<生徒会の一存>

2010・12・20

 「生徒会の一存」は、富士見ファンタジア文庫で刊行された、同名のライトノベルを原作に持つ作品で、富士見書房の「ドラゴンエイジPure」で2008年から連載が始まり、同誌の休刊に伴い、現在ではドラゴンエイジで連載中となっています。原作は、1巻の発売時に非常な話題を獲得し、その後圧倒的な人気を獲得、ついにはアニメ化まで達成しました。最近のライトノベル作品の中でも、最も成功した作品のひとつに数えられると思います。このコミック版も、その人気を受けてドラゴンエイジでコミック化されたもので、こちらも原作同様に高い人気を維持してきました。

 作者は、原作のライトノベルが葵せきな、原作の作画担当が狗神 煌(いぬがみ きら)、そしてこのコミック化を担当した方が10mo(とも)となっています。原作者の葵せきなさんは、この「生徒会の一存」以前に「マテリアル・ゴースト」という作品でデビューしており、こちらも中々の評価だったようですが、2作目にあたるこの「生徒会の一存」が大ヒット、一躍有名になりました。作画担当の狗神煌さんも、同時期に角川書店で美少女ゲームのコミック化作品を手がけたことがきっかけで、PCの美少女ゲームの仕事などもやっていたようですが、この作品のイラストでやはり一躍人気作家となり、この後に角川書店のコンプエースで「えびてん」という連載を始めることにもなりました。そして、このコミック化担当の10moさんも、この「生徒会の一存」のコミック版が初連載作品で、彼女もまた人気作を手がける作家となりました。この3人は作品を通じて仲が良いようで、ブログでもその交流の跡がよく見られます。

 この「生徒会の一存」が、最初に大きな話題となったのは、ひとえにその独特のコンセプトにあります。極めてゆるい雰囲気の日常系作品なのですが、そうした作品自体は過去にも存在していました。しかし、この作品の場合、「生徒会のメンバーがただひたすら生徒会室でだべる(とりとめのない会話をする)だけ」でほぼすべてが構成されており、そのあまりに極端なコンセプトに、当初はインターネット上のライトノベルを扱うブログや掲示板上でも、賛否両論あったと記憶しています。しかし、初期の頃こそ一部に否定的な意見が見られたものの、それ以上に多くの読者に素直に受け入れられたようで、瞬く間に人気シリーズとなりました。

 それだけではありません。このような「部室(この場合生徒会室)でだべることで大半が構成される作品」が、この「生徒会の一存」のヒット後に、いくつも出てくるようになったのです。この作品がきっかけで、「部室だべりもの」とでも呼べるジャンルが生まれたと言ってもいいでしょう。また、それだけでなく、いわゆる生徒会が舞台の「生徒会もの」も、これ以降数多く出てくるようになりました。一見してただのゆるい日常系のコメディ作品に見えて、のちの作品に与えた影響は非常に大きかったのです。この記事では、この「生徒会の一存」に加えて、これら派生作品についても見ていきたいと思います。


・後発の作品もヒット「部室だべりもの」。
 過去にも、生徒会の構成員たちが主人公だったり、あるいは生徒会が舞台だったりする作品は、いくらでもありました。学園ものでは、生徒会は定番の設定のひとつだったかもしれません。しかし、この「生徒会の一存」は、「生徒会のメンバーがただひたすら生徒会室でだべるだけ」という極端なコンセプトが、過去の生徒会ものとは大きく異なっていました。なんらかの生徒会の活動を描くシーンもあるにはありますが、そちらはメインではなく、むしろそれをネタにして生徒会室で笑える会話を繰り広げる。生徒会員たちがみな個性的で、会話の掛け合いが面白い、会話のネタもオタク的でマニアックなものが多く、分かる人には最高に面白いこともあって、この新コンセプトは読者に大いに好評を得ます。

 そして、この「生徒会の一存」のヒットに影響されたのか、この後に同コンセプトの作品がいくつも出てくるわけですが、これら後発の作品にも良質のものが多く、それらも人気を獲得することになります。
 具体的には、まず、メディアファクトリーのMF文庫Jから出たライトノベル「僕は友達が少ない」を挙げるべきでしょう。どこか「残念」で友達が少ない美少女たちと主人公が、「隣人部」なるクラブの部室で丁々発止の会話を繰り広げるというもので、その残念なキャラクターたちの個性に大いに読者の共感が集まり(?)、こちらのライトノベルも人気シリーズとなり、コミック化もされています。後発の作品で最大のヒットを飛ばしているのは、現時点では間違いなくこれでしょう。オタク的なネタが多いのも「生徒会の一存」と共通しており、読者層もある程度かぶっているのではないでしょうか。この作品をもって、この手のジャンルがライトノベルに定着したと見てもよいかもしれません。

