<さくらリンク>

2010・1・31
一部改訂2011・3・12

 「さくらリンク」は、一迅社の4コマ誌「まんがぱれっとLite」に創刊号のVol.1(2008年3月)から掲載された作品で、同誌の他のマンガと同様、スタンダードな「萌え4コマ」であろう4コママンガとなっています。創刊以来長らく連載を重ねてきたにもかかわらず、長い間コミックスが発売されてきませんでしたが、ようやく創刊から1年半ほど経った2009年10月に、コミックス1巻が発売されました。そして2010年のVol.28で終了し、コミックスは2巻で完結しています。

 作者は、河南あすか。かねてより同人活動を積極的に行っており、同時に鉄道やミリタリーなど多彩な趣味を持っていて、それらすべてがこのマンガの内容に反映されています。さらには、女性の作家らしい可愛いものをこよなく愛する精神も、またこのコミックスに詰め込まれているようです。総じて、自分の趣味が連載作品全面に取り入れられています。また、同人誌の方でもこの「さくらリンク」の本を積極的に出しており、そちらでも商業版を変わらない制作スタイルを見ることが出来ます。

 その内容は、まさに上記の通りに作者の趣味が全面的に出ていて、主人公の霧島桜を始めとする女子高校生・大学生たちが、同じアパートの部屋で和気あいあいと暮らしつつ、同人誌即売会やサバイバルゲーム、学校の文化祭やクリスマスパーティーなど、様々なイベント活動を楽しむ姿が描かれています。日常をまったりと楽しむ、スタンダードな癒し系萌え4コマと比べると、より積極的に自分からイベントに参加して楽しもうとするキャラクターの姿勢が顕著に感じられ、毎回のように楽しい活動の様子が描かれる賑やかな作品となりました。

 掲載誌の「まんがぱれっとLite」は、同じく一迅社の「まんが4コマKINGSぱれっと」の姉妹誌で、どちらも典型的な萌え4コマ誌としてそのカラーは非常に近いものがありますが、こちらの方が比較的マニアックなノリの作品が多いような気がしなくもありません。この「さくらリンク」もその代表的な連載作品で、マニアックなオタク趣味を積極的に楽しむかわいい女の子の姿が、掛け値なく明るく楽しく描かれています。作者自身も心の底から楽しんで描いているようで、商業誌の連載でありながら、ここまで作者がやりたいことを好きなだけ描いているマンガも希少ではないかと思っています。


・楽しいことに全力で取り組むキャラクターたちに好感。
 まず、このマンガは、作者の多彩な趣味を反映したキャラクターたちの活動ぶりに好感が持てます。とある学校の高等部・大学部に通う女の子たちが主人公なのですが、誰もが楽しいことに積極的に取り組んでいて、中でもいわゆるマニアックなオタク的な趣味が顕著です。

 主人公の霧島桜は、このキャラクターの中でもとりわけ明るく天真爛漫で、「制服がかわいいしいろいろ面白そうだから」という理由だけでこの高校に転校してきます。さらに、「さくら基地へようこそ!ルームメイト募集」という張り紙を見て、これもまた「面白そう」だと感じてあっさりと応募してしまいます。そして、そこに住んでいた女の子たちのマニアックな趣味に積極的に関心を持ち、同人イベントやサバイバルゲームへ参加するようになり、心の底からその活動を楽しむようになります。この、どんな時でも常に明るく、楽しいことに全力を尽くす姿勢こそが、このマンガの本質をよく表しています。

 さくら基地でルームメイトを募集していたのは暁椎(あかつきしい)という女の子で、桜に比べればまだずっと常識的な性格ではあるものの、一方でサバゲー(サバイバルゲーム)が趣味で毎週のように活動するというマニアックな一面を持ち、部屋にやってきた桜にも参加をうながし、あるいは桜の起こす活動にもよく付き合って楽しむようになります。
 もうひとりのルームメイトの春日燕(かすがつばめ)は、作者の最大の趣味である、同人活動を象徴するキャラクターとなっています。日々同人誌を盛んに執筆し、あるいは様々なグッズやペーパー、コピー誌にも手を広げ、週末にイベントがあるたびに積極的に参加するその姿は、本当に同人活動が好きで楽しんでいることがよく見て取れます。

