<ろりぽ∞(ろりぽアンリミテッド)>

2008・6・2

 「ろりぽ∞(ろりぽアンリミテッド)」は、ComicREXで創刊号(2005年12月発売)より開始された連載で、同誌の中でも最初期から人気のある連載として、雑誌の中でも中心的な連載のひとつとなっています。当初は他に目玉となる看板作品がいくつもあり、この作品はその後塵を拝していました。しかし、創刊後ほどなくして、このマンガの持つ独特の面白さが広まっていき、面白い連載として定着するようになるまでに時間はかかりませんでした。

 作者は、仏さんじょ(いむさんじょ)で、元はREXの発売元である一迅社において、ほぼゲームアンソロジーの仕事のみを行っていました。しかし、このREXが創刊されたのを契機に、初めてオリジナルの連載を受け持つことになったのです。実はこのREX、彼以外にもゲームアンソロジー出身の作家はかなり多く、連載陣の中核のひとつとなっています。中でも、この仏さんじょと並ぶ存在として、「かんなぎ」の武梨えり、「ひめなカメナ」の結城心一がおり、この3人は元より非常に親交が深く、そのためか互いの作品にパロディのネタが頻繁に見られます。

 そして、この3つの作品「ろりぽ∞」「かんなぎ」「ひめなカメナ」は、当初より男性マニアの人気が非常に目立ち、これまでの一迅社の雑誌にはなかった新しいタイプの読者層を呼び込むことになりました。現在、REXは男性の読者が非常に多く、実に85%を占めていますが、それにはこのような作品の影響が非常に大きいと思われます。ゲームアンソロジーの頃から、男性マニア読者には定評のあった作家陣でしたが、それが雑誌でのオリジナル連載でもそのまま見られる形となりました。

 そして、この「ろりぽ∞」は、他の2作品と比べても特に精力的な連載活動が見られ、雑誌の表紙を飾ることも多く、かつコミックスの刊行ペースも最も速くなっています。残念ながら、TVアニメ化の決定は、「かんなぎ」の方に先を越されてしまいましたが、それでもこのマンガの安定した人気は続いており、「かんなぎ」に続いてこちらもいつメディアミックスが行われてもおかしくはない作品となっています。


・前代未聞の「メイド喫茶バトル」マンガ。
 このマンガの面白さは、そのあまりにもバカバカしい設定の数々に尽きます。それも、「メイド喫茶」でメイド同士が萌えバトルを行うという、通常のメイド喫茶ものではありえない設定があまりにも面白い。

 舞台は空前のメイド喫茶ブームが巻き起こっている架空の日本であり、そこではメイド喫茶が星でランク付けされ、互いにバトル(メイドコンペ)を行うことで、ランクを競い、頂点を目指そうという活動が日々盛んに行われています。
 そのバトルの内容が実に(いい意味で)バカバカしく、「いかに客を萌えさせるか」という技術を競い、ありえない必殺技を駆使して闘いを繰り広げます。主人公の鎌ヶ谷みさきが繰り出す「みさきターン」、ライバルの小学生メイド・元山クヌギが繰り出す「アルカイックスマイル(神秘の微笑)」を筆頭に、出てくるメイドたちがそれぞれ個性的な必殺技を繰り広げる様は、もうそれだけであまりのバカバカしさに笑ってしまいます。このような、「バカバカしいことをあえて大真面目にやる」というコンセプトが非常に面白く、このマンガのすべての根幹を成しています。

 メイドコンペでジャッジを務める萌え仮面なる仮面男の言動も見逃せません。メイドコンペの起こるところならどこにでも瞬時に登場し、萌えを的確に捉えたコメントで周囲をうならせ、メイドコンペ公式ブログ「萌仮面の部屋」なるものまで運営しています(コミックスカバー下に記載)。「いつも萌え萌え言って疲れませんか?」という質問に対して、「君は呼吸をするのに疲れを感じるのか?」と返答する素晴らしさ。そのメイドコンペをあくまで追求する透徹した姿勢は、バカバカしさを通り越して崇高さまでうかがえます(笑)。

 各エピソードごとに登場する設定にもバカバカしいものが多く、特に南の島に行った時に登場した原住メイドなる存在には、そのあまりの設定のおかしさに大爆笑してしまいました。


・伝説のアニメ「メイドウェイトレス★みのりちゃん」を巡るストーリーが面白い。
 しかし、このマンガはそんなネタ的な設定だけで生きているわけではありません。実は、メイドバトルの影で進むストーリーが非常に面白いのです。

