に重々しいものまで見られ、毎回のエピソードには考えさせられるものも多かったと思います。
 特に面白いと思ったのが、コナの住んでいる家を探るエピソードと、ケードの過去にまつわる悲しいエピソードでしょうか。

 コナは、一見して浮浪児のような姿をして、だぶだぶの服を着て街を歩き回っていますが、その家がどこにあるのか誰も知りませんでした。ロッタは、持ち前の好奇心を発揮して、彼を尾行してその家を確かめようとします。コナはどこまでも歩いていきますが、いつまでも家に行き着く気配がなく、「こんな遠くから来ていたのか」とその思わぬ境遇に驚きます。
 しかし、ついにはコナの父親に遭遇しますが、彼は立派な服を着た紳士で、彼が案内した家も立派なお屋敷でした。コナは、実は銀行の頭取の息子で、実家は大金持ちだったのです。父親は、コナがだらけた服を着て日々街を歩いているのを快しとせず、実家に連れ帰ろうとしますが、コナはそれを拒み、街を自由に歩き、ラズやロッタたちと楽しく過ごす日々を選びます。父親も、ロッタに差し出されたコナが普段食べている食べ物を口にし、彼の生き方を半ば認め、和解することになります。このコナの飄々とした自由な生き方と、それを支えるラズやロッタとの友情には、大いに惹かれるものがありました。

 ケードの過去を巡るエピソードは、このマンガの中でも最も重いエピソードのひとつです。ケードは、今では発明家で変わり者のおじいちゃんとふたりで暮らしていますが、かつては心優しい父親と母親の元で、日々楽しく暮らしていました。父親は、汚く危険な街並みを綺麗に舗装する作業に従事しており、日々地道に仕事に励む優しい性格の持ち主でした。それを支える母親もまた優しく、ケードとふたりでよく父親を迎えに行く日々を送っていました。
 しかし、悲劇は突然訪れます。突然の崩落の事故で、ふたりとも瓦礫の下敷きになってしまうのです。集まってくる街の人々には、誰もふたりを助ける力もなく、最後にはおじいちゃんの発明したロボットの力で、ようやく瓦礫は取り除かれますが、ふたりはもう帰ってはきませんでした。このことに大きすぎるショックを受けたケードは、二度とこんなことが起こらないように、おじいちゃんのロボットのような、危険な仕事に従事してくれるロボットの発明に取り組むようになるのです。

 この話は、ある程度の社会性をも感じさせる優れたエピソードとなっており、このマンガのストーリーの奥の深さを見せてくれました。このような優れたエピソードがもっと読めると、このマンガにはさらに期待していたのですが・・・。


・「さようなら。わたしの愛した曲がり角。」
 しかし、このマンガは、連載第10話を最後にして、いきなり掲載が途絶え、以後なんの音沙汰もなく、完全に立ち消えになってしまいました。これはあまりにもひどい幕切れであり、雑誌編集部の不手際を恨まずにはいられませんでした。この当時のブレイドは、このように連載がいきなり消える、あるいは休載するようなケースが頻発しており、相当な不信を抱いていたのですが、この「DANCE DANCE DANCE!」の消失はもう致命的でした。なにしろ、いきなり掲載がなくなった後、そのことに対する告知やお詫びなどは一切なく、本当になんの音沙汰もなくなってしまったのです。編集部のあまりのいい加減さには、本当にあきれ果ててしまいました。
 当時、森田さんの他社での連載である「NAKED BLACK」も立ち消えになっていますが、これは雑誌そのものが休刊してしまったという理由が大きく、仕方のないところもありました。しかし、ブレイドは違います。こんなひどい終わり方があっていいはずがありません。

 なぜ消えてしまったのかは本当に謎ですが、この後しばらくして、角川書店の方で「.hack//G.U.+」の連載を始めたため、この連載のために引き抜かれたのではないかと推測できるところもあります。しかし、仮にそんな事情があったにしても、問題なく連載していた作品をいきなり立ち消えにさせたブレイド編集部の不手際が、大きく責められることは免れないと思います。

 実際、このマンガが立ち消えになるまでは、毎月欠かさず連載しており、休載したことは一度もありませんでした。同時に姉妹誌で読み切り作品も何度も掲載しており、そちらでの活動も精力的でした。編集部によるテコ入れもひどく積極的で、紹介ページの充実ぶりには、担当編集者の熱意も感じられました。マンガのストーリーでも、クリスタベルを滅ぼすという強敵がロッタたちの前に現れ、いよいよ盛り上がってきた矢先でした。そんな状態で、いきなりの立ち消え。 これは、あまりにも理不尽であると言わざるを得ません。

 今後、このマンガが復活する可能性は非常に低いでしょう。ストーリーも極めて中途半端なところで途絶え、まさに未完の作品となってしまっています。しかし、それでも、このマンガが実に優れた完成度を持つ、名作とも呼べる作品だったことは間違いありません。今でも、このマンガのコミックス1巻、その帯に書かれた「さようなら。わたしの愛した曲がり角。」というコピーは、この作品の内容を非常によく表し、かつ情感のこもった絶品だと思っています(2巻の「過去と未来を繋げるために。」というコピーも素晴らしい)。もし、このマンガの連載が無事続いていたらどうなっていたのか、作者の森田さんもまったく異なる評価を得たのではないかと、残念に思わずにはいられません。


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