<かんなぎ>

2008・6・8

 「かんなぎ」は、ComicREXで創刊号(2005年12月発売)より開始された連載で、同誌の中でも最初期から人気のある連載として、雑誌の中でも中心的な連載のひとつとなっています。当初から非常に力のある連載として、編集部にも重要視されており、そんな期待通りの活躍をする結果となりました。REXでも最初にアニメ化が決定することになりましたが、これも作品の力を考えれば当然の決定だと言えるかもしれません。

 作者は、武梨えりで、元はREXの発売元である一迅社において、ゲームアンソロジー、それもTYPE-MOON作品(月姫、Fateなど)のアンソロジーで非常に人気のあった作家でした。のちに、この作者のアンソロジーのみをまとめたコミックスが出るほどで、ゲームの原作者にもその実力が認められ、のちに原作の企画に参加するまでになっています。なお、この武梨さんは女性ですが、その作風とマッチョな自画像から来るイメージから、男性と間違える人も多いようです。

 そんな武梨さんが、最初に手がけたオリジナル連載が、この「かんなぎ」です。元々、男性向けの要素の強い作家であったため、これまでの一迅社の雑誌、それも女性読者の多いゼロサムやWARDではあまり連載の機会がなく、少年誌として創刊されたこのREXにおいて、ようやく活躍の場が出来たと見るべきでしょう。
 そして、オリジナル連載においても、アンソロジーで見せた実力をそのまま発揮し、極めて卒のない優れた作品を残すことになりました。作者初の連載であるにもかかわらず、すでに完成された面白さを有しています。

 その面白さとは、まずなんといってもコメディ、ギャグのセンスがとにかく高いということ。アンソロジー時代から、その切れ味鋭いコメディには定評がありましたが、それはこの「かんなぎ」でも健在です。とにかく笑えるシーンを作るこのセンスは並ではありません。加えて、ストーリーの構築や絵のうまさにおいても申し分なく、実に優秀な作品となっています。アニメ化にも期待できることでしょう。


・武梨えりと一迅社ゲームアンソロジー。
 上記で述べたとおり、武梨さんは、元々は一迅社のゲームアンソロジー、それも「月姫」「Fate」などのTYPE-MOON作品において顕著な評価を博する人気作家でした。そして、この武梨さんのようなアンソロジー出身の作家が、この「REX」創刊時に幾人も採用され連載を開始しました。この武梨えりの「かんなぎ」のほかに、「ろりぽ∞(アンリミテッド)」の仏さんじょ、「ひめなカメナ」の結城心一がその代表で、特にこの結城心一と武梨えりは実の兄妹であり、兄弟揃って面白い作品を連載しています。また、これに仏さんじょを加えた3人は非常に仲が良いらしく、互いの作品内に他から採ったネタがよく見られます。これ以外にも、REXが初連載ではありませんが、やはりゲームアンソロジー出身者として、高遠るいや美川べるのがいます。

 ただ、その中でも、この武梨えりさんの実力は特に高く、TYPE-MOONアンソロジーの中でも突出した人気を獲得していました。彼女の作風は、とにかくコメディ・ギャグのセンスが非常に高く、誰もが大いに笑えるネタが面白い上に、かつ作画面でも原作であるTYPE-MOON作品のキャラクターイメージをよく再現しており、その点で原作ファンの評価・人気も高かったのです。

 そして、のちにこれがゲームの原作者(奈須きのこ)にも認められ、原作のソフトにもゲストとして参加するまでになります。さらに、のちに彼女のアンソロジー作品のみをまとめた単行本「TAKE-MOON」も出版され、しかも二巻まで出ています。二巻の発売日には、この「かんなぎ」のコミックスと同日に発売されましたが、その当時はまだゲームアンソロジー作家としての知名度の方が高く、どちらかと言えば「TAKE-MOON」の方がよく売れたようです。


・とにかくラブコメとして面白い。
 このマンガの大まかなストーリーは、高校の美術部員の男子生徒・御厨仁が、地区展に出す精霊像を彫っていたところ、地元の「産土神(うぶすながみ)」であるナギ様がそれを依り代に顕現し、彼女とともに暮らすことになるというもの。いわゆる美少女同居系のラブコメと言えるようなマンガですが、しかし、これまでの同系の作品と比較しても、そのコメディセンスとキャラクターの個性に見るべきものがあり、非常に面白いマンガとなっています。