 そしてもうひとつ、これもライトノベルですが、こちらは小学館のガガガ文庫の「GJ部」も、好評のシリーズものとなっています。「GJ部」は、「ぐっじょぶ」と読むらしいですが、いまいち何をやっているか具体的な活動内容は分からず、普段は部室でまったり過ごしている部員たちの日常を描いた作品となっています。前二者と比較すると、こちらはマニアックなオタクネタや過激な掛け合いは少なく、まったりのんびりした会話と部室での日常が描かれており、こちらの方はより日常癒し系と言える作品かもしれません。ごく短いエピソード多数で構成され、「4コマ小説」との触れ込みでも知られています(実は「生徒会の一存」も、原作者は4コマ小説と公言していますが)。この場合の4コマとは、ゆるい日常描写が特徴的な「萌え4コマ」を想定していると思われます。

 これらの作品の共通した特徴として、どれもメインキャラクターが「主人公+複数の美少女キャラクター」という構成になっている点が挙げられます。最近のライトノベルは、その傾向が大きく萌えに傾いていますが、それを端的に表しているのがこのジャンルだと言えるでしょう。


・数多く登場してきた生徒会もの作品。
 さらには、上記でも述べたような、生徒会の構成員たちが主人公だったり、あるいは生徒会が舞台だったりする作品、いわゆる「生徒会もの」も、この作品の登場と相前後して、様々な雑誌で数多く登場するようになりました。

 メジャー雑誌の週刊少年マガジンの4コママンガで、のちにアニメ化もされた「生徒会役員共」、電撃大王で連載中のあらきかなおの新作「こいこい生徒会」、スクエニのガンガンOnlineで連載中の「生徒会のヲタのしみ」、ガンガンで連載中の「ばのてん!」、コミックラッシュの人気連載で、のちにスクエニのヤングガンガンに移籍して連載中の「学園革命伝ミツルギ」、同じくヤングガンガンでもう終了しましたが「んぐるわ会報」、角川書店のコミックエース連載の「ゆーゆる執行部」、芳文社の4コマ作品「恋愛ラボ」も生徒会が舞台です。このように、今のひとつの流行の設定として、このような生徒会を舞台にしたマンガが増えているように感じます。

 前述のとおり、生徒会を舞台にした作品は、過去からひとつの学園ものの定番としてありました。しかし、それらの作品は、生徒会がなぜか学内で絶大な権力を有していたり、生徒会長を初めとする生徒会員たちが超常的な能力を持って活躍したり、あるいはそんな生徒会が主人公の前に立ちはだかるライバル役として登場したりと、そんなものがかなり多かったように思えます。しかし、最近のこれらのマンガは、そういった作品は少数派であり、むしろ上記の「部室たべりもの」に近い、生徒会室や学園内での日常会話を中心とした作品が多数を占めているようになっているようです。上記の作品の中では、「こいこい生徒会」あたりは、比較的過去の定番作品に近いものを感じますし、あるいは「んぐるわ会報」は、比較的真面目に生徒会活動の様子を描いています。しかし、それ以外のほとんどは、ゆるい日常会話、ギャグやコメディを中心に構成された作品になっているようです。つまり、「生徒会もの」であると同時に「部室だべりもの」でもある。このふたつを同時に満たしている作品が、数多く見られるようになっているのです。これは、最近の学園ものマンガの流行となっている一形態として、見逃せないものがあると思われます。


・同系の作品の中でも、「生徒会の一存」は極めて安定して面白い。
 そして、これら数多く見られるようになった同系の作品の、先駆的な存在となったこの「生徒会の一存」ですが、このマンガの面白さは、他に比べても非常にハイレベルで、安定した抜群の面白さがあると考えています。おそらくは、同系の作品の中でもトップレベル、まさに先駆者の面目躍如と言ったところでしょう。では、一体何がそんなに面白いのか。

 まず、ひとつには、会話で繰り広げられるネタがいちいちマニアックで、そればかりでなく、そのネタを徹底的に突き詰めて行く所までいってしまう、まさに妄想全開の展開が非常に面白いことが挙げられます。エロゲーやアニメなどのオタクネタの設定を、キャラクターたちに当てはめて妄想を繰り広げる展開が本当に笑えます。どんどん話が飛躍して盛り上がって広がっていくところが、この作品の会話の最大の魅力でしょう。単に日常のゆるい雰囲気の会話というだけでなく、時にそのどこまでも突き進んでいく展開が楽しい。

 そして、その会話を繰り広げるキャラクターたちの個性、これももちろん重要です。主人公にして生徒会唯一の男子生徒・杉崎は、生徒会の他の役員の美少女たちとハーレムを築き上げると常に公言し、彼女たちを自分の妄想へと巻き込んでいきます。その一方で、実は生徒会を楽しい空間にしていこうとする影の努力も見逃せません。バカなことばかり言ってるようにみえて、基本的に主人公が「いい人」である点が、この作品を意外に安心して読める理由になっているのかもしれません。
 そして、生徒会長の桜野くりむを初めとする、個性豊かな4名の美少女生徒会員たち。彼女たち一人一人が分かりやすい個性をもっていて、杉崎も含めて5名で様々な組み合わせで絶妙な会話を繰り広げる。個性的なキャラクターの組み合わせによる会話のバリエーションの豊富さ。これが読者を飽きさせない原動力となっています。

