<夜森の国のソラニ>

2013・5・22

 「夜森の国のソラニ」は、まんがタイムきららミラクで2011年のvol.1(創刊号)より開始された連載で、この雑誌の中でも屈指の人気と評価を得た、看板的な作品となっています。「ミラク」は、先駆けて創刊されているきらら系雑誌と同様に4コママンガ誌で、この「ソラニ」もまた4コママンガであり、それもビジュアルと世界観こだわったファンタジー作品として、見た目の美しさ(特に頻繁に挿入されるカラーページの美しさ)で見るものがあります。

 作者ははりかも。これ以前の商業での活動としては、わずかにライトノベルの挿絵の仕事がある程度で、これがマンガデビュー作品となっています。ミラクは、他にもほとんどの作家がマンガ初挑戦の新人で占められていることが大きな特徴で、中でもこのはりかもさんは、当初から絵も内容も完成されていて、屈指の実力を持っているように感じました。

 作品の内容ですが、「夜森」という不思議な森を舞台にしたファンタジー作品で、ある種童話的な世界で、時に人間の負の部分も描かれた寓話的な作品となっているようです。4コマのネタは、楽しいコメディがその多くを占めていますが、しかしその裏に垣間見える悲しげな設定とストーリーにも引き込まれます。

 加えて、従来の4コママンガでは中々見られなかった、新鮮なビジュアル表現も見逃せません。4コマの枠を取り払ったような大胆な構図が随所に見られ、これが作品最大の特徴となっています。これは、ミラクという雑誌全体の方針でもあるようですが(「「もっと自由に、4コマを」)、その中でもこの「夜森の国のソラニ」は、それを最もよく表現したマンガとなっているように思いました。


・「もっと自由に、4コマを」芳文社きらら4コマの新しい挑戦。
 上でも少し書きましたが、この「まんがタイムきららミラク」、芳文社のきらら系4コマ誌の新創刊雑誌にして、これまでの4コマ誌とは一線を画する意欲的な試みを打ち出した雑誌となっています。

 これまで、芳文社は、「まんがタイムきらら」「まんがタイムきららMAX」「まんがタイムきららキャラット」「まんがタイムきららフォワード」と4つもきらら系列の雑誌を創刊してきました。このうち、前者3つは4コマ誌で、フォワードのみが4コマでないストーリーマンガ誌となっていますが、前者3つの雑誌の雰囲気は非常によく似ており、他の芳文社4コマより対象年齢が低めで、かわいい女の子のキャラクターやゆるい日常系の作風が特徴の「萌え4コマ」「きらら系」という独自のジャンルを生み出すことになりました。

 そして、この4つの雑誌の創刊からしばらく間をおいて、5つ目の雑誌として創刊されたのが、この「まんがタイムきららカリノ」。この雑誌は、これまでのきらら系4コマとは異なる意欲的な試みの4コマを目指していたようで、創刊時から「もっと自由に、4コマを」というキャッチコピーを打ち出していました。具体的には、この「ソラニ」のように独特の世界観を打ち出したり、掲載ページ数が多めでストーリー性を重視していたり、カラーページや4コマ表現でのビジュアルにこだわっていたり、新しい4コマの形を強く意識した作りとなっています。ビジュアル重視という点は、これまでのきらら系4コマにも見られた特徴ですが、それをより強く打ち出した形にもなっているように感じました。

 なお、このミラク創刊後にも、さらなる姉妹誌として「まんがタイムきららカリノ」「まんがタイムきらら☆マギカ」の2誌が創刊され、現在ではきらら系雑誌は7誌となっています。


・人間の暗い一面をも描く寓話的ファンタジー。
 さて、この「夜森の国のソラニ」ですが、タイトルどおり「夜森の国」という異世界が舞台のファンタジーとなっています。「夜森」とは、高く木々が生い茂り、空には明けない夜空が広がるとても美しい世界。その世界に、ある日ソラニという少女が迷い込むところから物語は始まります。

 ソラニの元に表れたのは、この世界と同じ「夜森」という名前の管理人と、そしてこの森の住人たち。なぜか過去の記憶を完全に失い、戸惑うソラニを、彼らは快く受け入れ、夜の森での不思議な生活が始まります。 夜森と住人たちは、ソラニのことを知人に似ているといいますが、彼女の正体は謎に包まれています。
 端正なたたずまいながら、普段の生活はどこか抜けたところのある夜森を始め、夜の森の住人たちは個性派揃い。ソラニは、彼らと日々楽しく過ごすことになります。4コマの1本1本のネタは、明るく笑える軽快なコメディが多く、卒のない4コマのネタ作りにまず感心します。

 しかし、普段は明るく過ごしている彼ら住人たちですが、その裏ではほとんどの者が暗い事情を持ち合わせています。この夜の森は、実は「起きたくないものがやってくる森」であって、現実の世界では皆訳ありの人らしいのです。そして、ふとしたことで起きて帰っていく者もいれば、死ぬまで起きない者もいる。そんな住人たちですから、普段は明るくのんきに暮らしているように見えても、時にその暗い一面をのぞかせる。人間の暗い負の一面をも描いた、哀しくも人間の本質を捉えた深みのある話になっていると思います。

