<拡散性ミリオンアーサー>

2013・6・12

 「拡散性ミリオンアーサー」は、2012年4月にiPhoneアプリでリリースされたゲームで、スクウェア・エニックスによって発売された初のiPhone向け(あるいはスマートフォン向け)ゲームとなりました。のちにAndroidでもリリースされ、さらにほぼ1年後の2013年4月には、PlayStation Vita版も配信されています(スマートフォン版とは非互換)。

 当初は「スクエニ初のiPhone向けカードバトルRPG」と銘打たれていましたが、スマートフォンや携帯では一般的となったソーシャルゲームに当たるものだと思われます。ゲーム中で得られるカードを組み合わせてデッキを組み、強敵と戦ってストーリーを進めていくというシステムで、既存のゲームのシステムをかなりの部分で踏襲しているようですが、一方でかなり遊びやすく調整もされているようで、それが見事好評を博し、リリース直後から多くのユーザーにプレイされたようです。iPhoneアプリのゲーム部門で長らく1位をずっと維持していたことが、その人気と成功を裏付けています。

 加えて、カードのイラストに有名なイラストレーターを多数起用しており、あるいはゲームのシナリオに鎌池和馬、音楽に前山田健一など豪華なスタッフを多数揃えていて、そちらの方でもかなり力の入ったものとなっています。特に、ソーシャルゲームとしては珍しくストーリーや世界設定にひどく力が入っていて、「とある魔術の禁書目録」などで著名な鎌池和馬の実力がよく出たものとなっています。個人的にもこのシナリオと設定はかなりよく出来ていたと思いますし、プレイしていて感心してしまいました。

 しかし、当初はかなりの分量が見られたストーリーも、中盤以降はあまり更新されなくなり、代わって中心となったカードの育成や強敵との戦闘といったやりこみ要素も、途中まではまずまず順調に推移していたものの、大規模なアップデートによるシステムの変更が芳しくなく、かつてほどの人気は維持できなくなったようです。最近のスクエニではかなりの優良コンテンツだっただけに、このままでは非常にもったいないと思っています。


・ソーシャルゲームの基本を押さえつつ、遊びやすくなったゲーム性に好感。
 携帯向けの「ソーシャルゲーム」というゲームジャンルが幅広く人気を得て久しいですが、これは、原点はおそらくPCでのオンラインゲームにあり、時間によって行動力が回復するシステムとアイテム課金のシステムを、よりシンプルな形で取り入れ、スマートフォン(携帯)という気軽にアクセスできるプラットフォームでリリースすることで、幅広いユーザーに対応して成功したゲームだと思っています。

 特に、いわゆる「ガチャ」によって新規カードを得られるという課金のシステムが、ひどく成功してユーザーの射幸心を過度にそそる結果となり、非常に大きな社会問題にもなりました。これは、奇しくも「拡散性ミリオンアーサー」のリリース時期と重なっており、当初はこのゲームでも見られた「コンプガチャ」が、しばらくして法律で禁止となり、このゲームからもなくなったという経過を辿っています。

 基本無料で遊べてガチャやアイテムで課金というシステムは、「最初は無料で遊べるものの、結局それでは物足りなくなり課金を要求される」「高額の課金をしているユーザーに対抗できない」という問題を常にはらんでいて、それがユーザーにとって大きな負担になっています。このミリオンアーサーでは、その課金に対する縛りがかなりゆるくなっているようで、無課金でもかなりまとまった時間遊べて、かなり強めのカードまで比較的容易に手に入り、加えてストーリーに関しては最後まで無料でプレイできるなど、ひどくユーザーフレンドリーなスタイルになっていました。これは、スクエニ初めてのソーシャルゲームゆえの実験的な試みなのか、あるいはスクエニという大ゲームメーカーのブランドの力を押し出したものかは分かりませんが、結果としてこれが多くのユーザーを招く結果となり、成功の大きな理由となったと思います。

