<Good Game>

2011・2・2

 「Good Game」は、2009年に芳文社より創刊された雑誌「コミックギア」創刊号から開始された連載です。しかし、コミックギアは、創刊してわずか2号で休刊となり、以後は同社の「まんがタイムきららフォワード」へと移籍して、2010年6月号から連載を継続することになりました。コミックギア連載作品で、他誌に移籍して連載を続けられたのはこの1作品だけでした。

 作者は友吉。この「コミックギア」という雑誌、「H-project」という同人誌制作集団が執筆陣を占めていたのですが、その中でも特に精力的に活動を行っていた作家だったと思います。同人では東方を中心に多くの作品を残し、この「H-project」の中心人物で、コミックギアの製作総指揮でもあったマンガ家のヒロユキ さんとも近い関係のようです。このコミックギアの連載も、同誌の中心的な作品のひとつだったと思います。

 作品の内容ですが、eスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)と呼ばれる、コンピュータゲームを使った競技にスポットを当てたものとなっており、まずその題材に目新しさがありました。日本ではまだ認知度は低いものの、海外では大きく盛り上がっているこの競技を詳しく取り上げることで、日本にもeスポーツを広めようとする目的もあったと思います。これは一部の人に注目を集め、特に実際にeスポーツを扱っているサイトがこのマンガを採り上げ、作者のインタビュー記事を掲載したこともありました。

 日本初!? 本格eスポーツマンガ「GoodGame」の作者、友吉先生にお話を伺ってみました。DHARMA POINT

 さらには、ストーリーも王道ながらよく出来ていて、当初は何も知らなかった主人公がeスポーツに初めて触れ、その奥深いゲームの世界を認めてのめり込んでいき、持てる技術を駆使して果敢に上級プレイヤーに挑んでいく様には、大変好感が持てました。ひとつの王道少年マンガ、スポーツバトルものとしても面白かったと思います。絵的にもしっかり描けていてこちらも申し分なく、総じてひとつの作品としてまとまってよく出来ていました。コミックギア連載作品の中で、休刊後に唯一連載が継続できたのも納得できる作品でした。

 しかし、意外にも移籍後半年あまりの2011年1月号を持って、かなりの早期に連載は終了してしまいました。最後は打ち切りかとも思える展開で、アジア大会本選に出る直前で終わってしまっていて、これからが楽しみと思っていただけに残念に思いました。


・「コミックギア」について今一度。
 当初この「Good Game」が掲載されていた「コミックギア」という雑誌。これについては、かつてこのサイトでも散々採り上げたことがあるのですが、ここで今一度説明しておきたいと思います。

 コミックギアは、2009年8月に芳文社から創刊された雑誌ですが、その数カ月前から創刊が告知され、しかも新しいコンセプトの雑誌であることを大きく告知していました。キャッチコピーは、「マンガ誌の作り方、変えてみました。」。具体的にどんな新しいコンセプトかというと、連載作家がひとつの場所に集まって作品を制作し、互いにアドバイスや指摘を行うことで、よりよい作品作りを目指すといったものでした。当初は、出版社の編集者を介さずに自分たちで雑誌を作るとも言われていましたが、実際には最終チェックをする編集者は存在していたようです。しかし、それでも、作品作りの多くをマンガ家同士の間で行うことで、編集者の影響の少ないマンガ家独自の作品作りをしようというコンセプトは顕著に感じられました。

 しかし、実際に出てきた雑誌は、決して読者の芳しい評価を得られませんでした。いや、創刊以前より、執筆作家たちがすべて特定の同人ジャンルで活動していた作家たちで占められていたことに懸念を抱く読者は多く、創刊した雑誌の連載ラインナップを見ても、あまりにも似通った作品が多数を占めていたのです。
 絵柄で見ると、製作総指揮で中心作家だったヒロユキさんの影響を受けてしまったのか、彼の絵柄に近い、かなりタッチの似ている作品が多く、イメージの多様性に乏しさが感じられました。
 加えて、内容面でも多様性に乏しいと感じられるもので、ありがちに思える作品が多数を占めた上に、多くの作品の主人公において、極めて傲慢で不遜な態度が目立ち、これはひどく読者の不評を買いました。当時、この雑誌を取り上げて批評するマンガサイトはかなりの数に上りましたが、この点の評価が最も厳しかったと思います。

 このような雑誌だったので、当初から先行きが不安視されていましたが、その不安は的中し、季刊ペースで三カ月後に2号は出たものの、その2号を最後に休刊する運びとなってしまいました。そして、連載作品のほとんどはそのまま中断することになりましたが、唯一この「GoodGame」だけが、その面白さを認められたのか、きららフォワードへと移籍して連載を継続することになったのです。(もうひとつ、ヒロユキさんの「スーパー俺様ラブストーリー」も、連載を再開する予定だと告知されていましたが、その後長く再開されないままとなっています。)


