<ハナコ☆ラバトリー>

2012・1・26

 「ハナコ☆ラバトリー」は、月刊コミックラッシュで2010年5月号から始まった連載で、以後不定期に掲載を重ね、2012年1月号で最終回を迎えました。全16回の連載となり、コミックスは2巻で完結しています。コミックラッシュは、2011年3月号をもって紙媒体の雑誌を休刊し、以後はウェブコミックに移行していました。このマンガは、その連載の途中で掲載場所がウェブへと移動したことになります。コミックスでは、ちょうど1巻収録分が紙時代の雑誌掲載分、2巻がウェブコミックに移ったあとの収録分となっています。

 作者は、原作が施川ユウキ、作画が秋★枝となっています。どちらもすでに多くの連載をこなしている作家で、特に施川さんはこれが初の原作担当となりました。以前はこのふたりに特に接点はなかったと思いますが、どのような経緯でこのふたりを組み合わせることになったのか、ちょっと不思議ですね。しかし、いずれも相当な実力を持った作家同士のタッグということで、肝心の内容は非常に充実したものとなっています。

 その内容ですが、怪談話では定番の「トイレの花子さん」を主人公にした、1話完結のオムニバスストーリーとなっています。怪談の花子さんが元ネタと言っても、ずっと明るい垢抜けた性格の主人公となっていて、ストーリーもあまり怖いもの、ホラーと言えるものは多くなく、コメディだったり切ない話だったりミステリーだったりと、1話1話がバラエティに富んでいてとても楽しいお話になっています。原作者の施川さんのストーリー作りのうまさを存分に味わうことが出来るでしょう。
 秋★枝さんのポップでキュートな作画も、相変わらず好印象で、この作品の暗くなりすぎない雰囲気をよく再現しています。原作と作画ががっちりと噛み合った、短いながらも優れた一作となっています。掲載先のコミックラッシュが、ウェブへと移行してしまったことで、残念ながら連載はあまり多くの人の目に触れなかったようですが、コミックスは是非とも読んでほしいですね。


・実力派作家ふたりの経歴。
 このふたりの作家については、どちらも既に相当有名なので、知っている方も多いかと思いますが、ここで今一度紹介してみたいと思います。
 まず、施川ユウキさんですが、秋田書店を主な活動場所として、ギャグマンガを盛んに執筆してきました。代表作としては、週刊少年チャンピオンの「サナギさん」、ヤングチャンピオンの「もずく、ウォーキング!」「森のテグー」あたりでしょうか。また、竹書房の近代麻雀で描いた「ツモっ子どうぶつ」「ツモっ子の森」というギャグ麻雀マンガもありました。いずれも相当な人気作品で、特に「サナギさん」あたりは、かなり多くの人に知られた有名な作品のはずです。そんな人気作を多数抱える彼が、ここでマンガの原作を担当するというのは、随分と意外な展開でもありました。
 彼の作風は、基本はギャグマンガではあるものの、それ以上に面白いストーリーテリングと深い思想性、豊富な知識が垣間見られ、いずれも非常に読み応えのある作品となっています。そして、これは初の原作作品となったこの「ハナコ☆ラバトリー」でも健在。今回もそのストーリー性とテーマ性の高さに目を引かれます。

 一方で、秋★枝さんですが、こちらも既に多くの出版社、雑誌で連載を残しています。元々は同人作家で、特に「東方」ジャンルでの活動が顕著だったことから、一迅社でその東方のコミカライズ作品「東方儚月抄」の作画を担当したことで、まず有名になりました。
 しかし、それ以上に評価が高いのは、オリジナルの作品の方で、芳文社のコミックエール・きららフォワードでの連載「純真ミラクル100%」、メディアファクトリーのコミックフラッパーでの連載「煩悩寺」あたりが、特によく知られています。それ以外にも芳文社のまんがタイムファミリーで連載されていた4コマ「的中!青春100%」、同誌での連載でこちらはショートショート「ワンシーン」、集英社のウェブ雑誌ウルトラジャンプエッグでの連載「恋愛視角化現象」などもあります。この「ハナコ☆ラバトリー」のコミックス2巻の発売時には、「煩悩寺」「的中!青春100%」のコミックスも近い時期に発売され、書店のフェアで盛り上がりました。

 彼女の作品は、全体的に恋愛ものが多く、恋愛の機微を丹念に描く作風に定評があり、「恋愛マスター」などと称されることもあります(笑)。もちろん、恋愛にとどまらず、キャラクターの描き方、心理描写がとにかくうまい。こちらも、毎回巧みにマンガを描かれる実力派作家だと思いますね。


