<白砂村>

2008・7・1

 「白砂村」は、ComicREXで2005年4月号から始まった連載で、怨霊伝奇もの(?)のホラー・ミステリー・バトル系のマンガになっています。元々は、連載直前の1月号・2月号において前後編の読み切りとして掲載されており、その読み切りの評判が良かったのか、いきなり連載化することになりました。

 作者は今井神。ウルトラジャンプで連載中のバトルマンガ「NEEDLESS」や、まんがタイムきららで連載中の「かたつむりちゃん」などの連載で、すでに知られている作家です。彼の作品は、その破天荒なバトルやギャグが大きな特徴ですが、この「白砂村」に関しては、この作者にしては(比較的)シリアス度の高い真面目な作品になっているようです。

 そして、この作品は、元々は作者による同人誌を商業化したもので、その点でREXの企画そのものにも見るべきものがあります。実は、このREX、これ以外にもマンガ家の同人作品の商業化をいくつか行っており、あるいは他出版社で何らかの事情で連載が中断した作品を再連載化したりと、いわば発表の場に恵まれない作品を拾ってきてうまく商業化するという試みを幾度も行っています。これは、かなり好感の持てる優れた編集方針で、これで恵まれない作品が再生した例も珍しくありません。特に、同人誌の商業化作品としては、これ以外では「ティンクルセイバーNOVA」「蒼海訣戦」などがあり、これらはさらに人気の高い雑誌の看板作品となっています。

 そして、この「白砂村」も、この作者ならではの色がよく出た面白い作品に仕上がっており、雑誌の中堅作品としてかなり優秀な仕事をしているようです。原作にあたる同人誌の方は、元は2000〜2002年頃に執筆されていましたが、その後作者の初商業連載である「NEEDLESS」の開始され、そのために中断されてしまっていました。そして、そのまま日の目を見る機会もなく終わってしまいそうだったものを、こうして商業化して優れた連載作品に仕上げたことは、非常な僥倖であり、作者と雑誌双方にとって有益な試みであったと思われます。REX(あるいはそれ以外の一迅社の雑誌)では、こういった地道で優れた企画がよく見られ、それが作品レベルの底上げに繋がっており、ひいては安定した雑誌運営にも繋がっていると言えます。


・実に面白く好印象だった読み切り版。
 上記のように、このマンガは、最初はREXの創刊時に前後編の読み切り作品として掲載されました。そして、この読み切りが(特に前編が)非常に面白く、そして読者の評判も良かったのか、直後に連載化されることが決まったのです。

 具体的には、創刊号に掲載された前編が非常に面白いものでした。これは、現代を舞台にしたホラー色の強い作品で、日常に潜み襲い来る怨霊の恐怖がとてもよく描けており、ホラー作品としての出来が上々でした。今井神独特の線の太い作画も、ホラーシーンのどぎつい恐怖を表現するには十分で、中々に怖い作品だったと思います。
 そして、これがREX創刊号において、最も面白いかもしれないマンガだったのです。このREX、今でこそかなり充実した雑誌となっていますが、創刊当時は決してそうでもなく、むしろ明らかにつまらない連載がかなり多く見られる、期待外れとも言える雑誌でした。そんな中で掲載されたこの「白砂村」の読み切りは、はっきりいって連載マンガよりも面白く、「むしろこっちの方を連載してほしい」という声が多数聞かれることになりました。
 ただ、その次の号に掲載された後編は、割とありがちとも思える怨霊バトルものになってしまっていたため、前編に比べるとやや拍子抜けだったのですが、それでもこのマンガの大きな評価は変わらず、やはり連載化希望の作品として大いに評価されることになりました。

 そして、その読者の期待に応えたのか、読み切り終了後の非常に早い時期、具体的にはわずか2カ月後から連載化されることになったのです。このREX、確かに創刊当時は決していい雑誌ではありませんでしたが、しかしこのようにいいと思える作品は積極的に採り入れ、逆に明らかにつまらない作品は次々に終了させるという、積極的な雑誌運営によって、次第に面白い雑誌へと変化していったのです。


・「ホラー・ミステリー・アクション・伝奇、そしてギャグ!」
 肝心の内容ですが、「白砂村」という山奥に隠れたように存在する寒村において巻き起こる伝奇ストーリー、といったところでしょうか。主人公は、自称探偵業を営む大神という男。彼は、探偵業を営む裏で、「巨魅送り(かみおくり)」という怨霊を退治する役目を負っており、相棒であるみずちのの錺(かざり)と共に、日々怨霊を滅ぼす闘いを続けています。そして、そんな闘いに日々疲れ、自分の持つ過ぎた能力に悩んでいる日々を送っているのです。
 そんな彼の元に、「白砂村」という場所から一通の小包が届き、中には生きた人間の目玉が入っていました。ただごとではない事態を感じた彼は、その送り先である白砂村へと、はるばる電車とバスを乗り継いで向かうことになります。そして、たどり着いたそこは、人里離れた山奥に隠れるかのように存在し、住人たちも余所者の訪問をひどく拒絶する、隔絶した村だったのです。

