<ひめなカメナ>

2008・6・13

 「ひめなカメナ」は、ComicREXで創刊号(2005年12月発売)より開始された連載で、同誌の中でも比較的中堅どころに位置した作品です。ページ数はさほどでもないショートギャグのような作品でしたが、そのマニア受けする独特のシュールでブラックなギャグ・コメディで、一部読者にコアな人気を獲得しました。

 作者は結城心一で、元はREXの発売元である一迅社においてゲームアンソロジーの仕事を行い、あるいは他社においてもいくつかのギャグマンガを手がけています。そして、このREXの創刊を契機に、一迅社においてもオリジナルのギャグマンガである、この「ひめなカメナ」を手がけるようになります。REXには、彼以外にもゲームアンソロジー出身の作家はかなり多く、特に「かんなぎ」を執筆している武梨えりは、この結城心一とは実の兄妹であり、さらに「ろりぽ∞」を描いている仏さんじょも加えてこの3人は非常に仲が良いらしく、互いの作品に相手のマンガからのパロディネタがよく見られます。

 そして、この3つの作品「ろりぽ∞」「かんなぎ」「ひめなカメナ」は、当初より男性マニアの人気が非常に目立つマニアックな作風で、これまでの一迅社の雑誌にはなかった新しいタイプの読者層を呼び込むことになりました。これは、のちのREXの方向性を決定付けた出来事と言えるもので、これ以降、REXの連載陣には、そのようなタイプの作品や、あるいは原作付きゲームコミックがよく目立つようになりました。特に、「かんなぎ」は、REXで最初にアニメ化されるほどの看板作品となり、「ろりぽ∞」も、それに近い人気を獲得しています。

 一方で、この「ひめなカメナ」に関しては、ページ数の少ないショートコミック的なマンガであり、かつ人を選びがちなシュールでブラックな作風ということで、この2作ほどの広い注目度を集めることはなかったようです。しかし、それでもマニアックな人気を集める個性派のマンガということで、やはりREXでは確固たる存在感を示した作品でもありました。


・結城心一のこれまでの作品。
 上でも書いたとおり、この結城心一という作家は、これまでにも他社でいくつかのオリジナル作品を手がけており、その点で一迅社アンソロジー出身者の中ではやや少数派の存在と言えます。同じく「かんなぎ」の武梨えりや「ろりぽ∞」の仏さんじょが、このREXでの連載が自身の初オリジナル連載だったのに対して、 この結城心一は、すでに他社でいくつかの個性的な作品を連載しており、知る人ぞ知る作家となっていました。

 まずは、これは「コミック零式」、のちに「コミック電撃大王」で連載されていた「ももえサイズ」という作品。ももえという名の死神が、死神のカマでモノを斬っていく話なのですが、斬った物が自分に同化するという特殊能力を持っていて、そのたびに主人公の名前も、ひいてはマンガのタイトルまでも変わってしまうという、極めてトリッキーでシュールな設定の話でした。内容的にも人を食ったようなギャグが多く、萌え系のマンガでありながらそれ以上に異様な個性で一部読者の注目を集めました。

 そしてもうひとつ、こちらは「週刊わたしのおにいちゃん」という雑誌で連載されていた「まとちゃん」という4コママンガです。これは、虫が好きな女の子のまとちゃんが、気持ち悪い系の虫を愛でまくり、周りの虫嫌いのキャラクター達が引きまくるという、なんともえげつない(笑)マンガとなっています。こちらも、絵はかわいらしい萌え系の作画なのですが、そのシュールかつブラックなギャグがやはり特徴的で、一部読者に大いに注目を集めます。
 その後、掲載誌が廃刊されて連載は中断しますが、のちに一迅社のゼロサムの増刊でる「WARD」に移って連載が継続され、そちらでコミックスが一冊にまとまって出ることになりました。それは、ここで扱う「ひめなカメナ」の1巻と同時に発売され、当時はこの「まとちゃん」の方が知名度が高かったため、どちらかと言えばこちらの方がよく売れたようです。


