<ツキとおたから>

2008・7・17

 「ツキとおたから」は、ComicREXで2007年11月号から始まった連載です。同誌の中でも後発の作品で、さほど大きな扱いではない中堅的な位置づけで、あまり目立つ存在ではないと言えますが、その実かなりの良作になっているように思います。内容的には、明治・大正期の東京をモチーフにした架空世界での和風ファンタジーといったところでしょうか。

 作者は、渡真仁。かつて、角川書店の方で「みれみら」という作品を残していますが、これはどうもオリジナルの作品ではなかったようで、今回のこの「ツキとおたから」が初のオリジナル作品だとされています。この「みれみら」というマンガも、さほど知られてはいない作品だったので、今回のREXの連載で作者の名を見ても、かつて他社でマンガを描いていたことを知っている人は少ないかもしれません。また、この「みれみら」の連載からもかなりの時間が経っており、それも作者の知名度が低い大きな理由だと思われます。

 このように、作者の知名度も雑誌内での扱いもおしなべて低く、あまり注目されてはいない点は否めないのですが、しかしこれは「掘り出し物」とも言える良作であり、REXの最近の連載の中でも特に読めるものとなっているようです。REXは、非常に手堅く良作を集めて雑誌を運営している印象がありますが、これもまたそのひとつであり、かつては他社であまり成功しなかった作者を招聘し、きっちりとこのような良作を執筆させることに成功した雑誌の力量には、見るべきものがあります。

 なお、このマンガは、端整で繊細な作画と丁寧なストーリー作りが特徴で、中性的な趣きがあり、女性作家が描いたようなイメージがありますが、作者の渡真仁さんはれっきとした男性であり、作品の見た目からは意外な事実だとも思えます。このような中性的な作風は、かつての一迅社の本家であるエニックスの時代には、最大の定番とも言える存在でしたが、ここ最近はひどく少なくなってしまいました。このREXもそうで、男性マニア向けの作品が多い男性寄りの印象の強い雑誌になってしまっていますが、そんな中で連載開始したこの「ツキとおたから」の存在は、非常に貴重なものであると思われます。


・丁寧な設定とストーリー作りが光る。
 このマンガは、全体的にひどく丁寧に描かれていて、その真面目な作品作りには素直に好感が持てます。まず何よりも重要な、ストーリー作りとその基本となる設定作りが光ります。

 まず、この物語で活躍する職業・「旗師」という設定が面白い。世のおたから(骨董品の名品・珍品)には、「物の気」と呼ばれる妖怪のようなものが宿っていて、「旗師」はそれを自身の「使い魔」として召喚できるという存在です。そして、召喚した使い魔を操って、暴走した物の気を退治したり、他の旗師と対決したりといったことを行っています。この「旗師」の設定がまず面白く、物語の冒頭から非常に興味をそそられます。かつ、旗師という幻想的で魅力的な職業でも、実際にはパトロンとなる財閥の援助を必要としたり、旗師同士で主義主張の違いから争いがあったりといった現実的な側面も強調されているところもよく出来てます。
 使い魔として使役する物の気の姿も面白い。いかにも昔話に登場しそうな鬼や妖怪の姿だったり、化石から復活させた太古の動物の姿だったりと、その独特のフォルムにも面白さを感じます。

 主人公は、その旗師の見習いであるツキという少女。彼女は、相棒であるツルギという剣士と共に、ある使命を帯びて今まで暮らしていた離島から東京に出てきて、そこで旗師を目指して奮闘することになります。その使命とは、おたからの頂点に君臨するという伝説の品「天原御物」を手に入れること。この「天原御物」を巡る謎や、そしてツキの前に登場する旗師たちとの交流、そして時に旗師との間で使い魔同士を闘わせるバトルに発展したりと、多彩な方向性を見せつつ進行する丁寧なストーリー作りが感じられ、非常に好感が持てます。必ずしも一本道の直線的なストーリーというわけではなく、旗師や天原御物を巡る様々な側面を、ひとつひとつ丹念に読者に提示しながら物語を作り上げていく。実に真面目な仕事ぶりが感じられます。


・嫌味のないキャラクター性に好感が持てる。
 ストーリーだけでなく、ツキを始めとするキャラクターたちの個性もいい。全体的に、キャラクターたちに嫌悪感を感じる要素が少なく、親しみの持てるキャラクター作りで一貫している点にひどく好感が持てます。メインキャラクターたちの性格が好印象で、人をいじるようなキャラクターや明確な悪意を持つキャラクターがいないのが良いところです。

