<のんのんびより>

2011・3・2

 「のんのんびより」は、メディアファクトリーのコミックアライブで2009年から開始されている連載で、中学生や小学生の女の子たちの田舎での日常を描いた、タイトルどおりのんびりした作風のマンガになっています。いわゆる日常癒し系の萌えマンガに当たるのではないでしょうか。派手に人目を引く内容ではありませんが、ほのぼのした雰囲気とくすっと笑えるコメディで親しみやすい良作となっています。

 コミックアライブは、同社のMF文庫Jで刊行されているライトノベルのコミック化作品を始め、全体的に原作付きのメディアミックス作品が多い誌面ではありますが、一方でオリジナルの作品にも力を入れており、中々の作品が数多く出ています。そんな中で代表的なものを一つ挙げれば、アニメ化された「まりあ†ほりっく」や「ささめきこと」あたりが来ると思いますが、それ以外にも「ディーふらぐ!」や「アイリス・ゼロ」など、ギャグありシリアスありと様々なタイプのオリジナル作品で、いいマンガが見られるようになりました。なにげにかなり充実した誌面になっていると思いますが、この「のんのんびより」もまた、同誌を支える優れた一作になっているようです。

 作者はあっと。このコミックアライブ初期の頃からの新人で、それも編集部からかなり熱心に目をかけられてきたように感じました。当初はイラストやカットなどの仕事を手がけていましたが、やがて読み切り作品「こあくまメレンゲ」が掲載され、これが好評を得て不定期連載へと昇格。全10話で終了した後、今度こそ本式の連載であるこの「のんのんびより」を始めることになりました。当初から絵が丁寧で非常にうまく、かつ話作りにも真面目さが感じられ、大変好感が持てる新人作家でしたが、この「のんのんびより」で完全に誌面に定着したと見てよさそうです。

 内容は、先ほども述べたとおり、基本的には日常の他愛も無い、しかし心和むエピソードが中心ですが、個性的なキャラクターたちによるちょっと変わった言動が面白く、時にちょっと真面目に考えさせるシーンも見られるなど、読んでいて飽きない内容になっています。作画も極めて安定しており、きっちりした造型のキャラクター、田舎の光景を丹念に描いた背景と、画面全体を通して隙なく描き込みが見られ、密度の濃い作画になっています。


・アライブが育ててきた秘蔵っ子?あっと。
 アライブが創刊されたのは2006年ですが、初期の頃は今よりも原作付きのコミックの割合が高く、オリジナル作品の方が少数派でした。しかし、そんな中でもオリジナルの作品とそれを手がける作家を育成しようという意志は感じられ、新人作家の育成も精力的に行っていました。そんな中で、アライブの編集部が特に目をかけ、大事に育てようとしていたのが、この作品の作者である「あっと」さんでした。

 当初はまだ連載を持っておらず、アライブ誌内の告知宣伝ページのイラストカットや、公式サイトやブログでのイラストの仕事をよくやっていたのを覚えています。この頃から絵のうまさに目立つものがあり、編集部の方でも、ブログで期待の新人として紹介していたことがありました。その頃から、「ああ、いろんな仕事を回されていて、かなり期待されている作家なのだな」と思っていました。

 その後、ついに「こあくまメレンゲ」という連載をアライブ誌上で開始。いや、最初は読み切りだったのですが、好評だったのかたびたび不定期で登場するようになり、ついに連載化。序盤の頃は4コママンガだったのも、しばらくして通常の形式のマンガになり、より本格的な連載へと昇格したことをうかがわせました。このマンガ、魔王の娘のルーチェが人間界に来て世界征服をもくろむものの、あまりにも子供っぽくて世間知らずでまったくうまくいかず、むしろふたりの人間の女の子と同居して仲良く過ごすという、ほのぼのコメディになっていました。この頃から、かわいい女の子とのんびりした日常描写が特徴的で、お話作りにも力が入っていて、かなり安定した内容だったように思いました。ややまったりしすぎたのか突出した人気にはなりませんでしたが、誌面では中々の良作として扱われていたと思います。

 そして、この連載を通して、アライブで優れた新人作家として完全に認められたようで、次回作であるこの「のんのんびより」では、最初からかなり大きな扱いで、アライブのオリジナル作品の中でも上位クラスの連載となりました。相変わらずメディアミックスの原作付き作品、アニメ化作品が雑誌の前面には出ていて、表紙などでもそちらが中心ではありますが、一方でこういった有力なオリジナル作家を大切に育ててきたことも知ってほしいところです。


