<マビノ×スタイル>

2005・5・24

 キッドのノベル系アドベンチャーゲーム(いわゆるギャルゲー)で、久々の完全新作です。つまり、続編でも移植でも原作ものでもない新作です。キッドの完全新作としては、2003年以来ということで、実に久々です(とはいえ、今のゲーム業界は、どのジャンルも続編・移植・原作ものが大半を占める状態なので、このような完全新作自体とても珍しい存在なのかもしれませんが)。そして、久々に出るまっさらな新作ということで、製作サイドも相当気合が入っていたようですが、さて実際の出来栄えはどうだったのか。

 このゲームは、今までのキッドの同系ゲームとは異なるコンセプトがあり、それをゲームの売りとしています。ひとつは、シミュレーションパートの存在、もうひとつは、アニメ製作会社のスタッフをゲーム製作に採用したことです。
 キッドのゲームは、そのほとんどがオーソドックスなノベルゲームであり、つまり選択肢を選んで文章を読んでいくだけのゲームです。演出の上でも毎回決まりきったスタイルで、背景+汎用グラフィック(いわゆる「立ち絵」)の画面構成をメインに、要所要所で一枚絵のイベントCGが入るというだけのもので、これといった変化がありません。それが、今回は、今までに無い「シミュレーションゲーム」的な要素を追加し、さらには、アニメ関係のスタッフの採用によりアニメ的な演出も導入した、という点を「売り」として大々的に打ち出したわけです。

 そして、わたしもこの新要素に期待してプレイしてみたわけですが、実際のところどちらも成功しているとは言えず、結局いつものキッドゲームと変わらない印象でしかありませんでした。以下にそれらをひとつひとつ検証してみます。


・あまりにも物足りないシミュレーションパート。
 まず、ゲーム最大の売りであるはずの「シミュレーションパート」の出来がよろしくありません。
 このゲームは、ファンタジー世界の魔法学院が舞台であり、学校の授業で魔法を訓練して魔法を習得し、その魔法を使いこなしてゲームを進めていく、というシステムなのですが、これがまるで活きていません。

 まず、「魔法を学んで習得する」システムがよくありません。いわゆる育成系のシミュレーションのスタイルで、「訓練計画を立てて必要なパラメータを上げていき、一定以上にパラメータが上がるとレベルアップして新しい魔法を習得する」というシステムなのですが、これがあまりにも作業的で戦略性もほとんど無く、実に退屈です。結局のところ訓練の数をこなしていく以外に方法がないのです。しかも、レベルが上げることにパラメータの上昇率が鈍り、次のレベルアップまでにさらに時間がかかるようになるため、さらに退屈さがつのります。

 そして、最大の問題は、せっかくそこまで苦労して習得した魔法なのに、実際に使う機会があまりにも少ないという点です。このゲームには6系統44種類もの魔法が登場しますが、実際に本編で使うのはほんのわずかです。ストーリーも完全一本道で、いくら多くの魔法を習得したところでストーリーが変化するわけでもありません。これではあまりにも苦労が報われません。

 習得する魔法自体はどれも非常に魅力的です。RPGではよく見られる「ファイアー」「サンダー」「フリーズ」といった攻撃魔法から、「スリープ」「サイレンス」といった補助魔法、「ヒール」「シールド」「デスペル(ディスペル)」といった回復・防御系魔法、「フライ」「ファスト」のような移動系魔法、「フロート」(物を浮かせる)「サイズ」(物の大きさを変える)「パワー」(一時的に大きな力を得る)のような物理系魔法、「サーチ」(物を探す)「マップ」(目的地を示す)等の便利魔法、「タング」(動物と話をする)「グロウス」(植物を成長させる)「テイスティ」(料理をおいしくする)「シミュラクラ」(分身を作る)「リーブラ」(嘘を見破る)「ウィージャ」(霊を召喚して質問する)等の変り種の魔法など、その種類は多岐に渡っており、うまくゲームをデザインすれば、これら多彩なカードを状況に応じて使い分ける優れたゲームが出来たかもしれません。しかし、実際にはこれらのカードを活かせる機会はほとんどなく、せっかくデザイナーが苦労して考えたであろう44種類もの魔法が、ほとんど無駄なものになっています。


