<パラドクス・ブルー>

2011・2・14

 「パラドクス・ブルー」は、コミックブレイドで2008年12月号から連載を開始し、2011年1月号まで約2年間ほど連載された作品で、パズルやクイズのような謎解き要素を作中に取り入れた、ちょっと異色の作品になっています。作中では主人公たちが、「天使」と呼ばれる超常的存在から提示される謎解きに挑むかたわら、読者もその謎解きに参加するといった設定で、読者が解答を導きだせば物語は進み、解けなければゲームオーバーといった演出もなされていました。そのようなコンセプトを、「ミステリークイズ×学園ファンタジー」「体感型ミステリークイズコミック」などとも銘打っています。

 また、本編で謎解きが提示される以外にも、様々な企画を同時に展開しており、雑誌連載中は本編の後に1ページのおまけページが追加され、そこで本編の解説がされていました。コミックスでも、各巻の巻末で、本編とは別にオリジナルのパズルやクイズも出題され、正解した応募者の中にプレゼントを行っています。さらには、公式サイトで本編とリンクしたウェブ小説を連載したり、コミックスカバー裏でもミニ小説を掲載したりと、そういった様々な意欲的な企画が目を引く作品でもありました。

 作者は、原作が中西達郎、作画がnini。中西達郎は、「ドリムゴード」や「クラウン」、niniは「DRAGON SISTER!」と、 いずれもコミックブレイドで過去に連載を行っていたマンガ家で、中西達郎の方は、今回は作画を行わず原作に集中する形となっています。なお、中西達郎は、2010年からも「グローリーロード」という作品の原作を担当しており(こちらは短期間での打ち切りが決定)、ここ最近は原作での活動が顕著になっています。
 中西達郎の原作は、異色とも言える作風で、かなり奇をてらったところも多いように思われますが、niniによるバランスの取れた絵柄がそれを中和し、優れたイメージの作品となっています。登場キャラクターたちも非常に個性的で、メインキャラクターがとある高校の生徒会役員であることから、一種の変則的な生徒会ものとしても読めるかもしれません。

 天使という存在の謎を巡るストーリーも中々興味深いものがあり、こちらも楽しめましたが、ただ、作品が「第二部」に入った終盤では、かなりの駆け足気味の展開で少々情報過多となり、やや消化不良に終わったようにも感じられました。裏話でも「最終巻は残りページとの戦いだった」とも言っていますし、ひょっとすると早期の連載終了に向けて展開を切り詰める必要があったのかもしれません。第二部自体の長さも思ったより短く、あっさり終わったようにも感じられ、これはちょっと残念に思いました。


・やはり作中で展開される謎解きが面白い。
 物語の舞台は現代の世界ですが、そこに「天使」と呼ばれる異形の存在が降臨し、人類に対して「試練」と称する数々のクイズやパズル、推理問題のような謎解きを提示する世界となっています。見事に謎を解ければ「恩恵(メダル)」と呼ばれる何らかの奇跡が与えられますが、もし解けなければ「天罰(ペナルティ)」と称して周囲の人間はみな虐殺されるという、人類にとって非常に危険な存在となっています。

 そんな天使に挑むのは、青葉市という日本の地方都市の「A校」という高校の生徒会生徒5人。個性的な5人のメンバーが、ときに張り合いつつも最終的には力を合わせる形で、失敗すれば死という天使の過酷な難問を解き明かしていくシーンが、このマンガの最大の見所になっています。
 提示される問題は、トランプやオセロのようなゲームのルールをモチーフにした問題や、いくつかのヒントを元に自身(天使)の正体を当てさせるもの、なんらかの言葉遊びや暗号になっているものなど様々。ノーヒントで解こうとするとかなり難しいものも多いですが、作中でヒントとなる箇所のコマには天使の羽が舞うといったサービスもあり、時には4択などで解答が絞り込まれるケースもあり、中々に楽しめるものとなっています。

 また、キャラクターたちが問題を解く時に見せるアクションも面白い。ときには解くために極めて大掛かりなアクションを必要とする問題もあり、そういった問題に対してキャラクターたちが走って飛んで時にはパンチやキックを繰り出して激しいアクションを繰り広げ、文字通り見事に難問を”打ち砕く”。これが大変爽快なものとなっています。

