<アカイイト>

2005・3・22

 なんなんでしょう、この素晴らしいゲームは。売り上げはまるで芳しくなく、知名度も決して高くないゲームですが、実は非常に堅実かつ丁寧に作られた超優良作品です。

 「アカイイト」は、PS2で昨年10月にリリースされたノベルタイプのアドベンチャーゲームで、いわゆる「ギャルゲー」に分類されるゲームです。システム的にはオーソドックスな選択肢付きのノベルゲームで、肝心のストーリー(シナリオ)の内容にしても、この手のゲームではよく見られる「和風伝奇もの」で、一見してありきたりな作品にも見えます。
 そもそも、この手のゲーム(ギャルゲー)に於いて、このような「現代日本を舞台にした、幻想や伝奇の要素が中心のゲーム」は珍しい存在ではなく、むしろ定番中の定番と言えるものです。有名どころのゲームとしては「痕」や「久遠の絆」、そして「月姫」、マイナーなゲームまで探せば相当な数にのぼります。この「アカイイト」も、まさに伝奇ノベルの王道を行くもので、過去の作品と比べてもその点では新鮮さに乏しい感があります。

 だが、しかし。だがだがしかし、だがしかし。
 実はこのゲームには、過去の作品には無い「すばらしくオリジナリティに溢れたコンセプト」があるのです(笑)。

 では、それは一体なんなのか? 一言で言えば、ずばり「百合」


・「百合に至る病」
 どうもこのところ、日本の男(女も)オタクたちは、「百合」という新手の病に侵されているようです。

 それはまだ2001年当時、わたしはとあるギャルゲーにはまり、その手のサイトを巡回していたのですが、その中のひとつに、「マリア様がみてる」というコバルト文庫の小説を熱心に推進しているサイトがあったのです。わたしはその当時、「はあ? マリア様? なにそれ?」程度にしか考えていなかったのですが、これがどういうわけかあれよあれよと言う間に大人気。本来は中高生層の女の子の読者向けに書かれたこの「百合」をモチーフにした小説に、男のオタクが大量に群がるという異常現象が巻き起こり(笑)、そして今、この「マリみて」の人気をベースに、美少女系のマンガ・アニメ・ゲームにおいて「百合」ブームが起きており、今やその手の作品に百合な要素を入れるのは当たり前のことになっています。

 例えば、この「アカイイト」がリリースされた昨年の10月に発売(予定)だった「To Heart2」でも百合なキャラクターが登場していますし、同じく昨年の10月に放映が始まった「神無月の巫女」などは、学園ものの百合+ロボットという意味不明な組み合わせの作品になっています。
 そのほかの最近の作品でも、一部に(全部に)百合要素を持つものとして、「カレイドスター」「NOIR」「ヤミと帽子と本の旅人」「ココロ図書館」「苺ましまろ」「トリコロ」「かしまし」「はやて×ブレード」「これが私の御主人様」「ARIA」(←何?)などなど、実際にはこれ以外にも凄まじい数にのぼります。

 このように、もはや一部に「百合」要素を持つ作品が当たり前となっているこの業界に於いて、しかしこの「アカイイト」という作品は、さらに「百合」要素を全面に押し出したギャルゲーとして、既存のゲームとは明らかに異なるオリジナリティを確保することに成功しています。


・主人公がすばらしい。
 このゲームは、「百合」がモチーフということで、既存のギャルゲーとは異なり、主人公が女の子という設定なのですが、これが実に素晴らしい効果を生み出しています。
 わたしは、これまでギャルゲーをプレイするたびに、「主人公の声がない」「主人公の顔や姿が映らない」「主人公の性格が無個性」であることに不満を感じていました。これらの要素は、「主人公=プレイヤー」である立場を強調し、主人公に対する感情移入をしやすくするための措置らしいのですが、そもそも主人公の一人称形式を採ることが多いこの手のゲームに於いて、主人公がそこまで描かれないというのも不自然な話であり、これがギャルゲーにおける最大の欠点だと感じていました。
 しかし、このゲームは違います。主人公が女の子ということで、主人公もまた「萌え」の対象として設定されたおかげで、フルボイスで声が聴けますし、顔や全身像も当たり前のように表示されます。そして、何よりもしっかりとした個性を持っているのがいい。従来のような、すべてにおいて平均的な、あたりさわりのない対応をする無個性な主人公とはまるで違います。

 しかし、このゲームの優れているのはそれだけではありません。このゲームの主人公・羽藤桂(はとうけい)役を演じているのは松来未祐(まつきみゆ)という声優の方なんですが・・・なんなんでしょう、このすばらしい萌えレベルの高さは(笑)。この澄んでいてかつ甘ったるい声がたまりません。しかも、これが主人公の性格に完全に適合してします。最初に声優役を選んでから主人公を設定したんじゃないかというくらい(実際にはそれはないですが)完全にマッチしています。これはもう「Missing Blue」の沙夜以来の大ヒットですね。
 そして、その主人公のお人よしでのんびりやで超天然系の性格がまた素晴らしい。もう最高に萌えです。このゲーム、全体的な萌え要素は他のギャルゲーに比べれば低いような気がしますが、主人公だけは別格。こんなに萌える主人公は、他のギャルゲーでは絶対に見られません(笑)。これぞまさにギャルゲー史上最萌え主人公です。

