<えびてん 公立海老栖川高校天悶部>

2012・8・31

 「えびてん 公立海老栖川高校天悶部」は、角川書店の月刊コンプエースで2008年4月号から開始された連載で、萌え系のドタバタギャグ?作品となっています。2012年現在、コミックスは3巻まで出ており、かつ同年10月からテレビアニメが予定されており、7月からニコニコ生放送で先行配信が行われています。アニメ化した作品の割には、いまだコミックスの巻数は3巻どまりと少ないものですが、これはかなり早い段階でアニメ化候補となっていたものだと思われます。角川は、この作品を当初からかなり推していたようで、予定通りアニメ化まで達成されたといったところでしょう。

 作者は、原作がすかぢ、作画が狗神煌(くがみきら)。作画の狗神煌は、これ以前に同社から出たライトノベル「生徒会の一存」の挿絵イラストで一躍人気を博しました。一方で、原作のすかぢは、PCの美少女ゲーム(エロゲー)メーカーであるケロQ・枕の総統括で、ここから出たゲームの多くで原画・シナリオに関わっていて、そちらで定評を得ているクリエイターでした。以前、そこのゲームのひとつ「H2O -FOOTPRINTS IN THE SAND-」のコミカライズを狗神煌が担当したことがきっかけで、両者の関係が深まり、この「えびてん」の連載へと結びついたのだと思われます。

 肝心の内容ですが、一応はドタバタギャグ系のラブコメ・・・ということになるのでしょうか。海老栖川(えびすがわ)という高校の「天悶部」という、オタクな女子が集まったハチャメチャな部活に入ってしまった唯一の男子・野矢一樹(のや いつき)を主人公に、日々の部活動を様子を描くもので、それだけなら「部活ものの日常系作品」とも言える設定を持っています。しかし、その内容はあまりにもナンセンスなもので、ストーリーはあってないようなもの、ヒロインが主人公や部員たちを執拗にいじりまくったり、かと思えば突然の不可解なシリアス展開に入ったり、あまり意味のないエロ・お色気シーンがあったりと、支離滅裂と言ってもいいエピソードが大半を占めています。狗神煌の作画もあまり質がいいとは言えず、粗雑な画面構成がこのマンガの印象をさらに良くないものにしているように見えます。

 ニコニコで先行配信されたアニメも、その出来は原作に輪をかけてひどいもので、露骨なパロディネタやエロネタまで大量に盛り込まれるようになり、さらにはまったく意味のない実写エンディングや実写CMが、視聴者の印象を腰砕けなものにしています。あえてツッコミどころ満載のダメなアニメを意識して作ろうとしているのでは?と思えるほどで、粒揃いだった同時期のアニメの中でも、例外的に極めて質の低いレベルをあえて維持しているように思われます(笑)。


・「生徒会の一存」のような作品を期待していたのだが・・・。
 上で書いた、作画担当の狗神煌さんがイラストを担当した「生徒会の一存」、これは、今までにあまり見られなかった形式のライトノベルとしてまず話題となり、その圧倒的な面白さが認められ、見事にコミック化・アニメ化を達成することになりました。

 その内容ですが、女の子4人で構成されていた生徒会に、お調子者の男子生徒の主人公(杉崎)が入り、毎回5人で生徒会室でたわいもない会話をするというもの。学校内のほかの場所に舞台が広がることもたまにありますが、基本的には生徒会室での会話のみで構成されており、いわばキャラクターたちの「だべり」だけで構成された小説のスタイルが話題を呼び、当初は「こんな小説があっていいのか」と賛否両論様々な意見が見られたようです。しかし、じきにその面白さが認められて大評判となり、その後、この作品のスタイルを受け継いだ、「部室だべりもの」とも言える作品がいくつも登場することになりました。そうした作品のさきがけとなったことで、この「生徒会の一存」という作品の意義は、実に大きかったと見ています。

 そして、この「えびてん」も、女の子中心の部活「天悶部」に男の子の主人公が入ると言う展開や、部室での活動が中心という点、そして何より狗神煌さんが作画という点において、当初は「生徒会の一存」に近いコンセプトの作品かと思っていました。わたし自身「生徒会の一存」は大いにはまりましたし、そのような作品がまた、今度は狗神煌さん作画のマンガという形で読めるのではと、本気で期待していたのです。


・あまりにもナンセンスでハチャメチャな内容。とてもすかぢの書いた原作とは思えない。
 しかし、この「えびてん」で繰り広げられる内容は、あまりにもナンセンスでひどいドタバタの連続で、途中から挿入されるシリアスな展開もあまりに中途半端で、すぐまた元のノリに戻ってしまう繰り返しのような内容に終始し、ひとつの作品としてまともな形を成していないように思われました。「生徒会の一存」のような部室だべりものと言えるものでもなく、あるいはゆるやかな日常系と言えるものでもなく、実際の中身はドタバタギャグ、それもあまりに中身のないハチャメチャなノリばかりが目立つものだったのです。

