<がんばれ!消えるな!!色素薄子さん>

2009・4・21

 「がんばれ!消えるな!!色素薄子さん」は、コミックREXで2009年2月号から始まった連載で、同誌が2009年から開始した新連載攻勢の第二弾にあたるようです。この2009年に入ってからのREX新連載は、どれも好評のものが多いようですが、その中でもこのマンガは開始当初から高い人気を獲得しているようで、今後最も期待が持てる作品になっているようです。

 作者は水月とーこ(みづきとーこ)。元々この「薄子さん」は、同人誌で出されていた作品で、それがREXの編集長の目に留まり、晴れて連載化することになったようです。同人誌においては、一部に4コママンガも含まれる構成で、かつ作者が他の作品で4コママンガを手がけていることから、同社の出している4コマ誌「ぱれっと」か「ぱれっとLite」での掲載もあるかと思ったのですが、REXの杉野編集長の抜擢によってこちらでの連載が決まったようです。かなり早い時期での思い切った連載決定だったようで、これまで編集長が何度も見せてきた手腕の良さが、ここでも光ります。

 肝心の内容ですが、なぜかひどく存在感が薄く、誰にも気づかれないという困った特徴を持つ女の子「色素薄子さん」を中心に、個性的なキャラクターたちで織り成されるハートフルコメディといったところでしょうか。薄子さんならではの、日常のくすっと笑える出来事を丹念に描き、絵柄もシンプルながらほんわかした感じのいい作画で、この作者さんならではのほのぼのした作風に仕上がっています。それでいて、単にのんびり癒されるだけでなく、薄子という特殊なキャラクターを通して「誰もが幸せになることができる」という芯の通ったテーマが感じられることも、この作品をさらに読ませるものにしています。

 そして、連載開始当初から、雑誌の前の方に掲載されたり早い時期に巻頭カラーを獲得したり、実際に人気があるようでよい扱いを受けているのも好印象です。REXがまたひとつ発掘した良作として、これからも存分に期待できるのではないでしょうか。


・同人出身作品が成果を挙げるREX。
 前述のように、この「がんばれ!消えるな!!色素薄子さん」は、同名の同人作品をほぼそのままの形で商業作品化したもので、このような作品はREXでは他にいくつも見ることができます。しかも、そのいずれもが相当な成功を収めており、雑誌の中核作品としてラインナップに大いに貢献しています。
 REXには同人出身の作家自体も多いですが、そのような雑誌は他にいくつもあります。しかし、同人で描かれた作品の商業化をここまで積極的に行っているのは、おそらくはこの雑誌くらいでしょう。これは、編集長である杉野庸介の辣腕ぶりが大きく、良作を積極的に拾い上げて戦力として育てる手腕には並々ならぬものがあります。

 具体的には、今のREXの連載で、「ティンクルセイバーNOVA」(藤枝雅)、「蒼海訣戰」(納都花丸)、「白砂村」(今井神)の3つは、いずれも同人作品を連載化したもので、しかもこのすべてが雑誌内でかなりの成功を収めた人気作品となっています。「ティンクルセイバーNOVA」(同人時代は「ティンクルセイバー」)は、創刊当時からの看板作品ですし、「蒼海訣戰」もまたしかり、「白砂村」は、当初は前後編の読み切りとして始まったのですが、この出来が非常によく即座に連載化され、今でも非常に盛り上がった作品になっています。自らが発掘した作品が、いずれも雑誌の中核として活躍しているのは、心強い限りでしょう。

 そして、この「色素薄子さん」ですが、前述の作品群が、いずれもスケールの大きい大作的な連載となっているのに対し、こちらは同人時代から4コマ形式のページも含まれているように、単発のエピソードが中心で、一回のページ数も少なめの作品です。しかし、それでも当初からここまでの人気を集め、早い時期から巻頭カラーを獲得するまでになっているのだから、今回もその成果のほどは並々ならぬものがあると言えるでしょう。


・「人々は語る 彼女ほど薄い人はいない と」
 そんな人気の理由は、まずなんといっても、主人公である色素薄子さんの、影が薄い(存在感が薄い)ことをネタにしたコメディが、とにかく面白いことでしょう。