 そしてもうひとつ、実力のある作家が描く絵の魅力は見逃せません。原作のイラストを手がける狗神煌さんの絵も、このコミック版を手がける10moさんの絵も、どちらも本当にいい。個人的には、ややくせの強い原作の狗神煌さんのイラストよりも、くせがすくなく柔らかい感じのするコミック版の10moさんの絵の方が好きですね。このバランスの取れた絵柄は、原作の持つ魅力をよく再現しつつ、マンガの絵としても十分に完成度の高いものに仕上がっています。連載デビュー作にしてこの仕事ぶりは、合格点以上の評価を与えられますね。


・時にいい話が見られるのもポイント高し。
 加えて、単にオタクネタの妄想全開なだけの話でもなく、時におおっと思わせるようないい話、ほんわかしてキャラクターや読者を幸せに導くような終わり方のエピソードも見られ、それがこの作品の面白さを増しています。

 そんなエピソードの中でも特に印象に残っているのが、コミックスでは2巻冒頭のエピソード7「恋だけじゃ駄目なのよ!愛に昇華してこそホンモノの恋愛なの!」でしょうか。これは、校内で不純異性交遊が散見されるようになり、性の乱れを嘆いて生徒会員たちが会議を重ね、最後に主人公の杉崎が、普段の軽薄な悪ノリ全開の態度からは一変、生徒たちの前で行き過ぎた行為は慎むように説教をします。これは誰のためでもない、自分たちのためにそうするべきだと。この熱のこもった演説に、生徒たちもいつの間にか聞き入り、最後には拍手まで流れて終わるという、意外にも真面目すぎる展開を迎えます。わたしなどは、「まさかこのマンガでこんな話が読めるとは」と、妙に感心までしてしまいました(笑)。

 これはちょっと極端な話ですが、総じてこの作品のエピソードは、主人公の杉崎が周囲を明るく盛り上げ、みなを幸せに導こうという意志が顕著に感じられ、それが作品に対する好印象を生んでいます。エロゲーやアニメのようなマニアックなネタには事欠きませんが、必ずしも毎回ただ悪ノリ全開だけで終わるだけではないのです。最後にはみんながほっと安心して終わるようなエピソードが多い。同系の作品では、総じてキャラクターがいじられる話が多く、それはこの「生徒会の一存」もまったく例外ではないのですが、しかしこの作品の場合、行き過ぎた悪辣なものは感じられず、むしろ最後にはみんなが笑ってエンディングを迎える話が多い。そのような優しい話作りには、大いに好感が持てます。


・「部室だべりもの」「生徒会もの」の先駆的作品にして、安心して楽しめる快作。

 以上、この「生徒会の一存」、誰もが素直に笑って楽しめる明るい快作になっています。同系の作品の中でもその面白さはトップクラスだと言ってもいいでしょう。どんどんエスカレートして盛り上がる会話の応酬が楽しく、ネタが楽しめればさらに楽しめます。その上で、実はいい話、優しく終わる話が多く、意外に安心して読めて読後感もいい。キャラクターいじりが激しく時に気分を悪くするコメディ、ギャグが数多く見られる中、この作品のカラッと明るく読める作風は、大いに評価したいと思います。

 このような作風は、他の読者にも好評を得て、のちにアニメ化もされました。アニメは1クールで終わる短いものでしたが、こちらも中々に好評で、しかも原作同様に意外に心に残るものもあったようです。また、この10moによるコミック化作品以外にも、別の作家によっていくつかコミック化されており、そちらでも人気を得ました。原作に加えて、このマンガを含むいくつかのコミック化、そしてアニメも好評で、このメディアミックスは成功したと言ってよいでしょう。角川グループの数多いメディアミックス作品の中でも、軽快にスマッシュヒットを飛ばしたと見てよさそうです。

 そして、のちに後発の作品を多数登場させることになる「部室だべりもの」「生徒会もの」の先駆的作品となったことも評価すべきだと思います。上に挙げた同系の作品のすべてが、必ずしもこの作品の影響から生まれたものとは限りませんが、しかし、「このような作品が読者に受け入れられる」ひとつの流れを作ったことは事実でしょう。のちに続く人気ジャンルを作って、この時期のライトノベルやマンガの盛り上がりに貢献した。この功績は決して小さくはありません。

 アニメが無事終了を迎え、コミック化連載も一通り揃った今、この作品も安定期に入り、最盛期の盛り上がりに比べれば落ち着いてきていますが、それでも安定したクオリティを維持しており、コミックの最新刊も好評のようです。原作小説は既刊9巻(+番外編3巻)を数え、次で最終巻のようですが、この調子で最後まで原作、コミック共に楽しませてくれるでしょう。


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