<世界樹の迷宮>

2007・6・10

 「世界樹の迷宮」は、アトラスから発売されたニンテンドーDSのゲームで、DSでは少数派の本格RPG、それも原点に帰ったかのような3DダンジョンRPGで、その点でコアユーザー、ゲームマニアに高い注目を集めました。ニンテンドーDSは、ゲームを知らないユーザーにも楽しめるようなライト感覚のゲームや育成系のソフトが主流で、このようなマニア向けのゲームは非常に少なかったため、その点で発売前からひどく話題となりました。FF3のようなリメイクもののコア向けRPGを除けば、これがほぼ初のマニア向けゲームだと見られたため、ネット上では特に話題となり、コアユーザーの間で大きなヒットを飛ばすことに成功しました。

 プレイ後の評価も高いものが多く、「ゲームが面白かった」と言われる昔に帰ったかのような、ストイックでシンプルなゲーム性重視のスタイルや、高めの難易度が大いに好感を呼び、「久々に遊べるゲームが出た」ともっぱらの評判でした。とりわけ、かつての3DダンジョンRPGの原点である「ウィザードリィ」の面白さが味わえると見るユーザーが多かったのも特徴的で、実際にこのゲームの開発者の方でも、ウィザードリィを強く意識して制作したようです。

 しかし、個人的にプレイした感想としては、「確かに一定の面白さはあるものの、それ以上に突出した要素がなく、平凡で退屈な印象が強い」というものでした。以後、その点について解説していきます。


・ウィザードリィとは似て非なるゲーム。
 前述のように、このゲーム、かつてのRPGの名作「ウィザードリィ」の面白さを持つゲームとして見られ、その点が大いに評価されているようです。しかし、わたしがプレイした印象としては、「ウィザードリィと同じようなスタイルのゲームだが、内容は似て非なる(ところが多い)」というものでした。主観視点の3Dダンジョンや、ターン性の戦闘システムなど、システムの根幹部分はまさしくウィザードリィそのものかもしれませんが、それ以外の部分では似ていないところが多い。

 相違点を挙げれば様々な箇所に上りますが、ひとつだけ最大の違いを挙げるとすれば、自由度がないという点に尽きるでしょう。
 「ウィザードリィ」というゲームの最大の特徴は、「プレイヤーの数だけ攻略のルートが違う」ことです。レベルが許す限り、どこから先に攻略しても構わないというのは、ウィザードリィのみならず、この手のRPGでは基本的なスタイルです。
 例えば、最初のウィザードリィ(シナリオ#1)の場合、攻略対象となるダンジョンは、地下10階まであります。地下1階が出発地点で、地下10階の最深部に倒すべきラスボスが待ち構えているという構図です。しかし、このゲームは、地下1階から始まって、地下10階まで1階ずつ降りていくゲームではありません。具体的な説明は避けますが、ゲームがある程度進んで、あるアイテムが手に入った時点から、ダンジョンの最深部までほぼすべてショートカットできるようになり、自分の行きたい階ならどこでも行けるようになるのです。自分の好きな階を好きなように攻略してよい。これがウィザードリィというゲームの基本的なスタイルです。

 しかし、この「世界樹の迷宮」は異なります。ダンジョンを地下1階から順番に進んでいかなければなりません。1階1階のダンジョンの道のりも非常に長く、次の階への下り階段まで、かなりの長い行程を辿らなければなりません。これは、明らかにウィザードリィとは異なるスタイルで、同じダンジョンRPGとはいえ、ゲームの進行手順に大きな違いがあります。つまり、このゲームは、基本的にほぼ一本道のRPGで、ウィザードリィのような自由度の高さは感じられません。
 そして、これが、このゲームが非常に退屈だと感じる最大の要因です。同じ道を何回も繰り返して行かなければならないのです。最初のうちはまだいいのですが、そのうちにすでに攻略した階を何回も繰り返して行き来しなければならなくなり、これがとにかくわずらわしくなります。一応いくつかの箇所ではショートカットの要素はありますが、それでもこの一本道の繰り返しは相当に退屈です。


・ダンジョンの構造がわずらわしい。
 そして、その一本道感に拍車を掛けているのが、ダンジョンの構造のわずらわしさです。曲がりくねった複雑な長い道のりを、次の階への出口へ向けて、ひたすら進んでいかなければなりません。それも、序盤よりも中盤、終盤にかけてさらにいやらしい構造となり、1階1階の攻略に相当な時間を有します。これは、ウィザードリィのダンジョンにはあまり似ておらず、むしろメガテン(女神転生)シリーズのいやらしいダンジョンに、ほど近いものがあります。このあたりは、さすがにメガテンと同じアトラスのゲームだからなのでしょうか。