 とにかく、コメディシーンの面白さには見るべきものがあります。TYPE-MOONアンソロジーの時代から、笑えるショートコミックをコンスタントに残してきた武梨さんですが、それはこの「かんなぎ」でも健在でした。笑いのセンスを熟知しているのか、キャラクター同士の会話の応酬がやたらと面白く、思わず笑ってしまうこともしばしばです。

 そして、キャラクターひとりひとりがとにかく個性的です。主人公の仁は、今時の高校生にしては純情な少年で、美術部の面々からトゥーピュアピュアボーイというあだ名で呼ばれるほどの男で、しかもなぜか周囲に色々な噂を立てられ、ホモ疑惑や果ては男女見境なしの男とまで思われるという、愛すべきいじられキャラと化しています。

 さらに、ヒロインの女の子たちも皆面白いキャラクター揃いです。仁の家に同居することになったナギは、神様を名乗る割にはやたらと俗っぽく、まったく神らしくありません。しかも、周りには仁の腹違いの姉で二重人格を持つお嬢様という設定にしており、仁以外には猫をかぶった性格で通しているところがやたら笑えます。このナギの神様としてのギャップが、良質のコメディを生んでいることは間違いありません。

 仁のおさななじみのつぐみもいいキャラクターです。ナギの登場により、仁を意識して色々と対抗心を燃やして奮闘したり空回りしたりする様がとてもかわいらしく、それが読者に大きな人気を呼んでいます。さらに、なぜか仁についてあらぬ噂を信じ込んで周囲にふれ回る失敗を続けてしまい、それで仁がえらい目に遭う様がまた面白い。

 そして、さらなる個性的なキャラクターとして、ナギと妹にしてもう1人の神様であるざんげちゃんを忘れてはなりません。なぜか街頭で人々の悩みを聞くアイドルとして活躍しており、その人を食ったような言動でナギに対抗心を燃やしてきます。妙にサドッ気まであるこの極めてエキセントリックなキャラクターは、ある種ナギ以上に読者人気があり、「かんなぎ」のもうひとつの顔的存在になっています。


・美術部の面々とのやり取りが最高に面白い。
 しかし、それらのキャラクターと並んで、あるいはそれ以上に笑わせてくれるのが、仁の所属する美術部の面々です。いずれ劣らぬ個性派揃いで、揃いも揃って笑えるキャラクターばかりで、そんなキャラが一度に登場する美術部関連の話こそが、このマンガで最も面白いかもしれません。

 まず、美術部部長の木村貴子は、他の部員を仕切るやり手の部長なのですが、なぜかオタク文化に興味深々で、メイド喫茶に行こうと突然言い始めて実際に行ったり、腐女子という言葉を知らなかったのを気にして知ろうと躍起になったりと、騒ぎの中心を担っています。それを補佐する副部長の大河内紫乃は、対照的にお嬢様っぽい物静かな言動で、しかし美術部の雰囲気と明らかにずれていて笑いを誘います。

 さらに、仁と同じ男子部員の響大鉄秋葉巡がやたら面白い。大鉄は、今時固い寡黙な大男ですが、中身は意外と繊細で、しかもなぜか仁とのホモ疑惑をかけられてしまう様がなんとも笑えます。そして、秋葉巡の方は、典型的なアキバ系オタクなのですが、その自分の趣味を軽く見られたくない、実はいい趣味だと力説するあたりがいかにもオタク的で、その様子がとてつもなく面白いのです。

 そして、これに仁を加えた個性的な美術部の面々が、楽しく愉快に活動する様子が、とにかく見ていて面白い。このサークル活動の様子は、あの「げんしけん」のオタクサークルや、ゆうきまさみの光画部(「究極超人あ〜る」)に近いニュアンスがあり、ああいったどこか一風変わった人々が集うサークル活動ものが好きな人には、特におすすめできる一品となっています。


・産土神・ナギを巡るシリアスなストーリーも見逃せない。
 しかし、上記のような個性的なキャラクターによる楽しいコメディが楽しめる一方で、ヒロインにして神さまであるナギを巡る一連のストーリーも見逃せません。普段はまったく神らしくないナギですが、時に神としての存在の疑問に揺れ動いて悩む、そのようなシーンには見るべきものがあります。