 そして、この主人公と各ヒロインとの百合要素がまた最高にいい。決して濃い描写ではなく、話の内容そのものは百合とは言えないくらい薄いものですが、それでも百合作品の持つ微妙な雰囲気は良く出ています。見方によっては非常にエロい(笑)。そしてなんといっても羽藤桂総受け。この天然系の主人公がいいようにやられる様がなんとも言えません。まさに百合の出血大サービス。「この主人公にしてこの百合あり」と言うべき実にオリジナリティ溢れるすばらしい作品になっています。


・実は内容的にも素晴らしい完成度を誇る。
 さて、ここまで、このゲームの「百合」的な部分のみを強調してきましたが(笑)、実は決してそれだけのゲームではなく、ゲームそのものの完成度も非常に素晴らしいものです。

 まず、この手のゲームで最重要視される「ストーリー(シナリオ)」についてですが、これが和風伝奇ものとして実によく出来ています。この手のゲームの通例として、テーマ性やメッセージ性はさほど高いものではありませんが、一方で伝奇ものとしてのエンターテインメント要素は十分。文章力も高く、とにかく読ませます。内容も多岐に渡っており、和風情緒あり、謎解きあり、家族愛あり、オカルト知識あり、燃えバトルあり(笑)と、この手の作品の娯楽要素は余すことなく存分に楽しめます。
 そして、このゲームの素晴らしいのが、いわゆるギャルゲーのお約束がなく、ギャルゲー的な不可解なキャラクターも全くおらず、一般のプレイヤーでも十分に楽しめる汎用性の高い物語になっている点です。そして、ゲーム中に「用語辞典」で説明される歴史や民俗に関する知識がまた面白く、一般層でも楽しめる優れたエンターテインメントとなっています。

 そして、ビジュアル面・サウンド面においてもレベルが高い。キャラクターデザイン・原画担当は”Hal”という方らしいのですが、この人の絵は本気でレベルが高い。パッケージの絵だけでも素晴らしいんですが。ゲーム中のCG(立ち絵)だとどうしても一歩質が落ちてしまうのが残念ですが・・・。
 サウンド面でもかなりの出来。このゲームにサウンドテストモードが付いていないのが残念でなりませんね。


・ゲームとしても最高に遊べる。
 そして、それ以上にわたしが評価しているのが、このゲームが「ゲームとしても最高に遊べる」という点です。今のこの手のゲームは、とにかくストーリー(シナリオ)第一で、選択肢も非常に少なく、「ゲームとしては遊べないゲーム」が大半を占める中で、このゲームは時代に逆行するかのように、たっぷりと遊びこめる要素に満ちています。
 なんといっても分岐図の存在が素晴らしいですね。ゲーム中のシナリオ分岐を明示したこのマップの存在は、単にゲームを進める上でのヒントになるだけでなく、「分岐図を埋める」という楽しさに満ちた素晴らしいシステムです。もともと、この手の「マップを埋める」というタイプのノベルゲームにはまった身としては、このゲームもまた最高に楽しめるものでした。
 攻略の難易度も適切です。分岐図を見て、分岐の条件を予測して適切な選択肢を選んでいけば、それで問題なくクリアできるレベルで、理に適った攻略が可能です。それでいて、分岐は豊富でマップを埋める面白さは十分、エンディングも32種類と実にやりこみ要素に満ちていて、存分に満足できるものでした。ただひとつ、ごく一部にあまりにも難しい(理不尽な)条件の分岐やエンディングがあるのが欠点でしょうか。とはいえ、それは本当にごく一部であり、ほとんどで合理的な攻略が通用するゲームになっています。実際のところ、久々にテキスト型アドベンチャーとしての面白さに満ち溢れたゲームだったと思います。


・「欠点の非常に少ないゲーム」
 そして、このゲームはとにかく丁寧に作られており、目立つ欠点が非常に少ないタイプのゲームです。特にインターフェイスについてはほぼ完璧で(さすがにキッドのゲームには及ばないですが)、プレイ中にストレスを感じることはほとんどありませんでした。快適なスキップ、使いやすいバックログ(音声の再生も可能)、20箇所のセーブ&ロード、読みやすいテキスト、使いやすい分岐図と、すべてにおいて実によく出来ています。

 それでもあえて欠点を挙げるなら、前述のようにサウンドテスト(BGM鑑賞)モードがないこと、20箇所のセーブ&ロードでもやや足りないと感じることがあること(工夫すればほとんど問題になりませんが)、用語辞典の階層が深く使いづらいこと(Tips形式にして直接リンクできればよかった)、ごく一部にあまりにも到達しずらい分岐やエンディングがあること、あたりでしょうか。しかし、どれも些細な点であり、全体としては実に欠点の少ない、非常に堅実な作りのゲームに仕上がっていると言えるでしょう。


・最近のノベルゲームでは、まぎれもなく最良の作品。
 このゲーム、発売前に一部の百合好き(笑)の間で注目されただけで、それ以外ではほとんど話題にのぼることもありませんでした。売り上げも極めて低く、初週推定2990本というすばらしい記録を達成。ゲームの面白さからは反比例した、到底考えられない数字です。コンピュータゲームにおいて、いいゲームが必ずしも売れないのはもう承知の上ですが、この数字はあまりにもひどいものがあります。
 しかし、このゲーム、実際には間違いなく2004年最高のノベルゲームです。もう決めました。個人的にそう認定いたします。これほどのゲームが売れないというのは非常に惜しいですね。見た目からして「百合」を全面に押し出しており、とっつきが悪い点は否定しませんが、実際には誰もが楽しめるストーリーとゲームとしてのやりこみ要素に満ちており、ギャルゲーマーのみならず一般のプレイヤーにも文句無くおすすめできる超優良作品です。これをやらずして2004年のノベルゲームを語ることは出来ないでしょう。


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