<ゆめのみち・ユウグレ>

2011・7・24

 「ゆめのみち」と「ユウグレ」は、いずれも芳文社のまんがタイムきららフォワードに掲載された読み切りで、前者は2009年3月号、後者は2009年5月号に掲載されています。どちらも作者は鍵空とみやきで、短い間に2回ほど続けて読み切りが掲載されたことで、当時は新人としてかなり期待されていたようにも思います。

 鍵空さんは、元々は同人で活動していた作家で、ウェブサイトや同人誌で幾多の創作作品を残していました。その活動の端緒は2005年以前にまで遡ります。しかし、長い間商業での活動はなく、この2009年の読み切り2作が、初めての商業誌掲載作品となりました。掲載に当たって、フォワードのサイトでは「ビッグゲスト登場!」などといった告知がされており、これは同人での長い活動で、かなりのファンに知られていたことを指していたようです。

 作品の内容ですが、いずれもファンタジージャンルの作品となっており、女の子と男の子のふたりのキャラクターが主役となっているところなど、共通点が多く見られます。そして、これは、作者の同人での創作作品の作風をそのまま継承しており、まさに普段同人で描いているマンガを、そのまま商業誌に掲載したような形となりました。
 掲載時までに長らく創作を続けていただけあって、商業での初作品となったこの2作も、最初からかなりの完成度を有していたと思います。しかし、この読み切り、いずれもあまり芳しい反応を得られなかったようで、これ以後作者の次回掲載は途絶えてしまいました。「反応がよければ連載の獲得もある」と聞いたこともあるのですが、結局それがなかったところを見ると、これといった評価はなかったのかもしれません。

 しかし、鍵空さんは、この約1年後にスクエニのJOKERで、「カミヨメ」という新作の読み切りを発表、こちらの方は読者投票でトップという優れた評価を得て、連載を獲得することになりました。しかし、こちらの作品は、1年前にフォワードで発表したこの2作とは、いろいろと作風が異なっていたように思われました。ここでは、見事商業誌で人気を得た「カミヨメ」との比較も兼ねて、この1年前の読み切り2作「ゆめのみち」と「ユウグレ」を考察してみたいと思います。


・ラブコメとなった「カミヨメ」とは明らかに異なる。
 鍵空さんのマンガは、絵とキャラクターが非常にかわいらしいことが特徴で、これは「カミヨメ」も、この「ゆめのみち」「ユウグレ」も変わりません。「カミヨメ」の方は、JOKER編集部によって、そのかわいい作風を「キュン萌え」などと命名され(笑)、それが作品の大きなセールスポイントともなっていました。男女共にくせの少ないかわいらしいキャラクター、昔のエニックス、あるいは休刊前のガンガンWINGなどで見られた、中性的なゆる萌え作品にも通じるところがありました。

 しかし、そうしたキャラクターや絵の見た目は、かなりの部分で共通しているのですが、その作品の内容、ストーリーやテーマには大きな違いがあるように思えるのです。いや、このふたつの作品の間には、明らかに大きな方向性の差異がありました。
 「カミヨメ」は、「神様系ラブコメディ」とも称されているように、人間の女の子と神様の男の子を中心にした、比較的オーソドックスなラブコメ作品となっています。町の神社に住む神様の男の子と付き合うことになった女の子の、ういういしい恋愛感情の表現が巧みで、とてもほほえましい作品になっています。ただ、少女マンガではよく見られるタイプのラブコメとも言え、他によく見られるタイプの作品ともなっているようです。

 それと比較して、この「ゆめのみち」「ユウグレ」は、女の子と男の子が出てくるという点ではまったく同じなのですが、決して恋愛やラブコメがメインテーマとはなっていません。キャラクターが恋愛感情を吐露するようなシーンはまったくなく、恋愛とは異なるつながりが見られるのです。
 恋愛とは異なるつながりとは何か? それは、共に同じ道を歩むパートナーのような関係に他なりません。同じ目的に向けて共に歩み、共に相手を気づかい助け合うような関係。信頼できる親友か、それよりもさらに近しい関係で、そこにはひょっとすると恋愛的な感情もあるのかもしれませんが、それが前面に出てくることはなく、あるとしてもエッセンス程度。男女の恋愛感情をよく表現する恋愛・ラブコメ作品とは、大きく異なるものがあるのです。

