<怪異いかさま博覧亭>

2008・9・13

 「怪異いかさま博覧亭」は、Comic REXで2007年1月号より連載中の作品で、先に読み切りとして載った同名作品が好評を得て、そのまま連載化されました。同誌の中では比較的後発の作品ですが、連載開始まもなくしてその卒の無い面白さが認められ、今では実力派の中堅作品として、特にコアなマンガ読みの間でかなりの評価を得た作品となりました。

 作者は、小竹田貴弘(しのだたかひろ)で、男性のようなペンネームですが実は女性のようです。絵的にも内容的にも女性的なところをあまり感じない作風なので、わたしは最近までこのことをまったく知りませんでした。元々は、他社でゲームアンソロジーを執筆していた作家のようで、この「怪異いかさま博覧亭」が初のオリジナル連載となるようです。しかし、これが作者初のオリジナル連載とは思えないほど、最初からかなりの完成度を持つ作品でありました。

 肝心の内容ですが、江戸時代を舞台にした妖怪ものコメディ・・・でしょうか。妖怪ものといっても怖い要素はほとんどなく、愛嬌のある明るい妖怪と人間たちが織り成すコメディ・ギャグが中心で、とても明るく賑やかな作品となっています。特に、キレのあるギャグの面白さは相当なもので、コメディと言うよりギャグマンガとして見る人も多いようです。
 その一方で、作者の妖怪に関する知識、あるいは江戸時代の文化・風俗に関する知識にもかなりのものがあり、ふんだんにそれらの要素が盛り込まれたストーリーは、和風情緒を大いに感じさせる優れた雰囲気の作品にもなっています。作者によれば、時代考証はさほどでもないとのことですが、江戸時代の薀蓄や雰囲気を楽しむ上では、これで十分でしょう。

 そして、このマンガは、Comic REXの中では比較的真面目な作品として、その存在は貴重です。比較的マニア・オタクに受ける作品が中心のREXにおいて、どちらかと言えば「マンガ読み」に評価を得るような通好みの作品が、こうして連載を続けていることで、REXという雑誌の意外な幅広さ、寛容さを感じることが出来ると思います。


・軽妙なギャグがとても面白い良質のコメディ。
 このマンガの舞台は、お江戸は両国に店を構える「博覧亭」と呼ばれる見世物小屋。常に閑古鳥がなく売れない見世物小屋ですが、主人の榊(さかき)はそのことをあまり気にしておらず、むしろ自分が好きな妖怪のことばかり考えています。そんな榊の妖怪好きが高じてか、なぜか妖怪絡みの事件や騒ぎに巻き込まれ、ドタバタと騒ぎながら解決したりしなかったりするようなお話になっています。

 主人公の榊も飄々とした趣味人ですが、周りを固める博覧亭の住人たちも、一癖も二癖もある個性派揃い。榊の幼馴染で本作のヒロイン的存在・蓮華(れんげ)、博覧亭の番頭を務める、実は正体は妖怪そろばん小僧の少年・柏(かしわ)、榊が拾ってきた妖怪・ろくろ首の少女にして家事担当・蓬(よもぎ) 、なぜか極端な怖がりで妖怪が苦手な忍者の娘・八手(やつで)と、中には妖怪も混じりながらも和気藹々とやっています。
 博覧亭が店を構える両国の面々も、気のいいキャラクターが多く、中でも榊の悪友・杉忠(すぎただ)は、活きのいい坊主頭の助平男で、いい意味で悪ノリの生きた性格で、様々な妖怪騒ぎを博覧亭に持ち込んできます。

 そして、こういったキャラクターたちが織り成すドタバタ妖怪騒ぎがとにかく面白い。毎回登場するゲストの妖怪たちも、愛嬌のあるかわいい連中ばかりで、そんな妖怪たちの個性を上手く生かしたギャグが、大変面白いものとなっています。この作者の作るキャラクターのセリフ回しは、実に小気味よく、明るい掛け合いのノリを作り出すのが巧みです。ふきだしのセリフがかなり多いマンガなのですが、一旦はまりだすとそれを追いかけていくのが楽しくなってきます。


・たまにあるシリアスな話も泣かせるものに。
 このように、個性的な妖怪と人間たちが織り成す賑やかなギャグが、大変面白いマンガになっているのですが、一方でたまに織り込まれる、ほろりと泣かせるようなシリアスな話も見逃せません。

 博覧亭の主人である榊は、普段は飄々として不真面目にも見える男ですが、妖怪に対する執着、思い入れは人一倍であり、妖怪たちを見る目は大変に優しい。博覧亭に住まう妖怪である柏(かしわ)や蓬(よもぎ)に対しても、彼は「妖怪だとは気づかない」ふりをして、あえて人間として分け隔てなく付き合っています。そして、そんな妖怪に対して愛を持って接する榊の元に、助けを求めるのか様々な妖怪が慕って集まってくることになるのです。箱の中に鵺として捕らえられたトラツグミの霊を助ける話などは、その小さなトラツグミの容姿も手伝って、大変微笑ましい話になっていました。ギャグ・コメディが中心の賑やかなエピソードではあるのですが、そんな中にうまく妖怪に対する思いやりに満ちた場面が含まれている。そんな話が多いのです。