 いわゆるファンタジー作品といっても、西欧中世的な世界観でのバトルファンタジーではなく、夜森という童話的な世界でそこに暮らす人間の姿を描く、寓話的なファンタジーになっていると言えます。同じ人間の持つ本質を描くにしても、現代を舞台にした社会派の作品にはなっておらず、あくまで寓話的な形式を取っている。あえてファンタジーでこうした物語を描く理由が、この辺りにありそうです。


・大胆な演出で見せる新しい形の4コマ。
 このような優れた世界観とストーリーに加えて、それを見せる大胆な演出も見逃せません。4コママンガとして新しい試みの演出をふんだんに取り入れていて、その点でも注目すべき作品ではないかと思います。

 まず、なんといっても、数多く描かれたフルカラーページの美しさに目を惹かれます。扉絵やコミックスのキャラクター紹介ページ、ひいては本編の4コマの一部でも見られ、4コママンガとしてはかなり多くのカラーが採用されています。過去の作品としては、「GA」や「棺担ぎのクロ。」と近い雰囲気があるかもしれません。世界観重視という点でも、特に「棺担ぎのクロ。」と近いイメージを感じます。

 しかし、この「夜森の国のソラニ。」は、4コマの使い方にさらに発展した演出が見られます。それは、4コマのコマ割を意図的に崩したようなスタイルです。
 具体的には、4コマの枠を縦方向に取り払った「ぶち抜き」とも言える手法。4コマの固定枠を意図的に撤去することで、魅力的な世界の広がりをよく再現しています。とりわけ、背の高い木々とその上の夜空が縦方向に一望できるその光景は、物語冒頭でいきなり見られる演出で、夜森という美しい世界に読者を引き込むに十分な力を持っています。

 加えて、そのような変則的なコマ割りでも、読者にスムーズに読ませるテクニックも巧みです。キャラクターのセリフを表す吹き出しと、作中のキャラクターの見つめる方向(視点)を調整することで、読者の視点移動と吹き出しを読む順番をさりげなく指示している。これは非常に巧みな演出だと思いますし、従来の4コマをさらに発展させた面白さを生み出していると思います。

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・夜森は女の子! 中性的な外見と序盤のエピソードで惑わされないように注意。
 ところで、このマンガを最初に読んだときに、引っかかって大いに戸惑ったところがあります。それは、この世界の管理人である「夜森」の性別です。
 実際には女の子なのですが、当初読んだとき男の子だとばかり思って、そのままで随分と先まで読み進めてしまったのです。ここまで長く勘違いしてしまったのは、いくつか理由があります。

 まず、夜森の外見が極めて中性的で、性別がまったく分からないほど微妙な外見をしていること。さらに、最初のころは、スカートのような女性的な服装をしていなかったので(のちにそうしたシーンやイラストも見られるようになりますが)、ますます分からなかったのです。

 そして何より、冒頭1話での彼女の一言が致命的でした。ソラニが似ているという知人。そのことを「彼女はそんな風に笑ってくれない」と言ったのです。「彼女」と表現したことで、恋人か何かかと思ってしまった。彼女が恋人ということは、(百合などの同性愛でもなければ)夜森は男の子だと勘違いしてしまったのです。

 しかし、これは明らかに自分の固定観念に過ぎませんでした。「彼女」という表現から、すぐに恋人だと思ってしまうほうがおかしい。むしろ、このような中性的なファンタジーならば、恋愛ではないゆるやかなつながりの方がふさわしいのではないか。女の子たちがメインキャラクターとなることが多いきらら系のマンガならばなおさらそうでしょう。というわけで、夜森は女の子ということで最初から読むことをおすすめします(笑)。


・今のきらら系で最も注目される作品のひとつ。はりかもさんの今後の活動にも期待。
 以上、寓話的なファンタジー作品として優れた世界観とストーリーを持ち、かつ新しい4コマ表現でも注目すべきこの「夜森の国のソラニ」、出版社でも期待の一作として扱われているようで、きららミラクでは何度も表紙を飾る看板になっているだけでなく、芳文社きらら系4コマすべての中でも、ひときわ大きく推し出されるようになっています。2012年に出たコミックス1巻が好評で、それから1年経たないうちに発売されるコミックス2巻も、また強く推されているようです。

 これは、上でも少し述べたきゆづきさとこ作品「GA」「棺担ぎのクロ。」のかつての扱いに近いものがあり、カラーページをふんだんに盛り込んだコミックスにも、それがよく表れているように感じます。きらら4コマの新しい看板作品になる日も近いのではないでしょうか(あるいは既になってる?)。

 とりわけ、このマンガが、中性的な絵柄と寓話的なテーマを持つファンタジー作品となっている点を、大きく評価したいと思います。このマンガを、一昔前のエニックス(ガンガン)的な雰囲気の作品という人もいますし、あるいはわたしなどは、オリジナルの創作同人でよく見られるタイプの作品かとも思いました。はりかもさんは、以前からその創作同人でかつどうしているようですし、そういった作品が、こうして商業で認められ、トップクラスの人気作品となるまで成長したのは、大変うれしいことだと思いました。最近では他の雑誌での掲載の仕事もあるようですし、はりかもさんの今後の活動にますます期待したいと思います。


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