<ティンクルセイバーNOVA>

2012・8・2

 「ティンクルセイバーNOVA」は、元は一迅社のWARD(コミックZERO-SUM増刊WARD)で2004年に開始された連載で、その後2005年に創刊された「Comic REX」に移籍し、創刊号から今まで連載されています。長期連載とも言えますが、連載ペースは非常に遅く、元から休載が多い上にここ数年は長期休載も相次いでいて、コミックスの刊行ペースもひどく遅いものとなっています。2012年になって、ようやくコミックス4巻が発売されましたが、その1つ前の3巻が発売されたのは2007年で、実に5年ぶりの新刊となりました。

 作者は藤枝雅。以前より同人で活動していた作家で、この「ティンクルセイバー」も、元は同人での作品でした。それを、一迅社が商業コミック化し、最初はWARDで、のちにREXでと連載する運びとなったのです。REXへと移籍する際に、タイトルが「ティンクルセイバーNOVA」と改められ、コミックスも1巻からそのタイトルで発売されています。
 また、藤枝さんは、この頃より他にもいくつも商業誌で連載を持つようになり、この一迅社からはコミック百合姫で「飴色紅茶館歓談」「ことのはの巫女とことだまの魔女と」、他社からもメディアワークスの電撃帝王で「いおの様ファナティクス」、角川のコンプエースで「AliceQuartet OBBLIGATO」などの作品を残しています。

 その中でも、この「ティンクルセイバーNOVA」は、現在での最長の連載となっていて、作者の代表作と言える作品になっています。その内容は、「近未来の巨大学園でのバトルアクションもの」といった作品で、世界制服を企む「世界征服部」に対して、主人公たち「正義の味方部」が立ち向かうといったストーリーになっていて、きらびやかなバトルスーツ(”アクティブドレス”と呼称)を身にまとった迫力のバトルアクションの一方で、それがあくまで「部活動」としての対戦で、命がけの戦いにはならず、相手ともコミカルなやり取りが行われるところが、ひとつの特徴となっています。こうした設定の作品は、昔から近いものがいくつか見られたようで、ちょっと懐かしさを感じる人もいるかもしれません。藤枝さんの作品は、同人も含めて「百合」要素の強い作品が多いのですが、この作品では少なめで、比較的アクション要素の強い作品となっています。


・当時の一迅社(REX)では顕著に見られた、同人からの作品。
 前述のように、この「ティンクルセイバー」は、元は作者の同人誌で見られた作品でした。この当時の一迅社では、このように有望な同人作品を拾い上げて連載化させる企画が盛んで、特にこの作品が移籍した先のREXでは顕著でした。その上、それらの作品に良作が多く、雑誌のラインナップに大きく貢献する形となりました。一迅社のこの眼力の高さは侮れません。

 まず、そのREXの創刊号からの連載で、「蒼海訣戰」(納都花丸)がありました。同人として発表した後、元は別の出版社で短期連載される予定が流れ、この一迅社のREXでようやく連載が実現するという経緯があったようです。明治時代の日本をモデルにした架空の日本を舞台にした戦記ものとも言える作品で、しっかりした骨太なストーリーと人種差別を正面から扱う重厚なテーマも見られ、見事に読者人気も得て長期連載となります。現在では他社の雑誌に移籍してしまっていますが、REX初期の良作だったことは間違いありません。

 もうひとつ、これもREX初期からの作品として、「白砂村」(今井神)もあります。最初はまず読み切りとして掲載されたのち、それが非常な好評を得て連載化されました。これも、作者が同人で温めていた作品の商業化でしたが、伝奇ホラー・アクション・ミステリー要素をふんだんに盛り込んだエンターテインメント作品として、これまたよく出来た良作となりました。作者は、既に他誌で連載を行っていた作家でしたが、ここでの連載は今までとは一味異なるもので、ここで新境地を開いた形となりました。これは、現在(2012年)でも連載中の長期連載となっています。

 そして、この「ティンクルセイバーNOVA」ですが、REXでは当初からこの2作品をもさらに上回る扱いで、完全に雑誌の看板となっていました。同人の時代から既に人気があったようで、ファンを中心に最初からコミックスの反応も大きかったと記憶しています。