・この作者ならではの海洋生物ギャグ。
 このマンガは、とある日本の港町・岩牡蠣町(いわがきちょう)を舞台にして、そこに海から上がってくるオモシロ海洋生物たちが闘ったり闘わなかったりしてグダグダなギャグを繰り広げるという、なんともこの作者の趣味が全面に出た内容になっています。「まとちゃん」ではもっぱら虫でしたが、今回は海洋生物の面白い生態を笑えるギャグに昇華していて、風変わりだが笑えるギャグマンガになっています。

 主人公であるひめなとその姉・カメナは、海亀の姉妹にして海の城の姫候補のため命を狙われており、毎回のように海から海洋生物の刺客たちがやってきます。ひめなは人間そのものの姿ですが、姉のカメナはひめなのランドセルとして、そこから首を出すような妙なスタイルで常に一体で行動しており、その妙な形態がまず面白い。カメのランドセルという設定にバカバカしいオモシロさを感じます。

 そして、ひめなたちを狙ってやってくる海洋生物たちの、独特の生態の描写がまた面白い。マニアックな海洋生物の独特の生態で毎回笑わせる、実に笑える「海洋生物ネタ」ギャグとなっています。特に、対立する姫候補である砂隠ひらめ・カレイのひらめカレイ姉妹、譲頭ひさめ・こさめのサメ兄妹などは、ひめな姉妹と同じくふたりで独特のギャグ・コンビネーションを見せてくれます。

 個人的に特に面白かったのが、クラニというカニが手にダツ兄弟の腕を付けられ、それでひめなを襲ってくる話でしょうか。ダツというマニアックな魚の知識をふんだんに説明するその内容がやたら面白く、なんとなく海洋生物の知識も得られるという利点も見逃せません(笑)。あとは、岩牡蠣町に祭られている牡蠣の神さまからエキスを抽出して売りさばく話なども秀逸で、最後に老人たちのパワーを吸収して巨大化するシーンなどは、バカバカしくひどく笑えるこのマンガならではのシーンと言えます。


・足夫のいじられぶりが最高に笑える。
 そして、このマンガでは、岩牡蠣町の自警団なる組織が存在し、主人公のひめなとカメナを敵対組織から守り、やがてはこのふたりもそこに参加することになります。そして、この自警団の団長なのが、八貫足夫(やつらぬきたすお)という男なのですが、この人が徹底的ないじられ役となっていて、そのいじられギャグが最高に笑えるのです。

 しょっぱなからひめなとカメナの力を恐れるあまり悪夢を見るようになり、授業中に目覚めた後でいきなり先生に鉄山靠 (てつざんこう)を食らうシーンが、まず最高に笑えます。その後も、ひめなとカメナがそれを治そうとすると一目散に逃げ出しなぜか野生化、それを抑えた後もトラウマが残りひめなたちを連想させるものに恐怖を抱くようになってしまいます。そして、それを治すために強制的にコントローラー(生体ジョイパッド)で勝手に操作するという話が最高に面白いものでした。コントローラーでゲームキャラのような動きを強いられる足夫が最高に面白い。

 その後も、ことあるごとにいじられのネタにされ、中でも玉手箱でいきなり赤ん坊に戻ってしまう話や、ひめなのランドセルの中でカメナの罠にはまり、自分がカメのランドセルを背負ってしまう話など、とにかくやたらと面白い。真面目な性格で徹甲拳なる必殺技まで使う達人のはずなのですが、なぜかあまり強さを感じない役どころで、しまいにはトレードマークの徹甲拳まで他のキャラ全員が使えるような話まであり、その強さも形無しになってしまいます。最終的には団長をクビにされたショックに負けて、敵対者にキメラに改造されて襲ってくるという究極に情けない展開を迎えます。