 わたしも1年以上完全に無課金でプレイしていますが、課金しなくても得られるカードのみでゲームを進めるのに過不足無く、カードの育成も存分に楽しむことが出来ました。また、時間によって回復する行動力の量も多めで、これも遊びやすさを増す大きな要因となっていました。また、行動力には、移動で消費するポイント(AP)と戦闘で消費するポイント(BP)の2種類があり、特にBPの消費量がカードの「コスト」で決まっていて、コストの高いカードほどBPを消費するようになっています。そして、レアリティの高いカードは大抵コストも高く設定されていて、BPの消費量が多いため、あえて中程度の強さでコストが少ないカードを使ったり、強さに対してコストが低いカード(つまりコストパフォーマンスがよいカード)を見極めたり、そうした戦略性は確かにあったと思います。課金ガチャでスーパーレアのようなカードを無理に手に入れなくても、十分楽しんでいけるゲーム性があった。これが、この「ミリオンアーサー」最大の魅力だったと思います。


・ストーリーや設定、音楽、そしてカードイラストのクオリティも素晴らしい。
 そうしたゲーム性の良さに加えて、当初から大きな売りだった、豪華スタッフによるストーリーや設定、音楽、そしてなんといっても個々のカードのイラストの出来も非常に高いものがありました。

 鎌池和馬の作るシナリオは、禁書目録のようなライトノベル的なスタイルをよく踏襲しているようで、定番ながらも見せる、盛り上がるストーリーを作り出していたと思います。アーサー王伝説をベースにして、そこにSF設定を加えた世界観の作りこみも見事で、この辺りでもっとも鎌池さんらしさを感じることが出来ました。アーサーに仕える騎士たちを、”湖”なる製造装置で作り上げる複製アンドロイドのような存在としたあたりが、一番よく出来ていると思いました。ここで作り出された複製たちが、プレイヤーの所持するカード(騎士カード)となります。

 音楽には前山田健一(ヒャダイン)を採用。メイン画面、秘境(ダンジョン)、戦闘と各シーンの音楽はどれも卒なくよく出来ていて、さすがこの人だなとここでも感心しました。ボス戦の音楽が特に盛り上がるもので気に入っています。

 そして、なんといってもカードイラストですね。これが、実力派の有名なイラストレーターを多数起用していて、当初からその豪華さに注目していました。ライトノベルやゲームで活躍中の作家に同人作家、一部自社関連の作家など、その出自は多岐に渡っていて、よくここまで集めたものだと感心します。ぱっと有名どころを並べただけでも、はいむらきよたか、BUNBUN、黒星紅白、閏月戈、赤りんご、藤ちょこ、竹岡美穂、フカヒレ、文倉十、ヤスダスズヒト、エナミカツミ、左、凪良、原田たけひと、てぃんくる、るろお、ヤス、モタ、柴乃櫂人、みやま零、狐印、kirero、さより、refeia、三嶋くろね、などなど本当に有名なライトノベルやゲーム、同人などで知られた作家ばかりで、ここまでよく集めたものだと本気で感心します。

 特に、女性キャラカードのいわゆる萌え要素に対するこだわりにはかなりのものがあり、おそらく、スクエニのゲームでここまで露骨に萌えを志向したゲームは、これまでなかったように思います。スクエニもこんなゲームを出すようになったかと妙に感心してしまいました(笑)。豪華なイラストレーター陣の力によって、イラストのクオリティでは他の多くのソーシャルゲームの追随を許さず、これに匹敵するものはわずかにアイドルマスター(モバマス)くらいしか見当たらないと思います。


・長く続けるうちに綻びが。騎士団の失敗が致命的だった。
 しかし、このように各要素がよく出来ていて、非常に順調なスタートを切ったミリオンアーサーですが、オンラインゲームとして長く運営を続けているうちに、少しずつ面白さが下がっていった感は否定できません。新しい面白さを提供し続けるため、様々な追加要素でバージョンアップを図っていったのですが、必ずしも成功するとは限らず、さらには1年近く経った頃にアップデートされた「騎士団」という新システムが、まったくもって芳しくありませんでした。

 まず、ストーリーの更新がほとんどなくなった上に、基本的なシステムやイベントの内容がほとんど変わらなかったため、いわゆる「マンネリ」の感は拭えなくなります。最初に提示されたシステムだけで、十分な面白さを持っていたのは幸いでしたが、定期的に行われるイベントの内容が同じようなものばかりで、次第に飽きてきたことは確かです。