・毎回のストーリーの面白さに心奪われる。
 と、このように、双方共に有名な作家ではありますが、このマンガに関しては、まず作画担当の秋★枝さんの露出の方が目立っているかもしれません。コミックスの表紙を見ても、まず秋★枝さんの絵が飛び込んできますし、書店で表紙買いをするとなるとまずこちらの先生のファンの方が多いのではないでしょうか。

 しかし、このマンガ、まず何と言っても施川さんの書くストーリーの面白さに注目してほしい。1話完結のオムニバスストーリーながら、そのひとつひとつがとても面白い。
 このマンガの主人公である「トイレの花子さん」は、怪談の定番どおり黒いセーラー服を着ているものの、怖い不気味な印象はまったくなく、明るい垢抜けた性格をしていて、しかもなぜかiPhoneを持っていてブログを更新するのが趣味という、なんとも現代的な設定となっています。そんな彼女ですが、なぜかトイレ以外の場所には出現することが出来ず(トイレの外にはどうしても出られない)、トイレと思える場所を転々と瞬間移動し続ける生活を送っています。そんな花子さんが、行く先々のトイレで出会う人間や幽霊たちと、つかの間の交流を交わす。そんなストーリーの骨子となっています。

 そして、このストーリーが本当に面白い。基本はコメディですが、切ない話あり恋愛ものありミステリーありファンタジーな挿入話ありと、毎回バリエーションに富んだ話で楽しませてくれます。そんな話をいくつか紹介してみましょう。

 冒頭の第1話は、中々成仏出来ない幽霊の女の子と出会う話。どこへ行ってもひとりなら成仏はしたくないという彼女に、では携帯でメールを出すからそちらも返信してほしい、それなら寂しくないと提案します。これに応えた女の子は、成仏して空へとのぼる時に、携帯で花子さんと何度もメールで会話を交わしつつ、最後にはお礼の言葉を残して成仏していってしまいます。双方共に幽霊なのに携帯を持っているというおかしさ、明るい会話の楽しさ、そして最後にはいなくなってしまう切なさ。1話にしてこの物語のエッセンスがすべて詰め込まれています。

 そんな風に行く先々で幽霊や人間を助ける話がいくつもありますが、中でも最後に文字通り大どんでん返しがあるのが第6話。トイレに出たと思った花子さんでしたが、そこはなぜか少年が逆さになって天井に張り付いていました。おそらくは幽霊だろうと思って話を聞くと、多分自分は手術に失敗して死んだのだろうと答えます。自分を応援してくれた女の子からもらったマスコット、そして手紙をポケットから見つけた彼は、しかしそこで何かおかしいと気付き(幽霊ならなぜマスコットや手紙を持っているのか?)、ついにはとんでもないことに気付きます。
 そう、実は彼は幽霊ではなく、手術は成功して生きていたのです。彼のいたトイレは、手術に成功して旅に出た先のカンザスで、竜巻に巻き込まれてひっくり返っていた。そう、逆さに張り付いていたのは少年ではなく、実は幽霊の花子さんの方だったのです。これは、まさに大どんでん返しの結末で、しかも暗く悲しい展開だと思っていたのが、一転して実は明るい話だったという、とても爽快なエンディングとなっています。まさに施川さんのストーリーテリングのうまさを実感する1話でしょう。


・ファンタジーな挿入話、そしてたまにあるホラーも珠玉の出来栄え。
 同じくあっと驚く意外な真相が待ち受けているのが、ミステリー仕立ての第10話。小学生の時に埋めたタイムカプセルの発掘の現場に居合わせた花子さん。大人になって再開したかつての中のいい友人たちですが、そのカプセルの中には驚くべきものが入っていました。それは、1枚のメモ書き。そこには「毒島さんを殺してこの一本杉の下に埋めました」の文字が・・・。
 これに驚いた5人は、慌て恐れながらも真相を突き止めようと皆で必死に昔のことを思い出します。確かに昔毒島という女の子の同級生がいた。彼女はどうなったのか。一体誰が殺したのか。この事件の恐るべき真相とは一体・・・?
 ・・・実はこの話、決してそんな怖い話ではなく、意外なほど明るいオチが待ち構えています。最後のどんでん返しでそれが判明して明るく終わる展開がとにかく痛快。かつほっとします。先ほどの第6話もそうですが、このマンガには、一見してシリアスで深刻で悲しい最後が待ち構えているような話が、実は真相は明るいものだったという話がいくつも見られ、これが心地よい読後感を生んでいます。