 また、本編とは別に、コミックスの巻末等に収録された問題も面白い。こちらは、作中の物語とは別の場所で、別のキャラクターが天使の出題に挑むというスタイルで(一部のキャラクターはのちに本編にも登場)、本編とは切り離された単独で成立するパズル問題となっていて、純粋に読者に対するサービスとなっています。


・個性的な生徒会役員たちが活躍する姿も楽しい。
 そしてもうひとつ、そんな謎解きばかりでなく、主人公たちA校の生徒会生徒たちの活躍を見る、一種の生徒会ものとしても面白いと思います。冒頭から学園祭とか修学旅行とか学園ものならではのイベントも多く、ちょっと変則的な学園ものとしてみても楽しめるでしょう。

 生徒会員たちの中でも中心的な存在が、生徒会長の姫川・ブルー・クリスティア。純粋で明るい性格で、天使の困難な試練に対しても常に真っ先に挑もうとします。彼女の前向きな行動に引かれる形で、他の生徒会員たちも奮闘する。彼女自身は他の人ほど突出した能力は持ち合わせていないけれども、その人柄と純粋な良心で、みんなを惹き付ける中心的な人物となっている。そのような構図が出来上がっています。
 そんなクリスティアにとって最大の力となるのが、主人公の聖(ひじり)蒼十郎。普段は情けない行動と性格で、いわゆるヘタレキャラとして描かれているのですが、天使の試練で難問に立ち向かう時には、その優れた頭脳を垣間見せ、果敢に難問を解いていきます。実質的に謎解きに挑む役目となっていて、あるいは解答の説明役ともなっています。
 謎解きに頭脳で挑むのが蒼十郎ならば、持ち前の肉体的能力で挑むのが、鋼田鉄男です。大柄で屈強な肉体を持ち喧嘩もめっぽう強い彼が、蒼十郎らの支持を受け、高い身体能力を駆使してたちはだかる天使の試練を粉砕していく。実力行使役とも言えますが、同時にあまり高くない思考能力を突っ込まれるいじられ役ともなっており、このマンガのコメディシーンの中心を担っています。特に後述の九条愛との掛け合いが多い。
 一風変わった生徒会会計である九条愛は、クールビューティーな美人として描かれ、生徒会の仕事も一手に引き受ける才女で、彼女もまた天使の試練攻略の中心的役目を担っています。その一方で、「鬼神の雷」などと呼ばれる強烈な回し蹴りに代表される戦闘能力の高さも持ち合わせ、身体能力を駆使して試練に立ち向かうこともあり、その双方で活躍の場が目立ちます。原作者の中西さんも、このキャラクターを最も気に入っているようで、作中での出番も多くよく愛されているようです。
 最後に、その生徒会を背後で支えているのが、副会長の神堂竜也。一見して軟派で軽薄な行動が目立ちますが、天使や国連直属の対天使対策”機関”に関する情報に長けた謎多き人物で、その持ち前の情報収集能力で生徒会を背後からバックアップします。

 このように、一人一人の生徒会員たちがはっきりとした個性を持ち、しかも役割を分担する形で天使の試練に挑んでいく構図がいいですね。積極的で明るいクリスティアが中心となり、彼女を支える蒼十郎が謎解きに挑戦し、鉄男が先陣を切って天使に立ち向かい、愛はその双方で活躍し、そして竜也が後ろからすべてをバックアップする。「アンバランスな五人組が試練に立ち向かっていく姿がカッコイイ」という、とある読者の感想も頷けるマンガになっています。


・天使の謎を巡るストーリーも面白かったが・・・。
 そして、そんな生徒会の生徒たちが、行く先々で襲い来る数々の天使の試練を乗り越えつつ、天使たちの謎や天使と関連する”機関”の謎を巡るストーリーにも興味深いものがあり、こちらでも楽しめたような気がします。特に、連載の前半に当たるコミックスの1巻〜3巻までの展開は、天使の試練に挑むイベントが一定の話数でテンポよく解決され、ストーリーを追うだけでも楽しいものがあったと思います。青葉市の市街、学園祭で賑わう学内、修学旅行で目的地に向かう新幹線、着いた先の京都でのイベントと、試練のたびに舞台が次々と変わっていくのも新鮮で楽しいものがありました。