・個性的なメンバーたちの他愛の無い日常が楽しい。
 さて、肝心の内容ですが、先ほども述べたとおり、田舎の学校に通う小中学生の女の子たちの、ごくごく普通の楽しい日常の姿を丁寧に描いた作品となっています。本当になんてことはない学校や家、田舎の村での出来事・・・例えば学校でのんびり自習に励んだりボール遊びをしたり、ウサギの世話をしにいったり、家では夏の夜に怪談をして過ごしたり、村で田植えをしたり駄菓子屋に行ったり沢にカニを取りに行ったり海には海水浴に行ったり、そんな楽しい日常の日々を、気をてらうことなく丹念に描いています。丹念に描かれた田舎の光景もほっと和むところがあり、作品の雰囲気は非常に心地よいものがあります。派手なアクションを求める読者には物足りないかもしれませんが、この手の日常ものが好きな人にはとくすすめられる作品になっていると思います。

 そして、メインキャラクターの個性的な性格がいい。全校生徒が5人しかおらず、中学生と小学生が一緒に授業する学校で、その5人の生徒の個性がどれも面白い。
 5人の中で一応の中心的人物と言えるのが、中学一年生の越谷夏美でしょうか。明るくお調子者のムードメーカーで、自分より小さい姉の小鞠をよくいじって遊んでいます。その越谷小鞠は、中学二年生でありながら背が低くちんまりとした外見で、中身もまた幼くほほえましい性格をしています。
 逆に、小学5年生なのに背が高く発育もいいのが、この中では唯一都会から越してきた一条蛍。メンバーで唯一都会の常識を知っている良識派で言動もやや大人びたところが。その一方で自分より小さい小鞠をいとおしく思っているかわいらしい側面も。
 そして、この3人よりもずっと小さい小学1年生ながら、その独特の感性で大きな存在感を示しているのが宮内れんげです。ツインテールのかわいらしい外見ながら、「のん」という特徴的な口調と表情、どこか一風変わった言動が際立ちます。これは後でも詳しく採り上げますが、このれんげこそが、実はこの作品最大のキーキャラクターかもしれません。

 この4人以外にも、越谷夏美と小鞠の兄で中学3年生の越谷卓、れんげの姉でこの学校の教師をしている宮内一穂なども登場。一穂はそのいい加減な性格で授業も簡単に自習してしまうおおらかな先生。このマンガのまったり感をもっともよく表しているかもしれません。そして卓は、あまり存在感が無いという設定で、作中で一種の隠れキャラクター的な描かれ方をしています。

 そして、このすべてのキャラクターひとりひとりがしっかりした存在感を放っています。ごく普通の日常のほんの些細な出来事でも、このキャラクターたちの手にかかれば、途端に楽しいイベントになる。それこそがこのマンガの魅力だと思うのです。


・れんちょん(宮内れんげ)のひねくれた純粋さこそがこのマンガの肝!
 そして、そんなキャラクターの中でも、特に異彩を放っているのが、小学一年生でこの中では最年少の宮内れんげではないかと思うのです。「れんちょん」というあだ名で上級生たちに愛されている彼女ですが、その感性は独特で、もっと分かりやすく言えばちょっと変な女の子として描かれています。しかも、その行動が子供らしくてかわいいし面白いのです。

 うさぎ小屋のまえで突然歌って踊りだしたり、ラジオ体操でも独特のダンスを披露したり、飼うペットに「具」とか「お塩」とかすごいネーミングセンスで名前をつけたり、とにかく行動が面白い。しゃべるときの「のん」「のーん」という語尾も特徴的で、このキャラクターの個性的な内面をよく表しているような気がします(一応、「のん」はこの田舎での方言らしく、他のキャラクターもたまに使ってはいるのですが、ずっと頻繁に使っているのがこのれんちょんで、ほとんど彼女のくちぐせのようになっています)。

 そんな彼女がその感性を最も披露したのが、みんなと教室でいろんな遊びをする話。あやとりでは妙に絡まった紐を「宇宙」と言い張り、マンガ雑誌では他のキャラクターがあまり好まない「バナナ課長」というマンガを面白いといい、粘土細工ではなぜか肉球をこだわって作りまくり、そんな彼女の感性に周囲は大いに戸惑ったりもするのですが、気を利かせた夏美の「細かいことは考えず外で遊ぼう!」提案で楽しく遊ぶことになります。そう、周囲がれんちょんの感性を受け入れる優しい気持ちを持っているからこそ、まだ幼い彼女が思う存分自分の個性を発揮できるのです。

