<とある科学の超電磁砲>

2009・11・25

 「とある科学の超電磁砲(レールガン)」は、メディアワークスの電撃大王で2007年4月号から開始された連載で、同社の電撃文庫から刊行されているライトノベル作品「とある魔術の禁書目録(インデックス)」の外伝、スピンオフ作品となっています。また、これとまったく同時期に、スクウェア・エニックス(スクエニ)の月刊少年ガンガンにおいても、原作ライトノベル「とある魔術の禁書目録」のコミック化作品がスタートしており、こちらと連動する形での連載となっていることが大きな特徴です。以後、双方でペースを合わせて雑誌連載とコミックスの刊行が行われており、どちらも高い人気を獲得しています。そして、どちらも最終的にはテレビアニメ化を果たし、こちらも安定した評価を得ているようです。中でも、この「超電磁砲」は、今の電撃大王の連載中でも最も成功した、看板作品のひとつとなっていると見てよいでしょう。

 しかし、メディアワークスから見ると他社にあたるスクエニの少年ガンガンで、原作本編の「禁書目録」のコミック化が行われ、同社の雑誌である電撃大王で「超電磁砲」の連載が行われるというのは、一見するとひどく不思議にも見えます。最近では、他社の雑誌でライトノベルのコミック化が行われることは珍しくないので、スクエニの方の雑誌での連載だけならばさほど不思議ではありません。しかし、より重要とも言える原作本編の方を他社で行い、自社では外伝を手がけるというのはちょっと珍しい。これは、実はとある電撃大王の編集者の意向が強く関わっていたらしいのですが(詳細は後述)、それゆえに一読者から見るとちょっと不思議な連載形式となったようです。

 作者は、原作がライトノベルの作者である鎌池和馬、作画に冬川基(ふゆかわ もとい)。作画の冬川さんは、元々は同人で名の知れた作家だったらしく、この連載に当たってとある電撃大王の編集者(後述)に抜擢され、初の商業誌連載となったようです。同人時代から定評のあった作家らしいですが、商業連載においてもその実力は確かで、その作画能力には見るべきものがあり、非常に優れたコミカライズを果たしています。

 一方で、少年ガンガンの「禁書目録」の作画を担当しているのは、こちらも新人作家の近木野中哉(こぎの ちゅうや)で、こちらも優れたコミカライズを果たしています。この記事では、このガンガンでの「禁書目録」との比較も交えて、この優れたコミカライズ作品を考察していきたいと思います。


・ガンガンとの連動連載の真相。
 上記のように、この「超電磁砲」、ガンガンにおける「禁書目録」の連載との連動企画という側面が強く、しかも他社のガンガンで本編、自社の電撃大王で外伝、というちょっと不思議な形式を採っています。実は、これにはガンガンと電撃大王の編集部で(主に電撃大王の編集部で)、連載を巡っていろいろな思惑があったようなのです。

 まず、一番最初にこの企画(「禁書目録」のコミック化)が持ち上がった時点では、コミック化が行われる予定だったのはガンガンの「禁書目録」のみであり、電撃の方で外伝を掲載する予定などはなかったようです。あくまで単体の企画であり、それならば、最近では他社でライトノベルのコミック化が行われることは珍しくないですし、スクエニのガンガンでの連載決定もさほど不思議ではありません。

 しかし、ここで電撃大王の編集者に多摩坂という人がいまして、この人が、まあその相当なやり手で、「ガンガンだけでなく、自分のところでも是非『禁書目録』のコミック化をしたい」と主張したらしいのです。それも、原作では最大の人気キャラクターのひとり、御坂美琴を主人公に据えて外伝的な作品を手がけたいと。そして、この編集者の要望が受け入れられる形となり、この電撃大王での外伝作品「超電磁砲」の連載が決定したようです。同人作家から冬川基を発掘して起用したのも、やはりこの編集者のようです。そうして、他社のガンガンで本編「禁書目録」の連載、自社の電撃大王で外伝「超電磁砲」の連載という、一見して不思議にも思える連動企画が決まった・・・というのが真相のようです。

