<瑠璃垣夜子の遺言>

2011・10・21

 「瑠璃垣夜子の遺言(るりがきよるこのゆいごん)」は、マッグガーデンのコミックブレイドで2011年3月号から開始された連載で、同誌が2010年末以降進めていた新連載攻勢、その第3弾にあたる作品となっています。この新連載陣、ブレイドの以前の作品に比べると堅調で期待できる良作が多く、特に真っ先に始まった「すみっこの空さん」(たなかのか)が、開始直後から最も高い評価を集めているようですが、この「瑠璃垣夜子の遺言」も負けてはいません。個人的には、これと「空さん」のふたつが、この新連載攻勢の中で最も期待できると思っています。

 作者は宮下未紀。元々は成年マンガで活動していた作家でしたが、近年は一般誌でも様々な出版社で見かけるようになりました。その活動履歴は長く、90年代後半にまで遡ります。また、商業誌だけでなく、同人での活動も顕著で、コミックマーケットでは3日目壁サークルの常連としても知られています。現在でも、この連載に加えて、集英社のジャンプスクエアの方でも同時に連載をこなし、さらに同人誌もコンスタントに出すなど、その活動ぶりは積極的なものを維持しています。

 そのジャンプスクエアの連載は、「となりのランドセルw」という軽快なエロコメディとなっていて、こちらはこちらで面白いのですが、この「瑠璃垣夜子の遺言」は、そちらとはまったく異なる雰囲気の、シリアスなサスペンスものとなっています。主人公やその兄が人殺しを志すなど、ダークな展開が顕著で、その点でやや苦手な人もいるかもしれません。しかし、その構成力には確かなものがあり、緊迫したストーリー展開やキャラクターの心理を見せる巧みな演出、そしてなんといってもベテランの作家らしい卓越した画力と、非常にレベルの高い作品となっています。

 ただ、ジャンプスクエアでの連載との兼ね合いで、こちらは隔月での連載となっており、連載ペースが遅くその分やや注目度が低いとも思われるのが残念です。コミックスの刊行もまだ先のことのようで、まだ雑誌読者以外にはあまり知られていない存在かもしれません。ここでは、そんな作品を先んじて紹介したいと思います。


・ブレイドでの登場はやや意外だったが・・・。
 上記でも少し書いたとおり、宮下さんの活動履歴は長く、90年代後半から活動が見られます。当時から実力は確かなものがあったようで、あの岩田次夫から才能を見込み、無名の時代から付き合いがあって、仕事を紹介されたこともたびたびあったようです。

 そんな宮下さんの、商業誌でのデビューは成年マンガであり、この時期の作品としては、「キスきゅー」「シトロン・ヴェール」のふたつのコミックスを残しています。このふたつは最近になって復刻もされました。

 しかし、よく知られているのは、やはり商業誌での連載でしょう。初期の作品としては、富士見のドラゴンエイジで連載された「まぶらほ」のコミカライズ、そしてエース桃組で連載された「秋葉原いちまんちゃんねる」という萌えコメディがあります。当時は角川系での活動が中心で、さらにドラゴンエイジで「ピクシーゲイル」という連載を行いました。これは、極めてダークでシビアなストーリーの一品で、この「瑠璃垣夜子の遺言」にも通じるところのある、非常によく出来た連載だったと思います。しかし、どういうわけかコミックス2巻までで以降無期限休載となり、今に至るまで再開されていません。
 以後の活動では、一迅社のコミック百合姫で、「マイナスりてらしー」という百合コメディがあります。作者は百合好きなようで、これはピクシーゲイルやそれ以前の作品にもその傾向は見られましたが、百合姫連載であるこのマンガが最も顕著でした。

 また、ライトノベルの挿絵の仕事も行っており、中でも最も有名なのが、「よくわかる現代魔法」(桜坂洋、集英社スーパーダッシュ文庫)のイラスト。これは非常によく出来た秀逸なイラストの仕事だったと思います。原作は、現在も一応続いているようですが、長く続巻が出ていないのが残念なところです。

 このように、角川系を中心にこれまでにいくつもの作品を手がけていた宮下さんですが、このブレイドのマッグガーデンや、本家であるスクエニ(エニックス)や別の分家である一迅社での活動は、これまでほとんど見られませんでした。それゆえに、ブレイドでの連載を知った時には、少々意外な感もあり、この雑誌の雰囲気に合うかどうか一瞬不安に感じたのですが、それはまったくの杞憂でした。確かに、ブレイドのほかの作品に比べると異色のダークストーリーになっていますが、その実力は確かで、非常に良質の作品になっており、ブレイドの新連載攻勢の質を押し上げることになりました。


・良家に入った少女の悪しき奮闘を描く。
 タイトルの「瑠璃垣夜子」は、この物語の主人公の少女の名前。「瑠璃垣」とは、三百年続く名家のようで、兄の龍一郎とともに、立派なお屋敷に住んでいます。
 しかし、どうやら、この夜子、この家で生まれた住人ではないようなのです。物語序盤でははっきりと語られず、少しずつ明かされる描き方になっていますが、どうやら兄とは血がつながっていない、いわば養子としてこの家に入ったようです。そのためか、元の瑠璃垣の一族からは快く思われず、過去にはかなりひどい待遇に遭い、現在も(お金持ちの家の娘でありながら)普段は大してお金を持っていないことがほのめかされています。