 特に、メインヒロインと言える戸田山(戸田山響子)の行動がひどく、天悶部への入部を希望する野矢に無理難題を押し付け、ここは女子だけの部だからと無理矢理女装させていじりまくり、あるいは同じ女子部員でオタクの金森(金森羽片)に対しても、服や下着を脱がそうとしたり、彼女の同人誌をはさみで切りまくったりと、かなりひどいいじりを繰り返すような展開が何度も見られました。

 戸田山響子の妹で野矢のメイドだという戸田山泉子も、肝心の主人である野矢を暴力的にいじりまくる有様。そして、部員の中で唯一の常識人の廣松(廣松理圭)が、それを傍目で見て冷たく突っ込みを入れるという、そんな殺伐とした(?)ギャグの繰り返しとなっています。

 2巻からは、今まで気が弱くいじられていた主人公の野矢が、突如覚醒(?)し、周囲を高圧的に支配するような異様な態度をとり、ここには大きなシリアスなトラウマがあるらしいのですが、その展開もすぐまたはじけてギャグに戻るの繰り返しで、とにかく中途半端極まりない状態。ほとんどの読者を戸惑わせ、呆れさせるに十分だと思います。

 原作者のすかぢは、ケロQや枕といったエロゲーブランドで、「終ノ空」や「二重影」、「モエかん」、アニメ化もされた「H2O -FOOTPRINTS IN THE SAND-」などのシナリオや原画を手がけ、いずれもかなり高い評価を得てきた作家です。「終ノ空」などは、哲学的要素も盛り込んだ異色の作品ともなっているようで、真面目で本格的な作風の作品もいくつか手がけています。
 しかし、この「えびてん」には、そんなゲームで見せた質の高いシナリオはまったく感じられず、ただナンセンスなドタバタに終始する内容で、とてもすかぢの書いたシナリオとは思えませんでした。まるで、いつものゲームの仕事に疲れた息抜きのために、あえてハチャメチャな仕事をしているようにも感じられました。
 なお、このマンガのキャラクターは、野矢に戸田山、金森に廣松と、いずれも日本の哲学者の名前からネーミングされているようで、このあたりに作者の哲学趣味が表れているようですが、肝心の内容がここまでナンセンスでひどい状態では、さぞ元ネタにされた哲学者たちも泣いているだろうと思います(笑)。


・狗神煌の作画も決していいとは言えない。
 このように、原作者・すかぢによるストーリーがまずまったく芳しくない本作ですが、作画担当の狗神煌による絵も決していただけません。「生徒会の一存」ではビビッドな萌え絵で一躍人気を集めた狗神煌さんですが、マンガの方はそうとは行かなかったようです。

 キャラクターの絵こそまだ見栄えがするのですが、それ以外の箇所、とりわけ背景がまったくいただけません。というか、ほとんど何も描いてないことも多く、トーンの使用でごまかしているところも多々見られます。おかげで、全体的に画面が白く、その中でこの作者独特の「濃い」キャラクター絵が目立ちすぎて、何ともアンバランスな画面になってしまっています。
 キャラクターのデフォルメ絵の多用も、さらに見た目を悪くしているようです。デフォルメ絵自体はかわいいのですが、白い背景の中で何度も出てくると、余計にそのデフォルメの部分だけが目立ち、画面の雑な印象がより強くなっています。総じて粗雑な印象の画面に終始しており、残念ながらマンガの絵としては、決していい出来にはなっていないようです。

 イラストの仕事をしていた作家が、初めてマンガを描くようになった時に、こんな風に作画がいまいちというケースは、他にもよく見られます。しかし、この狗神煌さんは、以前にも既に「H2O -FOOTPRINTS IN THE SAND-」のコミカライズを担当しています。つまり、以前にも商業誌でマンガを連載していて、この「えびてん」は2作目になるわけです。2作目のマンガにしてこの作画レベルは、あまり褒められたものではないでしょう。この作画レベルは、連載初期のみならず、コミックス3巻まで来てもあまり変わっておらず、もう少し頑張ってほしいところです。


・ニコニコで先行配信されたアニメも最悪。今季屈指の駄作か?
 こんな風に、そもそも原作からしてまったく評価できないマンガになっているのですが、しかしどういうわけかこのアニメ化が決まってしまうのです。アニメは、2011年にはその制作が告知されていたようで、翌2012年の10月からテレビ放映開始予定となり、その3カ月前の7月から、ネット配信のニコニコ生放送で先行配信されています。しかし、この先行配信されたアニメが、原作に輪をかけてひどい出来になっていたのです。