 ちなみに、この多摩坂という編集者、かつてネット上でブログを運営し、そこで色々と物議を醸す発言をし続けて(笑)、一時大いに話題になった人なのですが、しかしこのように自ら積極的にコミック化企画を推進し、優れた新人を発掘して良作に仕上げ、最終的にはテレビアニメ化まで達成したわけですから、その編集者としての手腕には、やはり一目置かざるを得ないところがあると思います。同じく電撃大王の「狼と香辛料」を小梅けいとに描かせてコミカライズを行ったのも彼らしいですし、他にもコンスタントにコミカライズ作品をうまく軌道に乗せている(いた)わけで、編集者としての力量は決して悪いものでないと思います。


・良く出来たミステリー仕立てのストーリー。
 さて、肝心の内容ですが、「禁書目録」の外伝だけあって本編と関係が深く、本編と同じ時間において起こったもうひとつの出来事を描いています。本編の裏で起こっていたアナザーストーリーとも言える内容で、「外伝」というよりは、「もうひとつの本編」と言ってもいいような内容かもしれません。原作は、科学(超能力)と魔術が並存する独特の設定が特徴的な作品ですが、「禁書目録」の方が主に魔術側のキャラクターを描いているのに対し、この「超電磁砲」では、科学(超能力)に属する者たちのストーリーを描いています。

 東京都の西部に建設された巨大学園都市。そこでは、すべての学生に対して超能力開発のカリキュラムが組まれ、成果に応じてレベル0(無能力)からレベル5(超能力)までランク付けがされています。努力次第で上のランクに上昇できる人はよいのですが、個人の持つ超能力には多分に元からの才能に依存するところが大きく、いくら努力しても上にはのぼれない生徒も大勢します。そんな彼らの多くが、途中でカリキュラムを半ばあきらめてしまい、中にはやさぐれて不良となって街の治安を乱すものもいれば、逆に能力がないことで暴力やいじめを受ける者もいて、能力主義ゆえの大きな弊害が生じている状態ともなっています。

 そんな学園都市で、ネット上に「幻想御手(レベルアッパー)」と呼ばれる正体不明のファイルが流され、これを使うだけで簡単に能力のレベルを上げることが出来るという噂が広まります。しかも、実際に能力レベルを上げた者も登場し、その能力に乗じて悪事に手を染めるものまで出てくるようになります。最初に登場したのが、うだつの上がらない低能力者で周囲からいじめられていた男で、レベルアップした力を悪用して、普段自分を助けてくれないと恨んでいる風紀委員や警備員たちを爆弾で狙う「虚空爆弾事件」を起こします。
 この事件は、主人公たちの活躍で無事解決しますが、その後も「幻想御手」を使ったという者がさらに幾人も登場し、また彼らの多くが原因不明の意識不明状態に陥るという事態にまで展開します。一体、ネットに「幻想御手」をばらまいている人間は誰なのか。そして、一体何を目的としているのか。その事件の真相を追うミステリー仕立てのストーリー展開が非常に面白く、これは本編ストーリーと同等かそれ以上のものがあると思います。

 本編同様に登場キャラクターの個性も魅力的です。本編のヒロインで非常に高い人気を誇るレベル5能力者・御坂美琴を主人公に、彼女を慕う風紀委員の白井黒子、同じく風紀委員でオペレーター能力に長けた初春飾利、そして外伝からのキャラクターとして初春のクラスメイトの佐天涙子と、彼女たちが物語の中心となり、高能力者である美琴や黒子がバトルシーンでの活躍を見せてくれる一方で、彼女たち女の子が普段の日常生活を楽しむ姿もよく描かれています。
 そして、本編の主人公である上条当麻も忘れてはなりません。本編ほど出番は多くないですが、美琴にとって気になるライバルとして序盤は登場が多く、「虚空爆弾事件」でも美琴たちを密かに助けて幼い子供を窮地から救うなど、さりげなく主人公にふさわしい活躍を見せてくれます。