 しかし、それでもなお楽しめるイベントはいくつもありましたし、追加される新カードにも魅力的なものが多かったため、十分プレイを続けられる水準にまでは達していたと思います。少なくとも年を越した2013年1月までは、おおむねほとんどのプレイヤーには好評で、特にこの月最後に開かれたイベントは、新しいカードが人気だったこともあって、非常に盛り上がりました。
 が、その直後、2月から投入された新システム「騎士団」が、まったくいただけませんでした。これは、それまでの更新のように、基本システムになんらかの追加要素を加えるような小規模なものではなく、システム全体をすげかえる大規模なものでした。具体的には、これまではプレイヤー個人で強敵と戦っていたものを、プレイヤー同士で騎士団といういわばパーティーを組ませ、協力して敵に当たるというシステムに変わったのです。

 そして、これがまったくもって大失敗でした。わたしもプレイしていたのですが、それまでのシステムと比べてよかったところはほとんどなかったと思います。パーティーで敵に当たるということで、敵のHPが異様に増加し、1人で1回のバトルではほとんど倒せなくなり、爽快感が完全に失われました。カードのコストを見極めデッキを組み効率よく戦闘をこなす戦略性もほぼなくなり、強いカードをひたすらデッキに組み込むだけの要素が強くなりました。加えて、これまではソーシャルゲームらしく他のプレイヤーたちと協力して敵と戦うシステムがあり、これが課金プレイヤーと無課金プレイヤーの双方に利益があってうまく機能していたのですが、しかしこの騎士団ではろくに機能しなくなってしまいました。

 これは、他のほぼすべてのプレイヤーにとっても不評だったらしく、実際のゲームの人気も、この騎士団導入を境に急降下しています。それまでは、iPhoneアプリのランキングで上位をずっと維持していたのに、ここで一気に下がってしまいました。今では、こちらは絶大なヒットを遂げたスマートフォン向けゲーム「パズル&ドラゴンズ」にも大きく水をあけられ、昨今の不備の方が目立つゲームにもなっていると感じます。なぜそれまでの好評だったシステムを廃して、成功するかどうか未知数の新システムに完全に切り替えたのか、まったく理解に苦しむ行為でした。


・最近のスクエニでは目立った成功作。これを失敗に終わらせるのはあまりに惜しい。
 というわけで、今ではこの騎士団というシステムが大きな足かせとなり、長く続けてきたユーザーの不満も頂点に達しているようです。最近になってようやく、騎士団の見直しの声明が運営からあり、そしてついに開始から半年あまりの7月をもって、この騎士団システムはほぼ廃止して元に戻すことになったようです。ようやく不評なシステムをなくす動きが見られたのは評価できますが、しかしその対応は遅すぎたようにも感じます。

 プロデューサーの話によると、どうもこの騎士団というシステム、一度更新してしまうと元に戻せないものだったらしく、それを戻せるように仕様を変更するだけで長時間かかったようです。これまでまがりなりにもうまく行っていたシステムを完全に放棄し、しかもそれを元に戻せないというのは、ひとつのビジネスモデルとしてあまりにもリスクが高いように感じました。これは、現場の運営陣の努力不足だけでなく、スクエニ全体のビジネスのあり方にも疑問が及びます。これでは、久々に成功した自社のゲームを、ほかならぬ自分の手で壊してしまったようなものです。

 実際、このゲームは、ここ最近のスクエニでは目立ったヒット作で、これだけで赤字を解消するほどの成功だったようです。それが、このような形で崩れていくのを見るのは、あまりにも惜しい。これは絶対に持ち直させるべきだと思いますし、あるいはそれが出来るだけの力がスクエニの運営陣にはあると思っています。

 ついでに言えば、ここからの発展でヤングガンガンやビッグガンガンでコミック化連載が始まっていますが、いずれもなんとも中途半端なギャグマンガとなっていて、正直ゲームを知らない読者まで引き付けるような面白さは持っていないと感じます。元のゲームはしっかりと作られたシリアスなストーリーもありますし、それを忠実に再現した本格的なストーリーマンガを連載してほしかった。しかも、それは最近、他社の電撃大王で開始されたようです。スクエニゲームのコミカライズ本編を電撃で連載するというのは、ちょうど「とある魔術の禁書目録」や「デュラララ!!」のコミカライズと逆のパターンです。こういったメディアミックスのスタイルが、今ではひとつの主流なのかもしれませんが、しかしこのゲームに関しては、自社であるスクエニでしっかりとメディア展開してほしかった。ゲーム本編の立て直しと合わせて、メディア展開もしっかりしてさらなる優良コンテンツに育ててほしいと思います。


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