<ゆるゆり>

2010・1・20

 「ゆるゆり」は、一迅社の「コミック百合姫S」のVol.5より連載されている作品で、同誌の中でも特に人気を集めている作品です。さらには、最近の一迅社のこの作品の推進ぶりにもひどく目立つものがあり、一誌にとどまらず出版社全体の中でも有力視されているようです。もしかすると本気でアニメ化を狙っているのかもしれません。
 掲載誌の「コミック百合姫S」は、同社の「コミック百合姫」の姉妹誌で、「百合姫」同様に百合作品を扱ったマンガ雑誌なのですが、「百合姫」本誌よりも男性読者向けの雑誌になっており、いわゆる萌え系の絵柄のマンガが数多く見られます。「百合姫」の方が少女マンガ的な絵柄、内容の作品が多いのとは雰囲気の違いがあり、実際に男性読者に人気を集めているようです。

 作者は、なもり。以前に、メディアファクトリー・MF文庫のライトノベル「ぷいぷい!」の挿絵イラストを担当しており、さらには同作品のコミカライズの作画も手がけています。これは、コミックアライブで2007年から2年ほど連載されました。この「ゆるゆり」は、その「ぷいぷい!」の連載中に新たに一迅社の方で開始された形となっており、なもりの初オリジナル連載となっています。

 当初は「百合姫S」が季刊誌のために中々話数がたまらず、コミックスの1巻が出るまでに2年近い期間を要したのですが、このコミックスの発売を気に大きな注目を集め、以後は一気に連載のペースも上がり、2巻はわずか半年後に発売されることになりました。1巻発売の時から出版社による攻勢に見るものがあり、コミックス発売以降の同社の盛り上げ方には見るべきものがあります。

 内容的には、百合作品を扱う雑誌の連載にしては百合要素は強くなく、あくまでエッセンス程度で、それよりも中学生女子のゆるゆるした日常を描くまったり系の作品になっています。いわゆる萌え4コマ系の作品と近い感触もあり、なもりさんのやわらかくかわいらしい絵柄もあいまって、どこまでもほのぼのした作風が心地よい作品となっているようです。


・「ごらくぶ」と生徒会に所属する女子中学生8人のまったりした日常を描く。
 そのまったりな内容ですが、 廃部された茶道部の部室を勝手に占拠し、「ごらくぶ(娯楽部)」と称して日々部活動を送る(といっても部室でまったり団欒するだけ)4人の女子中学生と、彼らに目をつけた生徒会の4人の女の子との間の、たわいもないゆるゆるな、ときに騒がしい日常を描くというもの。

 まず、「ごらくぶ」の4人のキャラクターですが、明るい素直な良い子で当初は主人公的存在だった赤座あかり、クールな突っ込み役の船見結衣(ふなみゆい)、周囲に振り回されながら時にブラックな一面ものぞかせるツインテール少女・吉川ちなつ、お調子者で暴走して騒ぎを引き起こす歳納京子(としのうきょうこ)の4人。このうち、お調子者の京子がなにか引き起こすという話が多く、それに結衣が突っ込みを入れるというのが、ひとつの定番になっています。

 そんなごらくぶの暴挙に対抗する(?)のが、生徒会の4人組で、京子を意識するあまりについ対抗してしまうツンデレの副会長・杉浦綾乃を筆頭に、百合趣味の少女で、京子と綾乃のカップルで日々妄想を抱く池田千歳が、妄想しつつも綾乃に突っ込みを入れる役どころになっています。千歳の妄想は、百合要素の少ないこのマンガに百合分を投入する貴重な(?)シーンとなっています。
 そして、明るい性格でがさつな大室櫻子(おおむろさくらこ)と、落ち着いた性格とお嬢様口調が特徴の古谷向日葵(ふるたにひまわり)は、始終喧嘩をしているが実は仲の良いツンデレコンビとして、次期生徒会副会長の座を争っています。

 一応、正式な部活でもなくただ不法占拠しているごらくぶに対して、生徒会の面々が目をつけて廃部に追い込もうと対立している、という設定はあるのですが、実際には激しく対立している気配はまったくなく、京子を意識する綾乃がかまってもらいたいあまりにちょっかいを出しに来る程度で、双方ののんびりまったりした日々の姿と、時に騒がしいドタバタ劇が描かれる、ほんとうにまったりした作品になっています。娯楽部の女の子たちが、元茶道部の部室の畳の上に寝転がり、あるいはテーブルを囲んで団欒しているだけ、時にそこに生徒会の面々が(主に綾乃が)ちょっかいを出しにくるという、激しい展開は「何もない」、ほんとうにゆるいマンガになっています。コミックスの帯や雑誌の宣伝ページの告知文でも、「そんな(激しい)展開ははっきり言って全くない」と念を押しているほどで、それをひとつのネタにすらしているようです。