・登場人物の心理をじっくりと見せるストーリー作りにも好感。
 そしてもうひとつ、そんなストーリー展開の面白さ、本編ゆずりのキャラクターの魅力に加えて、キャラクターの心理をじっくりと見せる姿勢にも見るべきものがあります。それも、主人公に敵対する存在である、悪人とも言えるキャラクターにおいて、それが強く感じられます。単なる悪い人間には描かれておらず、相応の事情と思い詰めた心理を丹念に描いているのです。

 例えば、物語序盤で最初の敵となる、「虚空爆弾事件」の犯人である爆弾魔の男がそうです。彼は、能力レベルが低くうだつのあがらない、ひどく気の弱い青年であり、学園都市で普段からいじめや暴力を受けていました。そして、「自分がそんな目に遭うのは風紀委員や警備員がしっかりしていないからだ」と彼らを恨み、連続爆弾事件という犯罪に及びます。これは、結局のところ単なる逆恨みでしかないのですが、しかし普段の彼の虐げられる日常の姿と、そこまで思い詰めるに至った切迫した心理が詳細に描かれているため、「たとえ犯罪者であっても、それを犯すまでに相応の事情がある」ことを垣間見ることが出来るのです。
 同じことは、メインキャラクターのひとりである佐天涙子にも言えます。彼女は、さばさばした快活な性格で、普段は明るく学園生活を送っているのですが、しかし自分には能力の素質がまったくないことを常日頃から気にかけており、悪いとは知りつつも友人たちをも巻き込む形で「幻想御手」に手を出してしまうのです。こちらでも、普段から能力者に対する憧れと自分の無能力への失望感、そして実際に手を出した後の涙を流して後悔する姿がじっくりと描かれているため、やはりそれ相応の事情を思い図ることになります。

 これらのキャラクターは、悪い行為をなしてしまったという点では落ち度がありますが、しかし元から完全な悪人だったとは思えません。普段から能力を渇望する涙子が、思わず禁断の手段に手を出してしまった気持ちは本当によく分かりますし、あるいは凶悪な犯罪に手を染めた爆弾魔の男でさえも、普段から恒常的に虐げられていた状態を知れば、やはり深く同情してしまいます。

 同じことは、「幻想御手」を製作してネットに流出させた、この事件の首謀者にも当てはまります。この者が行った行為もれっきとした犯罪、それも非常に大掛かりで多数の被害が出るような深刻なものですが、しかしそこまでの行為に至った過去の非道な実験の詳細と、その非道な実験を二度と繰り返したくないという心理が、やはり大きく描かれており、決して単なる悪人には描かれていません。そんな風に、あえて負の方向に傾いてしまったキャラクターの心理を丹念に描くことで、読者に深く考えさせる骨太なストーリー作りを達成しているのです。本当の悪は、犯罪に思わず手を染めてしまったか弱き個人ではなく、この学園都市で進行するより大掛かりな能力開発の企みであり、犯罪者個人は、加害者ではあるけれども、同時に学園都市の能力偏重主義の弊害を受けた被害者でもある。そんなテーマを強く感じる深いストーリー、これは本編でも共通したテーマですが、この外伝でもよりはっきりと見ることができるのです。


・冬川基の作画能力の高さが最も評価できる。
 そして、このマンガは、そんなストーリーと同等以上に、作画担当者である冬川さんの絵に素晴らしいものがあります。連載開始時点から、この作画は非常に映えるものがあり、序盤からの高い人気・評価の大きな原動力になったのではと考えています。

 彼の作画の特徴は、くっきりと黒く映える描線と、同じくこちらも映える黒いベタの表現です。このふたつの効果で、極めて鮮烈で印象的な作画となっています。黒髪のキャラクターなどは特にそのベタの表現が生きていますし、背景の作画でも学園都市の細かい部分まではっきりした描線で描かれ、綺麗で読みやすい絵柄となっています。一目見ただけで読者の目に飛び込んでくる鮮烈さは、このマンガの最大の特長と言えます。