 ウィザードリィのダンジョンは、このような構造ではなく、攻略のために辿らなければならない道のりは多くありません。はっきりいって、クリアまでに行く必要のある場所は、ダンジョン全体のせいぜい1割程度で、残りの9割は、クリアとはほとんど関係のない、まったくどうでもいい場所なのです。ある意味では、無駄な場所が多いダンジョンであると言えます。
 だが、実はそれがいいのです。クリアとは関係のない場所が多いからこそ、そこを探索する自由度があります。「今日は7階に遊びに行こう」とか「今まで探索を後回しにしていた5階に行ってみよう」とか「たまには8階でレベル上げをしてみよう」とか、そういう楽しみ方が出来るのです。しかし、「世界樹の迷宮」はそうではない。クリアまでに、ダンジョンの大半の箇所を延々と巡らされることになると思います。


・難易度が高いとは言えない。
 そしてもうひとつ、プレイヤーの間で評価のポイントとなった、難易度の高さも、さほどのものは感じられません。
 確かに、序盤のうちは、明らかにレベル不相応に強い敵が配置され、プレイヤーの行く手を強烈に阻む形となっています。しかし、このゲームの戦闘は、オーソドックスなドラクエ式の戦闘システムで、レベルの差が戦闘力に直結するシステムなので、レベルを上げさえすればいずれは勝てるようになりますし、それが唯一の攻略手段でもあります。逆に言えば、レベルがあまりに低いうちは、どんなに頑張っても絶対的に勝てないシステムなので、そんな状況でレベル不相応に強い敵が配置されれば、勝てないのは当然。それを安易に難易度が高いというのはどうか。
 また、このゲームの場合、前述のようにダンジョンの構造に自由度がないため、ますますもって強い敵が一本道で「壁」となってプレイヤーの前に立ちふさがることになります。これが、プレイヤーに大きな閉塞感を与える要因となっています。

 また、これは開発者の意図でもあるらしいのですが、ゲームの中盤以降はそのような強い敵もいなくなり、バランス的には普通となります。元々、この手のRPGは序盤の方がバランスが厳しく、中盤以降はゆるくなるのが常なのですが、このゲームの場合、開発者の意図までもが手伝って、中盤以降の難易度が劇的に低くなっており、もはやさほど戦闘で苦労することもなくなり、あとは作業的なレベル上げに終始することになります。はっきりいって、普通にプレイしていれば、中盤以降で死ぬ要素はほぼ皆無でしょう。

 加えて、ダンジョンに仕掛けや罠がほとんどなく、戦闘以外で死ぬ要素が全くないのも、難易度の低さに拍車をかけています。これも開発者の意図であるらしいのですが、はっきりいって成功しているようには見えません。ウィザードリィの場合、戦闘以外でも罠や仕掛けで理不尽に死ぬことがかなり多いのですが、このゲームにはそれが一切ないため、非常に気が楽です(逆に言えば、ひどく退屈です)。しかも、前述のように、ダンジョンの構造がいたずらに冗長で、そこに仕掛けや罠らしきものもなにもない平坦な道のりのため、ますますもって退屈です。難易度が高いどころか、かなり間延びした印象を受けます。


・手書きでマップを描く行為も作業的。
 そしてもうひとつ、「タッチペンで手書きのマップを書く」というフィーチャーも、意外にもさほどの面白さを感じませんでした。昔のゲームのように、「方眼紙に手書きで書くプレイ感覚が味わえる」という触れ込みだったのですが、実際にはそれとは少々異なり、かなり作業的です。

 方眼紙に書くマップとの最大の違いは、「パーティーの現在位置だけは常に表示される」という点です。そのため、周りの地形を見渡して、現在位置の周囲にそれを書き込むだけでよく、単純な作業にしかなりません。

 方眼紙のマップでゲームを進める場合、最も恐ろしいのは「自分の現在位置が分からなくなる」ことです。同じような風景が続くダンジョンでは、マップを書いていても自分の現在位置を見失うことが珍しくなく、そして一旦現在位置が分からなくなると、そこが既にマップに書き込んだ場所であったとしても、途端にどう帰っていいのか分からなくなります。
 しかし、この「世界樹の迷宮」のマップシステムでは、そのようなことが起こりえないため、非常に気が楽であり、かつての手書きマップのような緊張感に乏しいのです。そのため、ゲーム全体を通して、適当にマップを書いて埋めるだけの作業にしか感じられませんでしたし、あまり意味のないシステムだと感じました。これならば、オートマッピングでもほとんど変わりはなく、せいぜい「手書きのオートマップ」にしかなっていなかったように思えます。