 隣の部屋に住む大学部の早瀬那智と藤波瑞穂は、隣の椎や燕とも交流を持っていて、やはりサバゲーや同人活動を趣味としています。また、このふたりは、淡い百合カップルとなっていて、同じルームメイトとして日々ふたりの生活を楽しむ、おだやかでゆるやかな恋愛的関係となっています。このふたりの関係は、あの「ひだまりスケッチ」のヒロと沙英にちょっと似たところがあるかもしれません。

 1巻後半になって登場するクラス委員長の千歳葵は、おっとりした性格ながらも鉄道が趣味というマニアックさを持ち、あるいはつばめのことが大好きで、ここでもゆるい百合的な関係が見られます。彼女もまた主人公たちに積極的に関わって、様々なイベントを共に楽しむ姿が見られるようになります。

 同じアパートの部屋で女の子たちが和気あいあいと暮らすというシチュエーションは、たった今挙げた「ひだまりスケッチ」の設定と似たところもありますが、「ひだまり」の方のキャラクターが、毎日の穏やかな日常をゆったりと過ごしている姿が描かれているのに対し、この「さくらリンク」のキャラクターは、マニアックなイベントにまで自分から進んで参加して楽しんでいるという点で、作品の志向性に大きな違いがあると感じます。毎回のように何かのイベントに積極的に参加して、賑やかにわいわいと楽しむ姿勢が感じられるのです。


・サバゲーに同人誌即売会、文化祭にクリスマスパーティーetcetc。
 そして、そんなイベント活動に勤しむ様子が毎回熱心に語られます。たまに部屋でのんびりくつろいだり、学校での日常の活動を描く話もありますが、大抵の場合毎回なんらかのイベントに参加、そう行った話が多くを占めます。

 まずは、サバゲー(サバイバルゲーム)や同人誌即売会などのオタク的なイベントの数々。同人誌即売会はともかく、サバイバルゲームはさすがに女の子の趣味としてはマイナーだと思いますが、これはどうも作者が女性でありながらサバイバルゲームを趣味にしているらしく、作者の趣味が直接作品に取り入れられています。あるいは、イベントそのものでは出てきませんが、鉄道やミリタリー、車などの作者の趣味も、随所に小ネタとして散りばめられています。女性にしてこのような男性的なオタク趣味を持つ方も、最近では珍しくないですが、この河南あすかさんもそのひとりかもしれません。

 そして、作者の最大の趣味である同人誌即売会。それを扱った回は本当に力が入っています。地元の小さなイベントへの参加から始まり、最大規模のコミスパ(この作品でのコミケ)に夏と冬に参加と、1巻だけで3回も同人イベントの話があるのです。毎回、新刊にペーパーにグッズにと精力的な制作を行い、会場ではコスプレを楽しみ、目当てのスペースにあちこち買い漁りに行き、他の参加者とも交流を重ねる。そのひとつひとつが本当に楽しそうに描かれているので、これには文句のつけようがありません(笑)。本以外にバッグなどのグッズを作る話では、「バッグとかってみんなほしいの?」という素朴な疑問に「まずは自分の作りたいものを作るのが重要ですから♪」と答えるあたり、実際に様々なグッズを作っている作者の同人制作への姿勢が強く表れています。

 さらには、学校の文化祭でのメイド喫茶ならぬ女学生喫茶の出し物や、ルームメイトを集めての楽しいクリスマスパーティー、バレンタインイベントなど、さらに様々なイベント活動が続きます。こんな高校生活の日々が送れたらどんなに楽しいことか。そんな風に思ってしまうマンガになっています。


・作者のかわいいもの好きの精神も強く表れている。
 そんな風に、作者の趣味が毎回のイベント活動に露骨に反映されているこのマンガですが、それともうひとつ、作者の「かわいいもの」に対する愛着も全面に表れています。