・近未来的な巨大学園という舞台が魅力的。
 そんなわけで、わたしは、REXの連載時代から読み始めたのですが、まず最初にその近未来的な設定に惹かれました。舞台となるのは、東京湾に造られた人工島「美咲輝区」にある巨大学園「美咲輝学院」で、幼稚園から大学院まですべてが揃っていて、あらゆる公共施設が林立し、学校内の居住区に学生達が住み、鉄道やモノレールなどの移動機関が学内を行き交う。こういった巨大学園の設定自体は、珍しいものでもなんでもないのですが、この作品の場合、学内の建物の随所に見られる近未来的なフォルムと、各種の充実した施設、特に舞台となる”学食”の数々に惹かれました(笑)。

 これら学生食堂は、バトルの舞台ともなるのですが、主人公のはやな達女の子が集い、楽しく会話をしつつ食事をする場所、という点に最も大きな意義があると思います。学生食堂といっても、ここまで巨大で施設が充実した学園のそれですから、それはもう普通の食堂やレストラン、喫茶店とまったく変わらぬ店となっています。雑貨も取り扱うおしゃれな喫茶店「喫茶室Q・J」、一般的な学食だがその巨大な厨房をたった5人の従業員で仕切る「十月(じゅうがつ)」、喫茶店ながら食事も充実、挑戦的なメニューを次々と打ち出す「喫茶室カレンダー」、閑静な場所にあり明るい店内で女子に人気の喫茶店「喫茶アリエル」などなど、どれも個性的な名店揃い。「喫茶アリエル」のような心地よい喫茶店が学内にあるというのは、個人的にはものすごく憧れてしまいました。

 主人公達の部活の活動場所となる第四保健室「湊」の近未来的な施設もよかった。保険担任である藤代霧瀬によって、勝手に「正義の味方部」の部室に改造されてしまったこの部屋は、モニターとか大仰な扉とかのいかにもな設備の数々で、秘密基地とも呼べるとてもかっこいい場所になっている。わたしの学校も、もし部室がこんな場所だったらさぞ楽しかったと思います(笑)。

 そして、そんな充実した施設に満ちた学校において、その校風はどこまでも自由。開放的な学内で、生徒の意思次第でどんな部活動でも可能である。こうした設定も他の作品でよく見られますが、学内が近未来的な施設の数々で充実しきったこの学園ならば、とてつもなく楽しいだろうと思いました。


・世界征服部VS正義の味方部の華麗なバトルアクションが最大の見所。
 しかし、その自由すぎる校風が災いして(?)、なぜか「世界征服」を実現しようという部活動が立ち上がってしまい、その手始めに学校内の施設(主に学食)を占拠するというはた迷惑な行為を行うようになってしまいます。しかし、自由な部活動を保証している学園の教師や生徒会では、彼らの行動を止めることができない。そこで、同じ部活動である「正義の味方部」が、唯一の対抗組織として、「世界征服部」の活動を阻止しようと奮闘することになります。

 正義の味方部の主な構成員は、主人公のはやな(鈴鳴はやな)と、彼女に憧れてなぎなた部からこの部に入部したさつき(天宮さつき)。このふたりが、顧問の藤代霧瀬の制作したアクティブドレス(バトルスーツ)を身にまとい、世界征服部の部員達を次々と倒し、強敵たる対戦者たちと激しいバトルを繰り広げる。この姿は美しく非常に見栄えがします。彼女達ふたりと対戦相手たちの多くは、「極星」と呼ばれる称号のようなものを持ち、それぞれ特殊な技を駆使して戦い、時に「極光」と呼ばれる華々しい発光現象まで起こして、さらに派手なものとなります。

 ストーリーが進むと、さらに第三の部員として、陸上部から九行稜が正義の味方部に入部。その足の速さを生かした機動力で、他のふたりにはない闘いぶりを見せ、窮地を救ったりします。逆に、はやなたちの知り合いで、世界征服部に入って敵対することになるキャラクターもおり、あるいは世界征服部に協力する対戦相手たちも、それぞれの思惑で行動し、対戦においてはやなたちと様々なやりとりを見せるなど、バトルを通じた人間模様にとても面白いものがありますね。あくまで部活動での対戦で、命がけの勝負ではないところで、どこか美しさを競うような高度な遊びとも取れる余裕と、時にコミカルなやり取りまで見られるところが面白いと思います。


