<SOUL GADGET RADIANT>

2011・12・2

 「SOUL GADGET RADIANT」(ソウル ガジェット ラディアント)は、元は富士見書房のコミックドラゴンで連載されていたファンタジーマンガ作品です。連載開始は2002年。ところが、連載開始後しばらくして、なんらかの事情があったのか連載中断してしまい(これについては後で詳しく述べます)、コミックスもたった1巻が出たのみとなってしまいました。しかし、その後2004年になって、一迅社のゼロサムWARDで連載再開されました。掲載先がなくなってしまっていたのを、一迅社によって拾われたと考えてよいでしょう。当初のタイトルは、「SOUL GADGET」のみでしたが、この移籍に際して「SOUL GADGET RADIANT」とタイトルが変更されています。しかし、内容的には完全に連続しており、一迅社より発売されたコミックスでも、コミックドラゴン時代の「SOUL GADGET」がそのまま掲載され、そのまま一迅社での連載につながっています。

 その後、2005年末に、一迅社によって新たに創刊されたComicREXへと移籍し、以後2011年に連載終了するまで、ここで安定して連載を重ねることが出来たようです。元々、少年向けの作風の強い作品でしたし、女性読者中心のゼロサムWARDよりも、男性読者中心のComicREXの読者層に合っていたと思います。結果的に、2002年の連載開始から、中断を挟んでかれこれ8年もの長期連載となりました。

 作者は大森葵。これ以前よりファンタジーマンガをいくつか手がけており、中でも「ソニックウィザード」「ファントムウィザード」は、この「SOUL GADGET」につながる近い雰囲気の作風を既に確立していました。この2作は、富士見から単行本も発売されており、うち「ファントムウィザード」は、一迅社によって新装版も発売されています。
 また、PS2で発売されたゲーム「サモンナイトエクステーゼ」のキャラクターデザインの仕事を担当したこともあります(こちらでの名義は「いるも晴章」)。サモンナイトシリーズは、ゲームとしてかなり有名なので、こちらの方の仕事で知っている人もいるかもしれません。

 彼の作風は、一昔前に人気だった異世界ファンタジーの要素が色濃く、最近では珍しくなってしまった作品と言えます。それゆえに、一迅社のREXという居場所を手に入れ、8年に及ぶ連載を完結出来たのは、本当に幸運だったと言えるでしょう。


・なぜ新雑誌に移籍されなかったのか?
 さて、上で述べたコミックドラゴン時代の連載中断の話になりますが、具体的な中断の経緯としては、それまで連載していたコミックドラゴンが廃刊することになり、同じく富士見書房のマンガ雑誌だったドラゴンジュニアと統合して新しくドラゴンエイジという雑誌にリニューアルしたことが、大きなきっかけとなっています。ドラゴンエイジへとリニューアルしたのは2003年4月。この時、多くの新連載が立ち上がり、旧雑誌からもいくつもの連載が移籍していったのに対して、このマンガは移籍されませんでした。移籍されずに、ストーリーも中途のままいきなり中断してしまったのです。

 なぜ新雑誌に移籍されなかったのか? これには、考えられる理由があります。
 最大の理由として考えられるのは、新雑誌の誌面の方向性と、この「SOUL GADGET」の作風が合わなかったのではないかということ。このマンガ、言うなれば旧世代の異世界ファンタジーで、王道とも言えるファンタジーストーリーです。これは、コミックドラゴンや、あるいは以前のほかの角川系の雑誌では、ひとつの主流とも言える作風だったと思いますが、新しく創刊されたドラゴンエイジは、それとは異なる誌面となっていました。すなわち、萌え系の作品がひとつ大きな主流となっていたこと。美少女が作品の中心で、物語の設定も日常系や伝奇系のものが主体となり、もう今までのような王道ファンタジーは、誌面には必要なくなってしまったのではないか? リニューアル新創刊されたドラゴンエイジの誌面を見ると、そんな方向性の変化がひどく顕著に感じられました。

 また、この「SOUL GADGET」以外にも、同じく昔は主流だったと思われる王道ファンタジーや、あるいはそれを主にに手がけてきた作家の作品が、やはりこの時にいくつかなくなっています。三部敬(のちの三部けい)の「テスタロト」、伊藤勢の「羅喉伝」などがその代表で、いずれも力強い骨太なファンタジー作品で、いずれも雑誌の中心的な作品のひとつだったと思うのですが、それらはすべてこの時に移籍されずに消えてしまっているのです。結局、この時にドラゴンエイジに移籍できたファンタジー作品は、「クロノクルセイド」(森山大輔)などごく一部の人気作品にとどまってしまったようです。


・よく練られた力強いファンタジー作品。
 さて、この物語の中心となっているのは、記憶喪失の少年ライルと、彼と邂逅を果たすヒロインのノイエ。ライルは、幼い頃に名の知れた義賊だったジオットに拾われ、同じくジオットに拾われたシェスカと共に、家族同然の関係として共に過ごしてきました。一方でノイエは、行き倒れていたところを女性の呪法師であるマリーシャに出会い、以後良き相棒として共に生きてきました。そんな彼らが共に出会い、大きな陰謀を企む強大な敵・魔女ロゼオンに立ち向かっていく。そんな力強いストーリーのバトルファンタジーとなっています。

 タイトルの「ガジェット」とは、「霊魔装具」と呼ばれる小さなマジックアイテムのこと。手のひら程度で十字のような形状をしたこの強力な魔道具は、使い手の意思に合わせて武器に変形し、さらにはその中に「魔属」と呼ばれる強大な存在が封印されています。ライルの霊魔装具・チェルニィは銃に、ノイエの霊魔装具・ガリュークは剣に変形、その武器を駆使したアクションが、作中最大の見所。また、封印された魔属とは会話が可能で、彼らとの交流・掛け合いもひとつの魅力となっています。