・やはり「eスポーツ」という新鮮な題材が大きかった。
 これ以外のコミックギア連載がすべて中断された中、唯一この「Good Game」だけが辛くも継続できた理由、それはもちろんこのマンガが最も面白かったからには違いないのですが、もう少し具体的な理由を考えてみると、やはり、「eスポーツ」という目新しい素材を扱ったことが大きく、それが読者の興味を引いたからではないかと思うのです。

 「eスポーツ」とは、対戦型のコンピュータゲームを使って行う一種のスポーツ競技のこと。日本では、例えば対戦格闘ゲームの大会などもその範疇に含まれると思いますが、海外ではもっと規模が大きく本格的で、このeスポーツで生計を立てているプロゲーマーまで存在し、社会的に広く認知される状態となっています。しかし、海外での認知は高いにもかかわらず、日本ではその存在はほとんど知られてこないままになっていました。そんなeスポーツを、初めてマンガとして採り上げたことに大きな意味があったと思うのです。

 日本は、ゲーム大国であるにもかかわらず、これまでこういったeスポーツが認知され、広く一般まで普及することはほとんどありませんでした。日本は、今でこそ海外でのソフトのシェアは低くなっていますが、しかしいまだ優れたゲームを多数生み出していることは間違いなく、任天堂やソニー、(かつての)セガのような優れたハードメーカー、カプコンやコナミ、スクウェア・エニックス等を始めとする優れたソフトメーカーがたくさんあり、今でも数多くのソフトが発売されています。政府も有力なコンテンツ産業のひとつとしてその推進を考えている状態です。そんな国なのに、なぜここまでeスポーツは遅れているのか?

 ひとつには、やはり相変わらずゲームを軽視する風潮が強いのではないかと考えています。すなわち、ゲームは子供の遊びだという認識が、今においてなお多数派のではないか。さもなくば、ゲームにはまるのはマニアかオタクで、普通のの大人ならやるにしてもせいぜい暇つぶしかたまにやるパーティーゲーム程度で、まともな大人がのめりこむようなものではないと。ゲームはそこまで真剣に取り組むようなものではない、あくまでただの遊びだと。そう考えている人が、結局のところいまだ多数派なのではないでしょうか。

 そんな中で、このように「eスポーツ」をマンガで真正面から採り上げる意味は十分にありました。序盤の頃から、このマンガのヒロインでeスポーツの日本王者であるエレナが、主人公の大悟に説明するという形で、eスポーツの何たるかを、その本格的な競技性の持つ面白さ、素晴らしさを、ひとつひとつ読者に向けて解説してくれています。マンガを読むだけで、自然にeスポーツの基本的な知識が身につくようになっている。そのことだけでも、この作品を読む意義はあると思います。


・ゲームの描写も簡素ながら適切で読者に対する紹介の役目を果たしている。
 そして、このマンガ内に登場するゲームも中々よく描けています。主人公たちが主に取り組むことになるのは、「ファンタジークラフト」なるリアルタイムストラテジー(RTS)です。また、連載の後半では、「サドンストライク」という名のFPS(一人称視点シューティング)が登場しています。どちらもeスポーツで競技が行われるゲームのジャンルとしてはスタンダードであり、「ファンタジークラフト」などは、おそらくは実在のゲーム「ウォークラフト」シリーズ辺りをモデルにしているのではないかと思われます。

 そして、こういったスタンダードな競技ゲームの基本的な知識を丁寧に説明しているところが、まず好印象です。連載第一話では、主人公の大悟がファンタジークラフトを初プレイするシーンがありますが、ここでは主人公自らの口で、「戦略型シミュレーション」「自分のユニットを増やして相手を全滅させれば勝ち」「ターン制ではなくリアルタイムでの進行で、判断も操作もスピード勝負」と、ゲームのアウトラインが自然な語り口で読者に紹介されます。さらには、主人公がライバルと対戦するシーンでも、今度はヒロインのエレナの口から、このゲームの基本的な戦略(ゲームの流れやユニットの相性など)が、やはりうまく読者に向けて説明されています。ゲーム画面の描写もオーソドックスながら無難にこの手のゲームをよく表しているように思えますし、こういったゲームをうまく未経験の読者に向けて紹介しているなと思いました。