 そのままでいると誰にも気づかれず、バスは止まってくれないし降りることも出来ないし、気づかれずに人に荷物を置かれたりするし、挙句の果てには自動ドアや自動改札機すら反応しないという有様。そんなシーンに遭遇するたびにあたふたする薄子さんの姿が、たまらなく面白くていとおしいのです。黙って気配を消していれば姿すら認識できないほどで、そのあまりの存在の薄さに思わず笑ってしまいます。

 このような「存在感の薄いキャラクター」は、どういうわけかこのところ他のマンガでもちらほら見られるように思えるのですが(後述)、このマンガはその決定版と見てよいでしょう。影の薄さによって巻き起こる悲喜劇をほのぼのしたタッチで見せてくれる良質のコメディ作品になっています。同人時代からこの面白さは抜きん出たものがありましたが、創作ペースの速い商業作品になってもそのクオリティはまったく変わっておらず、今後も存分に楽しめそうです。


(おまけ)
 こういった存在感の薄いことを個性にしたキャラクターは、様々なマンガで見られるようですが、個人的にはヤングガンガンでの連載2作品でのキャラクターが思い浮かびます。
 まずは、昨今アニメ化されて話題の美少女萌え麻雀マンガ「咲 -saki-」の東横桃子の存在が強烈です。あまりにも存在感が薄いため、ただそこに立っているだけでも気づかれず(このあたりは薄子さんとまったく同じ)、麻雀でリーチをかけても気づかれないというありえない能力を持っています。個性的なキャラクターの多い同作品の中でも、存在感の薄さに反比例して特に印象に残るキャラクターとなっています。
 そして、それとは打って変わって戦争もの作品「FRONT MISSON DOG LIFE & DOG STYLE」における犬塚 (犬塚研一)の存在もあまりに印象深い。フリーのカメラマンの職についている彼は、昔から存在感のない地味な男として生きてきました。そして、それが戦場においては、敵兵士の目にも意識されず、爆弾やミサイル、ピストルの弾ですら脇をすり抜けていく、特異な能力を持つ人間となったのです。ステルスのように誰にも気づかれない戦場の透明人間・・・その幽霊のような異様な能力を持つ彼は、マンガの中でも特に重要なキーキャラクターともなっています。


・薄子の周りを固めるキャラクターたちも個性が光る。
 そんなこんなで、抜群の影の薄さがたまらなく魅力的な薄子さんですが(笑)、薄子さんの周りを固めるキャラクターたちも、負けず劣らず個性的なキャラクターが多く、こちらもまた楽しい。

 まずは、同人時代から薄子最大の親友にして15年来の幼馴染、絵尾画子ちゃんの存在が光ります。おとなしい性格の薄子さんとは正反対に、活発で天真爛漫で、それでいて絵に関しては芸術的な思考とセンスを見せるこのキャラクターは、この作品を大いに明るくにぎやかにしてくれます。周りの人に気づかれずに心細い思いをすることの多い薄子さんにとっては、最も頼れる心強い味方であることは間違いありません。
 また、この商業誌からのキャラクターとして、画子の弟の画太くんが新たに登場しています。薄子さんにほのかな恋心を抱く年の離れた中学生で、姉同様にこの作品のキーキャラクターとなるかもしれません。

 さらに、こちらもこの商業誌連載から登場したキャラクターとして、まずは小泉雲子(雲ちゃん)がいます。入学式で薄子と出会った際、薄子をヘビのような目つきでにらみつけ(笑)、大いに恐怖させましたが、いざ打ち解けてみればざっくばらんに付き合える気のいい女の子でした。彼女は、のちに薄子に喫茶店のバイトを紹介することになります。
 そして、これまた商業誌連載からのキャラクターとして、薄子の兄として濃造が登場します。おとなしくて存在感の薄い薄子と対照的に、明るく豪快な性格で、それでいて薄子に暖かく接する気のいいお兄さんとして描かれています。薄子と対照的な存在として、いいキャラクターを生み出したと思います。

 さらには、雲ちゃんの紹介でバイトとして赴いた喫茶店では、雲子のおじいちゃんにあたるマスターと、雲子の従姉妹にあたる甘咲薫さん。マスターは気難しいながらも店と紅茶へのこだわりと不器用な優しさをのぞかせ、薫さんの方もまた穏やかに笑顔で接してくれるいい人です。

