<ひだまりスケッチ>

2009・2・7

 「ひだまりスケッチ」は、芳文社の月刊4コマ漫画雑誌「まんがタイムきららCarat」で2004年4月号から開始されている連載作品で、同誌の表紙を長い間努め、初のアニメ化作品となるなど、同誌の看板的作品となっています。また、この「Carat」だけでなく、同出版社の姉妹誌である「まんがタイムきらら」系列の雑誌全体の中でも、トップクラスの看板作品であり、このジャンルの4コマ作品の代表的な存在となっています。
 作者は蒼樹うめ。これ以前は、とあるゲームソフト会社のウェブサイトで4コママンガを掲載しており、あるいはたまに読み切りやイラストの仕事なども散見されますが、まとまった作品としてはこの「ひだまりスケッチ」がほぼ唯一と言ってもいいマンガとなっており、紛れもなくこの作者の代表作となっています。

 「まんがタイムきらら」系列の作品は、いわゆる「萌え4コマ」の中心的存在と言われ、主に萌えキャラクターとまったりした雰囲気の日常描写やストーリーが特徴の4コママンガとして、今では一大ジャンルを形成していますが、この「ひだまりスケッチ」もまさにその典型的な作品となっており、やはりのんびりと癒される日常描写が最大の特徴となっています。
 その一方で、高校の美術科を舞台にした「美術4コマ」としての側面を持ち、要所要所で美術科での授業風景や日々の課題に取り組む姿、美術関係の知識なども盛り込まれ、こちらでも大きな人気を獲得しました。作者自身も美術大学出身らしく、自分の経験が存分に活かされた形となっています。また、どういうわけか、このような美術部を舞台にした4コママンガは、他にも人気作が多く見られ、いずれもがトップクラスの人気を誇っているのが面白いところです。

 その中でも、この「ひだまりスケッチ」は、2007年と2008年の二度に渡ってTVアニメ化され、しかもこれが非常に評判がよく、圧倒的な人気を獲得することになりました。元々雑誌内、出版社内では看板クラスの人気作品だったのですが、このアニメの成功によって一回り以上高い人気を獲得することになったのです。アニメファン向けに企画された各種イベントも毎回盛況を博し、声優や作者自身までが人気を得るなどの新たな動きも生まれており、「ひだまりスケッチ」を語る上ではこのアニメ作品を抜きにして語ることはできません。


・美術関連の話よりもキャラクター同士の楽しい日常に重点が置かれた構成。
 前述のように、このマンガは、高校の美術科を舞台にしており、中でも学校の門前にあるアパート「ひだまり荘」に住む4人のキャラクターが、作品の中心となっています。主人公のゆのと同級生の宮子(みやこ)、上級生のヒロと沙英(さえ)、美術科に通うこの4人の、学校や日常生活でのちょっとした出来事を丹念に描く構成で、特にこの4人の緊密な交流に重点が置かれているのが最大のポイントです。

 美術科を舞台にした4コママンガとして、要所要所で確かに美術関係のネタは多く盛り込まれています。しかし、それ以上に、この4人の楽しく賑やかな生活、まるで家族同然とも言えるような親しい交流こそが、まさに作品の中心となっており、一方で「美術4コマ」と言い切るにはちょっと違和感もあります。「ひだまり荘」というアパートの名前が作品のタイトルとなっている通り、実は学校よりもこのひだまり荘での日常描写の方が中心となっている感もあり、あるいは学校が舞台になっている話でも、美術の授業だけでなく学校での普段の光景や学校行事の話が多い。つまり、「美術そのもの」ではなく、「美術科に通う生徒たちの楽しい生活」に力点が置かれていると見てよいでしょう。

 これは、メインとなる登場人物が非常に少ないことにも表れています。このマンガ、ほとんどの話で上記の4人が中心となっており、それ以外のキャラクターの登場頻度はあまり高くありません。一応、学校での先生の吉野屋先生や校長先生、アパートの大家さんなどもメインキャラクターと言って言えないことはないのですが、それ以上に本当にこの4人のみで話が構成されている感があります。これは、他の萌え4コマでも近い構成の作品はいくつかありますが、その中でもこの「ひだまりスケッチ」の収束性は特に目立ちます。それだけ4人の緊密な交流に重点が置かれている証と言えます。

 なお、これは同じ美術系の4コマで、同じ「Carat」に掲載されている「GA 芸術科アートデザインクラス」とは対照的で、こちらの方は美術系の話、知識がかなり多く、より美術に比重を置いた作りになっています。