 さて、個人的にひどく感動したのが、壮大なファンタジーストーリーが読める第4話です。ある学校のトイレへとやってきた花子さん。そこで、野球部のピッチャーの少年とマネージャーの少女がやってきます。うまく球が投げられずに部をやめようとする少年を、少女は止めようとするのですが・・・。と、ここで少年がトイレの壁に書かれた小説を見つけます。その小説は、個室の壁から別の個室の壁へと続く壮大な物語で、面白さに読むのが止まらなくなり、ふたりで読み進めることになります。
 そこは、空から巨人が降ってきたと神話に伝えられる惑星。その巨人の姿を解明するために旅をする旅人の物語。星の半周をまたぐような巨大な巨人の腕に驚きつつ、探索を続ける旅人。巨大な五本の腕が星を跨ぎ、その頭部は星の裏側にある。前人未踏の山脈を越えて、そこに辿り着いた旅人が見た巨人の姿とは・・・。

 この話を書いたのは、スランプに陥った小説家でした。どうしても最後まで小説を完成させることが出来ないスランプに陥った彼は、しかし思いついたら書かずにはいられない習性から、このトイレで落書きで小説を書いていたのです。居合わせた花子に「どういう作品を書くか、あらかじめ決めておいたらどうか」と提案され、「僕は自分のためにしか書いたことがない」と答える小説家。しかし、今回こそは、その落書きを熱心に読み進めている少年、ピッチングが出来なくなってしまった彼のために、最後のオチを書くことになります。
 この一編、小説家が書いたこのファンタジーの挿入話と、そして現実の小説家と少年との話とが、双方共に面白く、思わず唸ってしまうほど感心してしまいました。しかも最後には、小説家と少年、どちらも救われる形になって終わっているところが素晴らしい。間違いなく最も心に残る話でした。

 連載終盤の第14話は、このマンガには珍しく、かなりホラー色の強い話になっています。あるビルの5階のトイレにやってきた花子さん。そこは、下の方の階にも同じ場所にトイレがある構造。そこの窓から下を見下ろしてみると、そこの2階のあたりに男の幽霊が浮かんでいました。
 その幽霊を見て、なんともいやなものを感じた花子さん。翌日になると、それは3階まで上がってきていました。このままではいつかここにやってくると恐怖に駆られる花子さんでしたが、意外にもやってこず、2階と3階のあたりをうろうろするばかり。一体彼は何者なのか。花子さんは、恐怖を押し切って下の階のトイレまで降りてみることにします。
 下に降りて近づいてみると、それはいやなオーラは感じるものの、しかし成仏しかかっている幽霊でした。しかし、その幽霊を引っ張って成仏を押しとどめてもてあそんでいる「黒い手」を発見します。その黒い手の邪悪さに恐怖した花子さんでしたが、その存在に気付いた手が一気に伸びて彼女に襲い掛かってきます!
 絶体絶命となった花子さんでしたが、間一髪のところで持ち前の能力が発動し、別の場所のトイレへと瞬間移動して事なきを得ます。しかし、結局あの手が何だったのかは謎のまま。きれいに話が終わっているエピソードがほとんどのこのマンガの中で、唯一これのみが後へと続くような余韻の残る終わり方となっています。出来ればこの続きを是非読みたいと思ってしまいました。


・1本1本の話がとにかく面白い珠玉の短編集。もっといろんな話を読みたかった。
 連載最後の第15・16話(前後編)は、花子さんの出生の秘密が明かされる、これだけはずっとシリアスな話となっています。なぜ彼女は行く先々のトイレを転々としているのか。なぜiPhoneを持ってブログをやっているのか。その真相が最後に一気に明かされ、悲しい中にも感動を呼ぶエンディングとなっています。最後になって、これまで以上に最も感動する素晴らしいエピソードで終わっている。冒頭から明るく軽快なエピソードでずっと楽しませくれた本作でしたが、最後はきっちり盛り上げて締めてくれました。

 このように、ひとつひとつの話がとても凝っていて面白く、しかもバリエーションに富んでいる本作、まさに珠玉の短編集とも言えるレベルの高い作品となっています。施川さんの描くストーリーは本当に出来がよく、読んでいて本気で感心してしまいました。

 そして、そんなストーリーを巧みに表現している秋★枝さんの作画も実にいい。かわいらしくほのぼのした画風で描かれた絵が、このマンガの明るさ、ほっとする心地よさを生んでいると思いますね。特に、主人公の花子さんのちょっと抜けたほほえましい性格をよく再現している。この主人公のほんわかした魅力は、彼女の絵ならではのものと言えます。

 出来れば、このふたりの組み合わせで、もっと連載を続けてもっとたくさんの話を読みたかったと思いますね。それほどまでにこのマンガはよく出来ていた。コミックス2巻の後書きを読むと、まだまだ話の候補はいろいろとあったらしく、そこに書かれていたプロットを読んでも面白そうで、是非とも読んでみたいと思ってしまいました。元々不定期の連載でもありましたし、あまり長く続く予定でもなかったのかもしれませんが、しかしもっともっと施川さんの話を読みたかったというのが正直なところです。


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