 そんな夜子にとって、この家で唯一の味方だったのが、兄の龍一郎。過去には他の一族の虐待から一心に夜子を守り、現在でも心優しい兄として接しています。そのため、夜子の方も龍一郎にひどく傾倒し、友人からは「ブラコンも相当なもの」とまで言われる仲になっています。
 しかし、このふたり、過去にある語られない陰惨な事件を引き起こしていました。一族の娘である雷火という少女、それを龍一郎が殺していたのです。どうも、この雷火という少女は、非常に性質の悪い娘だったようで、夜子をひどくいじめていたこともほのめかされています。そんな夜子を助けるために、やむなく龍一郎は雷火を殺した・・・。物語の冒頭から、このようなひどくダークな設定で始まります。

 しかし、それから7年後の今、なぜか龍一郎の下に、死んだはずの雷火のかんざしが送られてきます。それを先に発見した夜子は、なぜこんなものがここにあるのかと大いに驚き恐れ、これがかつての殺人を知る脅迫者によるものだと考え、そいつを見つけ出して永遠に黙らせる(殺す)ことを決意するのです。

 このように、主人公やその身近なキャラクター(兄)が、過去に殺人を犯していたり、あるいはこれから人を殺そうとしたりと、極めてサスペンス色の強い話となっています。物語の中心である主人公たちが積極的に人を殺そうとする、そういったダークな心理やストーリー展開を好まない人には、苦手なタイプの作品となっているかもしれません。あまり幅広く受ける作品ではないことは確かでしょう。しかし、わたしは、個人的にこのようなタイプの作品は非常に気に入りました。確かに、彼らは人を殺し殺そうとしています。しかし、それはやむを得ないようなひどい事情があってのこと。名家の闇とも言えるひどい待遇、虐待があってのことならば、主人公たちがそのような行動にいたることも理解できますし、悪いことだとは思いつつもその行く末を見守りたくなる。奇麗事だけではない、極めて重厚で読ませるストーリーになっていると思うのです。


・高い画力と演出力が素晴らしい。
 そして、こうした重厚な物語を描く、画力と演出力にも卓越したものがあります。さすがもう活動歴も長いベテランの作家だけあって、絵も構成も卒なくこなれていて、ブレイドの新人作品と比べても大きな差を感じます。新連載攻勢の中で最も期待できるのも、こうした実力あってのことです。

 まず、やはり画力が高い。キャラクターの描き方がしっかりしていて、太めの描線と鮮やかなベタで描かれたキャラクターに存在感があります。同人でも他の商業でも、女の子の萌え絵に定評のある作者で、確かにこの作品でも女の子のキャラクターが多いのですが、一方で男性キャラや年配のキャラも含めてしっかりと描かれており、背景のうまさも含めて、絵についてはまったく問題ないハイレベルなものとなっています。かつ、この作品に関しては、ダークでシリアスな作品だけあって、他の作品のような萌えやエロ描写は大きく控えめになっていて、その点でも多くの人にオススメできます。

 加えて、なんといっても構成力ですね。ストーリーの構成力や、あるいは絵の「見せ方」に関する技量、そういったところに突出したものを感じます。序盤で、主人公の出自を一気には明かさず、少しずつ過去の出来事や現在の状況を明かしていくくだりなど、本当に巧みに出来ていて、読者を引き込む十分な力を持っています。また、一瞬の緊迫したシーンの描き方が絶妙で、例えば1話の最後で、夜子が送られてきたかんざしを目の前にかざしてにらみつけるシーンなどは、彼女の疑心が透けて見えるようでひどく引き込まれるものがありました。


・ブレイドの新連載攻勢の中でも個人的には一押し。隔月連載なのが惜しまれる。
 このように、この「瑠璃垣夜子の遺言」、実力派の作者がブレイドの外部から招聘され、その力を存分に発揮した重厚な作品となっていて、2011年のブレイドの新連載攻勢の中でも、最もお勧めできる作品のひとつとなっています。個人的にはまさに一押しで、さほど見かけないダークなサスペンス調の設定、ストーリー展開に一気に引き込まれました。作画や構成面でも文句なく、実際のところ非常に優秀な作品になっていると思います。

 加えて、宮下さんの久々のシリアスもの、という点でも期待したいと思います。かつてドラゴンエイジで連載されていた「ピクシーゲイル」も、非常によく出来た作品だと思ったのですが、どういうわけか無期限休載状態。これはひどく残念に思っていただけに、今回の「夜子」に期待するところも大きいです。ジャンプスクエアの「となりのランドセルw」のようなライト感覚の萌えコメ、エロコメもいいのですが、この作者にはそれとは違ったこういう暗い話、シリアスな人間模様にも見るべきものがあり、そちらにも期待するところが大きいのです。ブレイドでこのような作品が来ることは意外でしたが、予想以上に素晴らしいものが出てきたと言えるでしょう。

 唯一、連載開始以降ずっと隔月連載にとどまっているのが残念なところです。「となりのランドセルw」の連載との兼ね合いで、こちらの方を隔月にするようにスケジュールを調整したらしく、作者の事情だけに仕方のないところではあります。しかし、これほどの良作が、隔月連載で進みが遅いのは残念でならない。とりあえず、待望のコミックスの1巻が出るのを切に待ちたいと思います。


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