 まだ、このマンガがコミックギアに連載されていた頃には、あの当時は雑誌に対する風当たりが相当に強かったこともあって、このゲームの描写についても、「これだけではゲームの戦略などが分かりにくい、描写が不十分」といった批判をいくつか見た記憶があります。しかし、わたしには、これで過不足なく十分にゲームの内容はよく描けていると見ますし、むしろ十分に評価できると思いました。

 (*唯一、主人公が「ユニットを手動で操作して相手の攻撃を避ける」といったテクニックは、実際のRTSではまず不可能で、それについての批判もいくつか聞かれました。しかし、この場合、主人公の非凡なゲームの才能を表現するために、この程度の架空の設定は、少年マンガとしては許容範囲だとわたしは考えています。)


・主人公の成長ぶりに好感が持てる。
 そしてもうひとつ、このマンガが他のコミックギア連載作品より優れていた点は、最初はあまりいい性格でなかった主人公が、eスポーツを通じて成長する姿が見られることでした。

 コミックギア作品の多くに見られた、傲慢で不遜な態度の「俺様主人公」。連載第1話の冒頭では、このマンガの主人公・高橋大悟も決して例外ではありませんでした。大会で対戦に勝っても「ザコどもが」「当然だろ」「練習なんかしたことねぇよ」というセリフを吐きまくる姿は、決して好感を持てるものではなかったと思いますし、実際に決して性格はよくないキャラクターとして描かれていたと思います。

 しかし、その後、エレナに連れられてeスポーツの大会会場に着いたあたりから、その印象が変わり始めます。当初は自分が最強のゲーマーだと信じ込んでいた大悟が、その場で競技ゲームに取り組んでいるプレイヤーの、明らかにすごい技術を持って取り組んでいる姿を見て、「こいつらかなり強えぞ・・・」とその実力を見切って感心します。そして、たまたま空いていた席でゲームを試しにプレイしてみるのですが、ここでは持ち前の卓越したゲームの腕前を発揮、ゲームの内容を的確に把握し、CPU(コンピュータ)相手に首尾よく勝利を収めます。そして、そのゲームの面白さを認め、さらには「今はCPUに勝ったけど、まだ周囲の凄腕のプレイヤーたちには勝てない。このゲーム奥が深い」と、素直に ゲームの面白さと自分の実力を見極めた発言を行うのです。このあたりの印象は、当初の「ザコどもが」「練習なんかしたことねぇよ」といった傲慢な態度とはまったく異なるもので、一気に好感を持って読むことができるようになりました。

 その後の大悟も、強気な性格自体は変わらないものの、日本王者であるはずのエレナが毎日必死に努力しているのを目の当たりにして、自分もそれ以上のハードスケジュールに取り組んだり、借金をしている母親に土下座してeスポーツの大会に出場させてくれと頼み込んだり、もちろん肝心のゲームの大会でも全力で必死になって強敵に立ち向かったりと、そういった努力の跡が見られ、その成長ぶりにやはり好感が持てるものとなっています。


・最後が打ち切り的に終了したのは残念。最後の世界大会本選まで見たかったところ。
 そんな主人公の努力で、見事アジア大会予選を突破したのはよかったのですが、その後大会本選の直前になって、このマンガは終了してしまいます。おそらくは打ち切りではないかと思われますが、せっかくの大会本番たるアジア本選は見られずじまいで、そこに出場するはずだったライバルキャラクターたちも、結局ちょっとした顔見せだけで終わってしまいました。

 もし、当初の連載雑誌だったコミックギアが、順調に推移して刊行を重ねていれば、このマンガももっと長く続いていたかもしれません。コミックギアが休刊して、きららフォワードに移籍して連載再開するまでに半年近くかかっていますし、連載の勢いが大きく勢いが削がれた感もあります。また、フォワードの誌面の雰囲気ともやや合ってないところがありました。フォワードは、同じ芳文社のストーリー雑誌でも、こちらは中性的なかわいいイメージの作品が中心の雑誌であり、ゲームやスポーツで強豪たちが激しく闘う少年マンガ的なこの作品は、やや場違いなところがありました。加えて、友吉さんならではのお色気要素や、あるいはヒロインが主人公を奴隷としてこき使うようなシーンが、特に最初の頃はよく見られたのも、人によっては(特にフォワードの読者に対しては)やや抵抗が強かったかもしれません。

 というわけで、結局最後は、ちょっとだけ後日譚のような形で、世界大会本選に主人公とヒロインが晴れて出場した様子が描かれ、それでコミックス2巻で完結の運びとなりました。できれば、そこまできちんとしたストーリーで見たかったですし、このマンガが長期連載して盛り上がることで、eスポーツの日本での認知度ももっと上がればいいと思っていただけに、ひどく残念に思ってしまいました。


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