<さえずり少女、しんしん鎌倉>

2013・9・15

 「さえずり少女、しんしん鎌倉」は、芳文社のまんがホームで2011年12月号から2012年10月号まで連載された4コママンガで、1年足らずの短い期間で終わっています。コミックスは翌2013年5月に発売され、全1巻で終わっています。

 「さえずり少女」とは、主人公のフランス人の金髪少女・コズリのこと。ちょっと聞きなれない名前ですが、「コズリ=Causerie」でフランス語で小鳥のさえずりの意で、ちょっとしゃれたネーミングになっています。
 そのコズリが、かねてから憧れていた日本の鎌倉へとやってきて、こちらで高校へと通いつつ、日本の文化に触れていくというストーリーとなっています。鎌倉の風景や、学校での茶道部の活動、あるいは季節ごとの行事、そうした日本の姿が積極的に描かれ、一方でコズリがフランスにいたころの出来事が描かれる話もあり、さしずめ日仏文化交流のようなマンガとなっています。

 こうした外国の少女が日本へ・・・といった設定の物語は、以前から比較的よく見られ、とりわけ同じ芳文社の4コマの「きんいろモザイク」とは、共通した点が多く感じられます。しかし、こちらの方は、より日本の文化や街(鎌倉)の風景をストレートに描いていて、文化交流の描写という点では、より積極的なものを感じます。

 作者はmatoba。現在、ガンガンONLINEで「魔女の心臓」を好評連載中の作家で、こちらはこの「さえずり少女、しんしん鎌倉」の少し後に連載が開始されています。こちらの方は、ガンガンONLINEでも最近特に推されている連載となっていて、この連載の方でよく知られていると思います。一方で、この「さえずり少女、しんしん鎌倉」は、さほどの反響はなかったのか比較的短期間で終わってしまっており、少々残念な結果になっています。


・純真なコズリの行動が楽しく微笑ましい!
 しかし、このマンガ、コミックス1巻で終了してしまったとはいえ、決して悪いマンガではなかったと思うのです。芳文社のほかの4コマと比べても見劣りしないと思いますし、コミックス発売の時には各所で反響も聞かれました。短期で終わってしまったがゆえに、連載が終わった後に評判が広まったマンガだと言えるでしょう。

 特に、鎌倉にやってきたフランス少女・コズリちゃんの、日本の文化に触れて喜ぶリアクションがとても微笑ましく、とても華やかで楽しいマンガになっていると思います。日本の食べ物や独特の風習に触れるたびに、目を輝かせて感心し、カタコトの日本語でオーバーに表現する。ここまで喜ばれると、日本人として悪い気はまったくしません(笑)。

 コズリは、高校一年生でありながら、見た目がちっこくて「小学生のような」とも紹介されていて、本当に小学生にしか見えません(笑)。そんな幼女・・・もといかわいらしい少女が、純真な性格で日本の文化に触れるたびにまるで子供のように喜ぶ。これこそが、このマンガの最大の楽しさにつながっていると思います。主人公が普通の高校生でもいいのですが、それではここまで底抜けに明るいリアクションにはならないと思うのです。あえて幼く描いたことが、作品の明るさにつながって成功しているのではないでしょうか。

 そして、そんなコズリを見守る周囲の人々の視線も温かく優しい。隣の和菓子店・ひなぎく堂で働く高校二年生・静(しずか)、コズリの下宿主にして担任の先生でもある五月先生、コズリのクラスメイトとなったちひろちゃん・さほちゃん・ててちゃんら女の子たち。彼女たちと仲良くなって一緒に行動するコズリを見て、日本に来て本当によかったなと見守りたくなりますね。


・鎌倉の美しい情景がふんだんに盛り込まれているのも魅力。
 そしてもうひとつ、日仏文化交流という点においては、作品の舞台が鎌倉で、毎回のようにコズリがいろいろな場所へと赴き、随所に様々な場所の光景が描かれているのが、やはり最大の魅力と言えます。

 描かれているのは、有名な観光地や景勝地だけではありません。むしろ、観光地ではないごく普通の街角を描いたシーンも多く、そうした場所の絵もまた美しさを感じるのです。あるいは、そうした何気ない光景こそが、地に足の着いた日本文化の真の姿を表しているのかもしれません。

 特にはっと目を見張るのは、毎回の連載で最初のページを飾る扉絵にあたるコマです。4コマ雑誌では、最初のページが5コマで、そのうちの1コマが大ゴマになっている構成が多いのですが、その大ゴマで鎌倉のどこかの場所が何度も描かれています。しかも、そのほとんどが何気ない街角の光景で、そのどこかにコズリが佇んでいるのですが、広々として整った街角の情景が美しく細部まで描かれていて、作者もこのコマには特に力を入れているように感じられました。

