<とんぬらさん>

2009・4・18

 「とんぬらさん」は、コミックREXで2009年3月号から開始された連載で、雑誌の中でも極めて特殊な作風で、昨今の新連載の中でも異彩を放つものとなっています。様々なタイプの、個性的な連載が揃っている今のREXの中でも、読者の心に強烈な印象を残す珍妙な作品となっています。
 元々は、新連載の数ヶ月前に掲載された「とぬらんち」という読み切りが原案となっており、一部設定を変えてはいるものの、基本的な作風はほぼそのままに連載化されました。読み切りの時からして、確かな面白さを持っているマンガではありましたが、それ以上にあまりにも異彩を放ちすぎた作品でもあったため、これが連載化されるとは本当にREXは思い切った決定をするものだと思いました。おそらくは、REXの編集長(杉野編集長)が、これまでもたびたび思い切った作家の起用を行っていたため、今回もまた彼の思い切った決定があったのかもしれません。

 作者はセレビィ量産型。元は主に同人で活動を行っていた作家のようで、あるいはPCの美少女ゲーム雑誌でマンガの連載を行っていたり、あるいは美少女ゲームの制作の仕事についていたりと、そういった方面での活動も目立ちます。絵柄や作風自体も、かなりエロ・萌え寄りの作家のようにも思えますが、この「とんぬらさん」に関しては、そういった作風ばかりが表には出ておらず、むしろ誰もが思わず笑ってしまうような実に面白いギャグマンガになっています。

 内容的には、「とんぬらさん」と呼ばれるデブ猫のすさまじい存在感と鷹揚な言動に翻弄され、あるいは愛着を持って慈しむ美少女三姉妹+母親一家との交流を描いた物語なのですが、とにかくこのマンガはもう、とんぬらさんのすばらしい魅力溢れる姿と態度に尽きると見てよいでしょう。ある意味、ネタマンガとしては最高レベルの逸品とも言えますし、こういうマンガこそアニメ化してみんなにこの存在を知らしめたいと思いました。究極のギャグ作品として大いに話題になるのではないでしょうか。


・デブ猫・とんぬらさんの圧倒的な存在感。
 読み切り版の「とぬらんち」も、連載版の「とんぬらさん」も、どちらも市ノ瀬家の姉妹のひとりがねこを拾ってくるところから物語が始まります。読み切り版では、拾ってくるのは長女のひなの(連載版では雛乃)で、次女のいちの(同じく連載版・市乃)とふたりで飼うことになるのですが、連載版ではこのふたりに三女が加わっており、この三女の五月乃(さつきの)が、ねこを拾ってくることになります。このように、連載版では3姉妹へとキャラクターが増えており、設定が少し変わっているのですが、内容的にはまったく大差ありません(笑)。

 その内容とは、のちに「とんぬらさん」と名づけられることになるこのデブ猫のふざけた言動に、次女の市乃がつっこみを入れまくるというもの。長女や三女は、この異様な風体のデブ猫(しかもしゃべる!)に早くから慣れ親しみ、仲良くやっていこうとするのですが、市乃だけはどうにも気に入らず、馴染むことができません。しかし、そのとんぬらさんの毎回の言動に触れるたびに、次第次第に家族の一員として認めていくようになる。そういう感動的(?)なバックボーンもあるのです。

 しかし、このマンガの本質は、おそらくはそれ以上に別のものがあります。それは、ずばり、この「とんぬらさん」というデブ猫の魅力に尽きると言えるでしょう。編集者の煽り文にも、「この存在感、CV.中○譲治希望」などと書いており、そのいやらしい表情とふてぶてしい態度と鷹揚な言動が実に素晴らしいのです。常に悠然とふてぶてしく構え、いやらしい表情で人の気にしていることをしゃべりまくる。このとんぬらさんの言動のおかしさ・面白さこそが、このマンガの最大の肝だと言って間違いではありません。セリフがふきだしなしで表示されているのも、なんともいえない演出としてよく効いています(「ぱにぽに」のメソウサと同じような扱いのセリフ)。正直、最初に読み切りを見かけたときは、これほど笑えるマンガに仕上がっているとは思いませんでした。


・母親に腹をなでさせて懐柔するというあまりにもバカバカしい展開。
 そして、連載版の第1話では、いきなり最高に笑えるエピソードが待ち構えています。それは、とんぬらさんが家にやってきたとき、長女や三女は喜んで飼おうとするのですが、唯一強面の母親だけがそれに強硬に反対し、姉妹たちを脅したりしばいたりしてでも「捨ててきなさい」と言い放ちます。ちなみに、この母親も連載版からの登場で、読み切り版ではおとなしい情けない系の父親が登場していたのに、どういうわけか連載版ではまったく性格の異なる母親へと設定が変わっています。なぜこんな風に変えたのかは謎なのですが(読み切り版のヘタレ系父さんもそれはそれで面白かった)、もしかするとこのバカバカしいエピソードを描きたかったからかもしれません。