 そして、これは、鍵空さんの同人での創作作品の作風と共通しており、いつもの鍵空さんそのままの作風となっています。それゆえに、このような作者ならではの作品が、商業誌でこうして掲載されて読めたことは、個人的にも非常にうれしいものがありました。


・死から再生への道を舞台とした「ゆめのみち」。
 さて、ここからは、それぞれの作品を解説していきましょう。
 まず、「ゆめのみち」ですが、これは、主人公の男の子・セタが、あるきっかけから死後の世界へと迷い込み、そこでミユリという女の子と出会い、彼女に助けられて元の世界に戻るというお話となっています。

 セタは、母親が交通事故で自分をかばって死んでしまったことに絶望し、自分も死のうとしてビルの屋上から今にも飛び降りようとしていました。しかし、そこで突然景色が変わり、不思議な世界へと迷い込んでしまいます。そこで出会ったのがミユリという女の子。ミユリは、ここは「死んだ魂たちが生まれ変わるために、旅する世界をつなげる道」であると言います。そして、主人公を生きている人間だと見て、この世界に生きている人間が迷い込むことは珍しいと言います。
 ミユリは、生きている人間であるセタを、元の世界へと戻そうとしますが、母が死んで絶望していた彼は、それをよしとしません。負の感情が噴き出して暗闇の中に閉じ込められた彼は、そこで母の幻影に出会い、気が付くとミユリに支えられていました。ミユリの精一杯の説得の言葉に動かされた彼は、元の世界への出口を見つけ、無事帰ることになるのです。

 このマンガは、奇しくも、ずっと以前エニックスで連載された藤野もやむのデビュー作「まいんどりーむ」に近いものがあります。悩みをかかえてゆめのせかいへと逃避してしまった主人公が、そこに住む女の子に導かれて、なんとか立ち直って元の世界に戻るというプロットが、偶然にもよく似たものとなっています。
 ただ、「まいんどりーむ」が、基本的に1話完結のストーリーで、主人公抱える悩みに大きなスポットが当てられているのに対して、この「ゆめのみち」は、主人公と女の子のその後につながる作品の広がりが見られるところに、大きな違いがあると思います。セタを助けたミユリは、自分は死後の旅の途中にあると語り、これからも無事に生まれ変われるまで旅を続けるといいます。セタの方も、そんなミユリに対して「オレが会いに行ってやる」と力強く語り、そのために自分も頑張って生きようとします。この、やがてくるであろう再会へとつながるストーリーの広がり、これが非常に心地よく、この続きとなる話を本気で期待してしまいました。
 そして、このふたりの関係は、ラブコメのような恋愛関係ではなく、互いに同じ道を歩む、強いつながりを持つパートナーのような関係として描かれています。これこそが、「カミヨメ」の主人公たちとは大きく異なるポイントなのです。

 また、純粋に夢の世界が舞台だった「まいんどりーむ」と異なり、死んだ人間が再び生まれ変わるまで旅をする世界という点にも惹かれました。仏教でいうところの中有の道、バルドという概念ですが、そういった世界を、こうして奇をてらうことなく、穏やかな作風で描いているところに、鍵空さんならではの創作の深みを感じます。


・よりファンタジー色の強い「ユウグレ」。
 そして、もうひとつの読み切りである「ユウグレ」ですが、こちらは異世界を舞台として悪魔や天使が登場するというストーリーで、純粋にファンタジー色の強い作品となっています。「ゆめのみち」も広い意味でファンタジーですが、こちらは純粋な異世界ファンタジーという点がさらに特徴的で、鍵空さんの同人創作では最もよく見られるジャンルとなっています。より作者らしい一作になっていると言えるかもしれません。