 まず、主人公のツキの性格がよい。純朴かつ明るい性格で、東京に出てきたときにも初々しさ全開、前向きに旗師への道へ邁進していきます。旗師の本拠である列品管理局で初仕事の掃除を任された時も、隅々まで丁寧に楽しそうに掃除に取り組む様に、言いようのない人の善さが表れています。この真っ直ぐな主人公の姿に、このマンガそのものの善さも表れているような気がします。その一方で、旗師として使い魔を呼び出し戦う時のシリアスな姿も見逃せません。

 ツキの相棒であるツルギも面白い。飄々とした性格ながら、普段はツキと非常に仲が良く、和気藹々とした様子を醸し出していますが、一方でおたからに対しては厳しい態度で接することがあり、なんとも不思議なつかみ所のない内面を見せます。どこまでも真っ直ぐなツキに対して、このツルギの持つ微妙な二面的な性格が、実にいいアクセントになっています。

 そして、ツキのライバルにしていい旗師仲間でもある九条たけるが、非常にいいキャラクターになっています。ツキの持つ不思議な旗師の力に目を付けたたけるは、積極的にツキの下に現れ、交流を持とうとします。ツキが暴走した物の気を退治する時に、突然現れて獲物を横取りするような真似をする一方、のんきにツキの部屋に窓の外からのほほんと登場してきたりと、これまたつかみ所のないエキセントリックな性格をしています。しかも、自身が女でありながら、女の子であるツキを必要以上に好む百合的な趣味まで持ち合わせ、これまた笑えるアクセントになっています。

 彼らメインキャラクターに加えて、重要なキャラクターである列品管理局の局長・千葉雪村、その妹で骨董屋の娘である芽衣、そこの主人で旗師である太平なども、実にいい性格のキャラクターとなっています。キャラクターのほとんどが皆自然にいい人なのが素晴らしい。

 あるいは財閥のオークションで登場する、おたからを求める旗師や金持ちたちも、彼らは確かに俗物ではありますが、決して悪い人間とは描かれていないように思えます。総じて致命的に悪いと思える人間がおらず、そういったキャラクターがもたらす作品の優しさ、雰囲気の良さにひどく好感が持てるのです。


・この中性感溢れる端整な絵柄。
 そして、ストーリーやキャラクターなどの内容面と同等に、その作画にも非常に好感が持てます。

 この、くせの少ない柔らかい絵柄は、かつてのエニックスでは最も特徴的だった中性的な絵柄そのものであり、このタイプの作画には、言いようのない居心地の良さを感じるのです。いわゆる萌え系の絵柄ではあるのですが、男性向けの激しい萌え・エロを強調した絵柄とは異なっており、誰もが親しめるバランスの良さが素晴らしいのです。

 このような作画は、かつてのエニックス雑誌では主流を占めていたはずですが、その後お家騒動で大幅に崩れ、一部雑誌・一部作品にこそ残ってはいるものの、全体としてはもう主流ではなくなってきた感があります。エニックスからの分家であるこの一迅社でもそうで、このREXも、かつてのエニックス時代の雑誌とは少々趣きが異なっており、一部に確かにそのような作品も見られますが、それ以上に男性マニア向けの萌え作品が雑誌の主流となってしまいました。そんな中で、ここで新連載である「ツキとおたから」が加わったことは非常に大きい。これは本当に久々に来ました(笑)。

 それに加えて、とにかく作画が丁寧で端整な趣きがあり、絵がとても綺麗なのも最大の特長です。特に、黒いベタの表現が素晴らしく、これがつややかで非常に美しい。とりわけ、キャラクターの黒髪にそれが顕著に表れており、主人公のツキを始めとする黒髪キャラクターの姿が実に画面に映えます。まさに和風作品ならではの黒髪萌えを素晴らしさを体感できる素晴らしい作品になっています(笑)。ここまでハイライトの多く入った黒髪キャラクターがたくさんいると、作画がかなり大変だと思うのですが、その努力を大いに評価したいと思います。

 加えて、おたからである骨董の描写や巨大な物の気が大暴れする迫力のアクションシーンなど、全体的な作画も良く、すでにひとつの絵として完成しています。作者の前回の連載と比べてもレベルアップは明らかで、作画的にも十分に合格を与えられる一作になりました。