・全くないわけではないが、百合分は少なめ。普通のゆる萌え系マンガに程近い。
 このようにまったりした日常を描く、いわゆる「ゆる萌え」系マンガのスタイルが全面に出ている一方で、これまでも書いたとおり、百合要素はひどく少なめの作品になっています。「コミック百合姫S」の連載ではあるものの、百合マンガと言えるかというとそうでもないような気がします。

 数少ない百合要素としては、京子がちなつのことを、自分の好きな魔女っ娘アニメ「魔女っ娘ミラクるん♪」の主人公に似ていることから、やたらかわいがろうとする一方で、当のちなつは結衣の方が好きで、たまに百合的な展開に入ろうとして京子が怒り出すといったシーンがあるくらいでしょうか。あるいは、具体的な進展はないものの、綾乃が京子を意識してちょっかいを出していくツンデレ的な展開と、それに対して千歳が脳内で妄想するシーン。特にこの千歳の妄想は、はっきりとした百合分を作品にもたらす数少ない要素となっています。

 このように、百合はほのかなエッセンス程度で、まったりゆるゆるな日々を中心に描く作風は、普通のゆる系萌えマンガに近いものがあり、当初から一部読者の間では、あの「苺ましまろ」に似ていると言われていました。まだ幼さの残る女子中学生のゆるい日常を描く点において、確かにこの意見にはうなづけるところがあります。また、いわゆる「萌え4コマ」系作品にも非常に近いものを感じますし、同じ一迅社の萌え系4コマ雑誌「ぱれっと」や「ぱれっとLite」の方に載っていても、ほとんど違和感はないような気がします。

 それがあえて「コミック百合姫S」に載っているわけですが、おそらく、男性読者に向けたこの雑誌においては、本家の「百合姫」ほど百合要素に対するこだわりが薄く、「かわいい女の子が仲良く戯れる」というゆるやかな内容の作品でも、十分読者の好みに合っているのではないでしょうか。思えば萌え4コマ作品の中でも、このようなまったり展開で一部に百合分が入っているようなマンガはかなり多いですし、この「ゆるゆり」も、萌え4コマと読者層も大きくかぶっているのではないかと思っています。


・「暫定主人公」あかりの不遇な扱いをネタにしたギャグが笑える。
 そんなまったりした展開の中で、回を追うごとに目立つようになったひとつのネタとして、当初の主人公(?)・赤座あかりの扱いがあります。

 連載のはじまった第1話・第2話あたりでは、他の主要キャラクターと同様に真っ先に登場し、話の中心の一角を確かに占めていたあかりなのですが、その後比較的早いうちにどんどん扱いが薄くなっていき、いつの間にか背後にちょこっと登場するだけといった回が増え、出番が極端に少なくなってしまいました。そして、実際に話を進めるのは他のメンバー、とりわけ京子が中心になっていることが非常に多く、実質的にこちらが主人公なのでは?と思うような内容になってしまったのです。

 これは、作者や編集者の間でも強く意識されており、やがて主人公だったはずのあかりの不遇さをネタにした話が、どんどん描かれるようになってしまいました。大抵の場合、あかりの出番のなさ・影の薄さを周囲のキャラクターがネタにする展開で、しかしそれがかなわず、しまいには「アッカリーン」という謎の擬音と共に、画面から消えてしまうというシーンまで見られるようになり、ついにはそんなあかりの影の薄さをネタにした話が、ひとつの定番とまでなってしまいました。

 これは、編集者によるマンガの周囲やコミックスの帯の煽り文にも如実に表れていて、こちらでもことあるごとにネタにされています。特に、2巻の帯のテキストでは、「暫定主人公・赤座あかりと、実質主人公・歳納京子」とすら書かれている有様で、しかもコミックスの表紙の絵も、1巻の時はあかりが一番大きく手前に描かれていたのに、2巻では逆に京子がアップで大きく描かれ、あかりは一番遠くに小さく描かれてしまっているという、あかりの不遇な扱いを思いっきり意識したひどい絵柄になってしまっています(笑)。