・4コママンガとしても面白いのは見逃せない。
 このように、楽しい日常生活を描いたほのぼの癒し系の要素の強い本作ではありますが、一方で純粋に4コママンガとしても面白い点も評価が高いところです。
 まず、4コママンガ1本1本が面白い。爆笑するようなネタではないのですが、くすっと笑えるような楽しい出来事が軽妙なオチで締められ、誰もが素直に笑えるマンガになっています。ネタ作りに慣れているところがあり、ちょっとした日常の出来事を、うまく笑えるネタにする作者の力量には確かなものがあります。ただ単に和み癒されるだけのマンガではなく、純粋に4コママンガとしても笑えて楽しめる。これは非常に重要なポイントです。

 さらには、一回の掲載できっちりひとつのストーリーが完結している点も見逃せません。これは、他の4コママンガの連載でも同じような試みをしているマンガは多数あるわけですが、この「ひだまりスケッチ」のストーリー作りは実に卒なくレベルが高く、毎回ひとつの面白いストーリーを構成しています。のちにTVアニメ化された際にも、きっちり1話ごとに完結しているこの原作の構成は非常に都合が良く、ほぼそのままに近い形でアニメの1話を構成することができました。4コママンガのアニメ化は、原作の再現という点で中々難しいものがあると思いますが、この「ひだまりスケッチ」は原作からしてアニメ化に適した優秀なものだったと言えるでしょう。


・萌え4コマを象徴する和み萌える絵柄ももちろんポイントが高い。
 さらには、絵のレベルも非常に洗練されています。枠の小さい4コマに収まる絵柄として、デフォルメとリアルの間でうまくバランスが取れ、それでいて実に可愛らしい素晴らしい萌え絵になっています。この蒼樹うめの描く萌え絵柄は、コアユーザーの間では絶対的な人気があり、コミック以外のイラストの仕事を任されることもしばしあり、どれもひどく高い人気を誇っています。

 とにかくキャラクターの絵柄にくせがなく、実にかわいらしい。女性らしい中性的な絵柄なのですが、一方で男性読者をも惹きつける確かな魅力があり、非常に幅広い層に愛されるビジュアルになりました。いわゆる男性に強く受ける肉感的なエロを感じさせる絵柄ではないにもかかわらず、それでも男性にここまで人気があるのは、このジャンルの萌え4コマには多くに共通する特長であり、このようなバランスの取れた絵柄が今の萌え4コマを支えていると言っても過言ではありません。そして「ひだまりスケッチ」の絵は、その中でも最もキャラクターの優しさというか人の良さ?が強く表れた、誰もが和んでしまうようなかわいさがあります。それは、キャラクターの多くが丸っこい顔のタレ目であることが大きいのでしょう。
 ときたま見られる独特のデフォルメされたキャラクターの顔も目を引きます。顔を思いっきり上下につぶし、目を細くした独特のギャグ顔で、これは蒼樹うめのかつてのウェブでの4コマ作品から見られる、この作者ならではの表現になっています。

 さらには、カラーイラストのレベルも高く、この「ひだまりスケッチ」のイラストは、毎号のようにきららCaratの表紙を飾り続けました(特定の作品が表紙を続けるのはきらら系のひとつの特徴でもあります)。女性作家らしく毎回服装にも凝っていて、雑誌読者の目を楽しませてくれました。コミックスの表紙や裏表紙では、制服のイラストがほとんどであまり私服の絵が見られないのは残念なところですが、制服姿もこのマンガのキャラクターのトレードマークとなっているので、これは仕方のないところでしょうか。


・アニメの完成度の高さで人気は不動のものとなった。
 このように、4コママンガとしてとてもよく出来た作品だったのですが、これが2007年にアニメ化され、その面白さで原作ファンのみならず多くの視聴者の圧倒的な支持を集め、さらに広範で高い人気を獲得する作品となり、その評価は不動のものとなった感があります。

 アニメ化を担当したのは新房昭之監督とシャフトで、かねてよりマニアックな作風で定評のあった制作陣であり、とりわけ2005年に放映された「ぱにぽにだっしゅ!」では、無数の黒板ネタや当然織り込まれる実写ネタに代表される膨大な小ネタの数々で、一躍センセーションな話題を巻き起こしました。この「ひだまりスケッチ」にも、その制作の路線をかなりの部分で受け継いでおり、こちらでも小さなネタやお遊びが多数散見される意欲的な作品となっています。

 しかも、「ぱにぽにだっしゅ!」の内容が多くの部分で膨大なネタで占められ、原作とは若干雰囲気を異にしてしまったのに対して、この「ひだまりスケッチ」のアニメ作品では、原作のストーリーをかなりの部分で忠実に再現し、そこに適切な範囲で小さなネタやお遊びを挿入するというスタイルで、原作の雰囲気をも丁寧に再現した、非常にバランスのよい作品になっている点が、実に大きなポイントです。これは、視聴者によって多少好き嫌いが分かれた「ぱにぽにだっしゅ!」と異なり、ほとんどの視聴者に喜んで受け入れられ、シャフト制作のアニメの中でも最も安定した評価を得た良作となりました。