 五ツ星の大人気メイド喫茶「アンリミテッド」の看板ウェイトレス・鎌ヶ谷みさきは、かつて一斉を風靡し社会現象にまでなった魔女ッ子アニメ「メイドウェイトレス★みのりちゃん」の大ファンで、主人公のみのりちゃんの着ていた「伝説のメイド服」なるものを探しています。
 ある日、「アンリミテッド」の真向かいに出来た「ロリポップ」というメイド喫茶に赴いたみさきは、そこで矢柱みのりという伝説のメイド服を所有している少女と出会います。彼女こそ、「みのりちゃん」を作った監督の娘であり、みのりちゃんを継ぐ者としての超越的な才能を秘めた少女だったのです。その後、みさきはアンリミテッドオーナーたちの陰謀(?)により、元山クヌギとのメイドバトルで敗北を喫して解雇され、次の行く先を迷ってきた彼女は、みのりの潜在的な才能に興味を示し、彼女の成長を見守るべくロリポップで働くことになります。

 また、実はみさき自身の父親も、かつて「メイドウェイトレス★みのりちゃん」を作ったアニメーターのひとりであり、彼女自身もこのアニメと浅からぬ因縁を持っています。さらに、彼女は、このアニメで最新のDVD-BOXに収録されていたテレビ未放映の「幻の13話」を、最近作られた偽者だと見破り、本物の13話を求めて奔走することになります。

 そして、最後にもうひとり重要な人物として、「アンリミテッド」の影のオーナー、蓮華寺ほだかの存在が非常に大きい。彼女は、かつては「メイドウェイトレス★みのりちゃん」で主役のみのりちゃん役を演じた声優であり、現在は総理大臣にまでのぼりつめています。実は、彼女こそが「幻の13話」を隠蔽した張本人であり、総理としてアニメ振興政策を取る一方で、アンリミテッドを裏で仕切って様々な陰謀を行っている人物でもあります。


 このように、「メイドウェイトレス★みのりちゃん」なるアニメを巡る一連の人間模様、謎と陰謀を絡めたストーリーが非常に面白く、純粋にストーリーで読ませる力を持っています。連載開始時に読み始めた頃は、まさかこれほどまでに本格的なストーリーが用意されているとは思いませんでした。メイドバトルを笑って楽しむその一方で、実は意外にも骨太なストーリーを垣間見ることができる・・・そんなマンガでもあるのです。


・各所に散りばめられたネタも面白すぎる。
 加えて、このマンガは、作者によって作中各所に散りばめられたネタの数々が面白すぎます。色々なタイプのネタが無数に盛り込まれていて、作者(と編集者)の遊び心が全面に出た内容となっています。

 そもそも、主要キャラクターからしてネタ的な設定がたくさんあります。キャラクターの名前自体、千葉の新京成線の各駅から取られたもので、それだけでもえらくいい加減な遊び半分のネーミングが浮き彫りになっています(笑)。そして、キャラクターの1人、蓮華寺ほだかなどは、ほっちゃん総理などという愛称からも分かるとおり、あの声優をそのままパロったかのようなキャラクターと化しており、元ネタの声優を知っている人には、大いに笑えるキャラクターとなっています。

 ストーリーの各エピソードごとのネタにも、切れ味鋭く面白いものが多い。中でも最高に面白かったのは、ゲーム喫茶のメイドと闘う話で、全編に渡って各種のゲームネタが大量に盛り込まれていました。その、ゲーム的なお約束をあえて強調したバカバカしいネタの数々からは、作者のゲームに対する造詣のほどをうかがい知ることが出来ます。
 特に笑ったのが、某アドベンチャーゲームをパロディ化したゲームのラストシーンで、「この人なんで最後鳥にならなきゃいけなかったんですか?」とみのりがツッコミを入れるシーン。そして、対戦格闘ゲームの連続技の説明に対して、「ハメ技とどう違うんですか?」と初心者的な素朴な疑問を返すシーン。そして、その後の格闘ゲームの特訓シーンにおける、某雑誌の誤植ネタの数々。「そこでインド人を右に!」「今よ!!スーパーウリアッ上」「たしかみてみろ!!」などの露骨な元ネタ引用の連発。まさに、作者のふざけた精神が一度に出まくった、最高に面白い話だったと思います。


・実は社会派のマンガなのか?
 しかし、そんな作中の数々のネタの中には、ひどく社会的な現象を元ネタにしたものも数多くあり、このマンガを決してあなどることはできません。

 このマンガの舞台である日本は、現実の日本以上に「オタク」に対するバッシングがひどかった時期がありました。しかし、その後、とあるアニメが「海外で認められた」ことをきっかけに、途端に芸術作品として評価が上がることになり、一躍アニメが国民的な文化として浸透している・・・という設定となっています。このような設定は、かつてこの現実の日本でも激しかったオタクバッシングと、海外で評価されるやなぜか手のひらを返したかのようにアニメを賛美する日本社会の風潮を、大いに皮肉ったかのような内容となっており、それには随分と考えさせるものがあります。