・アニメ的な演出もいまいち。
 そして、もうひとつの売りである「アニメスタッフによる演出」も芳しくありません。
 このゲームのアニメシーンを担当しているのは「J.C.STAFF」というアニメ製作会社ですが、最近では美少女系アニメの製作が多い会社で、その意味では(ギャルゲーである)この作品の製作にはふさわしいところかもしれません。ただ、個人的には、このJ.C.STAFFというところは、エニックス系作品において「スパイラル」と「まほらば」のふたつをアニメ化しており、そのうち「スパイラル」アニメの出来については非常に痛い目に遭っており(笑)、「まほらば」についても、こちらはアニメの出来自体はよいようですが、そのキャラクターの作画と原作から変更された設定についてはかなりの不満があり、要するにあまりいい思い出が無いのです。そこで、今回も、アニメパートの担当がそのJ.C.STAFFということで、一抹以上の不安を抱いていたのですが、案の定その不安が的中(笑)。これは決していい仕事ではありません。

 まず、アニメのスタッフが製作に関わっている割には、肝心のアニメシーンが多くありません。オープニングとエンディング、それ以外では本編にひとつほどアニメシーンがあるだけです。一応、ゲーム中のイベントCGで一部アニメーションするものがありますが、それだけでは物足りないでしょう。
 そして、ゲーム中に使用される汎用グラフィック(立ち絵)、及びイベントCGもアニメスタッフが担当していますが、全体的に作画レベルが安定していません。出来のいいグラフィックと悪いグラフィックとの差がありすぎます(これはアニメシーンにも言えてますが)。さらには、普通のノベルゲームと比べても、必ずしも優れているとは言えない。このレベルのCGならば、原画師の絵をそのままCGにした従来のノベルゲームの方が良いのではないか。これではわざわざアニメのスタッフを採用する意味がありません。唯一、イベントCGの数がかなり多いのは良い点でしたが、それだけのためにわざわざアニメスタッフを採用する必要があるのかは不明です(数を増やすだけなら、普通に原画師とCGスタッフを増やすだけでよいはずです)。


・肝心のストーリー、シナリオの出来もいまいちか。
 そして、この手のゲームで最も重要と言える「ストーリー」の出来についても、これといって特筆すべきものがありません。
 メインのストーリーの出来自体は決して悪くはないですが、「完全に一本道のゲームである」と言う点が非常に物足りなく感じます。その上で選択肢も分岐も非常に少なく、肝心の魔法を使うシーンも少なく、ゲーム的なやりこみ要素に欠けているため、さらに物足りない。実際、こんなに簡単に既読率が100%に達したキッドのゲームは初めてです。これでは、誰もが一回通してやったら(読んだら)もう十分、と感じてしまうのではないでしょうか。
 その上で、肝心のエンディングもかなり謎です。最後の最後にアニメシーンが流れますが、その意味が全然分かりません。「じゃあ意味が分かればいいのか」と言うと、決してそういうわけでもありません。なんていうか「尻切れトンボ」と言うか、最後の最後で重要なところをはしょって無理矢理終わらせた感があります。本来ならば、展開からしてあと一章くらいはゲームが続かなければおかしいと思うのですが、それが突然終わっている印象です。エンディングの最後のあたりのアニメシーンの作画レベルも急速に落ちているような気がするし、「製作時間が足りなくて無理矢理終わらせたのか?」と本気で思ってしまいました。

 そして、このように本編の作りこみが物足りない反面、このゲームには本編とは別に大量のサブイベントがあります。こちらは数的には相当な作りこみですが、これはこれでやはり物足りません。これら日常のシーンを描写した短いサブイベント群は、中々面白いエピソードも多いものの、しかしこのような小さなイベントを延々と読むだけというのは、やればやるほど相当退屈です。「ギャルゲーの日常シーンが好き」という人ならば楽しめるでしょうが、わたしはあまりそのような好みがなく、「To Heart」ですら相当退屈だった人間ですから、このゲームのイベントもやはり退屈さは否めませんでした。
 そして、残念ながらこちらのサブイベントにおいても、魔法を使うことはありません。苦労して覚えた魔法を使ってクリアを目指すようなイベントは全くないのです。魔法をうまく使ってイベントをクリアしていくようなゲーム性があれば、小さなイベントの繰り返しでもかなり楽しめたはずなのですが・・・。実際には、ただ機械的に選択肢を選んでいくだけ。これではあまりに物足りない。