・この中性的な萌えが素晴らしい。
 そして、そんな中性的な絵柄で構成される萌えが実に素晴らしいのです。REXのほかの萌えマンガとは一味異なる、中性的な萌えがなんとも言えません。

 とにかく主人公のツキが素晴らしいですね。女の子でありながら、普段は男の子のような姿をしており、そのちんまりしたかわいさがなんとも萌えます。このマンガ、一見して性別があいまいに思えるキャラクターが何人か見られるのですが、これこそがまさに中性的萌えの究極だと言えるでしょう。
 そして、ツキの仲間となる旗師のたけるも最高です。こちらは、いかにも女性的なひらひらの服を着たり、なぜかセーラー服を着ていたりと、正統派の萌えが楽しめます(笑)。ツキに見せる百合的な趣味・妄想も最高で、いかにもこのマンガらしいキャラクターとなりました。ツキの純真な瞳とは異なるわずかなツリ目がその内面をよく表しています。

 そして、連載がしばらく進んだときに、二人が見せるメイド服姿が最高の一言に尽きます。とある財閥が開催するオークション会場へと潜入するために、そこの使用人の姿に成りすます、というのが建前ではあるのですが、実際のところ単にたけるがツキのメイド姿が見たいだけなのではないかと思えるようなイベントで、そして実際にメイド姿になったツキの姿が素晴らしいものがありました。
 個人的には、このメイドツキの姿に惹かれてこのマンガにはまったと言っても過言ではありません(笑)。メイド服のデザインも最高で、ツキのトレードマークである胸元の白黒リボンがいいアクセントになっています。さらにはつややかな美しいツキの黒髪の効果も加わって、実にかわいらしい姿になっていました。しかも、この姿で旗師としてアクションバトルまでやるという展開! これはもう本当に素晴らしく萌えましたよ。


・REXにまたひとつ加わった優れた良作。
 以上のように、この「ツキとおたから」、内容的にも作画的にも卒なく優れた良作であり、REXの最近の新連載でも注目すべきものになっています。もっとも、今のところは雑誌でも決して大きな扱いではなく、読者の注目度は低い感は否めませんが、それとは反比例して非常に優秀な作品になっていると言えるでしょう。

 しかし、これが注目されない理由も、ある程度推測できます。今のREXでは、やはり男性向けの萌えマンガが雑誌の看板的人気作品になっていることもあり、あるいはゲーム原作ものにもそのような作品が多く見られ、そういった作風が誌面の主流となっています。そのためか、読者の多くが男性マニアであるという調査結果もあります。このような状況では、かつてのエニックス雑誌のような、中性的な作風は人気を集めにくいのではないかと思われるところがあります。一方で、中性的な作風のマンガも残ってはいるのですが、それらは雑誌の中堅どころにとどまっていることが多いようです。そして、この「ツキとおたから」も、最初からそのような扱いが決まっていた節もあり、雑誌内でも地味な位置づけに終始してきたように思えるのです。

 そして、コミックス1巻の発売時においても、やはりあまり大きな扱いが見られず、一般の書店での入荷数はかなり絞られていたように見えました。他のREXコミックスが多数ある中で、ほんの数冊程度しか入荷されないところもありました。やはり、初動での扱いの悪さは目立ちます。

 しかし、REXなどのマイナー系雑誌では、初巻での扱いはおしなべて低いところはありますし、そこから徐々に人気を得てきた作品もいくつかあります。このREXならば、かつて紹介した「正しい国家の創り方。」などはまさにそうですし、決して悲観するほどでもないとも思えます。あるいは、この手の地味な作品ならば、今のような雑誌の中堅的な位置づけでも十分ですし、そこでコンスタントに優れた連載を続けていくだけでも意味はあります。この手の雰囲気の良い中性的な作品が、今ラインナップにひとつ加わった意義はとても大きい。

 また、一般の書店での扱いが悪い一方で、とらのあなやアニメイト、メロンブックスなどのマニア系書店では、どこも入荷数が多く、比較的目立つところに置かれたいい扱いでした。さすがこの手の書店は一般の書店とはどこか違います(笑)。この作品は、これらマニア系書店(特に男性向け要素の強いとらやメロン)とは、相性が悪いかとも思っていたのですが、意外にもどこでも大きく扱ってくれました。これはかなり嬉しい誤算で、今後そういったマニア層にも受け入れられる素地もあると、期待できるのではないかと思います。


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