 主人公は、「黄昏悪魔」と呼ばれるユウグレという悪魔。さんざん破壊を繰り返した彼は、力のある魔女によって封印され、長い間眠らされてしまいます。
 彼が再び目覚めた時、魔女に復讐してやるといきなり荒れ狂いますが、そんな彼の前に、ひとりの女の子が現れます。彼女はシアノと名乗り、ユウグレを優しくきづかって、パン を食べさせ水も持ってこようとします。だが、彼は、まだ悪魔として闇の心に囚われており、疑心暗鬼に陥って、彼女でさえ自分を陥れようとしていると思い込み、再び闇の力で荒れ狂って彼女を拒絶しようとします。
 しかし、そんな悪魔ユウグレに対しても、シアノはまったく動ぜず、やさしい口調で「怖くないよ」「一人じゃないもの」と語りかけ、そっと彼の手をとってなぐさめます。この行為でようやく落ち着いた彼は、初めて自分を恐れずに触れてきたこの少女に心動かされ、心から感謝の念を口にすることになります。

 このマンガは、主人公の悪魔の闇の心、疑心暗鬼に陥った殺伐とした負の感情が全面に描かれており、人の死を扱った「ゆめのみち」にも増してダークでシビアな側面が垣間見られます。このような作風は、同人時代から鍵空さんの創作最大の特徴であり、かわいい絵とキャラクターからとは対照的な、人の持つ負の心を正面から描く重みのあるストーリーとなっています。そしてもうひとつ、そんな彼を気遣う心優しい女の子の存在と、彼女との関係性が秀逸です。このふたりの関係もまた、ラブコメに見られるような恋愛関係とは一線を画しているのです。互いが相手のことを真剣に思いやり、心から安心して接することの出来る、友人よりもさらに距離が近い人生のパートナーのような関係。この関係性が、見ていて非常に心地よいのです。


・商業ではまず見られない作品。反応が芳しくなかったのは本当に残念だった。
 以上のように、この「ゆめのみち」と「ユウグレ」のふたつの作品、ファンタジーというジャンルや、女の子と男の子の持つパートナーのような関係性、人の負の心を強く表現したシビアで重みのあるストーリーと、どちらもこの作者らしい作品となっていました。まさに同人での創作そのままといった感じで、このような作品が商業誌に載ることは、今までまずなかったと思います。
 それでも、「ゆめのみち」の方は、偶然にもかつての「まいんどりーむ」に似たところがあるということで、まだ近い商業作品があったと見てもいいのですが、対して「ユウグレ」の方は、同人ではまだ一部で見られたかもしれませんが、商業ではほとんど見たことがないような作品だったと思います。それゆえに、これがフォワードに載ったというのは本当にうれしい出来事で、フォワード編集部には本気で感謝したものです。

 しかし、残念ながら、この作品の読者の反応は芳しくなかったらしいのです。これは、鍵空さんの読み切りが、フォワードの読者の好みと微妙に合わなかったこともあるのではないかと考えています。まんがタイムきららフォワードは、他のきらら系雑誌と同様、男性のコアな読者が大半を占めているようです。それに対して、鍵空さんの中性的な作風は、微妙に好みから外れていた。このような作風のマンガは、商業ならやはりかつてのエニックス、もしくはガンガンWINGあたりの方が、まだ受け入れられた可能性は高かったと思います。

 そして、1年後にJOKERで掲載された「カミヨメ」が、割とスタンダードなラブコメ作品となっていて、こちらは読者の反応はすこぶるよく、連載となって定着したことを考えても、やはりこの「ゆめのみち」「ユウグレ」のような作品は受け難いのかなと考え込んでしまいました。フォワードでもラブコメや恋愛系作品は多く、連載として人気を得ているところを見ても、ひょっとするとこちらでも「カミヨメ」のようなラブコメなら受け入れられたのかと一瞬思ってしまいました。連載として定着するのが、ラブコメのような商業誌の定番ジャンルというのは、やはり商業の壁の厚さのようなものを感じます。

 しかし、ひとまず、同人の創作で見られる特徴的な作品が、こうして2回も読み切りとして載っただけでもよかったのかもしれません。以後、どこかの雑誌でまたこうした作品が掲載されて、今度こそ壁を越えて連載を実現できればいいなと思っています。


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