・このゲームの評価には、明らかに偏向がかかっている。
 以上のように、わたしの評価では、総じてさほどの面白さは感じられず、むしろ退屈で平凡な感が強く残りました。特に、難易度が低くなる中盤以降は作業感が強く、完全にレべル上げとマップ埋めの作業に終始していまい、義務感だけでクリアしたように思えます。ウィザードリィと比べても、思った以上に異なる部分が多く、このゲームをウィザードリィと並べて考えることには、かなりの抵抗を感じました。
 もっとも、この手のダンジョンRPGならではの、少しずつレベルアップして先に進んでいく楽しみ、ダンジョンの探索を繰り返してマップを作っていく楽しみは確かに存在し、一定の面白さはあります。しかし、それはダンジョンRPGならば、どのゲームでも普遍的に持っている最低限の面白さであり、このゲームならではの上積みは乏しかったように思います。 一応、グラフィックやサウンド等の演出面では中々のものもありましたが、肝心のシステムは平凡な印象でしかありませんでした。

 しかし、実際には、このゲームは、発売前からネットでかなりの評判を呼び、発売後もコアユーザーに対して集中的に高い売れ行きを示し、かなりの高い評価も獲得しているようです。このような世間一般の評価が正しく、単にわたしひとりが間違っているのならばよいのですが、どうもそうとは思えません。このゲームの評価には、明らかに偏向がかかっており、様々な要因が絡んで変に偏った評価に陥っているように見えます。

 最大の要因は、「昔のゲームは良かった」という、ここ最近のゲーマーに見られる風潮でしょう。「今のゲームは複雑化しすぎて、しかもムービーやグラフィックばかりでゲーム性に乏しく、難易度も低いし、つまらない。昔の、シンプルで難易度の高いゲームの方が面白かった」という思想。これがあまりにも強く流布してしまった結果、このような昔のシンプルなスタイルを意識したゲームに対して、必要以上の期待と評価を与えてしまったのではないか。しかし、このゲームは、確かにシンプルな昔風のスタイルを採用してはいるものの、実際にはそれ以上の面白さには乏しいように見えます。

 それと同じくらい大きな要因として、「ニンテンドーDSで出た初のコアユーザー向けゲーム」という点が、評価に拍車を掛けています。ニンテンドーDSは、現在では圧倒的最大人気のゲームハードとして、マニアから一般層まで広く出回っていますが、そのソフトは、ゲームをあまり知らないユーザー向け、一般向けのライト感覚のゲームや育成系ソフトが大半を占め、コアなマニアゲーマーのプレイに耐えるゲームはごく少数でした。そんな中で現れたこの「世界樹の迷宮」は、「ほぼ初めて出たコアユーザー向けに特化したゲーム」ということで、マニアの注目を一身に受け、そのために評価まで不自然に押し上げる結果となったのではないかと思われるのです。

 さらに、ひどく重要なもうひとつの要因として、ネットのみで話題が盛り上がったという点が大きい。どうもこのゲーム、ネット上のコアユーザーのみで話題と評価が集中しており、そういったコアユーザーが集まる場所でのみ、あるいは話題が盛り上がった発売日前後のみに爆発的に売れた印象があるのです。実は、わたしの近くにある大型複合書店のゲームコーナーでは、地元では最大のゲームショップでかなりの大型店舗であるにもかかわらず、このゲームがとりわけ大きく売れたような印象は受けませんでした。むしろ、ほとんど動きらしい動きはなかったように見えました。実はこのゲーム、売れたのは、ネット上で積極的に活動するマニアが集中的に集まる箇所、例えば秋葉原のような場所のみではないのか。そう考えられる状況なのです。

 つまり、このゲームは、あくまでネット上での話題優先で評価されたゲームであり、発売に先んずるような形で、コアユーザーの間で暗黙の評価が広まっていたのではないかと思える節があるのです。最初から「今時珍しい昔の面白さを持つゲームで、しかもあのDSで発売される」という評判が先走り、それがいきなりゲームの評価に繋がってしまった。それが真相なのではないか。ネット上のレビューサイトで、発売直後のレビューは絶賛している人が圧倒的に多いのに、時が経つにつれて低い評価が増えていくことからも、それが窺えます。

 わたしは、このような「ネット上で爆発的に話題になる作品」については、常に懐疑的に見ており、不自然に爆発的な盛り上がり方をすればするほど、それを警戒するようにしています。もちろん、ネットで話題になるものすべてがダメというわけではなく、「ひぐらしのなく頃に」のような真の良作もあるにはあるのですが、それがすべてでななく、むしろあまりにも不可解なものも多いのです。このゲームの場合、「オーソドックスな3DダンジョンRPG」という、比較的偏向のかかりにくいであろう、シンプルで余計な設定も少ない作品であるにもかかわらず、ここまで不自然な盛り上がり方をしてしまった。これは、ネットでの話題の盛り上がりが、一部の人にいかに大きな影響を与えるのか、それを改めて思い知る絶好の機会になったように思うのです。


「割と楽しかったゲーム」にもどります
ゲームトップへもどります
トップへもどります