・一迅社による一押し攻勢がすさまじい。
 以上のように、このマンガは、他の連載ほど百合に特化しておらず、キャラクターが織り成すまったり風味の日常が楽しいコメディ作品となっています。そして、このような内容が、より広い読者層に人気が出ると想定したのか、コミックス1巻の刊行あたりから、一迅社によるこのマンガの扱いの大きさが目立つようになり、他の雑誌の看板作品と同等クラスの推進活動が見られるようになっています。これを見るに、本気でアニメ化まで行こうと思っているのかもしれません。

 一迅社のホームページでも特設ページを作って大々的に特集し、さらには特に顕著なのが、コミックスの発売に合わせた書店活動、中でも特典攻勢です。コミックス1巻発売の際には、一部書店でキャラクターの立て看板を展示し、さらにはカードや小冊子などのえらく凝った特典を一部書店で配布しました。さらには、開催が近かったコミックマーケットにおいても、他の作品のポスターと並べて大きなポスターを展示し、「小百合姫」というコミケ限定の増刊誌の表紙になり、頒布される紙バッグの絵柄にもなるなど、一部のコアなマニア層に向けた告知活動が非常に顕著なものとなっています。

 これは、半年後の2巻発売時にも継続され、やはり1巻の時と同じく特典攻勢が非常に顕著でした。今回はイラストカードと小冊子が中心で、さらにはメロンブックスにおいて、1巻・2巻をセットで購入すると、あかりのパンツ(型フェイスタオル)というぶっ飛んだ特典を配布。前にマンガだったかエロゲーだったかでこういった特典があったような気がするのですが、まさかこの「ゆるゆり」でこんな暴走した特典が見られるとは思いませんでした。

 ところで、極めてローカルな話題になりますが、作者のなもりさんは、かつてウェブ上で藤野もやむファンが集まったお絵描き掲示板「ゆめのかけはし」の常連でした。そして、このメロンブックスのコミックス単体の特典である小冊子では、その昔かけはしに集まったメンバーたちが再び集い、マンガを寄稿しています。まさかあの掲示板からプロの作家が生まれたばかりか、このような展開まで見られるとは・・・と、かつてその掲示板をよく見ていたわたしは、随分と感慨深いものを感じてしまいました。


・百合姫一誌にとどまらない、一迅社期待の作品。
 このように、この「ゆるゆり」、百合マンガの専門誌とも言える「百合姫S」の連載ではあるものの、どちらかと言えばごく普通の萌えマンガ、とりわけ萌え4コマによく見られるまったり系のゆる萌えマンガとなっており、より幅広い読者を想定したものとなっているようです。一迅社としても、百合姫一誌にとどまらない期待作として扱っているようで、コミックス発売後の盛り上げぶりには顕著なものがあります。

 内容的にも、確かにゆる萌え系のマンガとしてよく見られるタイプの作品ではあるものの、他のマンガ以上にどこまでもまったりとした雰囲気が好印象で、なもりさんのくせの少ないゆるやかな作画もそれを後押ししており、どこまでもまったりと癒される心地よいマンガとなっていると思います。あるいは、実質主人公・京子を中心とするドタバタ騒ぎも楽しく、一方で暫定主人公・あかりの不遇な扱いをネタにしたギャグも楽しく(笑)、キャラクターたちの笑える言動がおかしさを誘う、くすりと笑えるコメディとしても見逃せません。

 これまでも、なもりさんの商業誌での活動は、ライトノベル「ぷいぷい!」関連で追いかけてはいたものの、まさか一迅社の百合姫Sでこのような注目作を描くようになるとは思いませんでした。当初は季刊誌での連載で、決して連載ペースは速くなかったのですが、一旦コミックス1巻が発売されると、出版社の一押し政策もあって注目度は一気に上昇。これからのさらなる展開にも期待が高まります。

 それと、このマンガは、編集者による煽り文の数々がやたらふざけていて面白いことにも注目です。「あったらいいなが、きっとない。」というような脱力系のものばかりで、「笑われればいいと思うよ」「何も起こらない毎日が、大・事・件。」「よ〜し、パパ二度寝しちゃうぞ〜!!」「2巻です!!ピースピース☆なにやら素晴らしく世界平和な毎日が始まる気がしませんか?しませんか。しませんね。」など、ここまでバカバカしい煽り文がコミックスの帯に書いてあるコミックスも面白い。このような周囲の笑える文言に注目して追いかけるのも、また楽しいのではないでしょうか。


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