・この作者ならではの百合要素は少なめ。百合なら他の作品を読みたい。
 ただ、この藤枝さんの作品の多くに特徴的な、百合(女性同士の恋愛)要素については、この「ティンクルセイバーNOVA」では、かなり控えめになっています。まったくそのような描写がないとまでは言いませんが、あくまで雰囲気程度に「ほんのり」と感じるくらいとなっているようです。

 見たところでは、はやなに対するさつきの態度とか、あるいははやなの親友の京月葵(きょうづきあおい)が、しきりにはやなを他の女の子から守ろうとする様子などに、百合的な感情が見えなくもないのですが、これもあくまでさらりとしたもので、特にさつきのはやなに対する態度は、純粋に憧れのような感情も強く感じます。百合というよりは、むしろ仲の良い女の子同士の交流と見た方が自然かなとも思います。百合的な感情もあるかもしれませんが、あくまでほんのりといった程度にとどめているのが、このマンガの本質でしょう。

 むしろ、藤枝さんで百合を求めるなら、この「ティンクルセイバー」よりも、他の作品を読んだ方がいいかなと思います。コミック百合姫の連載だった「飴色紅茶館歓談」と「ことのはの巫女とことだまの魔女と」は、掲載誌そのままにストレートな百合カップリングとなっていて、互いに相手を気遣う細やかな感情がいとおしい、実に良質の百合作品となっています。
 また、「AliceQuartet OBBLIGATO」は、4人の女性服飾デザイナーの運営する店舗を描いた作品で、こちらも百合要素はふんだんに見られます。「いおの様ファナティクス」に至っては、いおのは女の子大好きな女王様で、彼女が集めた側女たちもみな女王を愛していて、さらに彼女達の間でも恋愛描写がふんだんに見られるという、とても豪華な作品になっています(笑)。

 その一方で、この「ティンクルセイバーNOVA」は、バトルマンガライクな学園の部活動(バトル)とコミカルな日常生活がメイン。作者の創作の幅の広さが窺えますし、百合で知られた作家とはいえ、こういった作品があってもいいのではないでしょうか。


・本来ならアニメ化してもおかしくない作品。コンスタントに連載してほしいところ。
 と、この「ティンクルセイバーNOVA」、当初からのREXの看板作品にして、それにふさわしい力を持つ作品になっていると思います。巨大学園でのバトルものという、設定自体はそこまで目新しいものではないかもしれませんが、キャラクター同士の関係がよく描かれて、毎回丁寧にエピソードを作りこんでいる印象です。藤枝さんの絵がきれいで、アクションシーンも迫力があって見栄えがするのも優れたポイントでしょう。

 ただ、唯一、あまりにも連載ペースが遅いのは気になります。最初から休載が非常に多く、連載のペースは滞りがちでした。それでも、2007年までは、年に1冊のペースでコミックスが出ていたのですが、その2007年に3巻が出て以来、まったくコミックスが出なくなってしまいました。これは、2009年から2010年にかけて、作者の体調不良とのことで1年以上雑誌での休載があったのも理由ですが、それを考慮してもこの連載の遅さは異様です。ようやく2012年に4巻が出た時には、今になってコミックスが出たことが信じられないくらいでした(笑)。

 本来ならば、このマンガ、とっくの昔にアニメ化してもおかしくないくらいの作品だと思います。雑誌の看板であったことは間違いなく、キャラクター人気も十分なくらいあった。バトルアクションものということで、アニメ化もしやすい素材ですし、同人の頃からのコアなファンの人気も期待できる作品でした。それなのに、これまでドラマCD程度でそれ以上のメディアミックスの話がないのは、ひとえに連載の不安定さが理由に他なりません。さすがにここまで掲載が滞るようでは、これ以上の展開は厳しいでしょう。

 作者の藤枝さんは、ドラマCDが好きらしく、作品のドラマCDが3作も出ている他、コミックス限定版や店舗特典で、毎回のようにドラマCDが付くのが慣例となっています。これはこれで非常にうれしいファンサービスだと思いますが、出来ればこれ以上の展開のためにも、まずはコンスタントに連載してほしいと思っています。


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