 作品の最大の見せ場とも言える、バトルアクションシーンもよく描けています。能力バトルでの派手なエフェクトや、破壊される建物や地面の様子、そして生き生きとした動きを見せるキャラクターのアクションと、どれを取ってもまったく申し分ありません。能力を頭脳的に駆使して闘う戦略性のあるバトル、その姿も過不足なく描かれています。作者の商業誌での初連載でありながら、連載開始当時からこれらの作画は非常に安定しています。電撃大王では(特に多摩坂氏の手がける作品には)、この他にも同人出身の作家によるコミカライズ作品が多いのですが、この冬川さんは、その中でも最も安定した実力を持っていると思います。この作家を発掘したことは、大きな成果だったと言えるのではないでしょうか。

 そして、これが初期の頃のガンガン連載の「禁書目録」と比較して、最も優れた点だったのです。ガンガンの「禁書目録」は、初期の頃は近木野さんの作画がややおぼつかないところがあり、比較的ぼんやりとした描き方で、キャラクターの造型や背景の描き込みでやや劣っていたところがあり、やや印象の薄さを感じてしまいました。それに対して、「超電磁砲」の冬川さんの作画は、一目見ただけで実に鮮烈な印象。初期の頃は、本編の「禁書目録」よりもこの「超電磁砲」の売り上げが若干上回っていたのも、そのあたりに理由のひとつがあったのではないかと考えています。

 ちなみに、当初はやや劣ると感じていた「禁書目録」の作画も、連載を重ねるごとにどんどん上達していき、コミックス5巻を数える今では、「超電磁砲」と比べても全く遜色のないレベルに達しています。こちらの作画担当である近木野さんの努力も評価されるべきでしょう。


・ストーリー、作画ともにレベルの高い、実に優秀な外伝作品。
 以上のようにこの「とある科学の超電磁砲」、ストーリー・作画ともに優れた作品で、原作本編の「とある魔術の禁書目録」と比較してもまったく遜色のない、優れたコミカライズ作品になっています。いや、これは原作にはないオリジナルのストーリーですし、しかも本編のストーリーを知らなくても、これを最初に読んでも十分に楽しめる作品になっていると思います。本編と比較しても、主人公の御坂美琴を始め女性キャラのメインキャラクターが多くなっていますが、決して萌え重視の作品にもなっておらず、骨太なストーリーとアクションで構成された、本当に読めるマンガになっています。今の電撃大王で看板のひとつになっているのも納得の一品ですし、「禁書目録」のアニメに続いてこちらもアニメ化されたのも、この面白さならば妥当な決定だと言えるでしょう。

 そして、元々はガンガンでの単独連載だったところを、自社の雑誌でも積極的に連載化企画を立ち上げ、連動作品として双方ともに成功させた功績も大きい。コミックスの発売もほぼ同時期に行われ、双方のコミックスに互いの作家が寄稿を行うといったサービスもあり、これが双方の売り上げにも大いに貢献したと思います。ふたつのコミカライズの連動企画だったからこそ、ここまでコミック版の盛り上がりを見せたのだと思うのです。ガンガンの「禁書目録」も十分な良作なので、これ単体でも成功はしたと思いますが、単独でここまで盛り上がったかどうかは分からない。この「超電磁砲」の企画を立ち上げた多摩坂氏は、その発言には私的にも納得できないところが多かったのですが、こうした企画を積極的に立ち上げ、そして成功させたという功績に関しては、やはり素直に評価するべきだと思います。

 現在(2009年12月現在)、この作品はテレビアニメが放映中であり、好評だった「禁書目録」のアニメに引き続き、こちらも好評放映中のようです。そして原作の方は、本編とは異なるエピソードを見せてくれたこれまでの展開が一段落つき、今度は本編の原作第3巻のエピソードを別視点から見るエピソードへと入っています。このエピソードは、原作でもガンガンのコミック版でも非常に好評だったもので、御坂美琴のキャラクター性を確立した名エピソードです。これを「超電磁砲」がどのように再構成して見せてくれるのか、また大きな楽しみが出てきました。この外伝がどこまで連載するのか現時点では不明ですが、ガンガンの「禁書目録」との連動もいまだ盛り上がっていることですし、これからも双方ともに長く続いてほしいと思います。


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