 さて、そんな風に怖い母さんに脅され小さくなり、もう逆らえずに捨ててくるしかないと思っていた矢先、とんぬらさんが思いもよらぬ珍奇な行動に走ります。彼は、「恩人の子たちがここまでされて黙って見過ごすわけにはいかんな・・・」と言い放ち、おもむろに畳の上に仰向けに転がります。そして、「私のお腹をなでることができる権利をやろう これで彼女たちを許してあげてほしい」と母親に語りかけます。母親は、最初は何を言っているのかわからずためらいますが、とんぬらさんが「どうした・・・なでないのか?」と手招きして誘っているのをみて、もはや我慢できなくなり、おもむろに腹に手を伸ばしてその感触を味わい、「柔い・・・」と至福の笑みを浮かべます。そのままあまりの気持ちよさに卒倒した挙句、ついにはこのネコを家で飼うことを承諾するのです。

 このあまりにバカバカしい展開は、見開きで描かれたなでなでシーンでクライマックスを迎えます。その衝撃のシーンは、このマンガのあまりの異様さを象徴していると言えます。


・とんぬらさんの言動の数々にいちいち笑える。
 そうして異様な衝撃を残して第1話は終了したわけですが(笑)、その後の連載でも毎回のごとくとんぬらさんの笑える姿と言動を楽しむことができます。

 寝ている市乃のふとんの上に平然と鎮座し、食事中も食卓の上にどんと居座ってハハハ!と笑う鷹揚さ。これほどふてぶてしい猫は他に見られないでしょう。その後、姉妹の手で食事をもらうことになり、姉妹の頑張りに応えて、猫には有害で食べられないタマネギ入りのハンバーグを食べようと意気込み、しかし最後に好意で作り直してもらったねこまんまをむさぼり食う姿には、これまた言いようのないバカバカしさを感じます。
 そして第3話では、今度は雛乃に惚れているお隣のクラスメイト・太彦の妄想を一部始終鑑賞し、雛乃への告白をためらう太彦に対してえらそうに横目で説教を行う姿が最高に笑えます。いったいどこまでえらそうなんだこの猫は(笑)。

 しかし、そんなえらそうな猫でも、どういうわけか犬だけは苦手ならしく、太彦の家の犬であるかわいらしいペロペロ(という名前の犬)が近寄ってくるのを見て、大いに引きまくってしまいます。このようなとんぬらさんの意外な戸惑いのシーンもまた面白い。犬を恐れているシーンでもいやらしい表情はあまり変わらないのがまた笑えます。

 はっきりいって、とんぬらさんがこのいやらしい表情でただ寝そべっているだけでも、その異様な存在感を持つ姿に思わず笑みがこぼれます。これは本当にとんでもないキャラクターを生み出してしまいました・・・。


・これは本当に面白い新連載。これを連載化したREXの英断に拍手を送りたい。
 このように、まさに最高のネタマンガとしての面白さを確立している本作、「とんぬらさん」という個性的過ぎる猫の言動を中心に置き、それに翻弄される人間キャラクターたちの反応も面白く、とにかく爆笑度の高い優れたギャグマンガになっています。まさかいきなりこのようなマンガが読み切りから登場するとは・・・と思わずにはいられない掘り出し物だったと言えるでしょう。

 確認しますが、これは決してネタだけのマンガではありません。ネタ系のマンガとは言えるかもしれませんが、かつてスクエニのガンガンで読者を大いに当惑させた「地獄ゆき」「堀田和哉」の読み切りのような粗悪な作品では決してなく、確かな完成度と作者の実力によって裏打ちされたレベルの高いマンガであることを、ここで改めて言っておきたい。
 まず、絵柄が極めて安定しています。男性向けの萌え系作品に属する絵柄とも言えますが、はっきりとした太い描線で描かれた絵柄は迫力があり、キャラクターの造形も安定しています。何より、肝心のとんぬらさんの姿が極めて存在感たっぷりに描かれている点が大きい。絵が安定してうまいからこそ、とんぬらさんの圧倒的な存在感が強く出せているわけです。
 毎回のギャグ、ストーリー作りも卒がなく、とんぬらさんのいやらしい言動とそれに翻弄される人間たちのエピソードが、毎回バカバカしさ全開ながらよく練られて描けています。実はかなり優秀な作家なのではないか?と思えるところがありますね。

 そして、このような実は優秀だった掘り出し物の作品を、見事連載化したREX編集部の英断を大いに評価したいところです。それも、読み切り掲載時からほんの3ヵ月後という、非常な早期に連載化させています。面白いと判断した読み切りを、即座に連載化させる。単純なようでいて、それが出来ている雑誌はそう多くはありません。まして、このマンガは、一見して異彩を放つ際物とも取れるような作品です。それをいきなり早期に連載化させるのは、相当な思い切った決定ではないでしょうか。REXの編集長の杉野さんの思い切った起用はこれまでもたびたび見てきましたが、これもそのひとつなのでしょうか。だとすれば、これはその中でも最たるものだと言えるでしょう。

 連載開始時からいきなり抜群の面白さを見せてくれたこともあって、今後の発展にも期待できそうです。早くも雑誌の前の方のページに毎回載る扱いですし、実際に雑誌読者の反応もいいのかもしれません。ただ、記事の冒頭で「アニメ化したら面白い」とは書きましたが、実際にはさすがにそのような展開までは期待できないタイプのマンガではあります。むしろ、雑誌内で読者を喜ばせる優れた中堅作品になるのではないか。REXでまたひとつ、異色の良作が誕生したと見ていいでしょう。東方星蓮船の体験版目当てにREXを買うのもいいですが、その際ちらっとでもこのマンガに目を通してくれればその面白さは十分に伝わると思います。


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