<正しい国家の創り方。>

2008・6・17

 「正しい国家の創り方。」は、ComicREXで2007年6月号より開始された連載で、編集者とマンガ家の姿を描くマンガ業界もの(?)の作品です。しかし、真面目に編集の仕事を描くようなドキュメンタリー作品なのではなく、いかにもこの雑誌らしいオタク的でマニアックなネタ全開のマンガとなっています。最近では、このような「オタクなマンガ家と編集者」といった設定のマンガを他にもいくつか見かけるようになりましたが、このマンガはその最たるものだと思われます。

 作者は橘あゆんで、かつてはコミックゼロサムで「疾風可憐迅雷狐娘!」なるマンガを連載していました。このマンガ、比較的女性向けの傾向の強い同誌の中では、ある程度美少女萌え要素の強い作品であり、その点で雑誌内でやや異色なところがありました。今回、ComicREXという少年誌に場を移して連載を開始したのも、そんな作風のマンガにはこちらの方が合っていると判断されたからではないかと推測できます。そして実際にも、かつての連載よりもはるかに萌え・オタクネタ要素の強い作品となっており、完全にこの誌面の雰囲気に溶け込んでいます。

 内容的には、一般人の編集者のお姉さんがオタクなマンガ家にいじられまくるという、あまりにもバカバカしいノリのマンガであり、そのハチャメチャな面白さは一見の価値があります。同じような設定のマンガに、ガンガン・ヤングガンガンで連載中の「マンガ家さんとアシスタントさんと」がありますが、このマンガの場合、オタクマンガ家の方が立場が上で、編集者の方が振り回されるという点に大きな違いがあります。かつ、あまりいやらしい傾向のネタは少なく、カラッと明るく笑える作品になっているのも大きな特長です。

 なお、このマンガのタイトル「正しい国家の創り方。」とは、作中でこのオタクマンガ家が描くマンガのタイトルにすぎず、この作品が政治や歴史を扱ったマンガというわけではまったくありません。タイトルからはまったく内容が想像できないマンガであり、こんなタイトルを付けること自体が、あまりにも悪ノリに満ちています。


・きれいなお姉さんが無理矢理コスプレさせられるというバカバカしさが最高。
 このマンガは、とある出版社の新人編集者・織田ゆうきが、入社一日目にして突然マンガの編集部に配属され、しかもそこでも売れっ子作家として知られる流☆すばるという作家の担当にいきなり任命されるところから始まります。この「マンガをまったく知らない編集者がマンガ家の担当になる」という構図は、実際の出版社でもよく見られるらしいですが、現実的な描写と言えるのはここくらいでしょうか。これ以降は、現実的にはまったくあり得ない展開を見せます。

 ゆうきが担当する人気作家・流☆すばるは、常識外れの行動を見せるオタクであり、美少女フィギュアのシリーズを完全コンプリートしないと気がすまないようなオタク趣味を持つだけでなく、性格的にも相当な食わせ物で、ゆうきは初対面時からいきなり散々な目に遭わされることになります。そして、いざ仕事場にたどり着いた直後、知らずにコスプレ衣装を着せられ、しかも原稿がまだ出来ていないと脅され、「なんでもやります」と言ってしまったがために、コスプレのままで恥ずかしいポーズを取りセリフまで言わされることになってしまいます。

 その後も、恥ずかしいコスプレ衣装の写真を盾に取られ、すばるの要求に応じて色々なことをさせられます。同人誌の製作をやらされたり、動物のコスプレでコンビニに食玩を買いに行かされたり、挙句の果てにはコスプレ衣装で遊園地遊びに付き合わされたりと、散々な目に遭わされます。ついには、ゆうきちゃんの恥ずかしい写真全開のホームページまで作られる有り様で、このような「オタク作家がきれいなお姉さんをいじりまくる」というネタが最高に面白いのです。