 それともうひとつ、都会から里帰りしてきたほのかという女の子と仲良くなる話が面白い。気の合う同年代の女の子と、毎日あちこちに行って楽しく遊んでいましたが、親の仕事でほのかは急に帰る事になり、そのことを知って耐え切れずにほろっと涙を流してしまう。これは、普段のひねくれた感性とは異なる、等身大の子供ならではの純粋な心を垣間見られた、ほろりと感動するエピソードでした。その後、半ばいじけて過ごしていたれんげは、ほのかからの手紙でまた来年にもやってくることを知って元気を取り戻し、喜び勇んで彼女に手紙を送るという、明るい終わり方を迎える優れた一編になっています。


・密度の濃い丁寧な描き込みに好感。
 そして、このマンガは、絵の方のレベルも素晴らしいものがあります。あっとさんの作画は非常に丁寧なところが特徴で、安定した造型とこだわりの描き込みが感じられます。

 元々、この作家にわたしが注目したのも、まずは絵のうまさが最初でした。当初はアライブでもイラストやカットの仕事をやっていたわけで、そちらの方での絵のうまさに惹かれるところがあったのです。キャラクターを描く線が太めではっきりとしていて、そのことの印象がまず強く残り、それでいてかつ適度な柔らかさ、バランスのよさも感じられる好感の持てる絵柄になっていたのです。
 その後、初めての連載である「こあくまメレンゲ」を開始するわけですが、初めてのマンガでありながらも極めて安定した作画レベルを達成しており、これには感心しました。この当時は、絵が時に空中幼彩(というイラストレーター)に似るという話を聞いたことがあり、わたしもたまにそれを感じることがありましたが、それでもきちんと自分の絵の描き方は確立されており、やがては完全に自分独自の絵となっていきました。

 この「のんのんびより」の作画も、基本的には「こあくまメレンゲ」とまったく同じです。キャラクターの描き方に関してはほとんど同じで(一部に「こあくまメレンゲ」から登場するゲストキャラクターもあり)、それに加えて今回は、田舎の背景を緻密に描いたところに大きな特長があります。緑豊かで瀟洒な村の遠景は素晴らしい気持ちのよさを感じますし、それだけでなく、家の中の様子もよく描けています。木造の家屋での木の柱や障子、畳、家具など隅々まで描いていて、そこにしっかりとした質感を感じます。総じて、各コマの多くで背景をみっちりと描き込んでいて、全体的に作画の密度が非常に濃い。丹念に時間と労力をかけてるなと感心します。

 コミックス表紙などカラーイラストも申し分なく、本文の作画とまったく変わらない雰囲気をこちらでも見せています。元々イラストからスタートした作家だけあって、一枚絵のイラストに関しても非常にハイレベルですね。


・アライブが誇るオリジナル良作のひとつ。こういった作品も評価したい。
 以上のように、この「のんのんびより」、アライブが育ててきた有力な新人作家のオリジナル連載にして、内容も作画もシュアな優秀作に仕上がっています。丁寧で時間をかけた作画レベルと、日常作品ながら存在感のあるキャラクター、ちょっと変わった感性を表に出した面白いストーリー作りも感じられ、コンスタントに毎回楽しませてくれる創作姿勢は見逃せません。毎回のページ数がやや少なく、コミックスの発刊ペースもやや遅いのがちと残念ですが、それでも誌面では上位の連載として扱われており、隠れた人気作品となっています。アライブのオリジナル連載では、創刊当初から大人気で、アニメ化でさらなる人気を獲得した「まりあ†ほりっく」が最も有名で、これが表紙などに出てくることが最も多いのですが、こういった中堅オリジナル作品の充実ぶりも見逃せません。

 アライブが創刊された頃は、他にも多くの出版社からマンガ雑誌が多数創刊されていた時期であり、しかもその多くが失敗して早期に休刊したり部数が伸び悩んだりしていました。このアライブも、当初はここまでオタク向けの萌え作品、メディアミックス作品に特化した雑誌がうまくいくのか、個人的にはかなり疑問視していたところがありました。しかし、他の雑誌が決してうまくない経緯を辿る中、このアライブはコンスタントに健闘を重ね、ひとつのコア読者向けの雑誌として、完全に定着した感がありました。

 これには、MF文庫という同社がかかえる優良なライトノベルレーベルからのコミック化の力も大きいのですが、それだけでなく、オリジナルの作品と作家を地道に育ててきた編集部の努力も大きかったと思うのです。そのために、「まりあ†ほりっく」という思わぬヒット作も生まれて雑誌の中核となり、大きな力になりました。そして、このあっとさんの「のんのんびより」もまた、そういった作品のひとつであり、アライブが生み出した貴重な優秀作品として、これからも注目していきたいと思います。今はまだ1回のページ数の少ない連載ですが、これから先さらに大きな存在になる可能性も高いと期待しています。


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