 このようないじられネタは、人によっては不快に感じかねないものですが、このマンガの場合、あっさりと明るめのノリで、いじりもあまり深入りせずにすぐに解決するケースがほとんどなので、不快感はさほど高くはなく、素直に笑えるギャグとなっています。


・編集者による煽り文が面白すぎる。
 そしてもうひとつ、このマンガに関しては、担当編集者による雑誌掲載時の煽り文がやたらと面白い。
 煽り文とは、主にマンガの冒頭やラストのページで、タイトルのコマやマンガの周りの余白に書かれる、マンガを盛り上げるための文章ですが、このマンガの場合、はっきりいって人を食ったようなふざけたものばかりで、その脱力ぶりがやたら面白い。

 「夏休みだが我々には関係ないぞスペシャル」とか、「今月単行本が発売されるので買うとよい」とか「REX屈指の後期高齢者活躍マンガの決定版」とか「桜は咲いたかなSP(スペシャル)!」「温暖化で暑いねSP(スペシャル)!」「先月号読んでない人にはなにがなんだか分からないでしょ、ふはははは」とかふざけたものばかりで、積極的にこのマンガを盛り上げようとする意志がほとんど感じられず、悪ノリばかりでまったくやる気の感じられないこの煽り文は、実はマンガの内容と非常によくマッチしており、このマンガのグダグダ感をさらに助長するような役割を果たしています。しかし、これがやたら面白いのも事実で、毎回のごとく雑誌掲載時に最も楽しみにしていました。

 しかし、この煽り文、コミックスにはまったく掲載されていないのが残念なところです。このマンガに限らず、こういった面白い煽り文のある作品は、コミックスにも積極的に掲載しても良いのではないでしょうか。ヤングガンガンの「天体戦士サンレッド」では、この煽り文をそのまま掲載しており、それがマンガの面白さを倍増させています。この「ひめなカメナ」の煽り文も、一体どんな編集者が書いているのか知りませんが(笑)、独特のセンスと切れの良さを感じます。これも作品の大事な一部分として、コミックスに掲載すべきでしょう。これを掲載しないと、オモシロさが半減してしまうような気すらするのです。


・ずっとグダグダのままだった貴重な連載。
 以上のように、この「ひめなカメナ」、この作者ならではの趣味と知識が活きた、悪ノリ全開のショートギャグと化しており、これまでの作者のギャグマンガ同様のノリで楽しめる作品です。REXの中では、ページ数の少ないショートコミックで、かつ独特のノリの作品のためか、雑誌の表に出てくることは多くなく、中堅どころの位置づけに終始しました。それでも、長い間コンスタントに連載し続け、かねてからの作者の中心読者だったマニア系読者を誌面に引き付け、REXの誌面に貢献したことは間違いないでしょう。

 そして、これと同じくして始まった仲の良い連載「ろりぽ∞」「かんなぎ」が、どちらもかなり盛り上がるストーリーを持っているのに対して、このマンガは結局のところマイペースなままでした。「ろりぽ∞」が、実は裏でかなり熱いシリアスなストーリーを持ち、「かんなぎ」もまた、ヒロインの正体を巡るシリアスなストーリーを持っているのに対して、この「ひめなカメナ」には、これといった凄いストーリーはなく、結局グダグダなままだったように思います(笑)。これは、いかにもこの作者らしい作風であり、このマンガらしさを貫いたと言えます。

 そのため、「ろりぽ∞」「かんなぎ」ほど大きな扱いではなかったのですが、それでもこの作者ならではの連載がREX創刊からずっと読めたのは幸いでした。結城さんの連載の中でも最長となり、コミックスも4巻までと最も多くなりました。それを考えると、このREXという雑誌を創刊し、このような作者に新たなる活躍の機会を与えたのは、やはり相当に大きな意義があったと言えるのではないでしょうか。現在、結城さんは一迅社の別雑誌でも連載を続けていますが、またこのような笑えるギャグでREXを賑わせてほしいものです。


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