 わたしも、こうした風景描写を見て、自分も鎌倉に行って街を歩きたいと本気で思ってしまいました(笑)。「しんしん鎌倉」というタイトルは、主人公がこうした街角にまで深く鎌倉になじんでいる姿を指しているような気がします。


・「魔女の心臓」よりは「ほしのこ!」に近い?
 このように、明るく微笑ましい作風で、かつ美しい情景をも随所で見せる「さえずり少女、しんしん鎌倉」ですが、作者の同時期の連載「魔女の心臓」と比べると、やや雰囲気の異なる作品になっていると感じます。

 「魔女の心臓」は、随所にくすっと笑えるコメディなやり取りは見られるものの、基本的にはシリアスなファンタジーストーリーで、主人公の悲しい運命の旅を切々と描く物語となっていて、彼女が行く先々で出会うエピソードもひどく悲しいものが多いのです。中性的でかわいい絵柄も魅力的なのですが、それと対照的なシリアスなファンタジーとなっている点が特徴的で、これはいかにも(かつての)ガンガン系らしいなと思って感心したものでした。

 しかし、この「さえずり少女」、そうした暗いところはまったくなく、最後までコズリを中心とした明るい交流、そして鎌倉の美しい景色や日本文化の描写で構成されています。こちらも中性的な絵柄は共通していますが、楽しいコメディ要素がより全面に押し出されています。

 これは、「魔女の心臓」の一つ前にガンガンONLINEで連載されていた「ほしのこ!」というマンガの方に近いものがあるかもしれません。この「ほしのこ!」、突然天井を破ってやってきた星の子と名乗る女の子を中心に、高校生の男女の恋愛や楽しい交流を描いたコメディとなっていて、明るく賑やかな少女マンガ風の作品になっていました。この「さえずり少女」も、同じくかわいい少女マンガ的な雰囲気が強く感じられ、ほど近い作風が感じられます。こうした作品も、またmatobaさんらしい作風だと思いますし、「魔女の心臓」と同時にこうした連載が行われたことを、とてもうれしく思いました。


・「きんいろモザイク」とはまた違った魅力が。こちらの方が日本文化をよりストレートに描写している。
 また、同じ芳文社4コマの「きんいろモザイク」と比較しても面白いと思います。このふたつ、実際かなりコンセプトに似たところがあり、フランスとイギリスという出身地の違いこそあれ、どちらも日本文化が好きな金髪少女が日本にやってきて、こちらに住む日本人のキャラクターと温かな交流を行うというストーリーになっています。「きんいろモザイク」の方が先行した連載で、かつこちらの方が有名になったことから、この「さえずり少女」の方を二番煎じとする意見も目にしましたが、果たしてどうでしょうか。

 わたしとしては、このマンガは、決して先行作品の二番煎じにはなっていないと思います。「きんいろモザイク」も、日欧文化交流というテーマは変わりませんが、しかしこちらはキャラクター同士の交流が中心で、かなりとっぴなギャグ・コメディも多い賑やかな作品になっています。また、こちらの作品には、特定の場所設定が明かされていないようで、日本のその場所ならではの光景は少ないように感じられます。

 対して、この「さえずり少女」、舞台は鎌倉で街の光景を描いたシーンがふんだんに見られ、さらには和菓子屋や銭湯、学校の茶道部、花火大会に夜店、観光地の鶴岡八幡宮と、日本ならではの場所を描いたエピソードがかなり多い。同じようなエピソードは「きんいろモザイク」にも見られますが、こちらの方がより積極的に描いている印象を受けました。
 それゆえに、こちらの方が、異文化交流というテーマを、より強くストレートに描いていると思うのです。とりわけ、鎌倉の街角の瀟洒で美しい光景が、大ゴマで毎回のように見られたのは本当に印象的でした。やはり、鎌倉という舞台設定を決めたのは大正解だったと思います。

 個人的には、こちらも「きんいろモザイク」に匹敵する名作だと思っていたのですが、それゆえに短期で終わってしまったのは本当に残念。物語の最後は、コズリが持つペンダントを巡るエピソードで締めくくられましたが、もっといろいろな話を読みたかったなというのが本音でした。matobaさんは、現在「魔女の心臓」の連載が順調に発展中ですが、たまにはこちらの連載の方も思い出してほしいと思います。


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