 産土神(うぶすなかみ)とは、その土地を守る土着の神のことです。そしてナギの場合、この地に巣食う「ケガレ」なる災厄を浄化するという役割があるらしいのですが、分神(分身霊・わけみたま)でかつ人間としての依り代を持たないので、直接には触れることが出来ず、仁にある程度頼っているというあやふやな状態です。
 しかし、ある日仁は、同じく神であるざんげちゃんや、彼女が依り代にしている少女の父親から、「実は彼女は神ではなく、たまたま依り代に入り込んだ低級霊が、自分を神だと思い込んでいる」という可能性を指摘され、ナギの存在に対する信頼が揺らいでくるのです。しかも、ナギ自身も自分の存在が分からなくなってしまい、心が揺らいでしまいます。そのため、ふたりのひどく関係が一気にぎくしゃくしてしまい、ついにはそのままナギが家からいなくなってしまうというシリアスな展開を迎えます。

 その後、必死になってナギを探した仁の手により再会し、二人で手を取り合ってナギのことを探っていこうと心に誓うという感動のシーンを迎えます。さらに、かつてナギ自身が助けたという女性とも出会い、その話を聞くことで、まだ不確かながら自分の記憶をなんとか自覚し、無事に家に帰ってくることが出来たのです。

 この一連のシリアスなストーリーは、連載の中盤、コミックスでも3巻になって語られたもので、これまでのコメディ中心のエピソードからは一線を画する読み応えのある話でした。その後もさらにストーリーは続いており、今度はナギの中にあるもうひとりの人格を巡るストーリーが進んでおり、かつ他の分身霊も登場するなど、シリアスな展開の上でも見逃せない作品になっています。


・作画レベルも高く、総じて非常に完成度の高い一品。
 このように、個性的なキャラクターたちによるコメディが抜群に面白く、シリアスなストーリーでも存分に見せてくれる本作、卒なく完成度の高いマンガとして、元より実力のあった作者による極めて優秀な連載マンガとなっています。REXで連載を得た一迅社作家によるマンガは、どれもかなり優秀なものが多いと思うのですが、これはその中でも出色の出来であり、マンガとして非常によく出来ている点は見逃せません。
 また、作画レベルについても上々です。単にキャラクターや背景がよく描けているというだけではなく、「マンガの絵として卒なくよく描けている」印象があります。決して凝った描き込みが見られる絵柄ではなく、作画自体はシンプルなのですが、それでいて無駄がなく、描き込みが弱いと思えるようなこともほとんどありません。作画でも作者のレベルの高さを感じることが出来ます。

 このような優秀な作品だけあって、REXの中でも1、2を争う人気作品になったのも、必然だったと言えるでしょう。REXの主要読者層である男性マニア層の嗜好に一致するだけでなく、それ以外の読者からも、その面白さに対する評価は高い。読者の人気と、純粋にマンガの面白さが認められた点と、その双方を兼ね備えた貴重な作品であると言えます。

 そして、このマンガは、REX連載マンガの中で初めてのテレビアニメ化を達成することになりました。わたし自身も、このマンガは特に読者人気が高く、今のアニメの主流にも合っており、かつアニメ化もしやすい素材だと感じていたので、「まず真っ先にアニメ化決定するのはこのマンガだろう」と思っていましたが、まさにそれは予想通りとなりました。アニメ化を担当するスタッフにも、元京都アニメーションの山本寛、そして脚本に最近では「BAMBOO BLADE」を担当して好評を得た倉田英之の名前が挙がっており、これにはかなり期待できそうです。なお、倉田英之は、同じくREX誌上で連載中の「ハンド×レッド」の原作を担当しており、その縁から選ばれたのかもしれませんし、だとすれば雑誌としても随分と嬉しい決定でもあると思います。
 そして、原作の方もいまだ勢いは衰えておらず、アニメ化による盛り上がりも合わせて、今後も雑誌を引っ張る看板作品としての活躍に期待できそうです。REX初連載作家の作品としては、最高の成功を収めた一品だと言えるでしょう。


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