・キッドのゲームなのでそれなりに完成度はあるが・・・。
 とはいえ、基本はキッドのノベルゲームなので、普通に楽しめることは楽しめます。およそシステム(インターフェイス)に関しては文句のつけようがないほど快適ですし、ストーリーや世界設定とそのビジュアル、キャラクター等の作りこみもよい。特に今回は、独特の世界観と個性的なキャラクターに見るべきものがあります。さらには、今回はキッド専属のサウンドクリエイター・阿保剛作曲の音楽が素晴らしく、これは近年稀に見る傑作です。特に、6分19秒に及ぶ大作であるメインテーマが素晴らしいですね。

 しかし、このゲームは、キッドでは近年になく力を入れたゲームとして、そして今までのキッド作品にはない新要素(シミュレーションパートとアニメシーン)を取り入れたゲームとして、大々的に打ち出してきました。それが、結局は「普通に楽しめる」程度の作品でしかなかったのでは、大いに物足りなく感じるのも当然でしょう。


・このゲームをRPGでプレイしたかった。
 私的には、このゲームはRPGとしてプレイしたかったところです。
 このゲームの最大の問題は「シミュレーションパートが機能しておらず、せっかくの魔法を使うシーンがない」という点ですが、それならば最初からシステム重視のRPGとしてデザインするべきだったと思います。

 そもそも、このゲームは世界観が非常に素晴らしく、「次元の狭間の雲海に浮かぶ巨大魔法都市」のビジュアルが実に鮮烈な作品でした。しかし、実際に出来たゲームでは、ストーリーの舞台は学院の敷地内がほとんどで、行ってもせいぜい街の一部程度です。それ以外の場所へ行けるのは、せいぜいイベントの時くらい。これでは、せっかく作った壮大な世界観があまり活かされていません。それならば、むしろRPGとして「魔法都市全体を自由に歩き回りたい」と誰もが考えます。これを実現したら、それだけでも魅力的なゲームになったのではないでしょうか。

 そして、何と言っても、44種類に及ぶ多彩な魔法を使い分けていくという戦略が面白そうです。例えば、ダンジョンの攻略で、目の前に行く手をふさぐ大岩があったとします。この岩を「フライ」で飛び越えるか、「パワー」で押しのけるか。はたまた「サイズ」で小さくして通り抜けるか。使う魔法によって様々な攻略が出来そうです。敵との戦闘でも色々考えられます。「ファイアー」や「サンダー」で普通に闘うのか、それとも「スリープ」で眠らせてしまうのか。はたまた自分に「ファスト」をかけて素早く逃げてやりすごすのか。それとも「シミュラクラ」で分身を作って有利に闘うか。情報戦でも様々な手段が考えられます。人との会話で「リーブラ」を使ってうそを見破り、真の情報を引き出す。「タング」で動物と会話して情報を手に入れる。「ウィージャ」で関係者の霊を召喚してみる。等々。
 このように、従来のRPGと異なり、魔法の種類が多岐にわたっており、戦闘目的以外で使える魔法がとても多いため、今までにない多彩な戦略性が期待できそうです。うまくデザインすれば非常に面白いゲームが出来るかもしれません。多くの敵と仕掛けが待つダンジョンを、44種類の魔法を巧みに使い分けて進んでいくというのは、考えただけで面白そうだとは思いませんか?

 そして、RPGならばアニメ製作スタッフの仕事も存分に活きます。オープニングやエンディング、ゲーム中のイベントシーンにアニメを使うRPGは珍しくありませんし(いや、むしろ日本のRPGでは多数派かも)、その方がアニメシーンを使う意義は高かったのではないか。そう思えます。


 結局のところ、このゲームは、キッドが「ノベルゲーム」(ギャルゲー)という、自分の領域のジャンルに最後までこだわってしまったのが問題だったのではないでしょうか。魅力的な世界観を作り上げ、多彩な種類の魔法もデザインしたのだから、それを最高の形で活かすべくRPGにすべきだったと思います。ここまで大々的に新機軸の大作として打ち出したのだから、中途半端な育成シミュレーション+ノベルという形に終わらずに、思い切って完全なRPGにしてほしかったですね。


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