 まず、原作にないパロディの多用があまりにも目に付きます。エピソード自体は原作の話を踏襲しているようですが、しかしのっけから過去のアニメ作品のパロディネタが大量に盛り込まれ、あまりにも露骨に元ネタをパクっているシーンが次々と出てくる有様で、これには思わず失笑せずにはいられませんでした。ネタ元となった作品は、「聖闘士星矢」や「セーラームーン」「北斗の拳」など、なぜか一昔前に人気だったアニメが多くを占めていますが、これはアニメ制作者の趣味なのでしょうか。あまりにも有名すぎる元ネタばかりで、これも失笑を誘う大きな一因となっています。

 原作を踏襲しているエピソード自体も、原作自体がつまらないゆえに、アニメでもやはりつまらない(笑)。ナンセンスなドタバタ劇をアニメの動きと声優のボイス付きでやるものだから、さらにシュールさに拍車がかかっています。まったくストーリーが頭に入ってこないのも原作そのまま。アニメから入ってきた人でも、これを面白いと感じる人は決して多くないでしょう。

 さらに、これは本編からは外れた要因ではあるのですが、唐突な「実写エンディング」の採用が最悪でした。エンディングがなぜか実写の学園映像となっており、これがまったくもってナンセンスの一言。なぜ実写なのか本当に意味が分からない。最後まで配信を見ていて、いきなりの実写EDで腰砕けになって、作品自体の評価を大きく落とした視聴者も少なくないと思われます。
 ついでに言えば、これは作品とはまったく関係ない話ではあるのですが、最後に放映されるようになった「らきすた」の実写CMがさらにひどい。なんでも実写でのイベントがあるらしいのですが、はっきりいってらきすたのキャラクターを実写でやっても気持ち悪い以外の何物でもなく(笑)、一体誰得なのだという企画であり、そんなCMが配信の最後に流れることで、あろうことか本編のアニメまでさらに評価を落としてしまっているのです。

 この「えびてん」の先行配信と同季に放映されたアニメには良作が多く、リアルなMMORPGを舞台にして一気に話題を集めた「ソードアート・オンライン」や、高校での真剣な音楽活動の姿を描いた「TARI TARI」、久米田康二原作の落語コメディ「じょしらく」など、相当な評価を集めた作品が数多く見られます。好評を博して2期を迎えた「ゆるゆり」のアニメも、今期また大好評を博しています。そんな中で、この「えびてん」だけが、あまりにひどい内容から、今季屈指の駄作となった感すらあります。これでは、10月からのテレビの本放送の評判も大いに懸念されます。


・これはいかにも角川らしい失敗作。作者先行の企画はやめてほしい。
 以上のように、この「えびてん」、すかぢによるストーリーも狗神煌による作画もまったく芳しくなく、さらにはアニメの出来も原作以上にひどいものとなっていて、総じてまったく評価できない作品となってしまっています。駄作と断言してもいいのではないでしょうか。商業マンガのレベルがおしなべて上がっている昨今、ここまで明確につまらないと言えてしまう作品は、ある意味貴重かもしれません。

 問題なのは、これだけ出来のよくない作品であるにもかかわらず、あっさりテレビアニメ化してしまったことです。これ、角川書店以外の出版社の作品なら、まずアニメ化することは考えられないと思います。スクエニや一迅社や芳文社でも、萌え系といえる作品には事欠きませんが、しかしいくら萌えるからといって、明らかにつまらない作品がアニメになることはないでしょう。何らかの面白さが評価されて人気を得て、初めてアニメ化される。しかし、この「えびてん」には、そのような部分がほとんど感じられないのです。

 おそらく、このマンガ自体、「生徒会の一存」で一気に人気を博した、狗神煌という作者を推した作品であることは、間違いないと思います。最初から雑誌の表に出る大きな扱いで、あわよくばアニメ化まで進めることが決まっているような作品だったのではないかと。つまり、最初から作者の人気先行の作品として、角川お得意のメディアミックスの素材となったのだろうと思われます。

 しかし、いくらメディアミックスを進めても、肝心の内容が伴わなくてはどうしようもありません。これは、他の会社ではまずあり得ない、いかにも角川らしい失敗作ではないかと思います。こうした作者の人気先行の企画は、いくら角川でも控えてほしいと思いますね。いくらなんでも、最低限の内容が伴わないと意味がありません。アニメに関しては、ある意味ネタアニメとして楽しいとは思いますが(笑)、それは本来目指すべき作品作りではないでしょう。


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