 最初の読み切り版からして、最初の前編はホラー要素が強く、後編では怨霊との迫力バトルが中心と、すでに話によって大きく毛色が変わっていましたが、このように様々な要素が雑多に見られるのがこのマンガの最大の特徴です。このマンガのコピーでも、「ミステリー、ホラー、伝奇、アクション、そしてギャグ! 新時代エンタテインメント、ここに開幕!」となっており、こういった娯楽要素を大量に採り入れているのが最大の売りになっています。

 こういったコンセプトの作品は、この「白砂村」のような同人誌でもよく見られ、いろいろな要素を採り入れてはみたものの、結局中途半端に終わっているマンガも少なくありません。しかし、このマンガに関しては、個々で若干の質の差異こそあれ、なんとかどの要素もうまくやっているようです。

 まず、前述のようにホラーシーンはかなりよい。これをメインにした怪談ものとしてもいけるんじゃないかと思うくらい、怨霊の恐ろしさがよく描けた優れた恐怖シーンになっています。しかし、そんなシーンが存分に出てくるのは読み切りの前編と、本編が始まって最初のエピソードくらいで、それ以降あまり見られなくなってしまったのが残念なところです。
 アクション(バトル)要素は、この今井神の最大の得意分野かもしれません。「NEEDLESS」とかぶっているところはあるものの、やはりその迫力のあるケレン味存分の派手なバトルは健在です。ただ、本編の中では、どちらかと言えばホラーやミステリーが中心となっているため、ややこの要素のみが、他から外れた突飛な印象を感じてしまうことがあるのが欠点でしょうか。元からこのバトル中心の「NEEDLESS」と違い、あくまで一部分の要素にとどまっているため、例えば読み切り版のように、前編がホラーだったのに後編でいきなりバトル全開のマンガになるなど、ややバランスの取り方が難しい作品になっていると言えます。
 ギャグシーンは、こちらも既存の4コマ連載「かたつむりちゃん」で見せたノリのいいギャグが楽しめます。他の要素とは異なり、あくまで幕間でのエッセンス的要素ですが、決して悪いものではありません。

 そして、連載が進むにつれて、大きく比重が増大してきたのが、伝奇とミステリーの要素です。このふたつは、数あるこのマンガの娯楽要素の中で、どちらも中核を成すものではないかと思われます。


・白砂村の伝奇設定と独特の雰囲気に惹かれる。
 まず、主人公の大神が赴くことになる「白砂村」の伝奇要素に惹かれます。同人誌時代から、細かい設定がよく練られた場所になっているようで、作者の並々ならぬ思い入れが最も強く窺えるところとなっています。

 「白砂村」は、外界から隔絶された場所にあり、住民たちも外との交流を徹底的に拒絶して生きています。それは、かつて歴史上で、朝廷への反逆者の一族の住む村ということで、中央からの討伐命令まで出され、それからひたすら逃れて今まで生き延びてきた、という伝承に由来しています。つまり、他の者に自分たちの居場所を知られてはならない、言わば「知らすな村」として生きてきたというのです。

 こういう、雰囲気溢れる村の設定そのものも魅力的ですが、村の細部の設定も色々と考えられているようです。村の内部が五分され、「五家」と呼ばれる五つの有力者の一族(東島・西島・北島・南島・中島の各家)によって支配されているという設定や、村の中の由緒ある場所である「伊耶那美神社」や「三十地蔵」など伝奇的な雰囲気溢れるスポット、あるいはその地蔵にまつわる「足ることは恥と知れ」(=足りないことこそ美しい、贅沢は敵)という、村の厳しい生活をふまえた教訓など、実によく考えられていると思います。

 あるいは、五家それぞれに所属する個性的な村人たちもよく描けています。余所者である主人公を強烈に拒絶する年配者から、意外に柔軟に優しく接してくれる若者や女性まで、それぞれの考え方、立ち位置の違いまで明確に分けられています。また、意外にも外部から逗留している者も実は数名ほどおり、彼らが物語のアクセントになっています。