 中でも、コミックス一巻に収録されている第6話が、特によく出来ていました。これは、ろくろ首の妖怪だった蓬が博覧亭にやってくる顛末を描いたエピソードなのですが、全体的にギャグ要素が薄めで、このマンガでは珍しいシリアス重視の話になっています。育ての親の妖怪に虐待される蓬を助けて、見世物小屋に連れてくる榊の優しさが、大変よく描けた人情話になっていました。一方で、妖怪の親が蓬を虐待する理由もうまく描かれていて、なるほどと納得できるものになっており、このマンガの中でも特に優秀な1話になっていたと思います。


・江戸の文化・風俗に対する描写も見逃せない。
 そしてもうひとつ、作中に盛んに盛り込まれた江戸の文化・風俗描写は見逃せません。はっきりとした筆致の絵柄で、隅々まで丹念に描かれた江戸・両国の風景や、見世物小屋を中心とする建物内の描写、様々な小物。そしてその中で生き生きと暮らす人々の姿・・・。なんとも和風テイストに溢れた、雰囲気たっぷりのビジュアルになっています。決して緻密すぎる絵柄ではないのですが、丁寧な作画でそつなく構成された画面作りのうまさは見逃せません。シンプルな作画ながら、画面に白いところがあまり感じられず、描き込みのうまさが目立ちます。

 そして、そんなビジュアルを裏で支える、作者の薀蓄には確かなものがあります。江戸文化に対する愛着というか思い入れが強く感じられ、コミックスのおまけでもそれを堪能することが出来ます。江戸の下町の、あまり上品とは言えないが活気に溢れた庶民的な文化、それを余すことなく作品に採り入れ、愛らしい妖怪たちと共に、ストーリーの魅力的な構成要素のひとつとなっています。「和風妖怪+江戸の文化・風俗」という、いかにも和風情緒に満ちた作品へと昇華されており、こういった時代物・伝奇物を好む人にもオススメできる作品になっていると思います。コミカルなギャグ中心ということで、ライト感覚の作品に思われがちですが(実際にそうでもあります)、作者の持つ奥深い知識からなる細かい描写は見るべきものがあります。

 そして、雑誌のセンターカラーやコミックスの表紙を飾るカラーイラストも、中々に見映えのするものとなっています。原色をふんだんにあしらった一枚絵のイラストは、ここでも和風情緒に溢れるキャラクターの衣装や小物が画面狭しと盛んに採り入れられ、見た目的にも大いに人目を引くものとなっています。とりわけコミックスの表紙イラストは、実に色彩鮮やかで印象に残りやすく、読者を引き込む力を持っていると思います。


・REXの中でも通好みの実力派作品。雑誌の中での存在感が光る。
 以上のように、この「怪異いかさま博覧亭」、様々な点で作者の実力が感じられる優秀な作品となっており、REXの中でもその安定感が光る作品となっています。元々、ゲームアンソロジー以外にこれといった商業作品のなかった作者の初連載としては、意外なほどの掘り出し物であり、これが加わることで、REXの連載ラインナップはさらに充実したものとなったようです。

 そして、このマンガは、REXのほかの人気マンガが、おおむねマニア・オタクに向けた(と思われる)作品が多数を占める中で、コアなマンガ読みに評価される通好みの作品として、その存在意義は非常に大きいものがあります。REXには、これ以外にも同じようにコアユーザーに評価されると思われる硬派な連載もいくつかあり、例えば「エスペリダス・オード」(堤抄子)や、「ハンド×レッド」(倉田英之・星樹)などの作品が挙げられます。マニア好みの人気作品が看板を飾る一方で、このような確かな実力を持つ通好みの中堅作品もしっかりと連載されており、これがREXという雑誌の価値を大きく高めていると思われます。あるいは、これが他のマニア誌との最大の違いとも言えますし、このような雑誌の連載ラインナップの幅広さ、許容範囲の広さは大いに評価されるべきでしょう。

 そして、その中でもこの「怪異いかさま博覧亭」は、ここ最近特にマンガ読者に評価されているようで、普段REXを読まない読者の間でも、その評判が広まっているようです。決して派手な売れ線ではない、むしろ堅実な通好みの作品でありながら、REXの外まで評価が広まるというのは、十分すぎる成果であると言えます。

 そして、今でも毎回安定した連載を続けており、今後も実力派の中堅作品として健闘するでしょうが、あと一押しでさらなる人気も期待できるかもしれません。一見して地味な作風なので、アニメ化などが期待できる作品ではなさそうですが、それでも今後REXの中でも上位クラスの作品にまでさらに上昇する可能性はあると思います。ゲームアンソロジー出身者の意外な掘り出し物の初連載にして、今後も非常に楽しみな作品が出てきました。


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