 これらのキャラクターに共通していることは、一見して癖の強い個性的な人も多いけれども、しかしみないい(善い)人たちばかりで、悪い人がひとりもいないことでしょう。これは、今から語るこのマンガの「誰もが幸せになれる」というテーマを強く体現しています。


・「誰でも幸せになることができる」「自分だけが幸せな世界なんて幸せじゃない」
 このように、楽しいキャラクターたちが多数登場する良質なコメディ作品なのですが、しかしこのマンガは、単に笑って見るだけの作品でもありません。その根底には、 「誰でも幸せになることができる」という、作者の思いを体現した確固としたテーマが感じられるのです。

 薄子さんは、存在感がなく他人に気づかれないという点だけを見れば、それは不幸に見えるかもしれません。しかし、実際にはそうではないのです。薄子には薄子の世界があって、本人の心がけ次第で、あるいは彼女を周囲の人がしっかりと気遣ってあげることで、たとえそのような困った性質があったとしても、彼女はいつでも幸せになれるのです。
 それをよく表しているのが、連載第7話、薄子さんが画子ちゃんと一緒に雨の中を登校する話でしょう。長く続いた雨で気が滅入っていた上に、通学路では雨で散々な目に遭い、憂鬱な気分でいた薄子のでしたが、雨の中でも陽気な画子ちゃんは、「薄子が受け入れるだけで世界の色なんてあっという間に変わっちゃうよ」と言い、雨の降る世界の楽しさを語り始めます。それを聞いた薄子は、今までの憂鬱な気分がうそみたいに晴れて心地よくなり、こんな些細な心持ちしだいで、世界は幸せに変わることを身をもって知ることになるのです。

 いや、それだけではありません。薄子さん本人にも、逆に周りの人を幸せにする力があります。連載第1話、たまたまバスに乗り合わせた男の子が、お産で入院している病院のお母さんの元にお見舞いに行くことを知り、しかしお母さんにかまってもらえなくてちょっと寂しい気持ちになっているのを見て、精一杯その優しさで元気付けようとします。その薄子の一言で立ち直った彼は、笑顔でお母さんの元へと向かっていくことになります。

 このような「誰でも幸せになることができる」というテーマは、同人誌の時から強く打ち出されたこのマンガのテーマであり、これこそがこの作品を筋の通ったさらに優秀な作品に押し上げています。その同人誌の一節には「自分だけが幸せな世界なんて幸せじゃない」とも書かれており、これには大いに共感してしまいました。


・REXならではの優れた起用に応える良作。今後ももちろん期待できる。
 このように、この「がんばれ!消えるな!!色素薄子さん」、同人作品からの思い切った登用という、いかにもこの雑誌らしい起用の作品であり、しかもその期待に見事に応えた優れた作品になっています。開始直後からかなりの人気を獲得しているようで、巻頭カラーまで獲得するとなると相当に反響が良いのでしょう。ここ最近のREXの新連載の中でも、一押しと言える作品ではないでしょうか。

 そして、このマンガは、純粋にその内容(コメディの面白さとキャラクターたちの幸せを追求するテーマ)の質が高く、それが読者の人気につながっていると思われる点が、最も評価できます。女の子のかわいさというか、いわゆる萌え要素での人気もあるのかもしれませんが、それだけでここまで当初からの人気につながるとは思えません。読者の心にぐっと響く幸せいっぱいのストーリーと、薄子さんの存在感の薄さが(笑)、作品の高評価に大きく貢献しているのは間違いないところでしょう。

 絵柄もシンプルながら非常に好印象です。決して凝った絵柄ではありませんが、読んでいてほんわかするビジュアルであり、しかも色素薄子さんだけあって絵柄そのものも薄い!(笑)。特にカラーページの色合いの薄さは必見で、いかにもこのマンガらしい特徴であると言えますね。(ちなみに、水月さんの絵はこの作品以外も全体的に薄いようです。)

 今のところ、1話ごとのページ数は他の連載より少な目ながら、毎号2話掲載の形を取っており、月刊連載のペースにも無事ついていっているようです。このままのペースで行けば、コミックスの刊行も早めに行われるでしょうし、さらなる発展も望めるかもしれません。今後の連載にも存分に期待してよいでしょう。


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