 しかし、このような僻地の村の伝奇的な設定を見ると、あの「ひぐらしのなく頃に」を彷彿とさせるようなところもありますね。村がいくつかの有力者一族によって支配されていたり、伝奇的ないわくありげなスポットが各所にあったり、ストーリーにミステリー要素が強く存在する(後述)など、共通する部分も多いような気がします。もちろん、前述のように、この「白砂村」は、原点である同人誌が2000〜2002年当時に執筆されたものなので、「ひぐらし」やその後の類似作品に影響を受けたというわけではありません。むしろ、ちょうど「ひぐらし」と同時期(かこちらの方がやや早い)に創作された作品と言え、偶然にも同じような設定の同人作品ということで、中々に興味深いものがあります。


・白砂村でのミステリー展開が面白い。
 そして、この白砂村に入ってからのストーリーは、これまでにないほどミステリー要素の入った展開に突入し、これがかなり興味深く面白いものとなっています。

 具体的には、五家のひとつである北島家の速秋という青年が、完全に閉じられた蔵の中で、天井から吊るされてしかも腹を残忍に切り裂かれて臓物をえぐられた状態で殺されるという事件が発生します。この殺され方は、かつて白砂様という村の守り神が伝承の中で娘を殺した方法とまったく同じもので、まるで神が本当に祟ったかのような殺され方でした。
 しかも、蔵の扉もその中の小部屋も双方に鍵のかかった二重密室殺人となっており、しかも蔵の扉の鍵の方は、絶対に外せないという南京錠の鉄棒に鍵束のひとつとしてくくられており、しかもそれを外す鍵は完全に壊れており、誰も取り外せないという状態になっていました。しかし、少し前に撮られた写真にその南京錠が写っており、そこでは鍵束そのものがなくなっていたのです。一体、誰がどうやって鍵束を取り外したのか。いかにも不可能犯罪の王道を行くストーリーながら、しかし非常に面白い展開になってきたと思います。

 一個の推理物としては、今のところやや推理の手がかりが少なすぎて本格的な謎解きには向いていないと思われますが、しかしこのような雰囲気溢れるミステリー展開は、いやが上にも盛り上がります。閉ざされた村で、しかもたまたまそこに集まっていた少人数の人間の中で、確実に犯人がいる。しかも、不可能とも思えるトリックをやってのけている。これまでのこのマンガのストーリーの中で、これが一番興味深く面白いエピソードになっていると思います。これまでも、ホラーにバトルにギャグと、いかにもこの作者らしい雑多な展開が続いてきましたが、ここにきていきなりこんな王道ミステリーものに早変わりするとは思いませんでした(笑)。いかにもこのマンガらしい盛り上がり方だと言えるでしょう。


・同人誌からの登用作品として読ませる、会心の出来の作品。
 以上のように、この「白砂村」、ホラーにアクションにギャグにミステリーと、様々な娯楽要素が雑多に詰め込まれた作品ではありますが、決して粗雑で中途半端な作品にはなっておらず、作品の中核である伝奇的設定をベースに、中々に雰囲気あるストーリーの作品になっているようで、かなり良い出来の連載になっているようです。今井神のマンガの中では、比較的シリアスの比重が高く真面目な作品になっているようで、その点でも好感が持てます。

 そして、このマンガが元は同人誌での発表作品であり、しかも読み切り作品から始まって見事に連載化を達成したことに、大きな意義があるように思います。一昔前の同人作品で、今は中断している状態のマンガを発掘し、それを商業誌に載せたことが、まず良い試みでした。REXでは、このように隠れた良作を拾い上げてくることが多く、これは編集長である杉野庸介の手腕によるところが大きいと思いますが、そのために他にはない堅実なラインナップの充実が図られているように思えます。
 さらには、読み切りとして掲載された作品が、好印象だと見るや間髪入れずに連載化したこと。これも非常に優れた取り組みでした。良いと思った作品は、積極的にすぐに採り入れ連載化する(逆に、つまらない連載は早々に打ち切る)。REXが、創刊当初とは比べ物にならないくらい充実してきたのも、この積極的な試みあっての成果に他なりません。

 そして、そのような試みに見事にこの作品は応え、今では雑誌の中堅作品として活躍しています。いや、この充実した雑誌だからこそ中堅にとどまっているのであって、実際には雑誌を支える中核的な作品のひとつになっていることのではないか。そう思えます。そして、舞台が白砂村に入ってからの展開、特にミステリー要素が全面に出た展開には、大いに盛り上がるところがあり、これからもさらに期待できる作品になっているようです。この作者の作品の中では、やや作風がシリアス調で堅実なところがあり、あまり大きなメディア展開には恵まれないかもしれませんが(雑誌自体もマイナーですし)、優れた連載として安定して読んでいけるのではないでしょうか。


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