 こうしたバトルアクションの面白さを強力にバックアップするのが、大森さんの卓越した画力ですね。「ソニックウィザード」「ファントムウィザード」の頃から絵はうまかったのですが、その頃の力強さが全面に出た作画に比べると、ぐっと緻密で美しい絵柄となり、引きこまれる画面を作り出しています。バランスの取れたキャラクターの造型、派手なエフェクトをふんだんに駆使したアクションシーンの躍動感も魅力ですが、時に壮大なシーンを見せる背景の作画も素晴らしい。
 かつての文明が滅んだ後の世界が舞台ということで、時に舞台となる遺跡─切り立った崖に作られた巨大な建造物、荘厳な神殿、空中に浮かぶ壮大な遺跡など、異世界ファンタジーならではの世界観を存分に見せてくれるあたりは、大いに評価すべきでしょう。

 さらには、この作画レベルが、連載が始まったころからほとんど変わっていないことも評価できます。前作の「ソニックウィザード」「ファントムウィザード」の頃は、まだ荒っぽいところも残っていたと思いますが、この「SOUL GADGET」に至って、迫力と緻密さを兼ね備えた美しい作画として完成し、8年に及ぶ連載の中でずっと安定していたように思います。作画に関しても文句なしの作品でしたね。


・今の萌え路線にも合っている絵柄だと思うのだが・・・。
 また、絵に関しては、この大森さんのキャラクターは、今時の萌え路線にも合っていて十分通用すると思うのです。ヒロインのノイエやシェスカはとてもかわいいですし、あるいは男性キャラクターも含めて、今に通じるキャラクターになっているのではないか。サモンナイトシリーズのキャラクターデザインをやったくらいだし、大森さんの絵は、十分に萌え要素は備えているはずなのです。なぜこれがドラゴンエイジに移籍できなかったのか、それがよく分からないんですよね。男性向けとも見えるサービスシーンも時に盛り込まれていますし、キャラクターの萌え要素なら十分すぎるほどある作品だと思います。

 しかし、それでもこのマンガが移籍できなかったのは、やはり「異世界ファンタジー」「王道ファンタジー」という路線が、もう明らかに求められていなかったことの表れなのでしょう。それこそ、「クロノクルセイド」レベルの人気マンガでなければ掲載には及ばないのではないか。少なくとも、当時のドラゴンエイジの編集部は、そう判断してしまったようです。

 そう考えると、このマンガが一迅社に拾われたのは、本当に幸運だったと思います。一迅社のゼロサムやREXの編集長は、かつてエニックスでGファンタジーの編集長だった杉野庸介。彼が、このマンガを自分の出版社に招聘したようですが、やはりこういった作品に対する思い入れを根強く持っていたのではないでしょうか。これは、REXで他にも異世界ファンタジー作品をいくつも載せていたことからも推測できます(「エスペリダス・オード」「ハンド×レッド」など)。一迅社のREXならば、こういったマンガがまだ求められていた。最終的にここで8年に及ぶ連載を最後まで漕ぎ着けることが出来たのも、十分納得できる話だと思います。


・本当に完結まで連載できてよかった。
 ただ、そのREXでさえ、最近になってリニューアルして以降は、以前よりずっと男性向け萌え系路線が強くなり、誌面も様変わりしています。「エスペリダス・オード」や「ハンド×レッド」の連載もすでになく、他にも本格派と思われた同系の作品もずっと少なくなっています。そんな中で、この「SOUL GADGET RADIANT」は、なんとか今まで連載を続け、 最終回まで辿り着けて本当によかったと思います。タイミング的にもギリギリではなかったでしょうか。これ以上この誌面で続けることは難しかったように思います。

 また、確かにここまでずっと長期連載出来たとはいえ、一迅社移籍以降はさほど目立つ存在ではなかったような気がします。以前、コミックスがとらのあなで売り上げ上位に入っていたことは何度もあり、意外にコアな読者の支持はしっかりと得ていたとは思いますが、しかし近年は以前ほど話題になることは少なくなっていました。コミックドラゴンで連載が始まった頃は、まだこういったマンガもよく見られ、話題に上ることも珍しくなかったかもしれませんが、今となってはマンガの主流から外れてしまったのだなと思わざるを得ませんでした。

 思えば、ドラゴンエイジ創刊に伴うこのマンガの中断が、マンガの主流の変化を象徴していたような気がします。それまでは、角川の雑誌と言えば、このようなファンタジー作品が、間違いなくひとつの中心でした。決して今のような萌え作品中心の路線ではなかった。90年代、あるいは2000年代初期までの雑誌には、この大森葵や、伊藤勢、三部敬のような作家の、骨太なファンタジー作品が、ごく当たり前のように載っていたのです。それが、このあたりを境にほとんど消えてしまった。おそらく、このドラゴンエイジ創刊の2003年あたりが、ファンタジーから萌えマンガへの主流の転換点だったのではないでしょうか。

 そんな中で、この2011年まで残って最後まで連載できたこの「SOUL GADGET RADIANT」、わずかに残った旧世代のファンタジー作品として、その存在はとても貴重なものだったと思います。コミックスも現時点で9巻を数え(最終巻も含めて全10巻になると思われます)、コミックドラゴン時代からまとめて読める形として残ったのもよかった。今からまとめて読んでも十分楽しめる作品だと思います。


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