 それでも、2007年に放映された一回目のアニメ化時には、制作が間に合わなかったのか作画面の出来が安定せず、後半にはかなり崩れた回も見られ、これが僅かな瑕疵となっていたのですが、2008年放映の2回目のアニメでは、その作画面の出来も改善され、ほぼ完全にパーフェクトな出来栄えとなりました。これをもって、アニメ・原作共にその人気は不動のものになったと言えるでしょう。


・アニメファンの盛り上がり、作者の人気の高さも見逃せない(笑)。
 そして、このアニメの出来が本当に良かったために、アニメのファンの間で終了後も末永く愛され、何度もイベントが開催されることになりました。その中心となったのが「ひだまつり」「超ひだまつり」と呼ばれるイベントで、声優や制作陣が多数参加し、特にメインキャラクターを演じる声優陣は非常な人気を獲得しました。このアニメの仕事をきっかけに、担当声優たちの間では非常に仲が良くなり、作品のキャラクター同様の親密な仲になったというのも、アニメのもたらした大きな成果でしょう。特に、主人公ゆのを担当した阿澄佳奈は、この作品で一気に有名となった新人の声優さんで、非常に優秀な演技を示し、このアニメが出世作となり一躍人気声優となりました。

 しかし、この阿澄佳奈と同等、あるいはそれ以上に、このアニメで人気を上昇させたのが、原作の作者である蒼樹うめです。彼女は、元は原作者の自画像だった謎の緑色の生き物(笑)としてアニメにも登場し、しかも自らがその声を担当して声優デビューを果たし、その声でも人気を博したのです。しかも、それだけでなくキャラクターソングまで歌い、さらにはイベントにも生出演してこれが大評判、ついには声優以上の大人気を獲得することになるのです。
 その人気は凄まじく、愛称として「ウメス」「うめてんてー」などと呼ばれ、さらには作者自身の容姿のかわいさもあり、まさに作者萌えを誘発するのに十分でした(笑)。今ではマルチタレントといってもよい活躍をすることになってしまったうめ先生、コミケでも毎回大人気で、アニメ化前の普通のサークルだった時とは、様子が一変してしまったようです。


・まさに萌え4コマの代表的作品。マンガの純粋なレベルの高さ、アニメも含めての盛り上がりは見逃せない。
 以上のように、この「ひだまりスケッチ」、原作の和み癒される日常描写、作品にアクセントを加える美術要素、4コママンガとしても面白い点、最高に萌える絵柄の素晴らしさ(笑)と、実にあらゆる意味でレベルが高い作品であり、実際に人気が出たのもうなづけます。単に萌えるだけの作品では決してなく、純粋に4コマとしてのレベルが高いのがポイントだと言えるでしょう。これは、他の芳文社の4コママンガ全般にも言える特長だと思いますが、その中でも最もバランスの取れた、汎用性の高い優れた連載になっていると思います。男性層に読者が大きく傾いている萌え4コマの中でも、比較的女性の読者が多いことも、その事実を反映していると思います。

 さらには、アニメの成功もこのマンガの価値をさらに押し上げました。これほどまでにアニメが原作と完全にマッチした例もあまりなく、原作のファンをも一気に増加させました。放映終了後もアニメの盛り上がりが持続し続けている点も大きなポイントで、これも原作の人気の維持につながっています。通例、アニメが終了すると原作の勢いが盛り下がってしまう例がかなり多いのですが、このマンガに関しては完全な例外と言えるでしょう。この分だと、いずれ第3回目の(第三期の)アニメも制作されるのではないでしょうか。

 そして、このアニメの成功は、のちの萌え4コマの先行的な存在となりました。4コママンガは、長い間アニメ化される作品が少なく、芳文社のきらら系だけで見るならば、2008年以前はこの「ひだまりスケッチ」と「ドージンワーク」しかありませんでした。いずれもきらら系での看板作品なので、アニメ化されたのも妥当だと思いますが、それでもこのマンガが見事アニメ化された功績は大きい。しかも、「ドージンワーク」の方のアニメは、どういうわけか大失敗してしまったので(笑)、この「ひだまりスケッチ」こそが今まできらら系で唯一4コマで成功した作品として、他の同系の作品の代表格となり、他のマンガを引っ張ってきたと言えます。その後、2009年になってようやくきらら系からもアニメ化作品が相次ぎましたが、その牽引役となった功績は大きいと言えます。

 そして、「ひだまりスケッチ」自体も今でも健在であり、表紙こそGAに譲ってしまったのものの、巻頭カラーは何度も続くなど、いまだに雑誌の看板作品であり続けています。安定した原作のレベルの高さから見ても、まだまだ末永く私たちを楽しませてくれるでしょう。


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