 まず、この方の描く女の子は本当にかわいい。というか純粋に「かわいさ」というものを徹底的に追求した描き方です。これも一種の萌え絵なのかもしれませんが、作者が女性だけあって純粋にかわいさを主軸に描かれていて、男性の描く硬質な描線で肉感的な萌え絵とは一線を画しています。胸があるキャラクターも多くないですし、エロさはあまり(ほとんど)感じられず、ひたすらかわいさを追求したキャラクターの描き方です。描線もふんわりとしていてまるみを帯びていて、これは女性に特徴的な萌え絵ではないでしょうか。

 そして、そんなキャラクターたちが、毎回のように様々なかわいい服装(時にはコスプレ)で楽しませてくれます。制服のデザインからしてかわいさをとりわけ追求したことが感じられますし、大学部にもある制服も黒を基調としてタイトスカートでこちらもかわいい。メインキャラのつばめちゃんなどは、普段からよくメイド服を着て料理などを作っていますし、さらには、同人イベントではアニメキャラの制服や魔女っ子やメイドのコスプレを楽しみ、女学生喫茶でははいからな女給さん姿を見せてくれます。

 さらには、前述のように、ゆるやかな百合設定も、また作者のかわいいもの好きが表れていると思います。このマンガ以外の商業の仕事や同人でも百合作品がいくつか見られますが、かわいい女の子同士が仲良くしている姿に相当な愛着があるのではないでしょうか。

 こんな風に「かわいい女の子にかわいい服を着せる」「かわいい女の子同士が百合的に仲良くする」など、こちらでも作者のかわいいもの好きの趣味が全面に発露されているのです。作中のとあるキャラクターのセリフ「かわいいものをこよなく愛しているだけなんだ」は、まさに作者の心そのものと言えるのではないでしょうか。


・作者が本当に自分の好きなものしか描いてない、素晴らしい商業作品(笑)。
 以上のように、この「さくらリンク」、全面に渡って作者である河南あすかさんの趣味、自分の好きなものによって構成された、実に素晴らしい作品になっています。自身の多彩な趣味である同人活動、サバゲー(ミリタリー)、鉄道などといったオタク的なマニアックな趣味の数々をみんな作品に詰め込み、そしてかわいいものをこよなく愛する精神の元に、ひたすらかわいい絵でかわいい女の子を描きまくる。そんな、作者にとって自分の描きたいものを思う存分に描きまくった作品になっているのです。
 はっきり言ってこのマンガ、作者が自分の好きなものしか描いてない。作者自身のコメントでも、「とにかく好きなことばっかり描いてるので毎回楽しい」と語っており、本当にすべてにおいてそんなマンガになっています。

 そして、これは商業作品においては中々に貴重なマンガではないかと思うのです。ここまで好きに自分の描きたいものだけを描いている商業マンガ家は、そう多くはない。大抵の商業マンガ家の場合、雑誌のカラーに合わせた作品作りを求められたり、企画物の原作付きマンガを担当させられたりと、本当に自分の好きなマンガだけを描かせてもらえるケースは少ないと思います。特に最近は、以前よりターゲットを絞った作品作りがどの雑誌でも求められているようで、ますますそんな自由な作品は少なくなっています。
 そんな中でこの「さくらリンク」が自由に描かせてもらえるのは、おそらくは作者の趣味であるオタク的な趣味やかわいい女の子が、この「ぱれっとLite」という萌え4コマ誌の読者の好みに合っているためだと思われます。作者の描きたい個人的な趣味と、雑誌の読者層のニーズが、ほぼ完全に一致しているからこそ、このような作品が認められて連載出来た。そんな幸運な状態だったと思うのです。

 わたしとしても、このような商業作品が読めることは大変な幸運だと思いました。多くの商業誌において、必ずしもマンガ家が本当に自分の描きたいものを描いているわけではないのが現状でしょう。もちろん、商業作品である以上やむを得ない側面もあります。読者の求めるマンガを描くことは決して悪いわけではありません。しかし、そんな商業誌の中で、こんなマンガも存在しているんだということを是非とも多くの人に伝えたかった。これが、幾多あるマンガの中からあえてこの作品を採り上げ、この記事を書こうと思った最大の理由なのです。


「他社の作品」にもどります
トップにもどります