 このようないじりネタは、ある意味ではパワーハラスメントとも取れるもので、描き方によっては(あるいは読者によっては)抵抗が強いかもしれませんが、しかし、このマンガの場合、いじりネタがどれも明るくカラッとしていて、いやらしさを感じない描き方になっており、総じて明るく楽しく読んでいられるのが、最大の利点と言えます。


・酒乱にしてアイドルオタク・織田ゆうきの個性自体も面白い。
 単にすばるにいじられるだけではありません。織田ゆうき自身、酒を飲むと酒乱に陥ったり、実は男性アイドルオタクで相当にマニアックな生活を送っていたりと、かなりの個性派のキャラクターで、その有り様があまりにも面白いのです。

 まず、すばるに連れられて向かったコスプレ居酒屋で、酒に酔って普段から抱えていたすばるへの不満をぶちまけまくり、挙句の果てには服を脱いで女コスプレイヤーに絡みまくるという、普段からは考えられない乱れまくった生態を見せます。その後、 自分の行った痴態を知ることになり、恥ずかしさで徹底的に落ち込むことになります。

 また、彼女は、とある男性アイドルグループのファン、というか熱狂的なマニアであり、出演しているほとんどの番組をビデオに記録するほどです。そして、このことをすばる先生に知られることになり、そのことでまた弱みを握られ、「自分と同類だね」と言われて激しく動揺、必死になって否定しようとしますが、すばると同じ機種のマニア向けDVDを買う現場に遭遇してしまい、さらに同類だと言われて悩むことになります。

 このように、織田ゆうきというキャラクター自身も、数々の笑える個性を持っていて、それがコメディをさらに面白くしています。オタク作家の異様な行動に振り回されるだけでなく、彼女自身も笑える行動を頻繁に取り、相乗効果で笑いが盛り上がっていく。特に、相手のオタク趣味と同様のアイドルオタク趣味を持っていて、実は相手と同じ行動を取っていたというあたりが、物語に深み(?)を与えています。


・本城ねね、轟光などのサブキャラクターも面白い。
 そして、この織田ゆうきと流☆すばるの編集・マンガ家コンビの面白さに加えて、このふたりに関わってくるキャラクターたちも面白い。

 まず、連載第6話「親和性反動形成」なる回に登場する本城ねねというキャラクターがいい。これは、すばるの幼馴染のお嬢様で、典型的なツンデレキャラクターとして、ゆうきに対抗意識を燃やして対決するという話がやたら面白いものでした。強気の幼馴染としてすばるを豪快にしばきまくり、お嬢様でありながら家事万全の有能ぶりを見せ、しかし最後には編集者としてのゆうきの立場も認め、一歩身を引こうとする。どう見てもメイドコスプレにしか見えない作業服もやたら似合っていて、これ以上ないツンデレ萌えキャラとしての姿を見せてくれました。しかも、このキャラクターは、すばるのマンガ「正しい国家の創り方。」のヒロイン・カンナのモデルとなっている点も面白いところです。

 そして、極めつけが、でっかいリボンでくまのぬいぐるみを抱えたロリキャラクターにして、Hマンガ雑誌の副編集長である轟光というキャラクターです。こんな外見子供なロリキャラがエロマンガ誌のやり手の副編集長という、もはやありえない設定ですが(笑)、性格もまた相当な食わせ物で、緻密に腹黒い計画を練り、色恋営業でマンガ家を落として仕事をさせまくるという、とんでもないキャラクターとなっています。ゆうきは必死になってこの強敵に対抗し、すばるを取られまいと画策しますが・・・。

 このように、脇を固めるライバルキャラクターも面白い個性を持つ者ばかりで、とても賑やかで楽しい萌えマンガになっています。同系のオタクネタマンガとくらべても、オタク的ないやらしさを感じないキャラクターが多く(これはオタクマンガ家であるすばるにさえ言えています)、純粋に笑って楽しめるコメディになっていると言えます。