 そして、ストーリーが進むにつれて、さらに突っ込んだ描写も見られるようになります。あの「ほっちゃん総理」こと蓮華寺ほだかは、かつてはアニメを愛する普通の高校生でした。しかし、その当時起こったとある猟奇殺人事件によって、アニメが一斉にバッシングを受けるようになります。それに反発した彼女は、強硬に当時の夏コミに参加を試みますが、そこで悪意を持つレポーターの発言(「ここに10万人の犯罪者がいます!」)を聞いて激昂。そのレポーターと故意ではないが接触事件を起こし、それが暴動に発展するという重大な事件を引き起こしてしまいます(「117号事件」)。
 これらの事件は、どれも現実に起こったあの有名な事件を元ネタにしたことは明白であり、また、ここに登場するレポーター(大曲記者)も、見た目からしてあの大谷昭宏を元ネタにしているとも思われ、このあたりの露骨なモチーフは、読んでいてひどく面白い笑えるネタである反面、社会的な事件を直接的に引用したその作風には、ひどく考えさせられるところもあります。そう、このマンガは、アニメやオタク文化を巡る日本の風潮を批判した、社会派のマンガだと思えるところがあるのです。

 そう、このマンガは、一見してバカバカしい設定やネタばかりが目立つ作品で、実際にそれも間違ってはいませんが、一方で実は相当に深い見識を持って描かれているような気もします。的確にネタを引っ張ってくる手際の良さといい、このマンガの作者はかなり頭が良いのではないでしょうか。


・「サッカーがダメでも、この国にはまだメイド喫茶がある!!」
 以上のようにこのマンガ、メイドバトルというバカバカしい設定から来る面白さにとどまらず、実はよく考えられた本格的なストーリー、作者の遊び心に満ちたネタの数々、そして実は社会派(?)とも思えるような風刺に満ちた作風など、様々な点で面白さに満ちており、実に色々な意味で読める幅の広い作品ではないかと思われます。徹底的にバカバカしい設定とノリに満ちていながら、実は端々で作者の知性を感じさせるところがあり、読んでいてあっと思わせるようなこともしばしばあります。元々はゲーム系アンソロジーで名を馳せた作家でしたが、初のオリジナル連載でここまでの作品を残せるというのは、かなりの成果ではないでしょうか。掲載誌のREXとしても、当初の看板作品以外にもこのような成功作品が出て、その後表紙になるような看板にまで成長したことは、非常に喜ぶべきことだったと思われます。

 今後のさらなる発展にも期待できますが、ただ唯一の気がかりな点として、このマンガのあまりにもナンセンスな設定は、アニメ化などのメディアミックスでやや引っ掛かるかもしれません。アニメ化で「かんなぎ」に先を越されたのも、そのあたりが原因とも思えます。逆に、一旦これがアニメ化などを果たせば、異様な話題を呼ぶのではないかと推測できますし、その時が非常に楽しみです(笑)。

 なお、このマンガのコミックスの装丁デザインは、あの「あずまんが大王」のよつばスタジオが担当しているのですが、その帯(おび)のコピー(宣伝文句)が毎回のごとく面白いです。1巻の「サッカーがダメでも、この国にはまだメイド喫茶がある・・・・・・!!」というキャッチコピーは、あまりにもひどすぎて大笑いしてしまいました。その後も、2巻で「『勉強して、勉強して、勉強しろ(レーニン)』『走って、走って、走れ(オシム)』『ご奉仕して、ご奉仕して、ご奉仕しろ(メイド)』」、3巻では「今年の夏、日本【特定地域のみ(秋葉原・日本橋など)】で話題騒然の最新刊!」と、それぞれ笑えるコピーが続きます。

 4巻に至っては、この巻の内容をざっとあらすじで書いた後、「詳しくは《Wikipedeia》で!!」などとなっており、マンガの内容説明をウィキペディアに丸投げというありえないナンセンスさを見せます。そして、実際にウィキペディアに行ってみると、「ろりぽ∞」の項目がやたら充実しています。体系立てて解説した整然とした編集は、この手のマイナーマンガにしてはやたら微に入り細に渡っており、これを見るとどうもこのマンガの編集者やスタッフ自らが編集している可能性が高いと思われます。まさにこんなところまで遊び心が見られるこのマンガ、実にあなどれない仕事をしていると言えるでしょう。

 ウィキペディア─「ろりぽ∞」


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