 しかし、3巻の後半辺りから、ストーリーが佳境に入ったのか、それ以降急速にストーリーがシリアスさを増し、一旦悲劇的な結末を迎えることになり、逆にいまひとつ楽しめなくなったような気がします。特に、4巻の半ばに一旦ストーリーがリセットされ、以降を「第二部」「逆襲編」として以降の展開が、どうもいまいちなような気がします。これまでの伏線が次々に明かされ、一気にクライマックスまで突き進むストーリーは、あまりにも性急で情報量も多すぎ、わたしなどは少々混乱してしまいました。作者自身、「最終巻は残りページ数との戦いだった」とも書いているくらいで、あまりにも詰め込みすぎだった感は否めません。一応伏線などはきちんと解決しているとは思いますが、それでストーリー自体を楽しめたかというとまた別問題でしょう。

 また、この最終巻近辺では、前半あれだけ力を入れていたクイズやパズルなどの謎解きの要素が、ほとんどまったく見られなくなったのも残念なところです。このマンガ最大の売りだった謎解きなくしては、やはり作品の魅力は半減してしまいます。できれば、最後まで天使の試練を攻略をしつつ進んでいくコンセプトを守ってほしかったと思います。

 ここまで最終巻が性急で詰め込みすぎだった理由としては、一種の早期での打ち切りの可能性も考えられますが、それ以上に、最初からこの5巻での終了が決まっていた可能性が大きいと考えます。コミックスの3巻あたりで、「物語は折り返し点を迎える」と書いていましたし、原作者の中西さんの過去の連載も、すべて5巻で終了していることから、今回の作品も5巻で終わらせるつもりだったのかもしれません。しかし、この作品はもっと長く続いてもよかった。天使との謎解きバトルをこなしつつ、今までと同様のペースでストーリーを進めてもよかったと思うのです。


・様々な企画を打ち出して盛り上げようとした試みは大いに評価したい。
 そんなわけで、最後の頃はちょっといまいちだったような気がしますが、それでも謎解きを中核に据えて個性的な生徒会メンバーたちが挑んでいくというコンセプトは面白く、かなり楽しめた作品だったと思います。比較的短期の2年の連載とコミックス5巻で終わったわけですが、最後まで特に悪い評判は聞きませんでしたし、もっと続いてもよかったと思っています。

 また、最近のコミックブレイドの連載が、相変わらずいまひとつ奮わないと思える中で、こうして新鮮なコンセプトの作品を打ち出し、周囲で盛り上げようとしたことも、このマンガをより評価したい理由となっています。最近のコミックブレイドの中では、貴重な話題作で良作のひとつではなかったかと思います。原作者の中西達郎、作画担当のnini共に、それぞれの作者らしい個性を出していました。中西さんの原作は奇抜な遊び心に満ちていましたし、niniさんの作画も、かなり細部まで凝った指定だったらしいですが、最後までよくこなして描いていたと思います。作画に関しては言うことなしの作品でしたね。

 また、この作品に関しては、マンガ本編のみならず、原作者を中心にして周囲で様々な企画が組まれたのが好印象でした。連載中の雑誌掲載のおまけページ、コミックス巻末の読者プレゼントの謎解き問題、コミックスカバー裏のおまけ小説やキャラクター座談会、そしてウェブ上の特設サイトにおけるスピンオフ(外伝)小説の掲載など、多岐に渡る企画で盛り上げようとしたことは、大いに評価していいと思います。どれも作品の世界を広げるのに効果的な企画だったと思いますし、特にウェブ上での特設サイトの開設はよかったと思っています(欲を言えばもう少し更新頻度を上げて、最近はすっかり浸透したTwitterなどのリアルタイムなツールを使って盛り上げてほしかったところですが)。

 マンガ本編が終了した現在でも、特設サイトではスピンオフ小説の更新が続いているようです。中西さんの次回作は短期の打ち切りが決まりましたし、マンガもこちらの方を復活させてくれないかなと思っています。

 パラドクス・ブルー特設サイト PARADOX BLUE ONLINE


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