・しかし、なぜこのようなマンガが今になって登場してくるのか。
 以上のように、この「正しい国家の創り方。」、オタクなマンガ家とそれに振り回される一般人の編集者、という設定が面白く、脇を固めるキャラクターまで個性的な優れたコメディになっています。しかし、最近、これと同じような「マンガ家と編集者、もしくはアシスタント」たちを扱ったオタクネタマンガが、他にも見られるようになりました。

 それは、なんと言っても、ガンガンとヤングガンガンで連載中の「マンガ家さんとアシスタントさんと」(ヒロユキ)でしょう。オタク趣味全開のマンガ家と、それに振り回されるアシスタントや編集者という、まさにこの「正しい国家の創り方。」に非常に近いものを感じる設定です。ただし、こちらの方は、オタクマンガ家の性格が情けないもので、周りからむしろツッコミを入れられまくる話になっているのが、実に対照的です。「正しい国家の創り方。」のすばるが、活発な性格で人気もある作家として自由自在に行動しているのに対して、この「マンガ家さんとアシスタントさんと」の主人公(愛徒勇気)があまりにも情けない性格で人気もさほどない作家となっているのは、同じタイプの話でもまったく異なるアプローチで描かれており、実に興味深いところです。

 しかも、それ以外にも共通点が多く、なぜかこちらの方にも、ロリ系の編集者が登場し、しかもこちらはやり手の編集長という位置づけになっています。どう見ても子供にしか見えないロリキャラが編集長という、こちらもまったくありえない設定ですが(笑)、なぜここまで似まくった設定のキャラクターが登場するのでしょうか? 作者の趣味の産物なのか、それとも「とりあえず萌える面白いキャラクターを出そう」と考えて作者と編集者が企画会議の末に決定しているのか。なんとも不可解な共通点であると言えます。


・REXの自由度の高さを感じる、遊び心に満ちた連載。
 しかし、他に似た設定のマンガが見られる中でも、この「正しい国家の創り方。」の面白さは確固たるものがあり、個性的なキャラクターの面白さが色濃く出た、実に優れたコメディになっています。オタク作家がきれいなお姉さんの編集者をいじりまくるという設定も実に面白く、しかもカラッと明るい作風で、いじられ系のギャグながら不快感は少ない良作になっていると思います。

 本作は、実際のマンガ家と編集者の実態とはかけ離れた作品です。このマンガの宣伝文句に、「マンガ編集者の実情をリアルに、赤裸々に綴る意欲作。」なるものがありましたが、そんなわけありません(笑)。まさか、ここまでバカバカしい設定の話を連載化するとは思いませんでした。作者の橘さんの前作「疾風可憐迅雷狐娘!」と比べても、相当にひねくれた作品であることは間違いなく、よくこんなマンガが連載企画を通ったものです(笑)。REXという雑誌は、少年誌とはいえ様々なタイプの作品が見られる自由度の高い誌面だと思いますが、このマンガも、そんな誌面の良さが強く出た、型破りで自由な作品作りがよく表れたマンガだと思います。

 そして、作者の橘あゆんさんの萌え絵も素晴らしく、やたら萌えレベルが高いのもポイントです。かつてのゼロサムではやや浮いた感のある連載でしたが、少年誌であるREXへの移籍は成功だったと言えるでしょう。この雑誌にふさわしい連載になっていると言えます。今のところは雑誌内でも中堅どころの位置づけですが、むしろ今のREXでは、このような中堅作品が充実しているのが最大の長所であり、雑誌の中枢を支える良作の中のひとつになっています。

 ただ、コミックス1巻が発売されてしばらくした頃、作者の方の産休で連載が中断してしまったことだけが気がかりでしたが、現在は無事に再開しています。再開後もマンガの質に大きな変化は無く、轟光のような面白い新キャラクターも登場するなど、連載の勢いは衰えていないと感じます。なにげに編集の仕事を真面目に扱う描写も垣間見られるようになり、その点でも楽しみなところが増えてきました。今後も期待できる作品だと見てよいでしょう。


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